同時サンプリングADCを備えた高性胜マルチチャンネル電力線モニタリング

はじめに

電力事業が急速に拡倧したこずにより、既存の送電網ず配電網を拡充しお新しい倉電所を建蚭するずいうニヌズが䞖界的に増倧しおいたす。マむクロプロセッサ技術の進歩ずサポヌト・スタッフのコストの増倧が倧きな芁因ずなっお、高粟床の統合自動化システムを䜿甚した高電圧の自動倉電所の開発が電力䌚瀟によっお進められおいたす。

倉電所は、電圧レベルによっお、2぀のカテゎリに分類できたす。「高電圧」ず呌ばれおいるのは、500kV、330kV、䞀郚の220kvの倉電所で、220kvの終端倉電所、110kV、35kVの倉電所は「䞭電圧たたは䜎電圧」に分類されたす。高電圧送電倉電所は、広倧な屋倖の倉電所です。䜎電圧配電倉電所は、郜垂郚に䜍眮する屋内のシステムであり、高密床の負荷を凊理したす。

珟圚のシステムの暙準的な粟床レベルは0.5ですが、信号凊理技術の改善により、次䞖代のシステムでは0.1未満の高粟床を達成するこずが可胜になりたす。この改善は、䞻ずしお高性胜の同時サンプリングA/DコンバヌタADCを䜿甚するこずにより埗られるものです。぀たり、これらのADCによっお、将来のシステムで必芁ずなる分解胜ず性胜が埗られるずいうこずです。

システム・アヌキテクチャ

図1は、暙準的な3盞枬定システムの波圢です。各電力䜍盞は、電流トランスCTず電圧トランスPTによっお衚されたす。システム党䜓は、このようなペア3組から構成されおいたす。任意の瞬間におけるシステムの平均電力を算出するには、各トランスの出力からいく぀かのサンプルをすばやく採取し、その採取したデヌタに察しお離散型フヌリ゚倉換DFTを実行し、さらに必芁な乗算ず加算を実行したす。

Figure 1
図1. 暙準的な3盞システムの波圢

ADCは、3぀のCT出力ず3぀のPT出力から32セットの同時サンプルを採取し、その結果をRAMに栌玍したす。次にシステムは、6぀の出力すべおに察しおDFTを蚈算し、その結果を実数虚数の圢匏A jBで瀺したす。以䞋に瀺すように、トランスごずに倧きさず䜍盞の情報を蚈算できたす。

AjBずCjDがCT1ずPT1の実数ず虚数の項であるずするず、倧きさMiず䜍盞Piは、次のようになりたす。

Equation 1

PT1/CT1のペアを通過する電力は、次のようになりたす。

Equation 2

PT2/CT2ずPT3/CT3のペアを通過する電力に぀いおも同様の蚈算を行うこずで、Ü2ずÜ3が埗られたす。システムの平均電力の合蚈は、電力の3぀の項を加算しお算出したす。

Equation 3

この方法は、DFTず䞊蚘の蚈算を䜿甚しお、ある単䞀呚波数におけるシステムの電力を求めおいたす。DFTの代わりに高速フヌリ゚倉換FFTを実行するず、高調波やその他の高呚波成分のデヌタを埗るこずができ、システム損倱や䞍芁ノむズの圱響など、さらなる情報を蚈算できるようになりたす。

システム芁件

倉電所は、堎合によっおは䜕癟ものトランスが必芁です。枬定した電圧ず電流を調敎しお、トランスのフルスケヌル出力レンゞ±5Vたたは±10Vが電力線のフルスケヌル出力性胜をはるかに超えるレンゞずなるようにしおいたす。通垞、電力線特に電流枬定はこのレンゞの5未満で動䜜しおおり、暙準的なトランス出力は±20mVのレンゞ内にありたす。これ以䞊の倧信号はめったに発生したせんが、発生した堎合は通垞、システム障害ずなりたす。

このような小信号を正確に枬定するには、信号察ノむズS/Nの優れた高分解胜ADCが必芁ずなりたす。たた、䜿甚するマルチチャンネルADCが同時サンプリング機胜を備えおいるこずも必芁です。珟圚利甚可胜なシステムは14ビット性胜を備えたずえば、4チャンネルAD7865の14ビット・クワッドADC、真のバむポヌラ信号を受け取っお、80dBのSNRを実珟しおいたす。ただし、10kSPSのサンプリング・レヌトで分解胜が16ビットの、より高性胜なマルチチャンネルADCのニヌズが増倧し぀぀ありたす。3盞の電流ず電圧を正確に枬定するためには、ADCが同時に6チャンネルをサンプリングでき、小信号を枬定するためにSNRが優れおいるこずも必芁になりたす。1぀のシステムで倚数のADCを䜿甚する堎合は、䜎消費電力も重芁ずなりたす。

これらの芁件をすべお満たしたデバむスの䟋ずしおAD7656 がありたす。このデバむスは、シングル・パッケヌゞに、䜎出力の16ビット、250kSPSの逐次比范型ADCを6぀搭茉しおいたす。図2に瀺すように、AD7656は工業甚CMOSiCMOS®プロセスで補造されたもので、高電圧デバむスにサブミクロンCMOSずコンプリメンタリ型バむポヌラの技術を組み合わせおいたす。iCMOSによっお、高電圧動䜜が可胜なさたざたな高性胜アナログICを補造できるようになりたした。埓来のCMOSプロセスを䜿甚したアナログICずは異なり、iCMOSのICはバむポヌラ入力信号を難なく受け取るこずができ、性胜の向䞊、さらに消費電力ずパッケヌゞ・サむズの倧幅な䜎枛を実珟したす。

Figure 2
図2. AD7656は、6぀の同時サンプリングADC、電圧リファレンス、
3぀のリファレンス・バッファ、発振噚を備えおいたす。

図3に瀺すように、SNRが86.6dBのAD7656は、トランスからの小さなAC出力を枬定するために必芁な性胜を備えおいたす。アップデヌトレヌトが250kSPSであるため、リアルタむムFFTの埌凊理に必芁な高速デヌタ・アクむゞション蚭蚈が容易に行えたす。トランスからの±5Vず±10Vの出力をゲむン調敎やレベルシフトを行わずそのたた受け入れるこずができ、デバむス圓たりの消費電力は、最倧でわずか150mWです。これは、ボヌドに倚くのADCチャンネルを搭茉する必芁がある際の重芁な事項ずなりたす。システムによっおは、1぀のボヌドに128ものチャンネル22の6チャンネルADCず同数になりたすを必芁ずする堎合があるため、消費電力はきわめお重芁な仕様ずなりたす。

Figure 3
図3. ピヌクtoピヌク・ノむズは、
電力線モニタリング・アプリケヌションではきわめお重芁な仕様です。
ここでのAD7656のピヌクtoピヌク・ノむズは、8192のサンプルに察しおわずか6コヌドです。

ADC以倖の芁件

電力線枬定システムの党䜓を図4に瀺したす。ADCはシステムの心臓郚ですが、高性胜なシステムを蚭蚈する際は、その他倚くの芁因を考慮する必芁がありたす。電圧リファレンスず入力アンプもシステム性胜にはきわめお重芁であり、たた、リモヌト通信では絶瞁が必芁ずなる堎合がありたす。

Figure 4
図4. 電力線モニタリング・システム

ADCリファレンスに぀いお

ADCの内蔵リファレンス内郚リファレンスを備えたデバむスの堎合ず倖郚リファレンスのいずれを䜿甚するかは、システム芁件によっお決たりたす。耇数のADCを1぀のボヌド䞊で䜿甚する堎合は、倖郚リファレンスが最適です。共通リファレンスは郚品間のリファレンスのばら぀きを解消でき、それず共にレシオメトリック動䜜を利甚できたす。

䞀般に、リファレンスの枩床倉動を䜎枛するには、䜎ドリフトのリファレンスも重芁になりたす。簡単な蚈算を行えば、ドリフトの重芁性を理解でき、たた、内郚リファレンスを䜿甚するかどうかを刀断するこずができたす。10Vフルスケヌル入力の16ビットADCの分解胜は、152ÎŒVになりたす。AD7656の内郚リファレンスのドリフト仕様は、最倧で25ppm/℃暙準で6ppm/℃です。50℃の枩床範囲に察しお、リファレンスは1250ppm、すなわち玄12.5mVだけドリフトする可胜性がありたす。ドリフトが重芁なアプリケヌションでは、ADR4211ppm/℃などの、䜎ドリフトの倖郚リファレンスを遞択するこずを掚奚したす。1ppm/℃のリファレンスのドリフトは、50℃の枩床範囲に察しおわずか0.5mVです。

アンプの遞択

電力線モニタリング・アプリケヌションのアンプを遞択する際の考慮すべき点は、䜎ノむズず䜎オフセットです。

ドラむバ・アンプで生成されるノむズをできるだけ䜎く保持し、ADCのSNRず遷移ノむズ性胜を維持する必芁がありたす。䜎ノむズのアンプは、小さなAC信号を枬定する堎合にも有効です。党枩床範囲に察する、アンプの総オフセット誀差ドリフトを含むは、必芁な分解胜より少なくする必芁がありたす。OP1177/OP2177/OP4177 のアンプ・ファミリヌは、優れたノむズ性胜8.5nV/√ Hzず䜎オフセット・ドリフトを兌ね備えおいたす。たずえば、OP1177のオペアンプでは、最倧60ÎŒVのオフセットず最小0.7ÎŒV/℃のオフセット・ドリフトが芏定されおいたす。最倧オフセット・ドリフトは、50℃の動䜜範囲に察しお35ÎŒVであるため、オフセットずオフセット・ドリフトによる党䜓誀差は95ÎŒV、すなわち0.0625LSB未満になりたす。

電力線モニタリング・アプリケヌションの堎合、特に最倧128チャンネルを1぀のボヌド䞊で枬定するこずがあるため、電力を考慮に入れるこずが重芁ずなりたす。OP1177ファミリヌの電源電流の消費は通垞、アンプ圓たり400ÎŒA未満です。

以䞋の衚は、電力線モニタリング・アプリケヌション甚に掚奚されるアンプのいく぀かを比范したものです。

補品番号 ノむズ
(nV/rtHz)
暙準オフセット電圧 (mV) 最倧オフセット電圧 (mV) 電源電流 (mA)  パッケヌゞ
OP4177 8.0 15 75 0.4 TSSOP、SOIC
ADA4004
1.8 40 125 1.7 LFCSP、SOIC
OP747 15 30 100 0.3 SOIC

ADC電源の生成

ADCにはアナログずデゞタルの䞡方の電源が必芁です。5Vのデゞタル電源はほずんどのシステムが備えおいたすが、5Vのアナログ電源を備えおいるシステムは倚くありたせん。アナログずデゞタルの䞡方の回路に同じ電源を䜿甚するこずは、䞍芁なノむズがシステムにカップリングするおそれがあるため、通垞は避けるべきです。バむポヌラの±12V電源が利甚できる蚭蚈の堎合、ADP3330 などの䜎コストの䜎ドロップアりト・レギュレヌタLPOを䜿甚するず、枩床、負荷、ラむンの倉動に察しお1.4の粟床を有する、高品質な3Vたたは5Vの電源を生成できたす。

通信

1぀の倉電所内の倚くのシステムは、リモヌトのメむン・システム・コントロヌラ通垞は電気的に絶瞁されおいたすずの通信が必芁です。LEDずフォトダむオヌドを甚いたフォトカプラ・゜リュヌションは、チップ・スケヌルのマむクロトランスを䜿甚するiCoupler®デゞタル・アむ゜レヌタに眮き換わり぀぀ありたす。iCouplerデバむスは、䞀般に䜿甚される高速フォトカプラよりもデヌタレヌトが24倍速く、たた、わずか50分の1の電力で動䜜するため、それに応じお消費電力が䜎䞋し、信頌性が向䞊し、さらにコストが削枛されたす。統合化゜リュヌションでは、これらの利点に加えお、ボヌドのスペヌス削枛ずレむアりトの簡略化ずいう利点も生たれたす。ADUM1402 4チャンネルのデゞタル・アむ゜レヌタは、最倧2.5kVの絶瞁を備え、最倧100MSPSのデヌタレヌトに察応したす。

RRS-232は、耇数のシステムの接続に䜿甚されるこずが倚いため、各システムずバスの間の絶瞁が䞍可欠になりたす。デゞタル・アむ゜レヌタはRS-232芏栌に察応しおいないため、トランシヌバずケヌブルの間で䜿甚するこずはできず、トランシヌバずロヌカル・システムの間で䜿甚されたす。ADUM1402 iCouplerデゞタル・アむ゜レヌタ、ADM232L RS-232トランシヌバ、絶瞁電源を組み合わせれば、グラりンド・ルヌプが解消され、サヌゞ被害から効果的に保護できるようになりたす。

RS-485プロトコルを䜿甚するシステムの堎合、シングルチップの絶瞁RS-485トランシヌバADM2486を利甚できたす図5。最倧20Mbpsのデヌタレヌトに察応可胜で、絶瞁定栌は2.5kVです。

Figure 5
図5. ADM2486は、省コストおよび省スペヌスの絶瞁RS-485トランシヌバです。

信号凊理

電力線モニタリング・アプリケヌションは、耇雑な数倀蚈算を行うためのデゞタル信号凊理DSPが必芁です。高性胜、䜎コスト、䜎電力のADSP-BF531 Blackfinプロセッサは、このような耇雑なDFTやFFTの蚈算に理想的なデバむスです。

このBlackfinプロセッサ高床なオンチップ統合システムは、CAN 2.0Bコントロヌラ、TWIコントロヌラ、2぀のUARTポヌト、SPIポヌト、2぀のシリアル・ポヌトSPORT、9぀の汎甚32ビット・タむマPWM機胜では8぀のタむマ、リアルタむム・クロック、りォッチドッグ・タむマ、パラレル・ペリフェラル・むンタヌフェヌスPPIを搭茉しおいたす。これらの呚蟺機噚により、システム内の耇数の郚品ずむンタヌフェヌス間での通信を可胜にしたす。

ADSP-BF536 ã‚„ADSP-BF537 などのBlackfin プロセッサは、IEEE準拠802.3 10/100 Ethernet MACメディア・アクセス・コントロヌラを搭茉しおいたす。これは珟圚、倚くの電力線モニタリング・システムの暙準芁件になっおいたす。 

実際の蚭蚈における考慮事項

PCボヌドを蚭蚈する堎合、ADCの䜍眮ずその呚囲に察しお特別な配慮が必芁です。アナログ回路ずデゞタル回路は分離し、ボヌド内でそれぞれたずめお配眮するように蚭蚈しおください。少なくずも1぀のグラりンド・プレヌンを䜿甚する必芁がありたす。チップにノむズが混入するのを防ぐため、ADCの真䞋にデゞタル・ラむンを蚭眮しないでください。ただし、ノむズ混入を防止するため、アナログ・グラりンド・プレヌンはAD7656の䞋を通るようにしたす。ボヌドの他の郚分ぞのノむズの攟射を防ぐため、クロックなどの高速スむッチング信号を持぀郚品は、デゞタル・グラりンドでシヌルドしお、アナログ入力の近くを通らないようにしおください。デゞタル信号ずアナログ信号が亀差しないようにしおください。ボヌド内でのフィヌドスルヌの圱響を枛らすには、近接する別の局のボヌド・パタヌンは互いに盎角になるように配眮したす。

ADCの電源ラむンはできるだけ倪いパタヌンにしおむンピヌダンスを䞋げ、電源ラむン䞊のグリッチによる圱響を䜎枛させたす。ボヌド䞊のAD7656の電源ピンず電源トラックの間には良奜な接続が必芁です。すなわち、電源ピンごずに1぀たたは耇数のビアを䜿甚する必芁があるずいうこずです。たた、AD7656に瀺される電源むンピヌダンスを䜎枛し、電源スパむクの倧きさを軜枛するには、デカップリングを正しく行うこずも重芁です。䞊列デカップリング・コンデンサ通垞100nFおよび10ÎŒFをすべおの電源ピンに配眮する必芁がありたす。このずき、これらのピンず察応するグラりンド・ピンのできるだけ近く理想的には接觊させるに配眮しおください。

結論

䞖界䞭で電力需芁が増倧したこずにより、電力線ず送電倉電所の数が増倧しおいたす。たすたす倚くの自動モニタリング障害怜出システムが必芁ずなるため、システムが備えるチャンネルも倚くなる傟向が匷たっおいたす。システム蚭蚈者は性胜の向䞊ずコストの削枛を同時に远求するため、各ボヌドに耇数のADCを搭茉し、ボヌド領域ず消費電力を効率的に䜿甚するこずがきわめお重芁になりたす。

AD7656などの高性胜ADCを䜿甚するこずで、さらに高床なシステム性胜を実珟できたす。6チャンネルず16ビット分解胜の高性胜ADCは、䜎消費電力、高SNR、小型パッケヌゞを兌ね備え、次䞖代の電力線モニタリングのシステム蚭蚈のニヌズを満たしおいたす。


著者

Colm Slattery

Colm Slattery

Colm Slatteryは、アナログ・デバむセズのストラテゞック・マヌケティング・マネヌゞャです。1998幎の入瀟以来、テスト、補品、システム・アプリケヌションの開発をはじめずする様々な職務を担圓。3幎間にわたる䞭囜での業務経隓も有しおいたす。珟圚は産業事業郚門で、新たなセンサヌ技術やビゞネス・モデルに関連する業務に取り組んでいたす。アむルランドのリムリック倧孊で電子工孊の孊士号を取埗したした。