スマート・メタリングによるエネルギー効率の向上で世界をさらにエコに

はじめに

ガレージ、地下室、その他人目に付かない場所に電気メーターがひっそりと設置されているのはよくご存知のことと思います。一度や二度は電力量計を覗いて、最新の計測値を電力会社に電話で教えたことがあるかもしれませんね。技術の進歩のおかげで、今この何の変哲もない電力量計に静かな革命が起きています。

図1は、19世紀後半に最初に開発された従来型の電子機械式メーターで、回転ディスクと機械式のカウンタ表示部があります。このタイプのメーターでは、メイン・ヒューズ・ボックスからの電力に比例する速度で回転する金属性ディスクがあり、それが何回転したかを計算します。すぐそばのコイルが瞬時電流/電圧に比例する力と渦電流を誘導して、ディスクを回転させます。永久磁石がディスクに減衰力を与え、電源遮断後にディスクを停止します。

Figure 1
図1. 電気機械式電力量計

メーター進化の第一歩は、電子機械式電力量計が電子式電力量計に置き換えられたことです。電子式電力量計は、エネルギー計測IC製品ファミリーADE516x1ADE556x2ADE716x3ADE756x,4ADE77xx5などの高集積デバイスを使ってエネルギーを計測します6。これらのデバイスは、高分解能シグマ・デルタA/Dコンバータ(ADC)によって瞬時電圧/電流をデジタル化します。電圧と電流の積を計算すれば、瞬時電力(W)を求めることができます。時間で積分すれば、一般にkWhで計測されるエネルギー使用量がわかります。エネルギー・データは、図2のような液晶ディスプレイに表示されます。

電子式電力量計にはいくつか長所があります。瞬時電力の測定以外に、力率、無効電力などのパラメータを測定することもできます。測定されたデータは一定の間隔で保存されるため、電力会社は使用する時刻に基づいた価格プランを提供できます。その結果、賢明な消費者は低価格のピーク外の時間帯に洗濯機や乾燥機などの主な家電機器を使うことで倹約でき、電力会社はピーク時に必要な発電容量が低くなるため発電所を新設しなくても済みます。電子式電力量計は外部の磁気や電力量計自体の向きに影響されないため、電子機械式電力量計より不正が行われにくい点が優れています。また、信頼性の面でも優れています。

アナログ・デバイセズは、電子機械式電力量計から電子式電力量計への移行において大きな役割を果たしてきました。これまでに出荷したエネルギー計測ICの数は2億2500万個以上に及んでいます。IMS Research社によると、2007年に出荷された電力量計のうち75%が電子機械式ではなく電子式タイプでした7

Figure 2
図2. ソリッドステート電子式電力量計

新たな可能性を開く電子式電力量計

電力量データが電子形式になれば、電力量計に通信機能を持たせ、自動検針(AMR)機能によって通信リンクを介してデータにリモート・アクセスできるようになります。電力量計メーカーはリモート検針用のさまざまなシステム・アーキテクチャを開発していますが、大まかにウォークバイ方式、ドライブバイ方式、ネットワーク方式の3つに分類できます。図3に示すのが、ドライブバイ方式です。この場合、電力会社はオンボードの無線データ・コレクタを備えた小型トラックを走らせます。車が周回して近隣一帯の検針データを効率的に収集します。ドライブバイ方式では電力会社の従業員1名が1日に検針できる件数はウォークバイ方式の5倍、マニュアル検針と比べると10倍超になります。ネットワーク方式では、検針データは固定されたデータ・コレクタに送信されます。データ・コレクタは、一般に街路や町内の端に据えられた柱の上に設置されます。収集されたデータは、ブロードバンドや携帯バックボーンを介して電力会社に送信されます。

Figure 3
図3. ドライブバイ方式の検針

AMRからAMIへ

当初、マニュアル検針からAMR方式への移行は単に労働力削減のための手段と考えられていましたが、AMRを付加価値の高いサービスの提供につなげることができることが電力業界で認識されると、当初の考え方も変化してきました。たとえば、リアルタイムの価格設定によってエネルギー効率をさらに向上すること、障害検出を即座にリポートすること、正確なデータを収集してネットワーク内の使用状況を把握することなどが可能になります。AMRではなく高度検針インフラストラクチャ(AMI)を使用する場合は、単純なリモート検針からいかに進化したかが一層明らかになります。AMIネットワーク検針システムは、衛星から低価格の無線まで広範な技術を使って実現できます。有力な最新技術とされているのは、RF(ライセンス不要の産業・科学・医療バンド、すなわちISM帯域を使用)と電力線キャリア(PLC)の2つです。

RF技術は低消費電力の低価格無線を使って検針情報を送信しますが、PLCは電力線そのものを使用します。アナログ・デバイセズはこの2つの技術に対応したソリューションとして、ISM帯域RFセグメント向けショートレンジ・トランシーバ8ADF7xxxとPLCセグメント向けSALEM®ファミリー(好評のBlackfin® プロセッサ9を使用)を開発しました。RFとPLCのどちらの技術にもそれぞれ長所と短所があります。特に水道メーターとガス・メーターには、水やガスの近くに主電源があることから、安全性を考慮してRF技術のほうが採用されることが多くなっています。水道メーターは地面の下に埋め込まれることがあるため、事情はもっと複雑です。電気メーターの場合は2つの方法を組み合わせて利用することが多いのですが、特に北米ではRF、欧州では電力線が好まれる傾向があります。米国では1個のトランスを使用する住宅の数がわずかであるため、PLCはあまり経済的ではありません。場合によっては、電力会社が混合方式でAMIを活用し、データ・コレクタと電気メーター間の通信に電力線を利用し、電気メーターと住居内のその他のメーターや装置との間はRFを使用することがあります。世界各国のAMR/AMIの展開状況10とフィールド・トライアルがわかる興味深いGoogleマップ・ページがあります。このページをご覧になれば、最新の情報が得られます。

AMR/AMIに対応するRF公共料金メーターの設計

公共料金メーターはふつう住居の周囲に設置されますが、住宅で使用される無線装置が増加しているため、いかに安全な無線通信を実現するかが課題となっています。無線装置への入力で数分の1マイクロボルトという小さな信号をデコードしながら、無線LANなどの装置から入る不要な大信号を除去するには、RF回路の高性能動作が求められます。

信号の送信範囲が広くなることから、優れた無線感度も必要になります。前述したように、メーターは地下室、あるいはもっとひどい場合は地面の下に設置されることもありますが、それでも数ブロック離れた柱の上の無線装置や路上を走る小型トラックと通信できなければなりません。感度が低くなればなるほど、受信無線装置を近づけてメッセージを正確にデコードする必要があります。移動するドライブバイ方式の場合は単に小型トラックを住居に近づけて走らせることになりますが、固定ネットワーク・インフラストラクチャの場合は小型のセルを使用し、それに対応する数のデータ・コレクタが必要になります。したがって、感度を高めれば、ネットワーク・インフラストラクチャのコストを小さくすることができるわけです。

低消費電力にすることは、バッテリ駆動のガス・メーターや水道メーターでも重要です。多くの場合、メーター販売会社はエネルギー・メーターの消費電力削減に力を入れ、水道/ガス・メーターにも同じ設計を利用できるようにしたいと考えています。また、ライセンスが不要なスペクトルで装置を運用するために、メーターやリーダーで使用する通信プロトコルは各国の無線周波数放射規制に準拠しなければなりません。ライセンス不要の帯域はいくつか存在しますが、その最も一般的なものは900MHz、2.4GHz、5.8GHzになります。

メーター製造会社の大部分は、メーター間とメーターとデータ・コレクタ間のリンクに900MHz帯の無線を選択しています。この周波数帯域の無線は競合する2.4GHz技術よりも同じ電力バジェットで通信範囲に優れており、基地局/データ・コレクタのセル・カバレッジが拡大します。しかし、電力会社の立場からすると、この周波数帯には該当する標準(規格)がないという欠点があります。1GHz未満の帯域はバッテリ駆動のガス/水道メーターにとって最適な技術を選択することを意味しますが、それとともに各メーカーのシステム間の相互運用が可能になるよう標準化へ向けた要求も高まっています。有線Mバス・グループから成長した無線Mバスは、メーター間およびメーターとデータ・コレクタ間の通信の標準の一例です。Mバス11は、EN(欧州規格)標準の一部としてEN13757に詳述されています。無線Mバス・プロトコルについては、EN13757-4に詳しく記載されています。その他の900MHzの標準化は現在進行中です。

ADF702012 とリリース間近のADF7023トランシーバは、900MHz無線のメタリングを念頭に設計された製品です。両方とも、無線Mバス標準に準拠するシステムに適しています。図4にADF7020のブロック図を示します。

Figure 4
図4. ADF7020の機能ブロック図

完全集積化された低消費電力の無線トランシーバADF7020は、ライセンスフリーのISM帯域(中国で433MHz、欧州で868MHz、北米で915MHz)で動作します。この製品は、完全な送受信RF部とアナログ/デジタル・ベースバンドを集積しています。AMRに対応した公共料金メーター13用の無線カードを設計するには、一般にADF7023、アンテナ、わずかな数の外部パッシブ・コンポーネント、それに通信プロトコルを実行するシンプルなマイクロコントローラが必要です(図5を参照)。ADF7023は、下位の通信機能の一部を実行する超低消費電力8ビットRISCコアを集積しているため、外部マイクロコントローラの負担を大幅に軽減します。これによって、通信専用に別途マイクロコントローラが必要になることはほとんどありません。メーター製造会社も、ADF702xによる無線によってクラス最高の感度とブロッキング性能が得られ、メーターとデータ・コレクタ間のレンジが向上することから、このファミリー製品を競合製品以上に選択しています。ADF702xは70dBを上回るブロッキング性能を提供し、不要な帯域外信号が所望の信号より最大70dB高くても必要な信号を検出して正しくデコードすることができます。隣接チャンネル除去比は約40dBであり、感度はデータレートに応じて-120dBmという低い値になります。これは、最高性能のZigBee®ソリューションより20dB以上も低い値です14

Figure 5
図5. AMR対応の公共料金メーター

HAN ネットワーク

通信対応メーターが多くの家庭でまもなく利用可能になる中で、電力会社やエネルギー監督機関は将来を見据えて、この技術を活用して省エネ意識や省エネ対策を向上する方法を模索しています。電力会社は、スマート・グリッドとも呼ばれるコンセプトにより、ネットワークを顧客の住宅の中まで伸ばし、送電負荷を積極的に管理しようとしています。これによってリアルタイムに価格情報を提供し、消費者がエネルギーの使用量を調整できるようなサービスが考えられています。たとえば、熱波が到来しているときのピーク負荷時に、電力会社は各家庭にこれから1時間値上がりする旨のメッセージを伝え、家電機器の電源を切るよう勧めることができます。このような場合は、メッセージを表示できる家庭用ディスプレイが必要になります。さらにもう1歩レベルアップさせるなら、電力会社がメーターを介して住居内の装置と交信し、サーモスタットを高く設定したり、プール・ポンプをオフにすることなどが可能になります。このようなシステムはメーターと家電機器間の通信を必要とするため、ホーム・エリア・ネットワーク(HAN)と呼ばれることがあります。ここでも、ADF702xやZigBee無線などの900MHz無線が人気を集めるようになっています。

大部分の業界関係者は、AMIに接続するホーム・エリア・ネットワークが完全に稼動するようになるのは何年も先の話であると考えていますが、このシステムの数々の長所ゆえに、現在多くの企業がHAN向けのソリューション開発に積極的に取り組んでいます。図6にホーム・エリア・ネットワークのイメージを示します。

Figure 6
図6. 宅内ネットワーク

結論

アナログ・デバイセズは、メタリング市場向けにRFトランシーバ、電力計測チップセット、RFアンプ、アイソレーション製品、電力線制御などの最先端技術を活用する取組みに全力を傾けています。完全集積化された高性能トランシーバADF702xは、通信/AMI対応のメーターに利用でき、世界各国のメーター製造会社向けの堅牢な低価格コンパクト・ソリューションになります。

AMIとスマート・グリッドは、エネルギー効率を向上し、最終的には炭素排出量削減も実現できる主要技術と考えられています。アナログ・デバイセズはエネルギー効率の高い革新的なデバイスを提供することによってこの市場を実現し、将来に向けてエネルギー効率の向上やエネルギー節約の促進に努めていきます。

参考資料

  1. www.analog.com/jp/ADE5166
  2. www.analog.com/jp/ADE5566
  3. www.analog.com/jp/ADE7166
  4. www.analog.com/jp/ADE7566
  5. www.analog.com/jp/ADE7751
  6. www.analog.com/jp/products/analog-to-digital-converters/integrated-special-purpose-converters/energy-metering-ics.html
  7. IMS Research Report 2008
  8. www.analog.com/jp/products/rf-microwave/integrated-transceivers-transmitters-receivers.html
  9. www.analog.com/jp/blackfin
  10. http://maps.google.com/maps/ms?ie=UTF8&hl=en&msa=0&msid=115519311058367534348.0000011362ac6d7d21187&om=1&ll=43.325178,-4.21875&spn=90,-33.046875&source=embed
  11. www.m-bus.com
  12. www.analog.com/jp/ADF7020
  13. www.analog.com/jp/applications/markets/energy-pavilion-home/metering-and-energy-monitoring/electric-meters.html
  14. www.zigbee.org/

著者

Austin-Harney

Austin Harney

Austin Harneyは、1999年に電子工学の学士号を取得してアイルランド国立大学ダブリン校を卒業し、2006年にリムリック大学でMBAを取得しました。アナログ・デバイセズでは12年間にわたってさまざまなRF業務に従事し、現在はPLLおよびVCO製品ファミリーのアプリケーション・エンジニアです。