質問:
RF回路を設計するにあたり、波の反射について理解しておくことが重要なのはなぜですか?

回答:
波の反射は、RF回路の設計に固有の重要な性質の1つです。本稿では、RFが専門ではない技術者を対象とし、波の反射の概念やそれに関連する専門用語について簡単に説明します。比較的低い周波数で動作する回路と、RF周波数を対象として設計された回路の最大の違いは、その電気的な規模にあります。RF回路には、多くの波長の信号が存在する可能性があります。その場合、電圧/電流の振幅や位相が、回路の構成要素の物理的なサイズに依存して変化することがあります。RF回路には、その設計と解析に適用される原則の基盤を成す基本的な特性がいくつも存在します1。
基本的な概念と専門用語
ここでは、任意の負荷を終端とする伝送線路における波の量aと同bを図1に示すように定義することにします。具体的な伝送線路としては、同軸ケーブルやマイクロストリップ・ラインを想定しています。
波の量a、bは、それぞれ負荷に入力される電圧波と負荷から反射された電圧波の複素振幅に相当します。それらを使用して、入力波の複素振幅に対する反射波の複素振幅の比を表す電圧反射係数Γを考えます。すると、この反射係数は次のように定義することができます。
この反射係数は、伝送線路の特性インピーダンスZ0と負荷の複素入力インピーダンスZLを使用することで、以下のように表すことも可能です。
通常、RFの分野ではZ0の値を50Ωとします。これは、信号の減衰と、伝送線路(同軸ケーブル)の電力処理能力の限界を考慮して妥協を持って設定された値です。RFシステムの中には、ブロードキャスト・システムのようにRF信号を長距離にわたって伝送しなければならないものがあります。そうしたアプリケーションでは、多くの場合、ケーブルでの損失を低く抑えるためにZ0の値として75Ωが使用されます。
特性インピーダンスの値に依らず、負荷インピーダンスがそれと同じ値であれば(ZL = Z0)、負荷は伝送線路に対してマッチングしているということになります。ただ、この条件が成立するのは、図1のように信号源が伝送線路に対してマッチングしている場合だけです。以下では、信号源は伝送線路に対してマッチングしていると仮定して話を進めます。負荷が伝送線路に対してマッチングしている場合、反射波は生じません(Γ = 0)。したがって、信号源からは最大限の電力が負荷に供給されます。一方、全反射(¦Γ¦ = 1)が生じている場合、負荷にはまったく電力が供給されません。
負荷がマッチングしていない(ZL≠Z0)場合には、負荷には入力電力のすべてが供給されるわけではありません。つまり、電力の損失が生じます。この損失は、反射損失RLとして知られています。反射損失と反射係数の大きさ(絶対値)には次の式で表される関係があります。
反射損失は、負荷に対する入力電力と負荷からの反射電力の比を表します。言い換えれば、負荷から信号源を見た場合の回路のインピーダンスに負荷がどれだけマッチングしているのかを表します。その値は、必ず負ではない値になります。
負荷がマッチングしていない場合、反射波の存在によって定常波が生じ、伝送線路上の位置によって振幅が異なる非定常的な電圧が生じます。この伝送線路のインピーダンス・ミスマッチを定量化するための指標が定在波比(SWR:Standing Wave Ratio)です。SWRは以下のように定義されます。
SWRは、最大電圧と最小電圧の比として解釈されるケースが少なくありません。そのため、電圧定在波比(VSWR:Voltage SWR)としても知られています。SWRは、1から無限大までの値をとり得る実数値です。SWRの値が1である場合、負荷がマッチングしているということになります。
まとめ
RF回路では、通常の回路(比較的低い周波数で動作する回路)にはない数多くの基本的な特性項目が議論の対象になります。その意味で、RF回路と通常の回路には大きな違いがあると言えます。マイクロ波に対応する回路を設計/解析する際には、実用的な観点から問題を解決するために、拡張された概念を適用しなければなりません。本稿では、RFシステムの主要な性質の1つである波の反射を主題として取り上げ、その基本的な概念と代表的な専門用語について簡単に説明しました。
アナログ・デバイセズは、業界で最も多様なRF ICの製品ポートフォリオを有している企業です。システム設計に関する深い専門知識をベースとして、様々なRFアプリケーションに求められる非常に厳しい要件に対応しています。また、RF技術者を支え、ターゲットとなるアプリケーションの開発プロセスの簡素化を可能にするエコシステムを提供しています。そのエコシステムには、設計ツール、シミュレーション用のモデル、リファレンス設計、ラピッド・プロトタイピング用のプラットフォーム、ディスカッション・フォーラムなどが含まれています。
参考資料
1 M. S. Gupta「What Is RF?(RFとは何なのか?)」IEEE Microwave Magazine、Vol. 2、No. 4、2001年12月
Michael Hiebel「Fundamentals of Vector Network Analysis(ベクトル・ネットワーク解析の基礎)」Rohde & Schwarz、2007年
David M. Pozar「Microwave Engineering, 4th Edition(マイクロ波工学 第4版)」Wiley、2011年