AD8494熱電対アンプは、通常冷接点補償に用いられる温度センサーを内蔵しており、熱電対入力を接地することによってスタンドアロンの摂氏温度計として使用できます。この構成においては、出力と内蔵計装アンプの(通常は接地されている)リファレンス・ピンの間で5mV/℃の出力電圧を生成します。この方法の欠点は、狭い温度範囲を測定するときにシステム分解能が不足することです。たとえば、5V単電源で動作する10ビットADCの分解能が4.88mV/LSBであるとしましょう。図1に示すシステムの分解能は、約1℃/LSBになります。対象となる温度範囲が狭く、たとえば20℃であるとすると、出力の変化は100mVだけになり、ADCの使用可能なダイナミック・レンジの1/50しか使わないことになります。

図2に示す回路によりこの問題を解決することができます。前述のように、この計装アンプの出力とリファレンス・ピンとの間に5mV/℃の電圧が生成されます。今度は、AD8538オペアンプ(ユニティ・ゲイン・フォロアとして構成)がR1の両端で発生する5mV/℃の電圧を利用してリファレンス・ピンを駆動します。R1に流れる電流はR2にも流れるため、直列接続の両端に生じる温度変化に対応した電圧は、R1の両端の電圧の(R1+R2)/R1倍になります。図に示す値の場合、出力電圧は20×5mV/℃ = 100mV/℃で変動するため、20℃の温度変化によって2Vの出力電圧の変化が生じます。この新しい0.05℃/LSBのシステム分解能は、元の回路に比べて20倍の改善になります。AD8538は、優れた同相ノイズ除去性能とゲイン精度を維持するために、抵抗ネットワークをバッファリングし、リファレンス・ピンを低インピーダンスで駆動します。

要求される温度範囲に合ったシステム感度に適応させる必要があります。たとえば、25℃での出力電圧は2.5Vの場合では、出力電圧が0.5Vから4.5Vまで変化するとき、システムが正確に測定できるのは5℃から45℃までになります。
図3に示す回路は、高い感度があり、温度範囲はカスタマイズ可能です。R3とR4によって形成される抵抗分圧器がアンプのオフセット調整に必要な熱電対電圧をシミュレートし、その出力電圧を要求されるレベルでゼロにします。VDDにノイズが多い場合、高精度の電圧リファレンスと分圧器回路を使用すれば、ノイズが少なく、もっと正確なオフセット調整を行うことができます。ここに示すように、回路の出力電圧は25℃で約0.05V、感度は100mV/℃(0.05℃/LSBの分解能)、動作範囲は約25 ~ 75℃です。
AD8494の初期オフセット誤差は±1 ~±3℃であるため、オフセット・キャリブレーションを組み込んで絶対精度を改善する必要があります。
