概要
設計リソース
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-SDP-CB1Z ($116.52) System Demonstration Platform
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
AD7124 IIO Sigma-Delta ADC GitHub Linux Driver Source Code
機能と利点
- 精度0.1ºCのサーミスタ測定システム
- 高集積化ソリューション
- 最大4個(AD7124-4)または8個(AD7124-8)のサーミスタ
参考資料
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CN0545 User Guide2020/12/17WIKI
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CN0545: 低消費電力高精度 24 ビットシグマ・デルタ型 A/D コンバータを使用した全機能内蔵型 0.1°C サーミスタ測定システム (Rev. 0)2020/12/17PDF342K
回路機能とその特長
温度測定は、多くの場合、計装、工業用オートメーション、輸送、製造プロセス、医療用アプリケーションなど、あらゆるタイプのエンド・アプリケーションにおいて重要な役割を担っています。温度測定システムに使用できる温度センサーには、熱電対、白金測温抵抗体(RTD)、電子バンド・ギャップ・センサー、サーミスタなど、いくつかのタイプがあります。
実際に使用できる温度センサーとその設計は、測定する温度の範囲と、必要とされる精度によって異なります。温度範囲が−50°C~+150°C の場合は、感度、精度、コスト、シンプルさなどの点で、サーミスタが非常に優れたバランスを実現します。ただしサーミスタは、その一方で強い非直線性を示します。したがって、正確な温度値を得るには、回路を直線化する手法が必要になります。
図 1 に示す回路は、低消費電力低ノイズの内蔵 24 ビット・シグマ・デルタ型 A/D コンバータ(ADC)をベースとする、全機能内蔵型の0.1°Cサーミスタ測定システムです。このシステムは、高い分解能、低い非直線性、低ノイズ、そして優れた50Hz/60Hz 除去を実現することができます。システムの代表的なノイズ・フリー・コード分解能は約 14 ビットで、これは約0.01°C に相当します。
このシステムには、サーミスタ測定をサポートするために、定電流源、プログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)、内部リファレンス、抵抗測定に最適なアナログ入力バッファとリファレンス入力バッファを含め、いくつかの重要なシステム・ビルディング・ブロックが組み込まれています。これらのビルディング・ブロックが組み込まれていることで、センサーと直接インターフェースを取ることが可能になり、設計が大幅に簡素化され、プリント回路基板サイズ、コスト、消費電力も削減できます。
オンチップ・デジタル・フィルタリング、内蔵診断機能、3 つの電力モードなどの複数のオプションは、様々なアプリケーションに柔軟に対応することを可能にします。低消費電力モードで消費される電力はわずか 255μA で、通常消費電力モードでは930μA です。パワーダウン・モードでは、ADC 全体とその補助機能がパワーダウンされるので、デバイスが消費する電力は1μA に抑えられます。これらの電力オプションによって、このデバイスは、バッテリ電源アプリケーションやループ電源アプリケーション、および電源喪失が致命的な結果となるアプリケーションに適したものとなっています。
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回路説明
サーミスタについて
サーミスタは安価な非線形抵抗で、その抵抗値は温度によって大きく変化します。ほとんどの高精度アプリケーションは、負の温度係数(NTC)を持つサーミスタを採用しています。正の温度係数(PTC)のサーミスタもありますが、通常、これは安全用途、つまりリセット可能なヒューズとして使われます。PTC サーミスタが温度変化に対して示す抵抗値の変化は、温度がキュリー点(スイッチング温度とも言います)に達するまではわずかですが、この温度を超えると、数十度の温度変化に対する抵抗値が桁違いに増大します。通常、PTC サーミスタのスイッチング温度は 60°C~120°C です。これに対し、NTC サーミスタはこれよりはるかに広い温度範囲(通常は−50°C~+150°C)で使用できるので、工業用オートメーション、計装、医療を含む広範なアプリケーションに適しています。
サーミスタは RTD と同じように動作しますが、セラミック、ポリマー、または半導体(通常は金属酸化物)が使われており、その多くは、RTD よりはるかに良好な応答性と温度係数を備えています。サーミスタの高い感度は、RTD に対する明らかな利点です。リード抵抗を補償する必要がなくなるためです。これらのセンサーは、25°C における公称抵抗値により 1kΩ~10MΩの範囲で分類されます。
代表的な10kΩ NTCサーミスタの温度応答性を図 2に示します。図 2 を見ると、非直線性が強いことが分かります。これは、正確な温度値を得るには、測定した抵抗値を直線化する必要があることを意味します。
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サーミスタ・センサーについては、その許容誤差と精度限界を定めた工業規格が複数あります。図 1 の回路には、10kΩ のタイプ 44031 NTC サーミスタが使われています。このサーミスタは、−50°C(441.117kΩ)から+150°C(237.16Ω)までの温度を測定するように仕様規定されています。抵抗値は+25°C のときに10kΩ、精度は 0°C~+70°C において±0.1°C で、この範囲を超えると±1°C となります。
サーミスタの伝達関数
NTC サーミスタの抵抗は、温度の上昇と共に減少します。スタインハート・ハート(Steinhart-Hart)式は、標準的な NTC サーミスタの非線形応答(抵抗の温度特性)の補正に最適な数式となるように決定された経験式です。
抵抗の関数として温度を求めるスタインハート・ハート式は、次のように表されます。
ここで、
T は温度(ケルビン)、
A、B、C は、3 つの温度テスト・ポイントから求めた定数、
RTHはサーミスタの抵抗値(Ω)です。
A、B、C の値は特定のサーミスタ・モデルに固有の値で、選択したサーミスタのデータシートに記載されています。データシートから A、B、C の値が分かれば、この式を使い、測定した抵抗値の関数として温度値を直接計算することができます。
この回路ノートではモデル番号 44031 のサーミスタ(10kΩ)を使用しており、このモデルのスタインハート・ハート定数は A = 1.032 × 10−3、B = 2.387 × 10−4、C = 1.580 × 10−7です。
NTC メーカーによっては、定数 A、B、Cの値を示していないこともあります。この場合、サーミスタの仕様は 1 つの定数ベータ(β)によって規定されますが、これは、2 つの指定温度における抵抗値を使って計算された抵抗変化を表します。NTC サーミスタのデータシートに β の値しか記載されていない場合は、次の式を使って温度を決定します。
ここで、
R はサーミスタの抵抗値(Ω)、
R0は温度 T0(25°C = 298.15°K)における抵抗値、
T は温度(ケルビン)、
T0 = 25°C = 298.15K です。
式 2 は、本質的に、A = (1/T0) – (1/β)(lnR0)、B = 1/β、C = 0 の場合のスタインハート・ハート式です。
サーミスタ・アプリケーションを設計するときは、最小温度と最大温度におけるサーミスタの予想抵抗値を使用することによって、システムの動作温度範囲を最適化することが重要です。特定温度におけるサーミスタの抵抗値を決定するには、下に示すスタインハート・ハート式の逆関数を使用します。
ここで、
RTHはサーミスタの抵抗値(Ω)、
サーミスタ測定
サーミスタの 1°C あたりの抵抗変化は、他のタイプの温度センサーより大きい値を示します。例えば10kΩサーミスタの抵抗値は 25°C で 10kΩ ですが、−50°C におけるこの NTC サーミスタの抵抗は 441.117kΩ です。したがって、RTD などの他の抵抗型温度センサーよりも信号レベルが大きくなります。サーミスタは低温で高い出力電圧を生成する傾向があるので、AD7124-4/AD7124-8 で得られる最も小さい電流であっても、サーミスタの励起電流として適切とは言えません。例えば、−50°C で測定すると、50μA の励起電流は 441.117kΩ × 50µA = 22V の電圧を発生させます。この電圧レベルは、AD7124-4/AD7124-8 の仕様範囲を外れています。
RTHを測定する簡単な方法は、分圧回路の一部として、サーミスタを 0.01%検出抵抗(RSENSE)と直列に接続することです(図 1を参照)。一定した励起電圧を使用して RTH に電圧を発生させ、更に 24 ビットのシグマ・デルタ型 ADC を使って、この電圧を高精度のデジタル形式に変換します。この測定電圧を使ってRSENSEに流れる電流を計算しますが、この電流は RTHを流れる電流と同じです。したがって、RTHの値が得られます。
RSENSE の値は基準温度 25°C における RTHの大きさに等しいので、出力電圧は公称温度時の中間値です。温度が変化すると RTH も変化し、サーミスタに加わる励起電圧も変化して、RTHに比例した出力電圧が生成されます。
選択したリファレンス電圧を使用してサーミスタや RSENSE に電源を供給すると共に、ADC リファレンスと同じリファレンスを測定に使用することにより、励起電圧源の誤差を相殺してレシオメトリックな測定結果を得ることができます。
ADC がユニポーラ・モードで動作している場合に、サーミスタ電圧(VTH)を計算する一般式は以下のとおりです。
ここで、
CODE は ADC コード、
VREFはリファレンス電圧、
G は選択したゲイン、
N は ADC の分解能(この場合は 24)です。
ADC がバイポーラ・モードで動作している場合に、VTHを計算する一般式は以下のとおりです。
RTHを計算するための一般式は以下のとおりです。
サーミスタ設計時の考慮事項
このセクションでは、AD7124-4/AD7124-8 がサーミスタの正確な測定に必要な重要機能や特長を実現する仕組みについてと、測定時の接続および設定の方法について説明します。
ADC
システムの精度は、サーミスタ・センサーの仕様だけではなく、ADC の性能にも依存しています。AD7124-4/AD7124-8 は、サーミスタ測定用の集積化ソリューションを提供します。これらのデバイスは、高分解能、低い非直線性、低ノイズ、そして優れた 50Hz/60Hz 除去を実現することができます。 AD7124-4/AD7124-8 は、内部リファレンス、リファレンス・バッファ、および低ノイズ PGA を内蔵しているので、センサーと直接インターフェースを取ることができ、必要な外付け回路が最小限に抑えられます。
電源
AD7124-4/AD7124-8 の電源は、アナログ電源とデジタル電源に分かれています。デジタル電源(IOVDD)はアナログ電源(AVDD)から独立しており、DGND 基準で 1.65V~3.6V とすることができます。AVDD は AVSS を基準とし、低消費電力モード時と中消費電力モード時の範囲が 2.7V~3.6V、通常消費電力モード時は 2.9V~3.6V です。図 1 に示す回路は単電源で動作します。したがって、AVSS と DGND を接続して、1 つのグランド・プレーンだけを使用します。AVDD 電圧と IOVDD 電圧は、ADP150 電圧レギュレータを使って別々に生成されます。これらのレギュレータを使用するときは、AVDD 電圧を 3.3V、IOVDD電圧を 1.8V に設定します。別々のレギュレータを使用することで、ノイズが最小限に抑えられます。
消費電力モードの選択は、エンド・アプリケーションの電流バジェット割り当てに依存します。アプリケーションが、より高い出力データ・レートと優れたノイズ性能を必要とする場合は、AD7124-4/AD7124-8 を通常消費電力モードに設定することができます。ポータブル・アプリケーションには、低消費電力部品を使用する必要があります。また、一部の工業用アプリケーションでは、最大 4mA の電流バジェットが可能なように、システム全体の電源を 4mA~20mA ループから供給します。このタイプのアプリケーションでは、AD7124-4/AD7124-8 を低消費電力モード、または中消費電力モードに設定することができます。
アナログ入力、バッファ、およびゲインの選択
1°C あたりの抵抗変化によってサーミスタに発生する電圧は、2.5V の励起電圧を使用した場合、指定された温度範囲に対して数十ミリボルトから数ボルトの範囲になります。
10kΩ NTC サーミスタに発生する最大電圧は、約 2.44V です。したがって、全体としてのセンサー出力範囲が AD7124-4/AD7124-8の許容入力範囲内に収まるように、PGAゲインは1に設定されます。ゲイン 1 を使用するときは PGA がパワーダウンして、電流の消費が減ります。
AD7124-4/AD7124-8 には、高インピーダンスのアナログ入力段バッファ・アンプが組み込まれています。このため、入力は大きなソース・インピーダンスに耐えることができます。また、サーミスタなどの外部抵抗型センサーに直接接続できるよう、特別な設計となっています。PGA のゲインが 1 より大きい場合は、入力が自動的にバッファされます。ただし、ソース・インピーダンスが小さい限り、ゲインが 1 のときはバッファをディスエーブルできます。
CN-0545 では、高抵抗値(最大 441.11kΩ)のサーミスタによってアナログ入力が駆動され、これがかなりのゲイン誤差とオフセット誤差を生じさせる可能性があります。入力バッファをイネーブルすると、誤差を増やすことなく、幅広い抵抗値と電磁両立性(EMC)フィルタリングを使用できるようになります。バッファは、電源レールの上下に少なくとも 0.1V のヘッドルームを必要とします。この回路ノートに示すすべての回路は、アナログ入力が常にこのヘッドルーム条件の範囲内となるように設計されています。
リファレンス電圧と励起電圧
AD7124-4/AD7124-8 は、2.5V リファレンスを内蔵しています。このリファレンスは低ノイズ低ドリフトで、LFCSP 使用のAD7124-4/AD7124-8 の最大ドリフトは 15ppm/°C、AD7124-4TSSOP モデルと B グレード・モデルの最大ドリフトは 10ppm/°Cです。ADC へリファレンスを組み込むことは、必要な外付け部品の数を減らす上に、PCB サイズとシステム・コストの減少にもつながります。
図 1 に示す回路では、サーミスタ測定用のリファレンス電圧として内部リファレンスが選択されています。この 2.5V リファレンスがイネーブルされているときは、REFOUT ピンからこれを取り出すことができます。更に、サーミスタに電圧を発生させるための励起電圧としても使われるので、レシオメトリック構成が実現されます。
したがって、励起電圧や内部リファレンス電圧に見られる変動は排除されます。
また、この方法により、低温時にはサーミスタの抵抗値が大きくなりますが、サーミスタの電圧は常にリファレンス電圧より低い値に維持されます。これにより、全温度範囲を測定するための直接入力接続が、大幅に簡素化されます。
デジタル・フィルタリングとアナログ・ フィルタリング
差動フィルタ(約 800Hz でカットオフ)とコモンモード・フィルタ(約 16kHz でカットオフ)が、アナログ入力とリファレンス入力に実装されています。このフィルタは、変調器周波数および変調器高調波周波数における干渉を排除するのに必要です。
センサーから高精度の測定値を得るには、センサーのノイズと精度が全体的なシステム・エラーを支配しているということも重要です。ノイズは、ADC が識別できるセンサー信号レベル変化の最小値を制限するので、システムの精度に影響を与える可能性があり、結果としてシステムの分解能に直接影響します。ノイズは、実施したキャリブレーションにも影響する可能性があります。その理由は、キャリブレーションによって誤差がノイズと同等のレベルにまで減少する場合もあるからで、ノイズが小さければ、それだけ正確で再現性の高い測定が可能です。したがって、ADC の分解能とノイズ性能は、センサーのノイズ性能と分解能より数倍優れている必要があります。このことは非常に重要です。
AD7124-4/AD7124-8 は、オンチップ・デジタル・フィルタリングに関して非常に高い柔軟性を備えており、複数のフィルタ・オプションを使用することができます。選択したフィルタ・オプションは、出力データ・レート、セトリング時間、および50Hz と 60Hz の除去に影響します。この回路ノートでは、sinc4フィルタとポスト・フィルタが実装されています。sinc4 フィルタを使用するのは、このフィルタが全出力データ・レート範囲にわたって、優れたノイズ性能と高い 50Hz/60Hz 除去性能を備えているからです。ポスト・フィルタは、50Hz/60Hz 同時除去と 40ms のセトリング時間を実現するために使用します。
Filter Type | Input Condition | RMS Noise (μV) | Noise Free Resolution (oC) |
Sinc4 Filter, Full Power Mode, 50 SPS | Thermistor connected | 44.2 | 0.01 (14 bits) |
Input shorted | 0.45 | 0.0002 (20 bits) | |
Post Filter, Low Power Mode, 25 SPS | Thermistor connected | 72.9 | 0.02 (13.4 bits) |
Input shorted | 1.7 | 0.005 (18.7) |
表 1 にシステム RMS ノイズの値を示します。表 1 には、同じフィルタ、ゲイン、出力データ・レート設定で ADC アナログ入力を短絡した場合のノイズ性能も示されています。サーミスタ自体にもノイズがあるので、サーミスタを接続すると測定ノイズが大きくなります。
キャリブレーション
AD7124-4/AD7124-8 では、オフセット誤差とゲイン誤差の除去に使用できるキャリブレーション・モードを複数選択できます。この回路ノートでは、内部ゼロスケール・キャリブレーションと内部フルスケール・キャリブレーションが使われました。これらのキャリブレーションによって除去されるのは、ADC のゲイン誤差とオフセット誤差だけで、外部回路によって生じるゲイン誤差とオフセット誤差は除去されません。
診断機能
AD7124-4/AD7124-8 は診断機能を内蔵しており、アナログ・ピンの電圧レベルが指定された動作範囲内にあるかどうかをチェックできます。正のアナログ入力電圧(AINP)と負のアナログ入力電圧(AINM)は、過電圧、低電圧、および ADC 飽和の有無を別々にチェックすることができます。アナログ入力電圧がAVDD を上回ると過電圧がフラグされ、アナログ入力電圧がAVSS を下回ると低電圧がフラグされます。システムの広範な診断機能には、シリアル・ペリフェラル・インターフェース(SPI)バスの巡回冗長検査(CRC)とシグナル・チェーンの各種チェックも含まれており、より信頼性の高いソリューションを得ることができます。また、これらの診断機能によって診断機能実装用外付け部品の数を削減できるので、ソリューション・サイズの小型化、設計サイクル時間の短縮、コスト削減が実現されます。標準的なアプリケーションの故障モード影響/診断解析(FMEDA)の結果は、IEC 61508 に定められた安全側故障割合(SFF)が 90%を超えることを示しています。
サーミスタの配線構成
AD7124-4 は 4 つの差動チャンネルまたは 7 つの疑似差動チャンネルを使用するように構成でき、AD7124-8 は、8 つの差動チャンネルまたは 15 の疑似差動チャンネルを使用するように構成できます。両方とも、柔軟なマルチプレクシングを使用します。したがって、任意のアナログ入力ピンを正入力または負入力として選択できます。この機能により、ピンの接続チェックなどの診断を実行できます。この機能は、1 つのサーミスタまたは複数の NTCサーミスタを使用するための PCB設計も簡素化します。
NTC サーミスタを AD7124-4/AD7124-8 に接続する場合の構成を図 3 に示します。NTC サーミスタの 2 本のリードを、それぞれAIN2 ピンと AIN3 ピンに接続します。一定した励起電圧をサーミスタに加えるために、REFOUT も AIN2 と NTC サーミスタに接続します。RSENSE は NTC サーミスタと直列に接続してグラウンド基準とし、分圧回路を構成します。次に、この測定電圧(つまりサーミスタに生じる電圧)を使って、RSENSE に流れる電流を計算します。この電流は RTH を流れる電流と同じです。したがって、RTHの値も決定できます。
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シングル・サーミスタ測定用の AD7124-4/AD7124-8 の構成を以下に示します。
- 差動入力:AINP = AIN2、AINM = AIN3
- 電圧バイアス:REFOUT
- 内部リファレンス:2.5V
- デジタル・フィルタリング:sinc4 50SPS、およびポスト・フィルタ 25SPS
- PGA ゲイン = 1
- 精密 RSET = 10kΩ
- アナログバッファをイネーブル
サーミスタの測定結果
図 3 に示すサーミスタ回路について、異なるデジタル・フィルタ構成と消費電力モード構成の AD7124-4/AD7124-8 を使用して、データを収集しました。具体的には、デジタル・フィルタリングとアナログ・フィルタリングのセクションで述べたように、通常消費電力モードで sinc4 フィルタを使用し、低消費電力モードでポスト・フィルタを使用しています。
このサーミスタ・システムの代表的なノイズ・フリー・コード分解能は、通常消費電力モードと sinc4フィルタ選択時で 14ビット、低消費電力モードとポスト・フィルタ選択時で 13.4 ビットです。これらは、それぞれの温度測定において、約 0.01°C と0.02°C の誤差変動に相当します。サーミスタを接続した場合のノイズ分布を図 4 と図 5 に示します。
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以上のデータから得られた誤差(設定温度から測定温度を引いた値)を図 6 と図 7 に示します。それぞれのサーミスタ温度設定において、AD7124-4/AD7124-8 は 25°C に保たれています。図6 と図 7 に示すように、誤差はサーミスタ仕様の範囲内に収まっています。これらのプロットには、AD7124-4/AD7124-8 を異なる温度に設定した場合のサーミスタ誤差の偏差も示されています。AD7124-4/AD7124-8 のそれぞれの温度設定において、内部ゼロスケール・キャリブレーションとフルスケール・キャリブレーションが行われています。図 6 と図 7 に示すように、この場合も総合誤差はサーミスタのエンベロープ内に収まっています。
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内部ゼロスケール・キャリブレーションとフルスケール・キャリブレーションを 25°C で実施した場合の測定サーミスタ温度の誤差を、図 8 と図 9 に示します。プロットは、25°C でキャリブレーションを行った場合も、それぞれ異なるデバイス温度で行った場合も、同様の性能が得られることを示しています。
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複数サーミスタの配線構成
AD7124-4/AD7124-8 は、複数のサーミスタを測定するシステムとして使用できます。ADC で複数のチャンネルをイネーブルすると、ADC はイネーブルされたチャンネルのシーケンシングを自動的に行って、各チャンネルで 1 つの変換を行います。チャンネルを変更すると、フィルタが完全にセトリングするまで待ってから変換を行う必要があるので、全体的なスループット・レートに影響が出ます。したがって、複数のセンサーをマルチプレクスするときは、デジタル・フィルタの遅延を考慮することも重要です。
AD7124-4 には 4 つの NTC サーミスタを接続でき、AD7124-8 には最大 8 つの NTC サーミスタを接続できます。複数のサーミスタを使用するときは各サーミスタに専用の精密RSENSEが必要ですが、励起電圧(内部 VREF)は 1 つだけとし、すべてのサーミスタでこれを共有できます。少なくとも、それぞれの NTC サーミスタには AD7124-4/AD7124-8 の入力ピンが 2本必要です。
サーミスタの電圧を測定するには、以下の手順を実行します。
- REFOUT で使用できる内部リファレンスをイネーブルします。
- 入力にサーミスタが接続されたすべてのアナログ入力チャンネルをイネーブルします。
- 次に、REFOUT を RSENSEと直列接続された RTHに接続します。RTHの電圧はチャンネル 0(AIN0 および AIN1)で測定します。接続すると、イネーブルされたすべてのチャンネルを ADC が自動的にシーケンシングします。EVAL-AD7124-4SDZ と EVAL-AD7124-8SDZ には、AIN4 と AIN5の間にサーミスタが搭載されています。AIN4 と AIN5 を使用するときは、このサーミスタ(R28)を取り外してください。
一例として、ここでは AD7124-4 に 4 つの NTC サーミスタが接続されており(図 10 を参照)、AD7124-8 には 8 つの NTC サーミスタを接続することができます(図 11 を参照)。1 つの NTCサーミスタが AIN0 および AIN1 アナログ入力ピンに接続されており(チャンネル 0 構成)、励起電圧は REFOUT から供給されます。同様に 2つめの NTCサーミスタも AIN2および AIN3アナログ入力ピンに接続されており(チャンネル 1 構成)、REFOUT はバイアス電圧やその他の電圧にも使われます。複数の NTC サーミスタを使用する場合のチャンネル構成の詳細を表2 と表 3 に示します。表 2 は AD7124-4、表 3 は AD7124-8 についての詳細です。
Sensor | Channel | VREF | AINP | AINM |
RTH 1 | 0 | REFOUT | AIN0 | AIN1 |
RTH 2 | 1 | REFOUT | AIN2 | AIN3 |
RTH 3 | 2 | REFOUT | AIN4 | AIN5 |
RTH 4 | 3 | REFOUT | AIN6 | AIN7 |
Sensor | Channel | VREF | AINP | AINM |
RTH 1 | 0 | REFOUT | AIN0 | AIN1 |
RTH 2 | 1 | REFOUT | AIN2 | AIN3 |
RTH 3 | 2 | REFOUT | AIN4 | AIN5 |
RTH 4 | 3 | REFOUT | AIN6 | AIN7 |
RTH 5 | 4 | REFOUT | AIN8 | AIN9 |
RTH 6 | 5 | REFOUT | AIN10 | AIN11 |
RTH 7 | 6 | REFOUT | AIN12 | AIN13 |
RTH 8 | 7 | REFOUT | AIN14 | AIN15 |
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
バリエーション回路
NTC サーミスタ使用時にその性能と測定精度を向上させるには、サーミスタをできるだけ ADC に近付けて接続するのが最も良い方法です。ADC とセンサー間のパターン長が短いほど測定精度が向上するためです。
AD7124-4/AD7124-8 を使用する複数サーミスタ構成は、オン抵抗の小さい 4 × 1 または 8 × 1 の外付けマルチプレクサを使って実装することもできます。この場合は、1 つの精密検出抵抗(RSENSE)をすべてのサーミスタで共有することができます。この構成を使用する場合、測定時には、それぞれのサーミスタにある程度のセトリング時間が必要です。このセトリング時間については、デジタル・フィルタリングとアナログ・フィルタリングのセクション、および AD7124-4 と AD7124-8 のデータシートに記載されています。
全温度範囲を通じた動作の場合は、通常、システム全体を通じて、外付け部品とその温度係数または温度ドリフトの仕様が、誤差の主な要因となります。したがって、例えば検出抵抗または抵抗型センサーは、温度ドリフト誤差が生じる可能性を最小限に抑えるために、温度係数の小さいものを選ぶことが重要です。
回路の評価とテスト
このセクションでは、CN-0545 システムを動作させるために必要な、ハードウェアおよびソフトウェア関連の一般的ステップについての概要を示します。セットアップその他の詳細については、CN0545 ユーザ・ガイドを参照してください。
必要な装置
サーミスタ測定システムには以下の装置類が必要です。
- EVAL-AD7124-4SDZ または EVAL-AD7124-8SDZ 評価用ボード
- EVAL-SDP-CK1Z または EVAL-SDP-CB1Z システム・デモンストレーション・プラットフォーム(SDP)
- AD7124_Eval+ソフトウェア
- 電源
- 10kΩ(タイプ 44031)NTC サーミスタ・センサー
- 10kΩ 精密検出抵抗
- USB 2.0 ポートのある Windows® PC
セットアップとテスト
NTC サーミスタ構成用テスト・セットアップの機能ブロック図を図 12 に示します。
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ハードウェアのセットアップを行うには、以下の手順を実行します。
- CN0545 ユーザ・ガイドに従い、EVAL–AD7124-4SDZ または EVAL-AD7124-8SDZ のすべてのリンクを、デフォルトのボード位置に設定します。
- 10kΩ(タイプ 44031)NTC サーミスタ・センサーを、EVAL–AD7124-4SDZ または EVAL-AD7124-8SDZ の J6 コネクタに接続します。
- RSENSEに使用する 10kΩ 精密抵抗を、EVAL-AD7124-4SDZまたは EVAL-AD7124-8SDZ の J6 コネクタに接続します。
- 120 ピン・ヘッダーを介して、EVAL–AD7124-4SDZ またはEVAL-AD7124-8SDZ を EVAL-SDP-CB1Z に接続します。
- EVAL–AD7124-4SDZ または EVAL-AD7124-8SDZ に電力を供給します。
- デモ・モードに示す要領で、サーミスタと精密リファレンス抵抗を接続します(図 3 を参照)。
- USB ケーブルを介して SDP を PC に接続します。
AD7124_EVAL+ソフトウェアを実行します。この評価用ソフトウェアは AD7124-4 と AD7124-8 の両方に使用できます。このソフトウェアを使用する場合、PC に接続されている評価用ボードの選択はユーザが行います。AD7124-8 の場合は、ドロップダウン・メニューから EVAL-AD7124-8SDZ(AD7124-8 評価用ボード)を選択してください(図 13 を参照)。
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EVAL–AD7124-4SDZ または EVAL-AD7124-8SDZ を選択すると、図 14 に示すウィンドウが表示されます。
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AD7124-4/AD7124-8 を 1 つのサーミスタ測定用に設定するには、Demo Modes セクションの下にある Thermistor をクリックします(図 14 を参照)。
Demo Modes セクションの下にある Thermistor をクリックすると、サーミスタ構成用の ADC ソフトウェアを設定できます。この場合は、それぞれのサーミスタ測定用に AD7124-4/AD7124-8を設定する前に、もう 1 つのステップが必要です(AD7124-4/AD7124-8 の内部フルスケール・キャリブレーションとゼロスケール・キャリブレーション)。このキャリブレーションは、Registers タブを介して行うことができます(図 15 を参照)。
レジスタ・マップ設定キャリブレーションと測定手順の詳細については、CN-0545 ハードウェアおおびソフトウェア・ユーザ・ガイドを参照してください。
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