質問:
差動入力/シングルエンド出力のアンプ回路を、消費電 力とコストを抑えて構成する方法を教えてください。

回答:
差動入力、シングルエンド出力のアンプ回路が必要になるケースは少なくありません。つまり、小さな差動信号を入力として受け取り、グラウンドを基準とするシングルエンドの信号を出力する回路です。オペアンプとしては、消費電力が少なく性能の高い製品を使用するものとします。通常、2 つの入力電圧には、大きなコモンモード電圧が存在します。差動アンプでは、このコモンモード電圧を除去し、それ以外の電圧を増幅してシングルエンドの電圧として出力します。除去されるコモンモード電圧は、AC 電圧の場合も DC 電圧の場合もあります。一般に、コモンモード電圧は差動入力電圧よりも大きくなります。差動アンプ回路におけるコモンモード電圧除去の効果は、コモンモード電圧の周波数が高くなるほど低下します。単一のチップ上に複数のオペアンプが集積されている製品では、外部配線を最小限に抑えられ、対称性のある部分の寄生容量の値がほぼ同等になることから、マッチングが高まります。そのため、高性能で広帯域幅のデュアルオペアンプの方が、シングルオペアンプを使う場合よりも、周波数に対する性能が高くなります。
質問に対する答えとして、ここでは図 1 の回路を紹介します。この回路は、2 個の高精度オペアンプと抵抗を使用して構成しています。回路のゲインは調整可能であり、差動入力をシングルエンド出力に容易に変換することができます。この回路のゲインは、次の式によって計算できます。

ここで、Gain は RF/1 kΩ、(VIN1 - VIN2) は差動入力電圧です。

一般に、この方法を使えば、EMI( Electro-MagneticInterference)や RFI(Radio Frequency Interference)が存在する場合でも、より安定した性能が得られます。そのため、ノイズが問題になる用途に適しています。特に熱電対、ストレイン・ゲージ、ブリッジ型の圧力センサーを使用する用途に有用です。これらのセンサーは、ノイズの大きい環境において、非常に小さな信号を生成するケースが多いからです。
図 1 の回路を使えば、シングルエンド入力の場合よりも高い性能を得ることができます。コモンモード電圧を除去し、信号を増幅して、センサーの正負端子間の電位差を測定することが可能です。また、この回路を使用する場合、センサーのグラウンドをアナログのグラウンドとは別にすることができます。多くのアプリケーションでは、出力電圧の基準をグラウンドにできることが重要な意味を持ちます。なお、この回路の精度は、使用する抵抗の許容誤差に依存します。
この回路を使えば、差動入力をシングルエンド出力に容易に変換することができます。その際には、任意のゲインで信号を増幅することが可能です。RG2 と RG1 の値が等しく、アンプ B のゲインが -1 であるとすると、回路全体のゲインは RF と RG1 の比で決まります。
アナログ・デバイセズは、帯域幅が 180 MHz のデュアルアンプ「ADA4807-2」を提供しています。図 1 の回路のオペアンプとして ADA4807-2 を使用すれば、回路全体のノイズを抑えることができます。また、オペアンプ 1 個当たりの静止電流は 1000 µA であり、消費電力が少なく分解能の高いデータ変換システムに理想的な回路になります。
入力コモンモード電圧は、電源電圧を超える場合もあります。ADA4807-2 の出力はレール to レールなので、コモンモード信号が大きい用途や、出力電圧が大きい用途にも適しています。例えば、データ・アクイジション用の基板に実装されている A/D コンバータ(ADC)には 0 V ~ 5 V のシングルエンド入力が必要であるとします。それに対し、信号源はブリッジ・センサーから生成された差動電圧であるとします。そしてコモン・ノイズが存在するなか、圧力に反応して一方の端子は正に、他方の端子は負に振れるというケースが考えられます。

図 2 に示したのは、差動入力電圧を印加して回路の出力電圧を測定した結果です。回路のゲインは RF の値を変えることで変化させています。このグラフには、周波数が 1kHz で振幅が 1 V p-p の差動入力電圧を印加し、ゲインを1、2、4 に変化させた場合の出力電圧が描かれています。
この回路は、2 つの大きな電圧の間の小さな差分電圧を測定する場合に有用です。例えば、3 V のバッテリで駆動するシステムにおいて、3 V/GND で励起される標準的なホイートストン・ブリッジ回路を、1 % の精度でモニタリングするというシンプルなアプリケーションを考えます。このような場合に、任意のコモンモード電圧を除去し、ブリッジの減衰した信号を、設定したゲインで増幅する回路を実現できるということです。必要な精度は、許容誤差が 1 % 以下の抵抗を使用することで達成できます。なお、ADC を駆動する場合には、出力信号を 0V ~ 5 V にレベル・シフトする必要があります。
この回路では、優れた歪み性能を実現できます。また、静止電流を少なく抑えることが可能です。デュアルアンプを使用することでシステムのコストが低減し、差動アンプを使用することで性能が向上するということです。