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Woman seated with Laptop computer on lap seated at the base of a snow covered mountain.
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Joe Barry
Joe Barry,

通信およびクラウド製品事業部、マーケティング、システム&テクノロジー担当バイス・プレジデント

アナログ・デバイセズ

著者について
Joe Barry
Joe Barryは、アナログ・デバイセズで通信およびクラウド製品事業部のマーケティング、システム&テクノロジーを担当するバイス・プレジデントです。ワイヤレス市場を対象とする高速コンバータ/SDRトランシーバー/マイクロ波通信技術のグループを率いています。26年以上にわたり、ワイヤレス通信、民生、半導体などの分野で要職を歴任。アナログ、デジタルのビデオ/オーディオ技術に関する5件の特許を保有しています。グリニッジ大学で電気/電子工学の学士号、リムリック大学で経営学の修士号を取得しました。
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デジタル・デバイドを解消に導く、衛星を活用してブロードバンド接続を提供


地球全体で見ると、農村や遠隔地など、インターネット環境がまだ十分に整備されていない地域はたくさん存在します。それらの地域も網羅し、ブロードバンド信号をやり取りできるようにするにはどうすればよいのでしょうか。現在、そのための手段として、大規模なコンステレーションを利用する方法が推進されています。低地球軌道(LEO:Low Earth Orbit)上に配備した数千もの小衛星を利用してネットワークを構築するというものです。この衛星ベースの手法を使えば、ネパールの山々からアフリカの平原に至るまで、あらゆる場所で高速かつ信頼性の高いブロードバンド接続(以下、衛星ブロードバンド接続)を利用できるようになります。近い将来、数百万人もの人々を対象としてデジタル・アクセスを提供したり、改善を図ったりすることが可能になるのです。

但し、現時点では、衛星ブロードバンド接続を利用するための料金は、農村地域に居住する大半の人々にとってはあまりにも高額です。衛星ブロードバンド接続のサービスは、地上のネットワークではカバーできない少数の市場に限定して提供されます。とはいえ、コストの問題は、多くの不確実性は残るものの、技術的な進化と経済規模の拡大に伴って改善していくでしょう。コンステレーションを提供する企業が、競争力のある料金体系を実現できれば、消費者からの需要は大きく高まります。結果として、LEOを利用する衛星ブロードバンド接続のサービスが世界中にもたらされるようになる可能性があります。

現在は、ケーブル、光ファイバ、5Gをベースとし、次世代のデジタル・インフラが地上に構築されつつあります。その一方で、長期的に見ればLEOを利用する衛星コンステレーション(以下、LEOコンステレーション)が台頭していくはずです。LEOコンステレーションが完全に稼働した暁には、それが世界中のブロードバンド接続のエコシステムを支える重要な役割を担うと考えられています。LEOコンステレーションは、経済的な成長を促進し、教育や医療といった分野の接続性を改善することにより、デジタル・デバイドの解消に一役買うと期待されています。

Earth from space with many satellites in the atmosphere.

LEOコンステレーションは、陸地に囲まれた開発途上の国や集落、遠隔地、農村地域に対して高速なインターネット・アクセスをもたらします。また、島国にも、衛星を介してブロードバンドのインターネット・アクセスを提供することが可能になります。そうなれば、国をまたがるトラフィックの実現に向けて海底ケーブル・システムを敷設するための膨大なコストを大幅に削減できます。加えて、LEOコンステレーションを利用すれば、重要な情報を、それを最も必要としている人々に通信によって伝達することが可能になります。更に、5Gをベースとするモバイル・ネットワークに対し、バックボーン接続を提供するといったことも行えるようになります。

光ファイバと衛星のコストを比較する

現在は、主に人口密度の高い都市部に居住する数百万人もの顧客を対象として、ブロードバンド対応のインターネットが提供されています。これは収益性の高い事業だと言えます。しかし、より人口密度の低い地域も対象として設備を構築/維持しようとすると、多大な費用がかかります。その費用を上回る投資利益率が得られることはまずありません。そのような理由から、農村や遠隔地を対象とした設備の増強は、何年も、あるいは何十年も先送りにされる傾向があります。


「光ファイバ・ケーブルのインフラを直接利用できない地域や、大容量/広帯域幅のサービスの提供範囲から遠く離れた地域にとっては、衛星ブロードバンド接続が唯一の選択肢となります。」

アジア開発銀行(Asian Development Bank)1


どのような技術を利用する場合でも、中核となるネットワークを構築して運用するためには、様々なコストが発生します。インフラ向けのコスト、顧客用の設備向けに継続的に発生するコスト、顧客のリカーリング・コストなどです。

ただ、地上のネットワーク・インフラのコストやサービス・プランに関連するコストの一部は、自治体、州、国の助成プログラムによって賄われています。その例としては、FCC(Federal Communications Commission)の「Affordable Connectivity Program」、USDA(United States Department of Agriculture)の「ReConnect Rural Broadband Program」、米国の「Bipartisan Infrastructure Bill」などが挙げられます。これらにより、数十億米ドルもの補助金が個々の州やインフラの拡張を行う事業者に対して提供されています。また、低所得世帯を対象とした助成プログラムも提供されています。しかし、そうしたプランの規模や範囲は限られています。実際には、それとは別のより包括的なソリューションが必要になるのです。

LEOコンステレーションに対する期待

現在、LEO衛星に対しては多大な関心が寄せられています。実際、資本投資も行われています。結果として、最大で1万2000基もの衛星で構成される大規模なLEOコンステレーションが配備の初期段階を迎えています。McKinsey & Companyは2020年における商用宇宙業界の分析結果の中で「現在提案されている衛星ベースのインターネットの展開が実現されたとしたら、10年以内に約5万基の衛星が地球上空を周回する状態になるだろう」と説明しています2

Satellite over earth.

  • 全衛星のうち90%はLEO衛星

  • 2021年9月現在、7500基のLEO衛星が地球上空を周回している

  • LEOの高度は160km~2000km(GEOの高度の1/60)

  • 周回周期は88分~127分(高度によって異なる)

多数の衛星が必要な理由

LEO衛星は地球上空を高速に通過します。そのため、狭いエリアを対象として短時間の接続性を提供することしかできません。ただ、GEO(Geostationary Orbit:静止軌道)の高度は3万5000kmもあるのに対し、LEOの高度はわずか2000kmほどです。そのため、GEOと比べて遅延時間はかなり短くなります。つまり、信号が地上と衛星の間を往復するのにかかる時間が短くなるということです。遅延が小さいということは、通信の遅れが低減され、より高速な応答を実現できるということを意味します。しかし、現行の衛星ブロードバンド接続は、3GPP(3rd Generation Partnership Project)が定めた遅延の仕様を満たしてはいません。つまり、没入型のゲーム、ビデオ通話、動画配信に加え、大いに注目を集めている遠隔ロボット手術や自動運転などのイノベーションには対応できないということです。

大規模な衛星コンステレーション

Satellite Mega constellations cover the planet earth. Planet seen from outer-space.

LEO衛星によって信頼性の高いグローバル・カバレッジを確保するためには、数百から数千もの衛星から成る広大なネットワークが必要です。そして、この種のコンステレーションにとって最も重要な対象エリアは農村や遠隔地です。しかし、そうしたエリアは、ディッシュ形の衛星アンテナ設備にかかるコストやデータ・プランのコストを負担するのが最も難しい地域であるケースが少なくありません。そのため、すべての関係者に対しては、政府による支援プログラムや助成金が提供される必要があるでしょう。それだけでなく、より深い連携や標準規格に基づく新たなビジネス・モデルと、相互運用が可能なオープンなアーキテクチャを提供しなければなりません。

転換期を迎えた宇宙事業

今日の商用宇宙事業は1つの転換期を迎えています。従来の事業は、政府からの出資を受けて、少量生産を前提とする一度限りのプログラムに基づいていました。それが、現在では再利用が可能なロケットと、より小型で安価な衛星をベースとする大規模な商用ベンチャー事業へと移行しています。この業界では、費用対効果が高く、急速に拡大する需要に対応できるだけの適応性と柔軟性に優れるソリューションが求められています。商用宇宙事業の分野では、新規参入企業、アプリケーション、ビジネス・モデル、政府のプログラムにより、ダイナミックで競争力にあふれるエコシステムが実現されつつあります。

商用宇宙衛星の業界を後押しする要因

市場を後押しする要因

  • 農村、遠隔地、都市部のグローバル・カバレッジ
  • デジタル・デバイドの解消
  • 打ち上げや地上局のコストの削減、衛星の小型化/軽量化/低コスト化

具現化のための技術

  • 最新のIC技術
  • より高度なフェーズド・アレイ機能
  • 大規模コンステレーションの開発

「新たな衛星コンステレーションが近いうちに配備されようとしています。その長期的な成功は、コストを大きく削減できるか否かにかかっています。」

McKinsey & Company2

コストの最適化

設計、製造の分野が進化すると共に、標準化が進められた結果、衛星の業界には非常に大きな効果がもたらされました。より迅速かつ柔軟に衛星を配備できるようになったのです。ただ、衛星ブロードバンド接続を手頃な料金で提供できるレベルまでコストが低下するかどうかは、まだ明確ではありません。

ロケットの再利用、衛星の小型化

LEO衛星の打ち上げ回数は急速に増加しています。それに伴い、打ち上げコストは低減されています。打ち上げ用のロケットが垂直統合型で製造されるようになり、信頼性、適応性、効率が改善されたからです。また、複数の積載物をロケットに相乗りさせるライドシェアや、ブースターの再利用、衛星の配備先がLEOにシフトしたことにより、コストは更に削減されています。現在では、衛星1基あたりの打ち上げコストは100万米ドル(約1億3000万円)のレベルまで低下しています。

SpaceX's Falcon 9 rocket launches from the Earth's surface.
SpaceXは、Falcon 9の第1段ブースターを再利用し、一度に最大60基のLEO衛星を打ち上げます。
画像提供:NASA

信頼性と放射線耐性の最適化

NASA(米航空宇宙局)のミッションの多くは、惑星やGEO衛星を対象としています。当初、そうした過酷な宇宙環境に数十年間耐えられるようにするために、ICには非常に高い信頼性と放射線耐性が求められていました。それに対し、LEO衛星の市場で求められる耐用期間はわずか数年です。また、LEOは高度が低いことから被ばく量も少ないため、放射線耐性の要件も緩和されます。

アナログ・デバイセズで航空宇宙/防衛/RF分野のプロダクト・ライン・ディレクタを務めるChris Chipmanは「今日の商用宇宙市場は量産型にシフトしてきました。その状況下では、従来のような非常に高額なコンポーネントでは採算が合いません。また、通常は必要でもありません。この市場に向けた当社のCOTS(Commercial off-the-Shelf)製品を採用することによって、コストを削減することができます」と説明します。実際、そうした製品を採用すれば、高度な技術を活用しつつ、より高い集積度や優れた性能を得ることが可能になります。それだけでなく、卓越したSWaP(サイズ、重量、電力)が得られるといったメリットも享受できます。より高いレベルの保護が必要な場合には、CSL(Commercial Space Low)グレードの製品を採用するとよいでしょう。このグレードの製品は、放射線レベルが低い環境で運用されるコンステレーションに適した試験とスクリーニングを実施した上で提供されます。

地上局のコストの低減

地上局はグローバル・ネットワークの中核を成す存在です。インターネットにアクセスするには、地上局から500マイル(約800km)以内にディッシュ型の衛星アンテナを配備する必要があります。つまり、インターネットに接続された地上局の広大なネットワークが必要です。繰り返しになりますが、LEO衛星を利用する目的は、インターネットが整備されていない農村や遠隔地の人々にブロードバンド接続を提供することです。その目標を達成するには、地上局のコスト(または数)を削減することが不可欠です。

Satellite ground stations broadcasting signals.

地上局

地上局は、LEO衛星に向けてインターネットの信号を送信します。

Satellite in outerspace above Earth with relay signals.

衛星中継器

衛星中継器は、ビームフォーミングをベースとする電子走査型のフェーズド・アレイ技術を利用して、地球上の多数の地点に向けて信号を送信します。

Small satellite dish Antennas send signals into the sky.

地上のアンテナ

ディッシュ型の衛星アンテナでは、パッシブ型のフェーズド・アレイ・アンテナを使用します。それにより、上空を高速に移動する衛星とその信号を追尾します。

レーザ・リンクにより、地上局の数を削減

Animated representation of a ground station satellite dish on the Earth's surface sending laser-links into outer space connecting with satellites.

LEO衛星にレーザ・リンクまたは光衛星間レーザ(OISL:Optical Intersatellite Laser)を適用すれば、グローバルな接続に必要な地上局の数を減らすことができます。レーザ・リンクでは、地上局と宇宙の間で何度も通信に関する確認を行う代わりに、通信トラフィックを分配して、コンステレーションを構成する衛星の間で信号のルーティングを実施します。ルーティングされた信号は、家庭用のアンテナに直接送信されます。

帯域幅の増大、機会の拡大

アジア開発銀行が公開した2021年の報告書1には、「光ファイバ・ケーブルが敷設されていない遠隔地や農村地域では、LEO衛星によって、インターネットの帯域幅が大きく拡大すると予想される」と記されています。帯域幅が拡大すれば、そうした地域は経済的にも社会的にも大きく発展する可能性があります。但し、そのためには1つの条件が満たされなければなりません。そうした地域でサービスを拡充すれば、長期的な価値をもたらすビジネス・チャンスが生まれます。そのことに、LEOコンステレーションに投資する民間企業が気づかなければなりません。

衛星ブロードバンド接続の現在と未来

African tribe woman sits with a laptop computer on her lap. In the background is an African plains landscape.

ここまでに説明したように、衛星ネットワークは、インターネットの利用範囲を拡大する可能性を秘めています。従来の固定ネットワークやモバイル・ネットワークではサービスの提供が不可能であったり、地上ベースの技術では採算が合わなかったりする場所をカバーできるようになるということです。

衛星ネットワークはユビキタスな接続性を提供します。また、ケーブル接続やファイバ接続に縛られない新しい働き方や生き方をもたらします。都市部の学生、農村部の労働者、遠く離れた沖合の採掘場や海上の船舶で働く人々など、あらゆる人がメリットを享受できます。その通信性能は、いずれは光ファイバ・ケーブルの速度/遅延に匹敵するレベルに到達するでしょう。そうすれば、まだ誰も想像していない新しいアプリケーションが登場する可能性があります。

現在、10社以上の新興企業がIoT(Internet of Things)向けの接続に小型の衛星(LEO衛星)を利用することを計画しています3。GSMA Intelligenceは「IoT分野の接続件数は、一般消費者と企業の両方の利用を合わせて、2025年までに250億件近くに達する」との予測を示しています4

何が必要なのか?


衛星をベースとする通信ネットワークについては、地上のネットワークとシームレスに統合することで、その有用性を最大限に高める必要があります。そのためには、宇宙通信技術に対する投資に加え、地上局、サービス・プロバイダ、データ・センターをつなぐ地上の有線インフラに対する多大な投資も必要になります。

予期される機会への備え


LEO衛星は、通信のあり方に変革をもたらし、デジタル・デバイドを解消する可能性を秘めています。その力を考えると、インターネット・プロバイダやメーカーなど、あらゆる業界の企業は、その未来にどのように備えるのかということを考える必要があります。また、その最先端の通信がもたらす機会を最大限に活用する方法の調査にも着手しなければなりません。


衛星プロバイダを支援するアナログ・デバイセズ

データ帯域幅に対する要求は高まる一方です。それに伴い、エンドtoエンドの性能の提供に向けてLEO衛星ネットワークを運用する事業者には、非常に複雑な形で責任がのしかかります。これまで以上に、製品/サービスを市場に投入するまでの期間を短縮し、統合を簡素化することが重要です。衛星に搭載される電子部品の数は、指数関数的に増大しています。新たに意欲的なソリューションの設計を行う際には、SWaPに加えてコストも削減しなければなりません。

LEO Satellite orbiting above Earth's atmosphere.

アナログ・デバイセズは、業界最大規模の製品ポートフォリオを有しています。商用宇宙衛星に関連する企業に対しても、あらゆる製品やサービスを提供しています。それらは、アーキテクチャの簡素化、設計の加速、ICやICベースのサブシステムのレベルで実施される最適化に必須の要素です。また、当社はフェーズド・アレイ・アンテナに必要なシグナル・チェーン製品も提供しています。データ・コンバータや、トランシーバーIC、RFフロント・エンドなど、必要な製品を網羅しています。当社は、フェーズド・アレイ・アンテナを設計するお客様に支援を提供します。また、より小型のコンポーネントを最適な形で連携させることによって、SWaPの削減と性能の向上を実現します。


参考資料

1John Garrity、 Arndt Husar「Digital Connectivity and Low Earth Orbit Satellite Constellations: Opportunities for Asia and the Pacific(デジタルの接続性と低地球軌道上の衛星コンステレーション、アジア/太平洋地区にとってのビジネス・チャンスに)」Asia Development Bank、2021年4月
2Chris Daehnick、Isabelle Klinghoffer、Ben Maritz、Bill Wiseman「Large LEO satellite constellations: Will it be different this time?(大規模なLEO衛星コンステレーション、これまでとは何が違うのか?)」McKinsey & Company、2020年5月4日
3Christopher Mims「Elon Musk and Amazon Are Battling to Put Satellite Internet in Your Backyard(衛星ベースのインターネットを巡るイーロン・マスク氏とアマゾンの戦い)」 The Wall Street Journal、2021年3月20日
4 Sylwia Kechich「IoT Connections Forecast: The Rise of Enterprise(IoT分野の接続性に関する予測、エンタープライズ分野が台頭)」GSMA、2019年12月16日