より速く、より高く、より強く

質問:

アプリケーションで使用するために選んだアンプのデータシートには、小信号帯域幅と大信号帯域幅の両方の仕様が記載されており、その値が大きく異なっています。自分のアプリケーションで使う信号が小信号か大信号かを、どうやって判断すれば良いのでしょうか?

RAQ:  Issue 128

回答:

アンプの帯域幅について語る場合、実際は小信号モデルを使用するアンプの周波数応答の話になります。この小信号モデルは、バイアス点付近では回路が線形である、つまり回路のゲインは入力信号に関係なく一定であるという仮定の下で得られます。信号が十分小さいものであればモデルはきちんと機能し、実際との差を検出することは不可能です。

このモデルは設計や解析プロセスを簡素化できるので広く使われています。大信号モデルを使う場合、つまりすべての非線形方程式を含める場合は、回路が非常に複雑になります(少なくとも私にとっては恐ろしく複雑なものになります)。1 したがって、小信号モデルと正弦波信号を使えば、何とか扱えるレベルにまで複雑さを軽減することができます。

しかし、厳密に言うと、実際の信号はごく小さいものであっても、トランジスタ回路(例えばオペアンプ)のバイアス点をわずかに変化させます。信号が大きくなるほど、非線形性の影響を無視するのが難しくなりますが、その影響が最も端的に表れるのが歪みです。あるポイントで信号は速くなり過ぎ、また大きくなり過ぎて、アンプがスルーレートの限界に達します。この限界はアンプ出力の最大変化率に相当し、一般に1マイクロ秒あたりのボルト数(V/μs)で表されます。スルーレートが限界に達するとアンプに遅れが生じ、信号がランプダウンを始める前に信号ピーク値に達しなくなって、結果的に信号振幅が予想した値を下回ります。このポイントでアンプはほぼ大信号帯域幅に達します。通常これは小信号帯域幅より低い周波数で起こり、信号にはほぼ確実に歪みが生じます。しかし、信号に突然大きな歪みが生じるわけではなく、歪みは振幅および周波数とともに徐々に増していきます。歪みがシステムの許容範囲を超える場合に、信号が大き過ぎると言うことができます。

RAQ:  Issue 128 Figure 1
図1. 80MHzのアンプが大信号帯域幅状態に達すると
出力信号(赤)が3MHz入力正弦波(緑)に追従できなくなる

では、アンプがある信号を扱うだけ十分速いかどうかはどうすればわかるのでしょうか。まずは、いつもの通り、小信号帯域幅が必要なゲインに対して十分であることを確認します。帯域幅が十分であれば、データシートの大信号帯域幅仕様(またはプロット)を探します。この仕様がない場合、最も簡単なソリューションは、基本に戻って次の式を使うことです。

SR [V/µs] = ピーク振幅 × 6.28 × 周波数 [MHz]

経験的に確実な方法は、スルーレートが必要な値の10あるアンプを選ぶことです。次に、データシートの歪み曲線上で必要な周波数と振幅に対応する値を参照して、そのアンプに対して信号が十分に小さいことを確認します。

例えば、電圧フォロワーとしてのADA4807-1のスルーレートは、±5 V電源で225 V / μ sです。アンプの小信号帯域幅が180 M H z 前後だとしても、2 V p - p 信号ではそのアンプは36MHzを超えることはできません。また、4Vp-pでは同じ理論的限界は約18MHzまで低下します。更に、通常、スルーレートはステップ信号を使って測定され、その条件では内部スルー改善回路が作動してセトリング時間を短縮しますが、実際には、正弦波信号に対する応答が少し遅くなることがあります(データシートに規定された2Vp-pの大信号帯域幅の仕様値は28MHz)。代表的な性能特性のセクションにある歪みのプロットは、周波数および振幅に伴う高調波歪みの増加を示していますが、このプロットから、信号をどの程度まで速く高く 強く できるのかを知ることができます。

1 これはコンピュータによるシミュレーションに適した作業ですが、その場合でも単純化を図り、適切な時間内に数値解が得られるようにすべきでしょう。

著者

Gustavo Castro

Gustavo Castro

Gustavo Castro は、アナログ・デバイセズの計測事業部門(マサチューセッツ州ウィルミントン)に所属するシステム・アプリケーション・エンジニアです。2011年に入社しました。それ以前は、National Instrumentsで10年間にわたり自動試験装置(ATE)で使用される高性能のデジタル・マルチメータや高精度のソース・メジャー・ユニットの設計に従事。高精度計測や電子計測を対象としたアナログ/ミックスド・シグナル/アルゴリズム設計の分野で、複数の特許を取得することに貢献しました。モンテレイ工科大学で電子システムに関する理学士号、ノースイースタン大学でマイクロシステムと材料に関する理学修士号を取得しています。