オペアンプは、差動入力とシングルエンド出力、きわめて高いゲインを有するアンプです。高精度のアナログ回路で使用されることが多く、その性能を正確に測定することが重要です。しかし、オープン・ループ測定では、107以上にもなる高いオープン・ループ・ゲインによって、ピックアップ、迷走電流、ゼーベック(熱電対)効果が生じ、アンプ入力における微小電圧誤差が発生しないようにすることは非常に困難です。
サーボ・ループを用いてアンプ入力電圧を強制的にゼロ電位とさせることによって、オペアンプの測定プロセスを大幅に簡素化することができます。これによって、基本的に被試験アンプ自体がその誤差を測定します。図1の汎用回路は、この原理に基づき、補助オペアンプを積分器として使用し、きわめて高いDCオープン・ループ・ゲインを持つ安定したループを形成しています。スイッチは、以下に簡略図で紹介するさまざまなテスト機能の動作をさせます。

図1の回路は、測定誤差のほとんどを最小限に抑え、多数のDCパラメータ(若干のACパラメータも)を正確に測定することができます。追加した「補助」オペアンプは、測定対象のオペアンプよりも高い性能にする必要はありません。補助オペアンプのDCオープン・ループ・ゲインは100万以上であれば大丈夫です。被試験デバイス(DUT)のオフセットが数mVを上回りそうな場合、補助オペアンプは±15Vの電源で動作させてください(そして、DUTの入力オフセットが10mVを上回る可能性があるのなら、99.9kΩ抵抗(R3)を減らす必要があるでしょう)。
DUTの電源電圧(+Vと-V)は、同じ大きさで符号は反対の対称電源です。合計電源電圧は、もちろん2×Vです。システムのグラウンド・リファレンスが電源電圧の中間点であるため、この回路では「単電源」のオペアンプに対しても対称電源を使用します。
積分器となる補助アンプは、DCでオープン・ループ(フルゲイン)になるように構成しますが、入力抵抗と帰還コンデンサによって帯域幅は数Hz に制限されます。つまり、DUTの出力のDC電圧は、補助アンプのフルゲインによって増幅され、1000:1の減衰器を介してDUTの非反転入力に印加されます。負帰還によって、DUTの出力はグラウンド電位になります。(実際の電圧は補助アンプのオフセット電圧になるといったほうがよいかもしれません。あるいは、更に詳細な検証をするなら、補助アンプのバイアス電流に起因する100kΩ抵抗の電圧降下をこのオフセットに加えた電圧になります。しかし、測定時のこのポイントの電圧変化は数マイクロボルト以上になることはまずなく、グラウンド電圧にきわめて近い値であり、たいしたものではありません。)
テスト・ポイントの電圧(TP1)は、DUTの入力に印加される補正電圧(誤差と等しい大きさ)の1000倍です。これは数十mV以上になるため、測定するのはごく簡単です。
理想的なオペアンプのオフセット電圧(VOS)はゼロです。つまり、2つの入力が結合されて、電源電圧の中間電圧に保持されているなら、出力電圧も電源電圧の中間になるはずです。ところが、現実はオペアンプに数マイクロボルトから数ミリボルトのオフセットがあるため、このレンジの電圧を入力に印加して出力を中間電位にする必要があります。
図2に、オフセット電圧測定の最も基本的なテスト構成を示します。DUTの出力電圧はTP1の電圧がオフセットの1000倍であるときグラウンド電位になります。

理想的なオペアンプの場合、入力には無限大の入力インピーダンスがあり、電流は流れていません。しかし現実には、反転入力と非反転入力に小さな「バイアス」電流(それぞれ、IB-とIB+)が流れており、これが高インピーダンス回路に大きなオフセットを発生させます。バイアス電流の範囲は、オペアンプの種類によりますが、数フェムトアンペア(1fA = 10-15A、すなわち数マイクロ秒ごとに1個の電子)から数ナノアンペアです。一部の高速オペアンプでは、1 ~ 2μAになることもあります。図3に、この電流を測定する方法を示します。

この回路は図2のオフセット回路と同じですが、DUT入力と直列に2本の抵抗(R6とR7)が追加されています。これらの抵抗は、スイッチS1とS2によって短絡させることができます。この2つのスイッチを閉じると、図2と同じ回路になります。S1が開くと、反転入力からバイアス電流がRS に流れ、オフセットに電圧差が加算されます。TP1の電圧変化(= 1000 IB−/RS)を測定することによって、IB− を計算することができます。同様に、S1を閉じてS2を開くことによって、IB+ を測定できます。S1とS2を両方とも閉じてTP1の電圧を測定してから両方とも開き、その変化によって、IB+ とIB− の差である「入力オフセット電流」(IOS)を測定します。使用するR6とR7の値は、測定する電流に依存します。
IBの値が5pA以下のオーダーの場合、大きな抵抗値が必要となるため、この回路を使用することがきわめて難しくなります。こうなると、別の技術が必要になります。それには、IBが低リーク電流コンデンサ(RSの代わりに使用)を充電する速度が関係してくるかもしれません。
S1 とS2 を閉じていても、IOS は依然として100Ω抵抗に流れ、VOS に誤差を生じさせます。しかし、IOS がVOS 測定値の1%を超える誤差を発生させるほど大きくなければ、この計算値は一般的には無視することができます。
オペアンプのオープン・ループDCゲインは、きわめて高くなることがあります。107 を超えるゲインのことは知られていますが、一般には250,000 ~ 2,000,000 という値のほうが普通です。DCゲインを測定するには、S6 によってR5 をDUT出力と1Vリファレンスの間で切り替えることによって、DUTの出力を既知の量(図4 では1V、しかしデバイスが十分に大きい電源電圧で動作している場合は10V)だけ変化させます。R5 が+1Vであれば、補助アンプの入力が変化せずゼロ付近のままである限り、DUT出力は- 1Vに変わります。

TP1の電圧変化は1000:1の減衰を受けて、DUTへの入力になり、1Vの出力変化を引き起こします。ここからゲインを計算するのは簡単です(= 1000 × 1 V/TP1)。
オープン・ループのACゲインを測定するには、DUT入力に必要な周波数の小さいAC信号を注入し、その出力(図5のTP2)で得られる信号を測定する必要があります。この間、補助アンプによってDUT出力の平均DCレベルを安定化させておきます。

図5では、AC信号が10,000:1の減衰器を介してDUT入力に印加されます。低周波測定の場合、オープン・ループ・ゲインがDC値に近いことがあるため、大きな減衰値が必要です。(たとえば、ゲインが1,000,000の周波数では、1V rmsの信号でアンプ入力に100μVが印加されるため、アンプは100V rms の出力を出そうとして飽和してしまいます)。したがって、AC測定においては、一般には数百Hz の周波数からオープン・ループ・ゲインがユニティまで低下した周波数の間で実行します。あるいは低周波のゲイン・データが必要な場合は、低入力振幅レベルに特に注意して実行します。ここに示す簡単な減衰器は、浮遊容量に十分な注意を払ったとしても、最大100kHz ほどの周波数でしか機能しません。これより高周波域では、もっと複雑な回路が必要になります。
オペアンプの同相ノイズ除去比(CMRR)は、同相電圧の変化に対するこの変化に起因するオフセットの見かけの変化の比です。DCでは一般に80 ~ 120dBのオーダーですが、高周波域では低下します。
このテスト回路はCMRRの測定に最適です(図6)。低レベル効果(小入力電圧に対する出力への影響)によって測定に支障が生じることがあるため、DUT入力端子に同相電圧は印加しません。ただ、電源電圧は(入力と同じ方向、つまり共通の方向に)変更していますが、回路のそのほかの部分はそのままです。

図6の回路では、±V(この例では、+2.5Vと-2.5V)の電源電圧でTP1のオフセットを測定し、両方の電源電圧を+1V上げて+3.5Vと-1.5Vに変えて再び測定します。オフセットの変化は1Vのコモン・モードの変化に対応するため、DCのCMRRはオフセット変化と1Vの比になります。
CMRRはコモン・モードの変化に対するオフセットの変化を表し、合計電源電圧は変化しません。一方、電源電圧変動除去比(PSRR)は、合計電源電圧の変化に対するオフセットの変化の比であり、同相電圧は電源電圧の中間点で変化しません(図7)。

ここで使用する回路はまったく同じです。違いは、合計電源電圧が変化してもコモン・レベルは変化しないことです。ここで、スイッチは+2.5Vと-2.5Vから+3Vと-3Vに、合計電源電圧は5Vから6Vに変化します。同相電圧は中間点にとどまります。計算も同じです(1000×TP1/1 V)。
ACのCMRRとPSRRを測定するには、図8と図9に示すように、電源電圧をAC電圧によって変調させます。DUTはDCでオープン・ループの動作を続けますが、ACの負帰還によって厳密なゲインが規定されます(図では×100)。

ACのCMRRを測定するために、DUTの正と負の電源を1Vピークの振幅を持つAC電圧によって変調させます。両方の電源電圧の変調は同じ位相であるため、実際の電源電圧は安定したDCですが、同相電圧は2V p-pのサイン波になり、DUT出力はAC電圧を含んだものになります。このAC電圧はTP2で測定します。
TP2でのAC電圧の振幅がxボルト・ピーク(2xボルト・ピークtoピーク)である場合、DUT入力を基準とした(つまり、×100のACゲインよりも前の)CMRRはx/100Vとなり、CMRRは1Vピークに対するこの値との比になります。

ACのPSRRは、正と負の電源上で180°位相がずれたAC電圧で測定します。これによって電源電圧の振幅は変調されます(この例では、1Vピーク、2V p-p)が、同相電圧はDCで安定したままです。この計算は、前の計算とほとんど同じです。
結論
もちろん、ほかにも測定が必要なオペアンプのパラメータは多数あり、ここで論じたパラメータを測定する別の方法もたくさんあります。しかし、最も基本的なDC/ACパラメータは、ここで説明したような簡単な基本回路によって測定することができます。そのような回路は作成するのも理解するのも簡単で、おどろくほどトラブルもありません。
2018 年 1 月: C1 = 1 μF を C1 = 5 μF に変更しました。補助オペアンプ積分器のゲインは、この変更後も 40 Hz 付近で最大 10 dB のクローズド・ループ・ピーキングを発生させ、40 Hz の振動に変えられるだけの十分な値であることが分かりました。
シミュレーションの結果は、極周波数を 1/5 に下げることによってこれを防止できることを示しています。