Thought Leadership

Lars Jaskulski
Lars Jaskulski,

産業用オートメーション・グループ、ADI Trinamic製品ライン担当シニア・マネージャ

著者について
Lars Jaskulski
Lars Jaskulskiは、アナログ・デバイセズのシニア・マネージャです。産業用オートメーション・グループで、ADI Trinamicの製品ラインを担当しています。新たなビジネス・チャンスをサポートするビジネス・パイプラインの責任者として、世界中の新規事業を推進。当初は、ADI Trinamicを担当するフィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)として、5年間にわたり北米市場の業務に携わっていました。その後、北米のFAEチームを2年間統括しました。ハンブルク応用科学大学でメカトロニクスに関する学士号を取得しています。
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自社開発か、購入か ‒ スマートな マイクロシステムを活用してモータ・ドライブを開発することが最良の選択になる理由


モーション・コントロール・システムが必要になった場合、どのようなアプローチを採用するのが最適なのでしょうか。恐らく、選択肢は 2 つ存在します。1 つは、完全な自己完結型のユニットとしてモーション・コントロール用のコンポーネントを購入する方法です。もう 1 つは、そうしたコンポーネントを自社で開発する方法です。ただ、モータ・ドライブやモーション・コントール用のコンポーネントを一から設計するには、電動モータの取り扱いに関する専門知識が必要になります。つまり、モータ用の制御ループ、センサーによる位置の取得、様々なバスや通信用インターフェースへの接続に関する様々な実装経験が求められるでしょう。しかし、電動ドライブを機器に統合したいと考えているデバイス・メーカーやシステム・インテグレータが、そうした専門性を有しているとは限りません。それらの企業のコア・コンピテンシは、はるかに抽象度の高いものであることが多いでしょう。そうした企業が自社開発を選択した場合には、中核的な開発業務に注ぐべき力やエネルギーが大きく削がれることになるはずです。

実は、モーション・コントロール用コンポーネントの購入については、もう 1 つの選択肢が存在します。それは、自己完結型のハードウェアとソフトウェアをビルディング・ブロックとし、モータ・コントロールに関する専門知識がなくても機器に統合できるモータ・ドライブを購入するというものです。本稿では、モーション・コントロール・アプリケーションにモータ・ドライブを統合する方法について説明します。具体的には、モータ・ドライブを自社開発する場合と、完全型のユニットまたは個別のビルディング・ブロックとしてモータ・ドライブを購入する場合を取り上げ、それぞれで生じるトレードオフについての比較を実施します。また、ドライブやビルディング・ブロックの様々なアーキテクチャ/機能や、それらが重要である理由についても解説を加えることにします。

 

モーション・コントロール・システムが必要になった場合、どのようなアプローチを採用するのが最適なのでしょうか。恐らく、選択肢は 2 つ存在します。1 つは、完全な自己完結型のユニットとしてモーション・コントロール用のコンポーネントを購入する方法です。もう 1 つは、そうしたコンポーネントを自社で開発する方法です。ただ、モータ・ドライブやモーション・コントール用のコンポーネントを一から設計するには、電動モータの取り扱いに関する専門知識が必要になります。つまり、モータ用の制御ループ、センサーによる位置の取得、様々なバスや通信用インターフェースへの接続に関する様々な実装経験が求められるでしょう。しかし、電動ドライブを機器に統合したいと考えているデバイス・メーカーやシステム・インテグレータが、そうした専門性を有しているとは限りません。それらの企業のコア・コンピテンシは、はるかに抽象度の高いものであることが多いでしょう。そうした企業が自社開発を選択した場合には、中核的な開発業務に注ぐべき力やエネルギーが大きく削がれることになるはずです。

実は、モーション・コントロール用コンポーネントの購入については、もう 1 つの選択肢が存在します。それは、自己完結型のハードウェアとソフトウェアをビルディング・ブロックとし、モータ・コントロールに関する専門知識がなくても機器に統合できるモータ・ドライブを購入するというものです。本稿では、モーション・コントロール・アプリケーションにモータ・ドライブを統合する方法について説明します。具体的には、モータ・ドライブを自社開発する場合と、完全型のユニットまたは個別のビルディング・ブロックとしてモータ・ドライブを購入する場合を取り上げ、それぞれで生じるトレードオフについての比較を実施します。また、ドライブやビルディング・ブロックの様々なアーキテクチャ/機能や、それらが重要である理由についても解説を加えることにします。

 

なぜ自社開発するのか? -- サーボ・ドライブを自社開発することで得られるメリット

サーボ・ドライブを一から自社開発するのは容易なことではありません。それでも自社開発というアプローチが選択されるケースは存在します。例えば、各ドライブの設計を特定のアプリケーションに適合させるために複雑な処置が必要になる場合には自社開発という方法が選択されます。また、ドライブ向けの既成のソリューションに伴う制約が問題になる場合にも自社開発が選ばれます。

通常、設計技術者は、アプリケーションで使用するモータ・ドライブの要件に関する非常に具体的なリストを保有しています。そのリストには、サイズ、コスト、機能、性能、消費電力などに関する多様な要件が列挙されているはずです。恐らく、リストに書かれたすべての要件に合致する市販のデバイスを見つけるのは難しいでしょう。物理的なサイズ、フォーム・ファクタ、機械的な統合方法などの面で、市販のデバイスが要件に完璧に適合する可能性は低いはずです。また、電圧や電力といった技術的な仕様の面で要件に合致しない可能性もあります。

仮に要件に完璧に合致する適切な製品が見つかったとします。その場合でも、製造に関わる所望のタイミングで調達することができなかったり、目標とするコストに見合った価格では入手できなかったりすることもあるはずです。また、必要なすべてのオプションに対応するためには、機能や仕様の面で何らかのトレードオフが発生する可能性もあります。

Figure 1 build vs buy jp
図 1. モータ・ドライブを構成するコンポーネント。位置センサーを備えるモータ、 ゲート・ドライバを備えるパワー段、モータ・コントローラ、モーション・コントローラに加え、 フィールドバスのインターフェースをオプションとして備える アプリケーション・コントローラが必要になります。

サーボ・ドライブを自社で開発する場合、すべての仕様を満たすものを構築できる可能性が高まります。ただ、自社開発を選択する理由はそれだけではありません。例えば、機器を改修するための再設計を行うことで、古いハードウェアを一新できるということも理由になり得ます。あるいは、社外のサプライヤへの依存度を下げることによって、製品のライフサイクルをより適切に管理できるようになるということも重要なポイントになります。ただ、自社開発が選択される場合、実際にはそうしたことよりも大きな理由が存在しているはずです。その理由とは、その企業が独自のモーション・プランニング、ランピング、ポジショニング機能を使用したいと考えているというものです。例えば、非常に高速かつ容易にインターフェースの同期を確立できる機器が求められることがあります。つまり、多軸に対応するモーション・コントロール・デバイスのステップ/方向インターフェースのようなものが必要になるということです。そのようなインターフェースを提供する市販のデバイスが存在しない場合には、独自のデバイスを自社開発することが唯一の選択肢になるでしょう。

多くの場合、モーション・コントロールでは、デジタル・データを物理的なモーションに変換するということが行われます。ただ、その処理は非常に難易度が高いことがあります。市販のドライブが主要なインターフェースやモーション・モードをサポートしていない場合、ソフトウェア・レイヤを追加しなければならないかもしれません。そうした変換用の機能の開発/統合には、相応の時間がかかります。また、通信用のレイヤを追加すると遅延が増えることがあります。そうすると、フィールドにおける制御システムの性能が低下します。加えて、あらゆることがより複雑になり、製品を開発する段階でのエンジニアリングが難しくなります。インターフェースとしては、SPI(Serial Peripheral Interface)、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)のようなシンプルなものや、CAN(Controller Area Network)、RS-485 のようなより複雑なものが使われる可能性があります。どのようなインターフェースを採用するのかに関わらず、統合に要する時間を見積もる前に、デモ用のデバイスや評価用キットを利用して作業を開始することが推奨されます。

主な開発作業、それに関わる問題

独自のモータ・ドライブを自社で開発する場合、膨大な数の作業をこなさなければなりません。もちろん、それには多くの開発時間がかかるなど、いくつかのデメリットが伴うことになります。

まず、数百もの選択肢の中から最適なマイクロコントローラを選定する必要があります。選択する製品は、アプリケーションに必要な演算能力を備えており、十分に安価なものでなければなりません。それだけでなく、パッケージ、ピン・オプション、電圧レベルなど、多くの事柄について確認を行う必要があります。選択肢の多さだけを考えても、気の遠くなるような作業が発生することは明らかです。また、多くのサプライヤは数年ごとに新しいバージョンの製品をリリースします。そのことも背景となり、産業分野の製造企業は自身が望むよりも製品の開発サイクルを短くせざるを得なくなる可能性があります。

マイクロコントローラを選択したら、モータ・コントロール用のアルゴリズムを選定して実装することになります。その作業には、モータとモーション・コントロールの専門家が携わらなければならないでしょう。そうすると、R&D 部門の人員を増やさなければならなくなります。また、そのようなスキルを有する人材を探すのは容易ではないので、人事部門にとっての課題が生じることにもなります。

必要なのは、マイクロコントローラに関連する作業だけではありません。ゲート・ドライバやMOSFET といったコンポーネントを選定した上でパワー段の回路を構築する必要があります。その際には、機械的な統合のことも考慮し、適切なコネクタや電源を選択しなければならないでしょう。また、電流の測定回路をはじめとする様々なアナログ回路の設計を行う必要もあります。更に、回路図を作成したりプリント回路基板のレイアウトを行ったりといった作業もこなさなければなりません。

上記の作業が完了したとしても、それで開発が完了するわけではありません。R&D 部門は、完成した設計が、医療機器の安全性に関する要件など、様々な規格や認定基準に準拠していることを確認する必要があります。また、新たに開発した機器が既存の機器との間で互換性を維持できているか否かを確認しなければなりません。その結果、古い部品を入手するのは可能なのかといった問題に突き当たることもあるでしょう。

上記のようなすべての作業に加えて、モーション・コントロール用のセンサーをいくつか選定する必要があります。その際には、それらをモータ・ドライブに接続する方法も考慮しなければなりません。PLC (Programmable Logic Controller)や産業用 PC といったコマンド・ベースのコントローラに対応するためには、EtherCAT のような通信用のインターフェースを選択する必要があるでしょう。

Figure 2 build vs buy jp
図 2. モータ・ドライブの設計に必要な 開発/決断

なぜ購入するのか? -- 集積度の高いマイクロシステムを購入することで得られるメリット

新たなモータ・ドライブの仕様を定義する際、設計技術者の目の前には多くの選択肢が存在することになります。なかでも有力な選択肢となるのが先進的なマイクロシステムです。その種のシステムには、モータ・コントロールとインターフェースの機能が、容易に使用できるビルディング・ブロックとして集約されています。そうしたマイクロシステムは様々な形態で提供されています。一例としては、モータ・コントロールの機能をソフトウェアによって実装した、あらかじめ構成済みのマイクロコントローラが挙げられます。また、モータ・コントロールとモーション・コントロールの機能を備えるマルチコアのマイクロコントローラも提供されています。あるいは、バス・システム・ドライバと、それに付随するソフトウェア・スタックが統合されたソリューションなども存在します。

上記のソリューションは、完全型のドライブ・ソリューションとは大きく異なるものです。完全型のソリューションの場合、パワー段や測定回路なども統合した上で完全にモジュール化されています。柔軟性は乏しいソリューションにはなりますが、必要な作業はそれをシステムに統合することだけです。そのため、開発コストも抑えられます。ただ、大抵は不要な機能が含まれていることになるので、その分の余計なコストが発生します。 モータ・ドライブを自社で設計する場合、開発コストが高くなる傾向があります。しかし、製造コストの観点から見れば一般的にはより効率的です。一般的にツール(工具)に関するコストは低く抑えられ、通常は開発コストとして計上されるプロトタイピングのコストが主な追加コストになるからです。

集積度の高いマイクロシステムを採用するのは、自社開発する手法と完全型のドライブを購入する手法の中間にあたるバランスのとれたアプローチです。その種のマイクロシステムには、モータ・コントロールとモーション・コントロールの機能が集積されています。また、CAN やEtherCAT のようなコマンド・レベルのインターフェースを備えています。加えて、ゲート・ドライバのようなパワー段の一部も集積されています。このようなシステムを採用すれば、そうした重要な機能を設計しなくて済むだけでなく、必要なレベルの柔軟性も手にすることができます。更には設計時間の短縮にもつながります。 一般に、そうした集積度の高いマイクロシステムについては、それに対応する評価用キットや標準的なモジュールなども用意されているはずです。また、実装を容易化するためにモーション・コントロールの専門家によって入念に設計された標準的な API(Application Programming Interface)も利用できるでしょう。集積度の高いマイクロシステムを採用すれば、このようなメリットを得ることができます。更に、ハードウェア設計を担当する技術者に対しては、パワー段をそれぞれのニーズに適合させつつ、ドライブのフォーム・ファクタやサイズの調整を可能にする柔軟性も提供されます。

まとめ

コストと時間に関する一般的な制約の下でモータ・ドライブを開発する際には、モーション・コントロール用に設計された集積度の高いマイクロシステムを利用するとよいでしょう。その種のシステムを採用するということは、設計を担当する技術者が、自分が保有していない高度なレベルのモーション・コントロール技術/機能を活用できるようになるということを意味します。それだけでなく、素早く、無駄なく、容易に設計を完了することが可能になります。