スマート・ファクトリ向けに、RTDベースの温度センサー・システムを再構築する
概要
本稿では、RTD(測温抵抗体)を利用した産業用の温度センサー・システムを、時代に即した形で再構築する方法を紹介します。その方法を採用すれば、スマート・ファクトリにおいて求められる要件を満たすことができます。具体的には、フォーム・ファクタがより小さく、柔軟な通信機能を備え、リモートで構成が可能な温度センサー・システムを実現することが可能になります。その設計における重要な要素は、集積度の高いアナログ・フロント・エンド(AFE)とIO-Link®に対応するトランシーバーです。
はじめに
「壊れていないなら直すな」――。これは古くから伝わる格言です。その意味は「問題なく動作しているものに安易に変更を加えてはならない」というものになります。この格言が正しいことは、これまでに幾度となく実証されてきました。RTDベースの温度センサー・システムについても、同じことが言えます。実際、産業分野の製造施設では、そうした古いシステムがひそかに効率良く機能し続けています。しかし、現在の工場は、インダストリ4.0のコンセプトに即してよりスマートなものに変貌しつつあります。RTDをベースとする多くの温度センサー・システムは、明らかにそうした工場の目標にはそぐわないものになっています。現在では、フォーム・ファクタがより小さく、柔軟性に優れる通信機能を備えており、リモートで構成(コンフィグレーション)を実行できるセンサー・システムが求められるようになりました。オートメーション・システムの開発に携わる技術者は、産業用の温度センサー・システムに対してこのような特性を求めているということです。残念ながら、従来のソリューションによって、そうしたニーズに応えることはできません。そこで、本稿ではこの課題を解決可能な新たなソリューションを紹介します。そのソリューションに対する理解を深めていただくために、本稿では、まずRTDベースの温度センサー・システムの構成要素についておさらいすることにします。続いて、それらがセンサー・アプリケーションにもたらす制約について説明します。その上で、スマート・ファクトリに適応するようにRTDベースの温度センサー・システムを再設計する方法を紹介します。

温度センサーの構成要素
まずは図2をご覧ください。これは、産業分野で用いられるRTDベースの温度センサー・システムのブロック図です。これを見れば、この種のシステムがどのような要素で構成されるのかを把握できるはずです。
RTDは、物理量である温度の値を電気信号に変換する役割を果たします。-200°C~850°Cの範囲で線形的な応答を示すことから、温度検出用の素子として広く使用されています。RTDの材料としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、白金(Pt)などの金属が用いられます。なかでも、Pt100、Pt1000と呼ばれる白金ベースのものが最も一般的です。また、RTD製品としては、2線式、3線式、4線式のものが提供されています。広く使われているのは3線式、4線式の製品です。RTDは受動デバイスなので、温度に応じた電圧を出力するためには励起電流が必要になります。励起電流は、電圧リファレンスを利用して生成され、バッファ用のオペアンプによって供給されます。それを受けて、RTDは温度に応じて変化する電圧信号を出力します。その出力信号の値は、使用するRTDの種類や測定の対象となる温度に応じて異なります。通常は、図3に示すように、数十mVから数百mVの範囲に収まります。
RTDが出力する信号は、AFEによって処理されます。まず、RTDから出力される小振幅の信号に対しては、増幅をはじめとするシグナル・コンディショニングが適用されます。その結果として得られた信号がA/Dコンバータ(ADC)に入力され、デジタル・データへの変換が行われます。得られたデジタル・データはマイクロコントローラに引き渡されます。デジタル・データ(信号)に非線形性が含まれている場合には、マイクロコントローラにおいて、それを補償するためのアルゴリズムが適用されます。マイクロコントローラは、通信インターフェースを介して、最終的なデジタル・データをプロセス・コントローラに送信します。
一般に、AFEは図4に示すようなシグナル・チェーンによって構成されます。シグナル・チェーンは、個々の機能を実現するコンポーネントを組み合わせる形で実装されます。RTDをベースとする多くの温度センサー・システムは、このディスクリート構成の設計によって実現されています。しかし、この設計にはセンサーの筐体のサイズに関する課題を抱えています。すべてのICを実装し、各信号の配線と電源の配線を行うと、プリント回路基板のサイズが大きくなってしまうからです。その基板のサイズに依存して、筐体の最小サイズが決まることになります。実は、上記の課題は単純明快な方法によって解決することができます。すなわち、図5に示した「AD7124-4」のような集積型のAFEを採用すればよいのです。このコンパクトなICは、マルチプレクサ、電圧リファレンス、プログラマブル・ゲイン・アンプ、シグマ・デルタ(ΣΔ)型のADCを内蔵しています。つまり、AFEに必要なあらゆる機能を提供します。もちろん、RTDに励起電流を供給することも可能です。同ICを採用すれば、実質的に、図4に示したシグナル・チェーンを構成する5つのコンポーネントを1つのパッケージで置き換えることができます。その結果、基板面積が大幅に削減され、はるかに小さい筐体のセンサー・システムを実現することが可能になります。
通信用のインターフェース
産業用センサー・システムのほとんどは、1種(または複数種)の産業用ネットワークを使用してプロセス・コントローラに接続するように設計されています。ネットワークの種類としては、様々なフィールド・バスや産業用イーサネットなどが使われます。そのため、使用するネットワーク・プロトコルに対応したASICが必要になります。実は、この方法にはいくつかの欠点があります。まず、ネットワークに固有のASICをセンサー・システムの設計に含めると、コストが大幅に増加します。特に、その産業用のネットワークがプロプライエタリなものである場合、その傾向が顕著になります。また、そのセンサー・システムのターゲットも、その種のネットワークを使用する顧客に限定されることになります。同じセンサー・システムを別のネットワーク・プロトコルに対応させるには、それに必要なASICを含むように設計しなおさなければなりません。それには、時間とコストのかかるリスクの大きい作業が必要になる可能性があります。加えて、利用できる診断機能の数と種類は、ネットワークの種類によって大きく異なります(診断機能が全く提供されていないネットワークも存在します)。選択するネットワークによっては、センサーの保守作業や、それを現場に配備した後に発生する性能の問題を特定する作業が、工場の担当者にとって困難なものになる可能性があります。
より良い方法は、産業用ネットワークの種類に依存しないセンサー・システムを設計することです。そうすれば、開発コストを抑えつつ、ターゲットとなる顧客層を広げることができます。IO-Linkは、そのような設計を実現するために用いられる産業分野向けの3線式通信規格です。これを利用すれば、産業分野のあらゆる制御用ネットワークにセンサー(とアクチュエータ)を接続することが可能になります。IO-Linkを採用したアプリケーションでは、マイクロコントローラがデータ・リンク層のプロトコルを実行します。一方、トランシーバーは物理層のインターフェースとして動作します。IO-Linkでは、プロセス・データ、診断情報、構成情報、イベントの4種のデータが伝送されます。そのため、誤動作が生じた場合でも、問題のあるセンサーを直ちに特定/追跡し、対処を図ることができます。また、リモートから構成を実施することも可能です。例えば、工場のプロセスにおいて、アラームをトリガする温度の閾値を変更しなければならなくなったとします。その場合でも、技術者が製造フロアに立ち入ることなく、リモートで対処することができます。IO-Linkに対応したトランシーバーICの一例としては「MAX14828」が挙げられます。同ICは低消費電力で超小型の製品であり、4mm×4mmの24ピンTQFNまたは2.5mm×2.5mmのWLPで提供されています。そのため、RTDベースの温度センサー・システム(あるいはその他のセンサー・システム)に簡単に組み込むことができます。そして、このトランシーバーを採用すれば、産業用ネットワークの種類に依存しないセンサー・システムを実現することが可能になります。このトランシーバーを利用する場合、システムの構成は図6のようになります。プロセス・コントローラに対するインターフェースとしてはASICが使用されます。そのASICとMAX14828の間には、IO-Linkのホスト・トランシーバーが配置されます。MAX14828は、そのホスト・トランシーバーとの間で直接通信を行います。
まとめ
スマート・ファクトリで運用されるオートメーション・システムには、時代に即した産業用の温度センサーが必要です。例えば、より小さなフォーム・ファクタ、柔軟性に優れる通信機能、リモートで構成を実行する機能などを備えたセンサー・システムが求められています。本稿では、集積度の高いAFEを採用することによって、RTDベースの温度センサー・システムを簡単に再設計できることを明らかにしました。そのようにすれば、センサー・システムの筐体のサイズを低減することができます。また、IO-Linkに対応するトランシーバーICも紹介しました。その種のICを使用すれば、プロセス・コントローラへの接続に使用される産業用ネットワークのインターフェースから独立した形でセンサー・システムを動作させることが可能になります。本稿では、RTDベースの温度センサー・システムに焦点を絞って解説を進めました。ただ、本稿で紹介した再設計の手法は、サーミスタや熱電対を使用する温度センサー・システムに適用することも可能です。
著者について
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