概要
産業用機器のメーカーが、ソフトウェアによる構成(コンフィギュレーション)が可能なシステムを開発したとします。その場合、複雑さが軽減された製品によって、工場の製造フロアにこれまでにないレベルの柔軟性が提供されることになります。本稿で紹介するのは、そうしたシステムを実現するためのプラットフォームの一例です。具体的には、オートメーション・システムの迅速な開発と配備を可能にするモジュール型のプラットフォーム「Arduino Opta」を紹介します。本稿では、特に、アナログ・デバイセズの技術によって実現された同プラットフォームの機能について詳しく説明することにします。また、アナログ・デバイセズは、入出力 (IO) モジュールの完全なシグナル・チェーンを実現するための補完的なソリューションも提供しています。本稿では、そうしたソリューションについても解説を加えます。
はじめに
アナログ・デバイセズは、オートメーションを実現するための制御システムに適した数多くの技術を提供しています。その1つが、ソフトウェアによる構成が可能なI/O(SWIO:Software configurable Input/Output)技術です。SWIOの機能を利用すれば、任意のピンからあらゆる産業用のIO機能にアクセスできます。また、いつでもIOチャンネルの構成を実行できるようになります。つまり、機器を配備する際にカスタマイズを実施できるということです。加えて、その機器を市場に投入するまでの時間を短縮することが可能になります。しかも、必要な設計リソースの量を少なく抑えられます。更に、様々な顧客やプロジェクトで利用可能な汎用性の高い製品を実現できます。
Arduinoは、PLC(Programmable Logic Controller)向けのマイクロプラットフォームであるArduino Optaを提供しています。その構成要素として採用されたのがアナログ・デバイセズの「AD74412R」です。AD74412Rは、4チャンネルを備えるSWIO製品です。Arduinoがこれを採用した目的は、PLCのサイズを最小限に抑えつつ、構成可能性(コンフィギュラビリティ)を高めることにあります。図1にArduino Optaの外観を示しました。このプラットフォームは、AD74412Rの特徴を最大限に活かしたものだと言えます。システム・アーキテクトや、工場の建屋/プロセスの制御を担うエンドユーザは、統合開発環境である「Arduino PLC IDE」を使用することで、Arduino Optaを簡単にプログラムすることができます。AD74412Rは、SWIO技術を採用したシングルチップのソリューションです。アナログ出力、アナログ入力、デジタル入力に加え、測温抵抗体(RTD: Resistance Temperature Detector)を用いた温度測定の機能に対応します。また、SPI(Serial Peripheral Interface)との互換性を備えるインターフェースにより、データ転送やプログラミングを実施することも可能です。
Arduino Optaの詳細
Arduinoは、電子デバイスとソフトウェアの設計/製造/サポートに携わっています。物理的な世界と相互作用する高度な技術に、世界中の人々がアクセスできるようにするための手段を提供しています。Arduinoの製品はユーザのニーズを満たすだけでなく、わかりやすく、シンプルかつ強力です。PLC向けにIOの機能を拡張したArduino Optaも、そうした特徴を踏襲しています。Arduino Optaを利用することにより、構成を容易に実行可能な産業用機器を実現できます。
Arduino Optaは、ソフトウェアによるハードウェアの構成を高いレベルでサポートしています。エンドユーザは、クラウド経由で入力/出力の接続を直接プログラムすることが可能です。PLC向けのArduino Optaが備えるIOの拡張部分にはAD74412Rが実装されています。その高い柔軟性により、インダストリ4.0に対応するアプリケーションに適した完全に構成可能なソリューションが実現されています。そのインターフェースはユーザフレンドリなものであり、ソフトウェアによってプログラムすることによって様々なデバイスに接続できます。接続先のデバイスの例としては、バルブ、2線式のRTD、圧力センサー、位置センサー、4~20mAに対応するデバイス、ボタン、スイッチなどが挙げられます。Arduino Optaは、IEC 61131-3に準拠するように設計されています。IEC 61131-3は、PLC用のプログラミング言語の標準規格です。また、Arduino Optaは優れた保護機能を備えています。堅牢性が高いため、インダストリ4.0に対応する機能を安全な環境で実装できることになります。更に、拡張されたIOの部分には、3線式のRTDを使用して高精度の測定を行うための2つのポートも用意されています。
Arduino Optaの機能を利用すれば、ArduinoのIDEによるプログラミングの容易さを維持しつつ、ハードウェア・ベースの機能を強化することができます。開発ツールには、すぐに使用できるスケッチ、チュートリアル、ライブラリなどが用意されています。また、ロー・コード(Low Code)のアプローチと事前にマッピングされたリソースにより、製品を市場に投入するまでの時間を大幅に短縮できます。例えば、Arduino Optaを使用することにより、リアルタイムのリモート監視を容易に実現できます。また、直感的に操作できる「Arduino Cloud」のダッシュボードを使用することで、ファームウェアをOTA(Over-the-air)で更新することが可能になります。更に、接続された様々なデバイスとの間でセキュアな通信を実現するための機能も利用できます。表1はArduino Optaの主な仕様についてまとめたものです。図2には、同プラットフォームの主要な機能を示しました。
入力 | 6本のプログラマブルなアナログ入力
|
出力 |
|
アナログ入力 分解能 | 12ビット | アナログ出力 分解能 | 12ビット |
ベース・モジュールからのプログラミングに使用する言語 | Arduino Optaのメインのコントローラからのプログラミングに使用する言語
|
拡張性 | 左側と右側のAUXポートによって拡張可能。Arduino Optaのベース・モジュールまたは既存の拡張モジュールに接続できます。デイジー・チェーンの形で追加の拡張モジュールを接続することも可能です。 |
電源電圧 | 24V DC(専用のピンから) | 動作温度 | -20℃~50℃ (–4℉~122℉) |
IP保護等級 | IP20 | 認定 | cULusリステッド、ENEC、CE |
アナログ・デバイセズの補完的ソリューション
アナログ・デバイセズは、AD74412Rを利用して完全なユニバーサルIOモジュールを構成するための製品も提供しています。そのようなIOモジュールを実現するには、まずデジタル出力/デジタル入力製品「MAX14906」のデジタル出力機能とAD74412Rを組み合わせます。その上で、電源、保護、処理、セキュリティ、通信のそれぞれに対応するソリューションを統合します。それにより、完全なユニバーサルIOモジュールを実現できます。インダストリ4.0の導入を推し進め、工場のデジタル化を図るには、数多くのIOが必要になります。それに対応するにあたっては、「ADP1032」のような集積型のパワー・マネージメント・ソリューションを利用するとよいでしょう。同ICは、レギュレート/ガルバニック絶縁された2つの電圧を出力します。この絶縁型のDC/DCコンバータを使用すれば、SPIの信号とGPIO(General-purpose Input/Output)の信号も絶縁することが可能です。そうすれば、アナログ・フロント・エンドに対する保護を実現できます。同様に、モジュールに供給する24Vの電圧をレギュレートするためにはDC/DCコンバータ「MAX17671」を使用するとよいでしょう。そうすれば、必要な外付けコンポーネントの数を最小限に抑えられるので、プリント回路基板の小型化を図れます。
アナログ・デバイセズは、AD74412R用のLinuxドライバに加えてno-OSドライバも提供しています。それを使用すれば、「MAX32650」をはじめとする低消費電力のマイクロコントローラに適したSWIOベースのソリューションを容易に開発できます。また、セキュリティについての懸念から、製造システムのサイバーセキュリティに関する法整備に注目が集まっています。その先駆けとなったのは、欧州のサイバー・レジリエンス法です。この法律では、「デジタル要素を備えたすべての製品」を対象とし、サイバーセキュリティに関する要件を定めています。MAX32650の場合、セキュア・ブート機能と暗号鍵用のストレージを備えています。同ICと暗号コントローラ「MAXQ1065」を組み合わせることで、信頼の基点(Root-of-Trust)と認証機能を実現する包括的なソリューションを構築できます。
まとめ
製造施設などでは、制御用キャビネットの外側のスペースが限られているケースが少なくありません。そのような環境で使用するリモートIOモジュールを設計する際には、AD74412RをベースとするSWIOを採用するとよいでしょう。その場合、限られたスペースに固定機能の冗長なIOチャンネルを配置する必要はありません。また、AD74412Rをベースとするモジュールを制御階層内に戦略的に配置することにより、各モジュールを4~20mAに対応する従来のIOとイーサネット・ベースの通信システムをつなぐブリッジとして機能させられます。エッジのノードをイーサネットのアドレスで指定することにより、クラウド・ベースのアルゴリズムにおいて低レベルの洞察を容易に使用できるようになります。10BASE-T1LおよびAPL(Advanced Physical Layer)は、「ADIN1110」や「LTC9111」を使うことによって実装可能です。ADIN1110はイーサネットMAC-PHY製品であり、堅牢性が高く消費電力が少ないことを特徴とします。一方のLTC9111は、SPoE(Single-pair Power over Ethernet)で使用するPD(Power Delivery)コントローラです。これらのICを使用することで、イーサネットのこのセグメントに向けた効率的かつオーバーヘッドの小さいソリューションを実現できます。
参考資料
「Cyber Resilience Act - Factsheet(サイバー・レジリエンス法 - ファクトシート)」European Commission、2023年12月