本稿では、「Combo Circuit from the Lab シリーズ」の記事として、アナログ・デバイセズと Linear Technology の製品を組み合わせて使用する例を紹介します。実現するのは、極めて精度の高いプログラマブル電圧源です。具体的には、分解能が 20 ビットの D/A コンバータ(DAC)である「AD5791」、高精度のリファレンス IC「LTZ1000」、高精度のオペアンプ IC「ADA4077」、レールtoレール出力のオペアンプ IC「AD8675/AD8676」を組み合わせます。それにより、分解が 1 ppm、積分非直線性(INL)が 1 ppm のプログラマブルな電圧源を構成できます。また、長期ドリフトは、フルスケール範囲(FSR)の 1 ppm 未満に抑えられます。このような精度が得られることから、例えば、放射線科医が細かい解剖学的な構造を確認するために必要とするレベルの鮮明な画像、解像度、コントラストを実現することができます。具体的な応用例としては、MRI(磁気共鳴画像)装置が考えられます。臓器や軟組織の高精度な画像を得ることにより、医療の専門家は、心臓の問題、体内のさまざまな個所で生じる腫瘍、嚢胞、異常をより正確に検出することができます。それ以外にも、このプログラマブル電圧源については数多くの応用例が考えられます。
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1 ppm の精度を必要とするその他の応用例
科学、医療、航空宇宙分野向けの計測器
- 医用画像処理システム
- レーザ・ビーム・ポジショナ
- 振動計測システム
テスト、計測
- ATE(自動試験装置)
- 質量分析装置
- SMU(ソース・メジャー・ユニット)
- データ・アクイジション/アナライザ
産業用オートメーション
- 半導体製造
- プロセス・オートメーション
- 電源の制御
- 先進的なロボット
この電圧源をテスト/計測システムに適用すれば、1 ppmの分解能と精度によって、テスト装置全体の精度と粒度が向上します。また、外部の信号源やナノアクチュエータのきめ細かい制御や励起が可能になります。産業用オートメーションの分野では、アクチュエータの移動、修正、位置決めをナノスケールで行えるようになります。
AD5791
AD5791 は、分解能が 2 0 ビットの DAC です。電圧出力型の製品であり、バッファは備えていません。相対精度は 1 ppm(INL は 1 LSB) です。微分非直線性(DNL)は 1 LSB であり、単調性が保証されます。さらに、0.05 ppm/°Cの温度ドリフト、0.1 ppm p-p のノイズ性能、1 ppm 未満の長期安定度という高い性能を備えています。AD5791 は、最先端の薄膜抵抗マッチング技術を適用した R-2R のアーキテクチャを採用しています。最高 33 V のバイポーラ電源、5 V ~ VDD -2.5V のプラス側リファレンス電圧、VSS + 2.5 V ~ 0 Vのマイナス側リファレンス電圧によって動作します。最高 35 MHz のクロック・レートで動作する多機能対応の3 線式シリアル・インターフェースを採用しています。これは、標準的な SPI(Ser ial Per ipher al I n ter f ace)、QSPI™、Microwire™、標準的な DSP のインターフェースと互換性を持ちます。パッケージは 20 ピンのTSSOP です。
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LTZ1000
LTZ1000 は、非常に高い安定性を実現したリファレンスIC であり、温度に対する制御機構を備えています。出力電圧は 7.2 V で、約 1.2 μV p-p のノイズ性能、2 μV/√kHrの長期安定度、0.05 ppm/°Cの温度ドリフトという優れた性能を達成しています。この製品は、ツェナー・リファレンス、温度に対する安定性を得るためのヒーター抵抗、温度検出用のトランジスタを集積しています。外部回路を使用することにより、動作電流を設定し、温度に対するリファレンスの安定化を図ることができます。この手法により、最大限の柔軟性、優れた長期安定度、高いノイズ性能を実現します。
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ADA4077
ADA4077 は、高精度、低ノイズのオペアンプ IC です。オフセット電圧が極めて小さく、入力バイアス電流が非常に少ないことを特徴とします。JFET 入力のオペアンプ ICとは異なり、バイアス電流とオフセット電流は、125°Cまでの温度範囲で比較的安定して少なく抑えられます。また、1000 pF 以上の容量性負荷に対し、外部補償を行うことなく安定した出力が得られます。
AD8675/AD8676
AD8675/AD8676は、レールtoレール出力の高精度オペアンプ IC です。オフセット、ドリフト、電圧ノイズが極めて小さく抑えられていることに加え、全動作温度範囲内で入力バイアス電流が非常に少ないという特徴を持っています。
回路において考慮した事柄
ノイズ
回路の DC 性能に対する影響を防ぐには、低周波ノイズを最小限に抑える必要があります。0.1 Hz ~ 10 Hz の範囲で各製品が生成するノイズは、AD5791 が約 0.6 μVp-p、各 ADA4077 が 0.25 µV p-p、AD8675 が 0.1 μVp-p、LTZ1000 が 1.2 µV p-p です。抵抗の値については、そのジョンソン・ノイズがトータルのノイズ・レベルを大きく引き上げることにならないように選択しました。
AD5791 用リファレンス・バッファの構成
AD5791 の REFP ピンと REFN ピンを駆動するリファレンス・バッファは、ユニティ・ゲインで構成する必要があります。ゲインを設定するための抵抗を介して、余分な電流がリファレンス検出ピンに流れ込むと、DAC の精度が低下します。
AD5791 の INL 性能
AD5791 の INL 性能は、リファレンス・バッファとして使用するアンプの入力バイアス電流にわずかながら左右されます。そのため、入力バイアス電流の少ないオペアンプ IC を選択しました。
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温度ドリフト
システム全体の温度ドリフト係数を小さく保つには、個々の部品の温度ドリフトが小さくなければなりません。各部品の温度係数(TC)は、AD5791 が 0.05 ppm FSR/°C、LTZ1000 が 0.05 ppm/°C、ADA4077 が 0.005 ppmFSR/°C、AD8675 が 0.01 ppm FSR/°Cです。
長期ドリフト
長期ドリフトも、システムの精度を大きく低下させる恐れのある重要なパラメータです。AD5791 の長期安定度は、125°Cの条件下で1000 時間当たり 0.1 ppm です(代表値)。LTZ1000 では、1 ヵ月当たり約 1 µV の長期安定度が実現されています。
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実測結果
AD5791 に対する入力コードをゼロスケールからフルスケールまで 5 ステップ刻みで変化させ、実験室の周囲温度という条件下で INL を測定しました。具体的には、各コードに対応する出力電圧(出力バッファとしてAD8675 を使用)を、8.5 桁のデジタル電圧計を使って記録しました。±1 LSB という仕様を完全に満たす結果が得られました。
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ノイズ
ノイズの測定結果は、ミッドスケールの場合で 1 . 1 µ Vp-p、フルスケールの場合で 3.7 µV p-p でした。ミッドスケールのコードを選択した場合、各電圧リファレンスのパスからのノイズが DAC によって減衰されます。そのため、ミッドスケールのコードの方がノイズは小さくなります。
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長期ドリフト
システムの長期ドリフトを 25°C の条件下で評価しました。具体的には、AD5791 を 5 V(¾ スケール)にプログラムし、1000 時間にわたって 30 分おきに出力電圧を測定しました。それにより、ドリフト値は 1 ppm FSR未満であるという結果が得られました。
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まとめ
AD5791 は使いやすいうえに、1 ppm の精度が保証されています。ただし、その性能を十分に活用するには、周辺部品として使用するオペアンプや電圧リファレンスを正しく選択することが不可欠です。ノイズ、温度ドリフト、長期ドリフトが小さく、精度の高い LTZ1000、ADA4077、AD8676/AD8675 を使用することで、温度の変化や時間の経過に対するシステムの精度、安定性、再現性を向上させることができます。
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