太陽光発電向けのMPPT対応バッテリ・チャージャ、「LT8611」と「AD5245」で高い効率を実現 

2017年07月10日
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はじめに

屋外で運用されるアプリケーションでは、出力が数Wのレベルの太陽光発電システムが使用されることがあります。その場合、環境に応じて大きく変化する動作条件に対応して最大限の電力を得るための手段が重要になります。そのための代表的な手法がMPPT(Maximum Power Point Tracking:最大電力点追従制御)です。MPPT機能は、マイクロコントローラをベースとし、20W~500W出力の太陽光発電パネル(以下、パネル)を対象として設計されることが多いでしょう。同機能は、パネルの動作電圧を連続的に取得し、最大電力点に適切に追従できるようにします。その際、同機能によって消費される電力の量は約20mW~100mWです。20W~500W出力のパネルを対象として設計した場合、同機能は適切な効果をもたらすことが実証されています。MPPT機能によって消費されるエネルギーは、MPPTのアルゴリズムによって収集される追加のエネルギーと比べて非常に少なく抑えられているということです。

しかし、なかには1W出力のパネルを使用するアプリケーションも存在します。その場合、冬季の大部分、あるいは設置期間の大部分にわたり、同パネルによって得られる電力はわずか100mW程度にすぎない可能性があります。このようなアプリケーションについては、自己消費電流をはるかに少なく抑えつつ、最大電力点での稼働を実現するバッテリ・チャージャが非常に有用です。そうしたバッテリ・チャージャは既に開発されています。それらを使用すれば、太陽光発電用のセンサーを使ってより高い頻度で報告を行ったり、バッテリを交換することなく長期間システムを稼働させたりすることが可能になります。また、そうしたバッテリ・チャージャを利用した照明システムも実用化されています。それらのシステムは、太陽光に関する非常に厳しい条件に対応したり、よりサイズの小さいパネルを使用したりすることが可能なものとして実現されています。

アナログ・デバイセズの「LT8611」は、同期整流方式の降圧レギュレータICです。42Vの入力電圧、2.5Aの出力電流に対応します。また、自己消費電流は2.5μAに抑えられており、電流検出機能も備えています。同ICは、非常に広範な充電電流に対応しつつ、非常に高い効率で電力変換を実現する製品だと言えます。太陽光発電システムの性能は天候に大きく左右されます。そのようなシステムで使われるバッテリ・チャージャにとって、LT8611の特徴は大きな意味を持ちます。更に、同ICは出力電圧と出力電流を対象とするレギュレーション・ループを備えています。そのため、バッテリ・チャージャに求められる定電流(CC)機能と定電圧(CV)機能にも対応できます。本稿では、MPPTに対応する太陽光発電システムに最適なバッテリ・チャージャの設計方法を紹介します。そのチャージャは、LT8611、デジタル・ポテンショメータ「AD5245」、マイクロコントローラを組み合わせることによって実現します。このバッテリ・チャージャを採用すれば、光量の少ない状態から最大限の日光が得られる状態までにわたり、高い効率で最大2.5Aの充電電流を供給することが可能になります。なお、このソリューションを実装するには、マイクロコントローラ上で稼働するソフトウェアを開発する必要があります。本稿では、読者がMPPT用の最適なアルゴリズムを独自に開発することを望んでいると想定して解説を進めることにします。

本稿で使用するMPPT、MPPC(Maximum Power Point Control:最大電力点制御)という用語については、以下の記事をご覧ください。

ソーラー・パネルの電力出力を最大限まで高めるテクニック

太陽電池アプリケーションで真の最大電力点を能動的に検出する鉛蓄電池およびリチウム電池充電用の80V昇降圧コントローラ

MPPC機能の実現方法

LT8611によってMPPT機能を実現する方法を説明するにあたり、まずは 同ICのデータシートに掲載されている回路例に着目することにします。図1に示したのは、CCCV(Constant Current, Constant Voltage)充電に対応するバッテリ・チャージャの構成例です。この回路はリチウム・イオン・バッテリを対象としており、4.1V/1Aを出力することができます。

図1. LT8611をベースとするCCCVバッテリ・チャージャ

図1. LT8611をベースとするCCCVバッテリ・チャージャ

例として、十分な日光が得られる場合のVmp(最大電力電圧)が9Vで、出力が1Wのパネルを考えます。このパネルと3.8V出力のリチウム・イオン・バッテリを図1の回路に接続すると、どのようなことになるでしょうか。まず、イネーブルになったLT8611は、出力電圧を4.1Vに引き上げ、1Aの最大電流を供給しようとします。しかし、1W出力のパネルは、このレベルに対応する電力を供給することはできません。そのため、同パネルの電圧はVmpよりも低くなります。具体的には、バッテリの電圧にダイオードD1の順方向電圧(VF)を加えた値よりも少し高い値になります。

ここで、図1の回路に入力電圧のレギュレーション機能を追加します。そうすれば、LT8611はバッテリの充電電流を減らすよう動作し、パネルの電圧が最大電力点に維持されます。最初のステップとして、入力電圧のノードに抵抗分圧器を追加します(図2)。それによって得られる中間電圧をLT8611のTR/SSピンに供給すると、どうなるでしょうか。

図2. 図1の回路を改変した結果。LT8611に対し、入力電圧のレギュレーション機能を追加しています。

図2. 図1の回路を改変した結果。LT8611に対し、入力電圧のレギュレーション機能を追加しています。

LT8611の内部では、エラー・アンプのリファレンスとして970mVを使用しています。この回路の出力に付加する分圧器は、バッテリが4.1Vに達したときにFBピンに970mVがフィードバックされるように設計します。この分圧器により、バッテリの電圧が3.8VになるとFBピンにフィードバックされる電圧は900mVになります。ここで、LT8611はトラッキング機能を備えています。その機能は、TR/SSピンに印加される電圧が970mV未満の場合、FBピンがTR/SSピンと等しい電圧にレギュレートされるよう作用します。ここで、入力電圧のノードに付加した抵抗分圧器に注目します。同分圧器が、パネルの電圧が最大電力点の9VであるときTR/SSピンに900mVが印加されるように設定されているとしましょう。その場合、LT8611のトラッキング機能は、バッテリの電圧が3.8Vのときに入力電圧を9Vに維持するために、出力電圧(つまり、バッテリの充電電流も)を引き下げます。この回路は、バッテリの電圧に依存する入力レギュレーションまたはMPPCループを備えていることになります。しかし、これはあまり有用ではありません。マイクロコントローラは、パネルに対してMPPTのスキャンを実行するために、入力レギュレーション電圧を制御する必要があります。

MPPT機能の実現方法

入力電圧の調整機能は、電圧レギュレータの出力を調整する機能と同じように実装できます。通常は、エラー・アンプの入力(ここではTR/SSピン)に接続された直列抵抗と制御電圧を使用して実現することになるでしょう。制御電圧については、マイクロコントローラのPWM(Pulse Width Modulation)出力(フィルタを適用)を使用したり、D/Aコンバータ(DAC)で生成したりする方法が考えられます。実際、それらの方法を採用すれば、ハードウェアを簡素化してコストを最小限に抑えられる可能性があります。多くのマイクロコントローラは、そのために必要な機能を搭載しているからです。

ただ、そうした機能は、マイクロコントローラの消費電力を最小限に抑えた状態では使用できないことがほとんどです。一般的に言えば、それらの機能を使用する場合には約1mWの電力を消費することになるでしょう。それが問題にならないアプリケーションであれば、マイクロコントローラの機能を活用するのが最適な方法です。実際、図2の回路にPWM制御を適用した場合、相応の機能が得られることは実証されています。しかし、1mWの消費電力が問題になる場合には別の方法を検討する必要があります。また、パネルの動作範囲のスキャンに必要な時間を短縮できる方が望ましいでしょう。デジタル・ポテンショメータを活用すれば、そのようなニーズに対応しつつ必要な機能を実現できます。

AD5245は、256ポジションに対応するデジタル・ポテンショメータです。デジタル制御には、I2C互換のインタフェースを使用できます。わずか数μAの電源電流で動作し、抵抗値が最大100kΩのバージョンが用意されています。入力部の分圧器では上側の抵抗を309kΩとし、AD5245をレオスタット構成で使用しています。また、分圧器の下側には6.2kΩの抵抗を使用し、それと直列に同ICを接続しています。そのようにすれば、消費電力をほとんど増やすことなく、入力電圧を4.5V~40Vの間で調整することができます。その制御には、I2C互換のインタフェースを使用することが可能です。AD5245は、パネルが最大電力点で動作するようにプログラムします。そうすれば、マイクロコントローラの動作を低消費電力のスリーブ・モードに移行することができます。その場合、マイクロコントローラのスリープ電流(一般的に10μA未満)以外に電流は消費されません。

MPPTのスキャンを実行する際には、まずAD5245のコードを抵抗値が高い方から低い方へと変更していきます。最小4.5Vまでのオープン・サーキット電圧でパネルを動作させながら、LT8611のIMONピンの出力をA/Dコンバータ(ADC)でモニタリングします。それにより、バッテリの充電電流をトラッキングします。同電流が最大になる場合のAD5245のコードが、パネルとチャージャを組み合わせた回路の最大動作点に対応します。そのコードを設定してパネルを最大動作点で動作させると、マイクロコントローラは低消費電力の状態に移行します。

多くの場合、MPPTのスキャンは15分間隔で実行するようにスケジュールされます。その合間に何が起きるのか考えてみます。通り過ぎる雲によって一時的に覆われるなど、太陽の放射照度は比較的急速に変化します。それについてマイクロコントローラは関与しません。入力部の分圧器とLT8611のトラッキング機能により、パネルは最大動作点での稼働を続けます。バッテリの充電電流は太陽の放射照度に応じて変化します。

すべてのバッテリには、値の小さい内部インピーダンスが存在します。また、バッテリ・チャージャとバッテリの間にも小さなインピーダンスが存在するはずです。それらのインピーダンスの総計値は、通常100mΩ以下でしょう。ただ、通り過ぎる雲に覆われる間は、バッテリの充電電流の変化に伴い、LT8611の出力電圧に小さな変化が生じます。この変化によってバッテリの電圧にも小さな変化が生じ、それがLT8611のFBピンにフィードバックされる情報に反映されます。先述したように、LT8611のトラッキング機能は、FBピンの電圧がTR/SSピンの電圧と等しくなるように働きます。そのため、パネルの電圧は太陽の放射照度に応じて少し上昇します。これには、MPPT機能の有用性を高める効果があります。パネルの最大動作点電圧が、太陽の放射照度の上昇に伴って少し上昇するからです。

バッテリは長い時間をかけて充電されていきます。AD5245のコードが更新されない場合、バッテリ電圧の上昇に伴って、パネルのレギュレーションの目標電圧も上昇します。マイクロコントローラは、定期的にMPPTのスキャンを実行します。それにより、バッテリの充電中にパネルの電圧が最適な値に維持されるよう、AD5245を調整する必要があります。

図3に示したのがAD5245を活用した回路です。同ICに加え、マイクロコントローラ、LT8611、PowerPathコントローラ「LTC4412」を使用して構成しています。

図3. LT8611を使用して構成したMPPT対応のバッテリ・チャージャ。マイクロコントローラによって制御を行います。

図3. LT8611を使用して構成したMPPT対応のバッテリ・チャージャ。マイクロコントローラによって制御を行います。

LT8611のTR/SSピンの絶対最大定格は4Vです。2.6Vのクランプ機能を使用して同ピンを保護することにより、AD5245のワイパー・ピンはバッテリによって給電される電源電圧よりも低い値に維持されます。図2の回路はD1のVFの影響を受けていました。このD1は、LTC4412を理想ダイオード・コントローラとして使用することによって取り除いています。同ICは、ThinSOTパッケージを採用した低損失のPowerPathコントローラです。図3の回路では、同ICをLT8611の出力に適用しています。それにより、パネルからの電力が得られない場合のバッテリの消費電力を最小限に抑えます。

説明を簡素化するために、図3の回路図では細かい部分を意図的に省略してあります。他のアプリケーションでこの回路を利用したい場合には、いくつかの改変を行うことになるでしょう。例えば、LT8611のSYNCピンをマイクロコントローラによってハイ/ローに駆動するようにします。それにより、MPPTのスキャン中は出力電流の範囲全体でIMONピンの出力をアクティブな状態に保ち、スキャンの完了後に元に戻すといった具合です。そのようにすれば、最大限の効率が得られます。また、図3の回路を使用すれば、非常に低い電力レベルでパネルを稼働させられます。電力レベルが非常に低い場合、パネルのスキャンを実行する際にIMONピンの出力のピーク値を測定するのが難しくなります。そこで、MPPTのスキャンを行っている際、パネルの電圧とIMONピンの出力の両方を取得するようにMPPTのアルゴリズムを実装します。これが一般的に最も有効な方法だと言えます。また、IMONピンの出力のピーク値を取得できない場合、マイクロコントローラによってAD5245のコードを次のように設定する方法も考えられます。すなわち、オープン・サーキットのパネル電圧に対してあらかじめ定められた割合の電圧でパネルを稼働させられるよう設定を行うというものです。これは目新しい方法ではなく、消費電力の削減を目指したMPPTのアルゴリズムに対して大きな効果をもたらす可能性があります。

まとめ

電力レベルが非常に低い場合には、MPPTのスキャンの間隔を長くとる方法が有効です。そうすれば、MPPTのスキャンに伴う消費電力を削減できます。MPPTのスキャンを実行する必要があるか否かを判断するには、充電電流の値をリアルタイムで把握する必要があります。それだけでなく、前回のスキャンを実施した後、どれだけの電荷量が蓄積されたのかを追跡するとよいでしょう。「LTC2942」は、温度と電圧の測定機能を備えるバッテリ・ガスゲージICです。この製品を使用すれば、I2Cを介して、蓄積された電荷量をトラッキングすることができます。また、アルゴリズムの有効性の判定にも利用可能です。同ICを採用すれば、マイクロコントローラによって、消費電力と蓄積された電荷量のバランスを動的に調整することもできます。同ICは、精度が高く消費電力が非常に少ない製品です。電荷を蓄積中の消費電流はわずか70μAに抑えられます。更に、同ICを使用しないときにはシャットダウン・モードに移行することができます。より高いバッテリ電圧に対応する必要がある場合には「LTC2943」や「LTC2944」を使用するとよいでしょう。LTC2943は、温度、電圧、電流の測定機能を備えるマルチセル対応のバッテリ・ガスゲージICです。一方、LTC2944もLTC2943と同等の機能を備える製品ですが、マルチセルのバッテリの電圧として60Vに対応できます。同期整流方式の降圧レギュレータとしては、「LT8613」の採用を検討してもよいでしょう。同ICは、42Vの入力電圧、最大6Aの出力電流に対応します。自己消費電流は3μAであり、電流検出機能も備えています。

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Perry Faubert

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