アンプのディスエーブル・ピンを動的に制御し、 消費電力を削減する

質問:

アンプのディスエーブル・ピンを活用することで、性能 を落とすことなく消費電力を抑えることはできますか。

RAQ: Issue 150

回答:

IoT(Internet of Things)の活用が進むと、バッテリで動作するデバイスの数がより一層増加することになります。本稿では、消費電力の削減と高い精度の両立は必ずしも不可能ではないことを示す一例を紹介します。

オペアンプ製品の中には、ディスエーブル・ピンを備えているものがあります。このピンを正しく使用すれば、精度を落とすことなく消費電力を最大で 99 % 削減することができます。ディスエーブル・ピンは、主にスタティックな信号によって制御します。多くの場合、システムのスタンバイ・モードで使用されることになるでしょう。このモードでは、すべての IC における信号の処理が停止します。そのうえで、各 IC は消費電力を抑えた状態に移行します。それによって、消費電力は数桁のレベルで減少します。

図 1 に示すように、オペアンプは A /D コンバータ(ADC)用のドライバ・アンプとして使用されることがあります。もちろん、この場合、オペアンプはアクティブな状態で使用しなければドライバとしては機能しません。また、ディスエーブル・ピンによって同アンプをパワーダウン・モードに移行すると、消費電力は大幅に減少します。一般に、ADCのサンプル & ホールド回路に信号を取り込むタイミング以外は、ドライバ・アンプをパワーダウン・モードに移行させても問題はありません。

Figure 2
図 1. ADC の入力段で使用される一般的な回路。ADC の入力信号用のドライバとリファレンス用のバッファで構成されています。

 

このような実装を行うための最も簡単な方法は、変換を開始する際に実行されるコマンドを利用することです。標準的な ADC では、まず、入力コンデンサ(サンプル& ホールド用のコンデンサ)が測定の対象となる電圧レベルに充電されます。この処理は、変換の開始を指示する信号が ADC に送られるまでに行われます。続いて、入力コンデンサは信号ラインから切り離され、変換段の入力部に接続されます。その時点で変換が開始します。そして、変換が完了すると、そのことを表す信号が設定されます(この信号の詳細については、各 ADC 製品ごとにさまざまです)。ここからが問題です。オペアンプは、どのタイミングでアクティブになっていればよいのでしょうか。ADC で適切に変換を行うには、内部の入力コンデンサが、測定の対象となる信号と同じ電圧まで確実に充電されるようにしなければなりません。したがって、オペアンプは、変換を開始するための信号よりも十分に早いタイミングでアクティブになっている必要があります。どのくらいの時間を確保する必要があるのかは、入力コンデンサの値、測定する電圧の大きさ、オペアンプが容量性負荷を駆動可能な速度などに依存します。

図 1 では、アナログ・デバイセズの ADC「AD7980」を使用しています。そのデータシートには、入力コンデンサは 400 Ω のインピーダンスに直列に接続されていると記載されています。そして、その値は 30 pF となっています。ただ、オペアンプを選択する作業は、それほど単純なものにはなりません。

図 1 で使用しているオペアンプ「ADA4807」の場合、パラメータ表は容量性負荷の値が 15 pF であるという前提で記載されています。しかし、図 2 に示したグラフからわかるように、同アンプはそれより大きな値にも対応できます。例えば、2.7 nF のコンデンサと 20 Ω の抵抗で構成されるローパス・フィルタなども検討の対象になり得ます。

Figure 1
図 2 . ADA4807 の周波数応答

図 2 のグラフは、ADA4807 であれば十分に高い容量性負荷を駆動できるということを示しています。ただ、同アンプがディスエーブルの状態から、完全な出力レベル(ここでは最大 5 V または 4.096 V)にセトリングされるまでには、約 500 ナノ秒の時間が必要になります。

安全を期して、変換が開始される 750 ナノ秒前にオペアンプをオンにするとします。そして、ここでは 1 kSPS から 1 MSPS の外挿データを比較してみることにします。

消費電力の削減効果は、1 kSPS の場合に、最も高い99.83 %(総消費電力は 0.02 mW)に達します。1 MSPSのときに削減効果は最小になりますが、それでも 92.41 %(同 10.75 mW)という値が得られます。これは、ADC用のドライバだけで得られる効果です。リファレンス用のバッファについても、同じような制御を適用すれば、同様の効果が得られます。

本稿の例は、最新のデバイスの能力を示すものです。500ナノ秒の最小サンプリング時間で、SINAD の偏差は 0.5dB 未満でした。ドライバについては、高速な製品を選択し、それをダイナミックに制御する手法を検討してみる価値があります。本稿では、バッファとしての使い方(ゲインは 1)について検討しました。反転アンプとして使う場合や他の製品を使う場合など、条件に応じて消費電力の削減効果は異なります。それについては、実際に消費電流を測定して確認する必要があります。

著者

Thomas Tzscheetzsch

Thomas Tzscheetzsch

Thomas Tzscheetzsch は、2010 年にシニア・フィールド・アプリケーション・エンジニアとしてアナログ・デバイセズに入社しました。2010 ~ 2012 年にドイツ中部地区の顧客を担当した後、より小規模な顧客層を対象とするキー・アカウント・チームに所属していました。2017 年の組織再編後は、FAE マネージャとして CE諸国の IHC クラスタにおいて FAE チームを統括しています。

1992 ~ 1998 年には、エレクトロニクスを専門とする技術者として、ある機械メーカーの部門長を務めていました。ゲッティンゲン応用科学大学で電気工学について学んだ後、マックス・プランク研究所のハードウェア設計技術者としてソーラー・システムの研究に従事しました。2004~ 2010 年には、流通分野の FAE としてアナログ・デバイセズの製品を扱っていました。