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閉じるデジタルデバイドの解消――ビジネスとインフラの革新を図る
世界で30億人――。現在でも、これだけの数の人が“デジタルの闇”の中に取り残されています。つまり、ネットワーク・インフラやインターネットをベースとする手ごろな料金のサービスを利用できず、デジタルの恩恵を享受できていないのです。言い換えれば、他の人たちが頼りにしている重要な医療、教育、雇用の機会を逃している状態にあるということになります。このような状況を受けて、民間企業や公的機関、各国政府は、新たなビジネス・モデルやパートナーシップ、アライアンスの構築を進めています。その目的は、インフラに関連するコストを低減し、手ごろな料金で広くサービスを利用できるようにすることで、デジタルデバイドを解消することです。
眼前の課題、必要な6つの施策
デジタルデバイドは迅速かつ容易に解消できるものではありません。しかし、ターゲットを絞って計画を立案したり行動したりすることにより、大きな進展を図ることができます。つまり、以下に列挙するような施策を講じれば、デジタル・エクイティに近づけることが可能になります。
- 手ごろな料金でのアクセスとデジタル・リテラシの実現
インターネットへの公平なアクセスを実現するというのは、単にブロードバンドを利用できるようにすればよいということではありません。例えば、インターネットへの接続が容易な都市部であれば、公平なアクセスは実現されていると言えるのでしょうか。現実としては、必ずしもそうとは言えません。例えば、低所得の世帯の場合、サービスや技術の利用に必要な金額を支払えず、必要なサービスを利用できないことがあります。また、多くの人々は、携帯電話、家庭で使用するコンピュータ、デジタル・リテラシを身につけるための訓練、母語による情報、使いやすいインターフェースなども必要としています。
- 投資の正当化
通信事業者や民間のネットワーク・プロバイダにとっては、納得できるだけの利益を得られることが重要です。ネットワーク・インフラを構築し、人口の少ない地方や開発途上国に向けて手ごろな料金で高速インターネット接続のサービスを提供するためには、多額の資本コストが課題になります。
- 共用インフラによるコストの削減
デジタルデバイドを解消するためには、通信業界の力を強化する必要があります。より大きな規模で、より効率的なネットワークを構築/拡張する能力が必要になるということです。そのためには、共用インフラへの投資が非常に有効な施策になります。共用インフラが実現されれば、通信業界全体として、所有コストを削減しながらインターネットへのアクセスを提供することが可能になります。結果として、より手ごろな料金で品質の高い接続を提供できるようになります。
- コミュニティに接続をもたらすパートナーシップ
世界中のより多くの地域を対象として手ごろな料金のブロードバンド接続を提供するには、多大なコストがかかります。そのため、各種のサービスを提供する企業、サービス・プロバイダ、高度な専門性を備える技術者、通信インフラに関連する企業、地域の活動団体、政府などから成る創造的なパートナーシップが必要になります。
- 民間の参加
デジタルデバイドの解消には、技術、管理スキル、資金調達、収益化、規模を拡大する能力などが不可欠です。したがって、そうした能力を備える大企業や業界団体の協力を得ることが重要になります。
- 地方自治体、地域政府、中央政府の参画
デジタルデバイドの解消には、投資、政府の参画、出資が必要です。そうした意思を引き出すことができる、より進歩的でより協力的な規制が用意された環境があれば、接続性を高めることが可能になります。
都市部と地方の違い
デジタルデバイドを解消するためには、それに関連する経済について理解する必要があります。民間企業が、ネットワーク接続が提供されていない地方の顧客を探し出してサービスを提供するには、相応の動機が必要になります。多くの国の市場環境はそうした動機になり得るものではありません。そうした地域でインターネットへのアクセスを実現するためには、広大な地域全体を対象としてネットワークのバックボーンを構築すると共に、過疎地まで届くように有線/無線のブランチ・ネットワークを追加で配備する必要があります。つまり、地方の顧客のところまで長いケーブルを敷設して接続を実現するのは容易ではありません。経済的な効率で見れば、都市部の数百万の顧客に対してネットワーク接続を提供するためのシステムを構築する方がはるかに高い可能性があります。
「ブロードバンド・ネットワークの普及率が10%高まると、先進国の1人あたりの実質GDP成長率が1.2%向上する可能性があります。」世界銀行
エコシステムの構築
現在、通信事業者、技術企業、地域の活動団体、政府の連携により、助成プログラムの策定や創造的なパートナーシップの形成が進められています。また、共同インフラの構築や、オープン標準をベースとした業界全体にわたる技術ソリューションの展開も図られています。
アナログ・デバイセズは、エコシステムの醸成を支援しています。そのための手段として、トランシーバー、パワー・マネージメント、ベースバンド・ソフトウェアに関する先進的な技術と業界をリードする分野での経験を組み合わせて提供しています。それにより、ネットワーク・インフラの分野のお客様は、手ごろな料金のアクセスを広く提供できるようになります。
政府の助成プログラム
2022年CHIPS法:米国では、2022年CHIPS法(CHIPS and Science Act)という助成プログラムが提供されています。これは、旧来の技術をベースとするシステムを光ファイバ・ネットワークまたはワイヤレス・ネットワークにアップグレードすることにより、米国内のインターネット・アクセスの提供規模を数百万人のレベルで拡大しようというものです。そのための助成金として650億米ドル(約9兆1100億円)が用意されています。そのうち450億米ドル(約6兆3100億円)は、ブロードバンド対応のインフラを拡張しようとする企業、地方政府、非営利団体に対する州の補助金です。これらの助成金は、低所得の世帯に対して月額サービス・プランを提供するための補助金としても活用される予定です。
P2Cデジタル連合:ITU(国際電気通信連合)のP2Cデジタル連合(Partner2Connect Digital Coalition)は、国連の意向に沿って発足したマルチステークホルダのアライアンスです。国連事務総長による「Roadmap for Digital Cooperation(デジタル協力のためのロードマップ)」は、有意義な接続とデジタル・トランスフォーメーションを促進するために策定されました。後発開発途上国(LDC)、内陸開発途上国(LLDC)、小島嶼開発途上国(SIDS)という最もネットワーク接続が困難なコミュニティに重点を置いている点に特徴があります。これは、このような大規模かつ重要な課題に取り組むための唯一の方法だと言うことができます。
パートナーシップ
Meta:Facebookの提供元であるMeta Platformsは、世界の新興市場におけるブロードバンド接続の可用性、アクセス、料金の低減を実現するためのプログラムや技術に対して数十億米ドルを投資しています。投資の対象となっているものには、1万kmの陸上光ファイバと3万7000kmの海底光ファイバ「2Africa」があります。同社は、これらによって数百万もの人々に対して高速アクセスを提供できるようにするための支援を行っています。
Liquid Intelligent Technologies:MetaはLiquid Intelligent Technologiesとパートナーシップを結び、コンゴ民主共和国の光ファイバに関する格差に対処しています。両社は2Africaを利用して、東西アフリカ間に欠けている光ファイバ・リンクを完成させる予定です。また、近隣の内陸国向けの接続ハブとしてコンゴを機能させることで、その存在を確立させようとしています。更に、オープンな共用インフラの実現を促進し、約3000万人を対象としてネットワークの速度と信頼性を向上させることを目指しています。
Nayatel:MetaはNayatelとの間にもパートナーシップを確立しています。それにより、オープンな光ファイバ・ネットワークの構築に向けて投資を行っています。そのネットワークにより、パキスタンの8都市/1000万人を対象としてネットワーク接続の需要の増加に対応しようとしています。
オープン標準
O-RAN ALLIANCE :オープンな無線アクセス・ネットワークを実現するための標準規格の策定を担っています。この分野では、技術プロバイダの選択肢が限られており、特定のソリューションしか利用できません。柔軟性に欠けることから、事業者がネットワークを俊敏に管理するのが困難になっています。O-RAN ALLIANCEが標準規格を策定する目的は、事業者がネットワークを構築するために複数のベンダの製品/サービスの中から最適なものを選択できるようにすることです。それにより、革新性と柔軟性を高めつつ、ネットワーク事業者の総所有コストを削減することが可能になります。
TIP: TIP(Telecom Infra Project)は、競争の高まり、コストの削減、選択肢の増加を目指す組織です。O-RANのソリューションを対象とする世界市場を構築することに貢献しています。TIPのコミュニティは、世界中の通信事業者、ネットワーク・ベンダ、研究機関、大学などから成ります。相互運用性を実現可能なオープン標準の規格をベースとし、技術ソリューションの開発を加速するための取り組みを行っています。
デジタル・リテラシの構築
NDIA:NDIA(National Digital Inclusion Alliance)は、郊外や民族的なコミュニティで暮らすネイティブ・アメリカンが重要な接続サービスを簡単に利用できるようにすることに貢献しています。ネイティブ・アメリカンの居留地は、米国で最もブロードバンド接続の利用が進んでいない場所だと言えます。NDIAは、Googleの慈善部門から助成金を得て活動を行っています。
世界経済フォーラム :世界経済フォーラム(World Economic Forum)は、EDISON Allianceを立ち上げました。同アライアンスの「1 Billion Lives Challenge(10億人の生活チャレンジ)」は、2025年までに医療、金融、教育を対象とするデジタル・ソリューションを手ごろな料金で提供することにより、人々の生活を改善することを目指しています。また、デジタル・インクルージョンに関する課題を設定することや、政府と業界のリーダーの間でパートナーシップを構築できるようにすることも目指しています。
Giga:ユニセフとITUによるプロジェクトです。2030年までに世界のすべての学校からインターネットに接続できるようにすることを目指しています。Gigaは、ユニセフの教育と調達に関する経験、ITUの規制や政策に関する専門知識、民間部門の技術ソリューションの迅速な適用能力を組み合わせることで成り立っています。2019年以降に行われたGigaの活動により、5000以上の学校、210万人以上の生徒がインターネット接続を利用できるようになりました。
新たなビジネス・モデル
Amazon :Amazonの「AWS Marketplace」には、オープンソースのソフトウェア「Magma」がプリインストールされています。AWS Marketplaceはライセンス・フリーであり、固定のワイヤレス・ネットワークやプライベート・ネットワークを非常に少ない所有コストで迅速かつ簡単に導入することを可能にします。このオープンソースのプロジェクトを利用することにより、サービス・プロバイダは4G/5Gのネットワークを非常に迅速に導入することができます。
Sparrow Mobile:携帯電話のサービス・プロバイダです。テキサスの難民、シカゴのホームレスの若者、サンフランシスコ・ベイエリアの恵まれない人々に対してモバイル・アクセスを提供するプログラムに協力しています。
企業の取り組み
Cambium Networks:Cambium Networksは、法人向け/家庭向けのブロードバンド・システムやWi-Fi対応のワイヤレス・インフラを提供する世界的なプロバイダです。インターネットを利用できなかった地域を対象として接続サービスを提供しています。同社は、教育、医療、工業団地、自治体の分野を対象とするネットワーク事業者と協力し、ブロードバンド/Wi-Fiによるサービス提供の能力を最大化しています。
アナログ・デバイセズ :当社はエンジニアリングの領域で世界に対する貢献を果たしています。例えば、5Gに対応する世界中のネットワークのほとんどは、当社の重要なソフトウェア無線技術やこの分野に最適なパワー技術を活用しています。O-RANやTIPに貢献している企業でもあり、エコシステムの多様性やイノベーションの実現、オープンなアクセスを可能にするインフラの展開を促進しています。それにより、世界中の人々に対して有線/無線/モバイルによるインターネット・アクセスを提供することが可能になっています。
一歩先へ
デジタルデバイドを解消するための取り組みを更に前進させるにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、2つの例を紹介します。
5Gのワイヤレス技術
地方や遠隔地、あるいは内陸部向けのネットワーク・インフラを整備するには、ケーブルを敷設するために多大なコストを支払わなければなりません。従来家庭で使われてきたようなケーブルや光ファイバより優れたものが必要になることも、その要因の1つです。Verizon Wirelessでエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼最高戦略責任者を務めるRima Qureshi氏は、「モバイル・インターネット接続に関する格差に対処するのは、どの国にとっても不可欠なことです。そのことが国の発展につながるからです」と述べています。

携帯電話のネットワークでは、LEO(Low Earth Orbit)衛星通信が利用されるようになりました。LEO衛星と基地局の間のワイヤレス接続は、デジタルデバイドの解消に役立つ可能性があります。但し、そのためには費用対効果の高いネットワーク・スイッチ、ルータ、コンポーネントが必要になります。また、コストを負担する余裕がない人々のために、手ごろな価格の携帯電話端末と手ごろな料金のデータ・プランを提供しなければなりません。
必要な時、必要な場所でWi-Fiを利用できるようにすることも重要 です。Wi-Fiは広く普及しましたが、まだユビキタスなものだとは言えません。MetaはWi-Fiの普及促進に貢献すべく様々な業界との連携を図っています。それにより、新たな技術の開発や周波数帯域の拡大などに取り組んでいます。また、インターネット・サービス・プロバイダや、移動体通信事業者、その他の企業と協力し、新たなビジネス・モデルを構築することなども目指しています。
ミリ波の活用
光ファイバのようなレベルのデータ転送速度を無線で実現する ことはできないのでしょうか。Alaska Communicationsは、TerragraphをベースとしたCambium Networksのソリューションを導入することで、家庭や企業を対象としてギガビット・レベルのデータ転送速度を実現するサービスを提供しています。Terragraphを利用すれば、路上でミリ波対応のワイヤレス技術を用い、既存の電柱を活用してワイヤレス配信ネットワークを構築することが可能になります。このミリ波技術の一部は、アナログ・デバイセズとの共同開発で実現されました。光ファイバを使用する場合のような高速インターネット接続を、都市部や郊外の顧客に対して高い信頼性で提供することができます。しかも、光ファイバを使用する場合の数分の一のコストで実現可能なのです。
「接続だけでは十分ではありません。その接続の活用方法を学ぶことが重要なのです。」Justin Dent氏
エグゼクティブ・ディレクタ | Outschool.org
すべての人に、より良い未来を

ネットワーク・ベースのサービスをすべての人々に提供するためには、技術やインフラを開発する必要があります。ただ、それだけでは十分ではありません。例えば、共用インフラによってネットワークの総所有コストを低減するといった取り組みが必要になります。これは、民間企業と地域のパートナーが連携し、コミットメントと協力が得られる状態になって初めて実現できることです。現在は、多くの業界、地域の活動団体、中央政府、州政府、地方自治体などが連携し、あらゆるコミュニティを対象として公平なアクセスを実現できるようにすべく取り組みが行われています。その理由は何なのでしょうか。それは、世界中の人々とその未来への投資という行動が理に適っているからです。言い換えれば、その投資は、私たちの国、私たちの経済、私たち自身に投資するのと同等の意味を持つということです。