ハードウェア構成要素としてのベクトル制御(3相ベクトル制御:FOC)
ベクトル制御(FOC)では、電流制御を使用して、高い精度と帯域幅で3相モータとステッピング・モータのトルクを管理します。FOCでは、直交印加電流を使用して電気モータを駆動します。これは、3相BLDCモータや2相ステッピング・モータなどの永久磁石同期モータを制御する最も効率的な方法です。
サーボ・コントローラは、同期ドライブを取り入れた業界最先端のアプリケーションの鍵となります。ADI Trinamic™のテクノロジは、FOCをハードウェアに統合することにより、サーボ・コントローラの設計時間を短縮し複雑さを軽減するための構成要素をエンジニアに提供します。
FOCを使用する理由
正確な量のトルクを生成するには、特定の目標トルクの生成に必要な電流量を制御するだけでは十分ではありません。ローター内の磁石の磁界を位相調整することも必要です。磁界に同相で電流を加えてもトルクは発生しませんが、直交して電流を加えるとトルクが発生します。FOCは、現実世界の電流とローターの位置情報に基づき、直交印加電流を使用して電気モータを最大効率で駆動することで、この課題を解決します。
FOCの仕組み
例えば、ロバを誘導しようとしていると想像してください。ひもを使用すれば、ほぼ正しい方向にロバを誘導できます。あるいは、進むべき方向にニンジンをぶら下げて、少しずつ調整すれば、より正確にロバを誘導することができます。ニンジンをぶら下げる場所により、現在の位置に基づいてロバの次の1歩が誘導されます。
FOC駆動の電気モータでは、ローターがロバに相当します。その正確な位置によって、次のステップを正確に制御するために印加する必要がある直交電流IQ(ニンジン)が決まります。言い換えれば、直交電流IQは、ローターの正確な位置を知ることによってモータを制御します。
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FOCのベクトルを求める
FOCは、IQの取得に使用でき、使いやすい制御値を単一のベクトルで提供することから、ベクトル制御とも呼ばれます。ローターは、3つのサイン波モータ電流位相に電圧を印加することによって制御されます。ステッピング・モータの場合は、2つのサイン波モータ電流位相に電圧を印加することによって制御されます。印加された電圧によりモータに電流が流れ、磁界が生成され、磁気ローターが目的の位置に引き付けられます。FOCは、電流と電圧を変換することでこのアプローチを簡素化します。
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結果として、直交成分IQとIDによって定義される単一のベクトルとして電流が表現されます。ClarkeとParkと呼ばれる2つの数学的変換を使用して、実際の相電流をステータ固定座標系から界磁同期座標系に変換することにより、このベクトルを求めます。
ベクトルを使用したサーボ・モータ・コントロール
FOCでは、2つのPI電流コントローラを使用して、モータ電流ベクトルの両方の側面を個別に制御できます。そのうち1つの電流コントローラ(IQ)はモータのトルクを制御するために使用され、トルク・コントローラと呼ばれます。もう1つ(ID)はモータ内の磁束を制御します。変換は、ホール・センサーやエンコーダなどの位置センサーによって取得される実際のローター角度に基づきます。磁束は主にローターから発生するため、通常はその目標値はゼロになります。
サーボ制御により、このアーキテクチャに速度と位置のコントローラが追加され、位置決めアプリケーションで完全に機能するようになります。すべてのコントローラは、高いダイナミクスで動作し、未知の負荷力を補償するために、適切な帰還を必要とします。電流コントローラの場合、これはコイル電流を測定する必要があることを意味します。位置は、エンコーダを使用して測定することも、ホール・センサーを使用して大まかに測定することもできます。速度センサーは一般的ではないため、多くの場合、モータの速度は位置信号の微分によって計算されます。