計測エンジニアリングにおけるアナログ・デバイセズの挑戦、単体 IC からSiP/モジュール製品へ

はじめに

単体の IC を製品化するだけではなく、複数の IC や部品を組み合わせたより高度なシステム製品を実現する――。このことは、アナログ・デバイセズにおいて、長きにわたり戦略の暗黙的な部分として存在し続けていました。最近になって、この戦略はより明示的なものになりました。単体 IC だけではなく、ソリューションの提供に注力するようになったからです。振り返ってみると、当社は個々のIC 製品だけを供給していた時代がありました。IC そのもの以外に用意していたのはデータシートだけです。その後、当社は、お客様が抱えるあらゆる問題について理解し、それらを解決するために取り組むようになりました。そのことを新たな理念として掲げたのです。この理念に沿うべく、当社の計測エンジニアリングは、IC のテストだけを実施するという従来のアプローチから、ソフトウェアやSiP(Systems in Package)のシグナル・チェーン、マイクロモジュールなどの要素にも対応するテスト・ソリューションを提供するというものへと進化しつつあります。こうしたアプローチによって、お客様に対し、大きな価値を確実に提供できるソリューションを開発しようとしています。

当社の計測エンジニアリング・チームの役割は、製品を市場に送り出すためにハードウェアとソフトウェアを開発することだと言うことができます。しかし、現在では、テストと評価を対象としたエンジニアリングから成る計測分野は、当社の中でも最も難しい領域の 1 つになりました。計測にかかわる技術者はお客様との契約を支える存在です。お客様が最大値や最小値といったデバイスの仕様(保証値)や、代表的な性能、最大定格、堅牢性などを確認する際に頼りにするのが計測技術者です。設計チームによって実現されるデバイスの性能が向上していることに伴い、計測エンジニアリング・チームの経験に依存する面が大きくなります。計測エンジニアリングについても、速度やノイズ、パワー、あるいは新たに組み込まれた機能などをテストするために、デバイスの性能向上と同じペースで進化させる必要があるからです。

テスト/評価向けのエンジニアリングから成る計測分野では、画期的な性能、納期の厳守、より高い品質を実現するための要件などに対応しなければなりません。最近まで、当社は分解能が 10 ビットから12 ビット程度の単機能のD/A コンバータ(DAC)や A/D コンバータ(ADC)を数多く扱っていました。現在は、20ビットの SAR(逐次比較型) ADC や 20 ビットの DAC、32 ビットのシグマ・デルタ(ΣΔ)コンバータなども製品化しています。これらの製品は、ここ数年間のうちに進化した IC 技術によって実現されたものです。これらの製品に対応するために、計測における課題にも変化が生じました。その変化の程度を把握するには、低消費電力のΣΔ製品の進化に注目するとよいでしょう。それらの製品では、コンバータ単体にとどまらず、シグナル・チェーンの集積化が達成されました。そのような製品の性能を実証するために、当社の計測技術は進化しました。さまざまな要件に応じ、さまざまな進化が成し遂げられました。

現在、当社は単体のICだけでなく、SiP、マイクロモジュール、モジュールといった形態の製品に取り組んでいます。その中で、お客様からは再び計測についての新たな課題が提示されています。それにより、当社は、計測手法の改良や新たなテスト/計測ソリューションの開発を迫られています。SiP では、複雑な中核技術を利用し、複数の受動コンポーネントと能動コンポーネントが 1 つのパッケージにまとめられます。場合によっては、構成(コンフィギュレーション)と制御を行うために CPU が含められることもあります。つまり、従来にはないレベルでシステムの統合が実現されます。より多くの機能、組み込み機能のセット、高度なパッケージング、内部ノードへのアクセス手段、組み込みソフトウェア、システム・レベルのキャリブレーションなどが融合されるということです。このようなソリューションにより、ユーザにとって、当社の複雑な ADC/DAC 製品が扱いやすくなります。アナログ・デバイセズは、複雑化に対する対策を講じており、設計や計測に関する障壁は克服されています。

過去と現在

テストと計測に関する最近の課題としては、低消費電力のΣΔ製品群がより高度化していることが挙げられます。図1 は、その進化を示すためのものです。この図を見ると、当社は、前世代の ADC をはるかにしのぐ SoC(Systemon Chip)レベルの製品を実現していることがわかります。このファミリーの最新製品としては、高精度の計測アプリケーション向けに開発されたアナログ・フロント・エンドが挙げられます。消費電力とノイズの低減を図り、完全な統合を実現した製品です。そのシグナル・チェーンを集積して製品化するうえでは、次のような技術に対応するための専門的な計測技術が必要になります。すなわち、24ビットの分解能、ΣΔ方式の ADC、リファレンスの性能と精度、チャンネル・シーケンシング/タイミング、デジタル機能、オシレータの性能などに対応しなければなりません。図 1 では、最新のΣΔ製品と、従来の典型的な 16ビット ADC を比較しています。この ADC も当時としては画期的な性能を実現していました。現在では技術が飛躍的に進化しており、当時の課題は解決されました。技術の進歩とテストや計測の能力との間に整合性がなければ、業界において技術的な面でリーダーシップを発揮することはできないでしょう。

Figure 1
図 1 . 集積度の向上。性能の向上が技術革新をけん引しています。

当社は、ADC/DAC のアーキテクチャについて深く理解し、ミックスド・シグナルに対応するテスト回路の設計や、プリント回路基板のレイアウト手法、計測用のソフトウェアに関する専門知識を有しています。それらを利用することで、集積度の高い ADC/DAC の最高の性能を引き出しています。また、当社は、これまでに培った経験を活かして SiP やモジュールを開発しています。そのため、お客様が抱える設計上の課題の多くを解決しつつ、開発期間の短縮に貢献することができるのです。

現在と将来

当社は、お客様が遭遇するであろう将来の問題の解決に向けて取り組みを進めています。その結果、豊富な製品群と計測に関する専門知識を活用して、非常に有用なツールボックスを構築することができました。アナログ・デバイセズは、数十年にわたって現実世界における信号処理の手法を飛躍的に進化させてきました。今後も、IC技術によって中核となる技術を強化していきます。最近では、DSP、RF、MEMS( Micro Electro Mechanical Systems)に対する投資を行いました。現在は、IoT(Internet of Things)のような新興分野の事業にも取り組んでいます。

アナログ・デバイセズは 2017 年に Linear Technologyの買収を完了しました。それによって、強力な製品ポートフォリオを構築することができました。業界最高レベルのアナログ/電源ソリューションを手にしただけでなく、それをさらに発展させています。2 つの企業の技術が統合された結果、アナログ・デバイセズの地位はさらに強化されました。当社の実力を表すソリューションを提供していることから、お客様に対しても良い影響をもたらすことができています。

Figure 2
図 2 . 中核技術を活かしたS i P/モジュールの開発

図 2 は、蓄積した技術の進歩を水平方向に、単体の I Cを超えるためにS i P / モジュールの開発に使用しているビルディング・ブロックを垂直方向に示したものです。計測技術者は、これらの中核技術に関する専門知識を融合させることによって、図に示した技術の計測に対応しています。

では、なぜ当社はこれらが必要だと考えているのでしょうか。当社は、お客様と接する中で、お客様もまた進化していることを十分に理解しています。お客様もより高度なシステム構築に向けて移行を進めているのです。状況は常に変化しています。お客様の会社において、ミックスド・シグナル設計を担当するチームはまだ小規模であるかもしれません。他の分野に注目して専門知識を蓄積しているケースもあるでしょう。あるいは、設計サイクルや市場投入までの期間の短縮が最大の関心事である企業も存在するでしょう。アナログ・デバイセズは、完全なシグナル・チェーンを提供することにより、そうした設計上の課題を軽減します。それを支えているのが、有用性の高い計測ソリューションです。

モジュール型ソリューションのプロトタイピング

開発初期の段階でお客様と接することにより、計測技術者はハードウェアに関する専門知識を得ることができます。それらの知識は、SiP/モジュールを試作する(プロトタイピング)ために利用可能です。新しいアイデアを基に概念実証を行うこともできるでしょう。あるいは、短時間でデバッグや評価を行ったり、最高の性能を得るための回路図やレイアウトを繰り返し作成したりすることも可能です。当社の場合、ミッション・テストを適用することもできます。お客様のセンサーを評価したり、特定のアプリケーションにおけるユースケースについてシステム全体をテストしたりするということです。加えて、最終形態である SiP やモジュールを開発する前に、すべての要件を満たしていることを保証するためのデータ解析も実施します。

Figure 3
図 3 . モジュールのテスト用プロトタイプ(概念図)

これらのプロトタイプによって、ATE ソリューションの開発も可能になります。例えば、パッケージのフォーム・ファクタやテスト用ノードのアクセス・ポイント、ファームウェアのインターフェースなどについて、システム・レベルのデバイスで発生し得る新たなテストの課題を解決することもできます。

SiP/モジュール製品を構成するブロックにはさまざまな中核技術が用いられています。当社は、それらの技術に関する経験を蓄積しています。そのため、コンポーネント・レベルのノウハウを活用し、各製品において最高レベルの性能を達成しています。また、システム・レベルの性能を新たな段階へと引き上げています。プロトタイピングを実施することにより、ベンチマーク用のスティミュラスや計測器とのインターフェースを容易に確立することができます。また、量産テスト(出荷検査)に必要なテスト用ノードにアクセスして評価することが容易になります。さらに、プロトタイピングを行うことで、当社とお客様は、システム全体の信号経路を対象としたシステム・レベルのキャリブレーションの検証を開始することができます。

Figure 4
図 4 . モジュールのテスト用プロトタイプ。実際のボードの外観を示しました。

ここまで述べてきたように、SiP/モジュールは進化を続けています。そうした製品には、お客様にとっての複雑さを軽減するために、構成や制御、アルゴリズムの処理といった機能を担うプロセッサが必要になります。したがって、ファームウェアの開発も必要になるでしょう。計測技術者は、ファームウェアの開発とテストを通して、バグを検出したり問題の発生を予測したりする必要があります。そのためには、トラブルシューティングに向けたマインドセットを適用することになります。問題が見つかれば、それを設計にフィードバックすることでシステムを進化させることができます。プロトタイピングは、お客様にアイデアを提示する機会にもなります。また、モジュール開発の方向性を決定するためのフィードバックが得られることもあります。開発初期の段階から、お客様はより良いソリューションを実現するための取り組みを行えるということです。

まとめ

アナログ・デバイセズの計測チームは、中核技術が複雑化し、集積度が高まる状況に何年にもわたって身を置いて実力を向上させてきました。現在では、ADC/DAC の中核部分だけではなく、より多くの機能のテストに対応しています。IC の集積度が高まるに連れ、計測手法や計測技術もますます進歩しているのです。実験や量産テストに向けた当社の計測ソリューションは、IC を実現するための技術や IC で実現される技術と共に進歩してきました。中核となる ADC/DAC、センサー、アンプ、リファレンス、電源、デジタル回路の計測に関する専門知識を融合することによって、非常に大きな可能性が維持されています。

アナログ・デバイセズは今後も SiP、モジュール、マイクロモジュールの開発を進めていきます。それらの製品は、計測技術者に新たな技術的な課題をもたらします。それと同時に、エンジニアリングに関するお客様の負荷を軽減します。アナログ・デバイセズが製品を提供する主要な目的は、お客様のアプリケーション開発を簡素化することです。当社は新たな技術をサポートするための専門知識を活用できるように、計測スキルの基盤を固めてきました。もちろん、今後もその基盤を拡張していきます。プロトタイプ用のプリント基板の設計、ミッション・テスト、ファームウェアの開発、プロトタイプによる動作確認は、最終的な製品を成功に導くための鍵を握ります。この部分を支えているのがアナログ・デバイセズの計測技術者です。

アナログ・デバイセズが提供する技術は、より速いペースで進化を遂げています。また、当社の計測コミュニティは一歩先を進んでいます。世界を牽引する技術を盛り込んだ製品と世界レベルの計測技術を同時に提供していきます。

著者

Noel McNamara

Noel McNamara

Noel McNamaraは、アナログ・デバイセズのテスト技術者です。アイルランドのリムリックにある高精度コンバータ・グループに所属しています。

Martina Mincica

Martina Mincica

Martina Mincicaは、アナログ・デバイセズの設計評価技術者です。アイルランドのリムリックにある高精度コンバータ・グループに所属しています。イタリアのピサ大学で 2004 年、2007 年、2011 年にそれぞれ電子工学の学士号、修士号、博士号を取得しました。アナログ・デバイセズには、2011 年に入社しています。当時、関心のあった分野は RF IC の設計でしたが、入社後は高精度 ADC/DAC のベンチマーク評価を担当しています。

Dominic Sloan

Dominic Sloan

Dominic Sloanは、アナログ・デバイセズの設計評価技術者です。アイルランドのリムリックにある高精度コンバータ・グループに所属しています。医療機器メーカーで製品設計を担っていましたが、2007 年にアナログ・デバイセズに入社しました。2000 年にリムリック工科大学を卒業し、シティ・ギルド協会から電子工学の先進技術者の学位を与えられています。リムリック大学で電子工学の学士号を取得する前は、通信業界の量産工場で業務に携わっていました。

David Hanlon

David Hanlon

David Hanlonは、アナログ・デバイセズのテスト技術者です。アイルランドのリムリックにある高精度コンバータ・グループに所属しています。ダブリン工科大学で工学の学士号を取得した後、1998 年にアナログ・デバイセズに入社しました。それ以来、高性能のミックスド・シグナル製品である ADC/DAC を担当しています。