半分失われた信号

質問:

ADCの内蔵デジタル・ダウンコンバージョン(DDC)処理を使用してデシメーションを行うと、シングル・トーンの実入力信号のパワーが6dB低下します。何が起こっているのでしょうか?

RAQ:  Issue 124

回答:

多くの高速 ADC は、シグナル・アクイジション・システムの柔軟性を高めるために、コア A /D 変換の後にデジタル・ポストプロセッシング機能を備えるようになっています。一般的な信号処理ブロックの 1 つが、デジタル・ダウンコンバージョンです。DDC は、ADC の帯域幅を狭め、下流側のシグナル・チェーンに送る出力データ量を減らして、必要とする狭い対象信号帯域幅の処理能力を高めるために使われます。その主な働きは、既知のある周波数を中心にしてデジタル化された実信号を、ゼロ周波数を中心とするベースバンド複素信号に変換することによって、複素ミキサーとして機能することです。DDC は複素入力信号にも広く使われています。

ADC 内の DDC 機能は、実サンプルデータを処理する 3 つの要素を備えています。

  • デジタル・ミキサーへ与える複素直交正弦周波数を生成する数値制御発振器(NCO)
  • サンプルの帯域幅を狭めるローパス・デジタル・フィルタ。通常は、有限インパルス応答フィルタ(FIR)によって実装されます
  • ADC データをデシメーションするためのダウンサンプラ
RAQ:  Issue 124 Figure 1
図1. デジタル・ダウンコンバージョンは、実データとミックスされる複素 NCOで構成され、
次にフィルタリングとデシメーションを行って、I/Q 両方の出力データ・ストリームを生成

DDC の最初の段は、位相データについては ADC 出力と余弦波をミックスし(乗じ)、直交データについては ADC 出力と正弦波をミックスして(乗じて)、和周波数成分と差周波数成分を生成します。複素 NCO 周波数に入力信号を乗じると、和周波数と差周波数を中心とするイメージが生成されます。ローパス・フィルタは、選択した周波数帯域幅内の差周波数を通過させ、和周波数イメージを除去します。その結果、DDC 出力は元の信号を I/Q データで表した複素表現になります。

I/Q データ出力のどちらも個別に処理して結果を見ると、信号パワーが失われたように見えます。しかし、I/Q データは分離されており、それに伴ってフィルタ・ノイズのスペクトル密度が減少しているので、ADCのフルスケール・レンジに比べて信号のパワーが低下しているように見えます。このため、信号出力が一見 6dB(半分)低下しているように見えるわけです。しかし、フィルタがかけられてはいても、新しい複素信号は数学的には元の実信号に等しくなります。ただし、パワーは I/Q データの間で分割されます。



著者

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Ian Beavers

Ian Beaversは、アナログ・デバイセズ(ノースカロライナ州、ダーラム)の航空宇宙および防衛システム・チームのフィールド・アプリケーション・エンジニアおよびカスタマ・ラボ・マネージャです。1999年以来、アナログ・デバイセズで勤務しています。半導体業界で25年以上の経験を積んでいます。ノースカロライナ州立大学で電気工学の学士号を、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校でM.B.A.の学位を取得しました。