DN-279: VIDラインなしでI2CTMバスによって設定されるマイクロプロセッサ・コア電源電圧
はじめに
最近のCPUの多くは2つの異なったクロック・スピードで動作します。最適性能を得るため、それぞれのスピードには異なったコア動作電圧が要求されます。これらの電圧は、製造元の出しているCPUの仕様書のVID(電圧識別)の箇所に記載されています。新しいDC/DCコンバータ(たとえば、LTC®1909)のいくつかはVIDコントロールを内蔵しており、プログラム可能なデュアルの出力電圧をサポートしますが、既存の多くのコンバータはサポートしていません。 LTC1699は高精度2ステート抵抗分割器です。このデバイスは簡単なSMBusインタフェースを使って、VIDの機能をもたないDC/DCコンバータをVID制御できるようにします。VID専用のラインは不要です。
動作原理
DC/DCコンバータは正確な電圧分割器を使って出力電圧を内部リファレンスと比較し、検出された差を出力電圧を調節して補償することにより、出力電圧を一定に保ちます。LTC1699は2ステートの抵抗分割器です。帰還回路の固定電圧分割器と置き換えると、回路は電圧の異なる2つの出力をサポートできるようになります。これは、内部0.8Vリファレンスを使ったLTC1702A、LTC1628、LTC1735、LTC1778などのDC/DC PWMコンバータと組み合わせて使うように設計されています。
LTC1699は2つのプログラム可能な高精度出力電圧のどちらかを(コマンドを使って)選択することができます。2つの電圧は、一般に使われているSMBus (System Management Bus) シリアル・インタフェースを介して送られる5ビットのVIDワードによってプログラムされるので、専用のVID制御ラインは不要です。したがって、ホストのシステムは2つの方法で2つの電圧を切り替えることができます。つまり、SMBusインタフェースまたはセレクト(SEL)ピンのロジック信号を介したデジタル方式です。CPUの電圧が安定化されていると、LTC1699はパワーグッド信号を出します。この信号を使って、CPUと周辺システムに電源が仕様を満たしていることを知らせることができます。このICの機能強化版であるLTC1699EGNは電源のシーケンス制御とステータス・ラインを拡張し、I/Oやクロックの電源電圧のような、CPUシステムの他の電圧を管理する複数のDC/DCコンバータを管理します(図2参照)。
安定したCPU動作には正確なCPU電圧が不可欠なので、LTC1699の電圧分割器の精度は±0.35%以内です。LTC1699には3つのバージョンがあり、異なったIntel CPUとそれらの5ビットのVIDコードに基づいた固有の電圧テーブルをサポートします。LTC1699-80はIntelモバイル仕様に対応しています。デスクトップ規格では、LTC1699-81がVRM8.4仕様に対応しており、LTC1699-82がVRM9.0仕様に対応しています(テーブル1参照)。
図1.SMBusで制御される高効率DC/DCコンバータ
図2.16ピンSSOPパッケージのLTC1699EGNを使ったSMBus電源シーケンスと複数のDC/DCコンバータのコントロール
PART NUMBER | VOUT RANGE | VRM COMPATIBILITY |
LTC1699-80 | 0.9V to 2.0V | Mobile CPU |
LTC1699-81 | 1.3V to 3.5V | VRM8.4 |
LTC1699-82 | 1.075V to 1.85V | VRM9.0 |
SMBusを使う理由
SMBusは実装が簡単なので、システム・コントロールの標準規格として普及しています。SMBusは低消費電力の2線式シリアル・インタフェースとして開発され、CPU以外のシステム・サポート機能の制御や監視を標準化します。当初、再充電可能なインテリジェント・バッテリを備えた携帯用コンピュータ用に策定されましたが、大多数の携帯用コンピュータは最近バッテリ制御以外にもSMBusを使っています。電力フロー・コントロール、システムの温度監視および標準的冷却制御法として進化してきました。今では普及しているオペレーティング システムによってサポートされており、現行のPCの設計標準に組み込まれています。次の段階は当然SMBus経由のCPU電圧の制御であり、固有の制御インタフェースが不要になります。
SMBusには限界がいくつかあります。SMBusのバージョン1.0の規格にはエラー・チェックのプロトコルが無く、これは、正しい電圧が供給されないと正常に動作しない最近のCPUにとって潜在的に重大な問題となります。新しいSMBusのバージョン1.1にはオプションでエラー・チェックのプロトコルが含まれているとはいえ、広く使われているわけではありません。従来からSMBusを使っているシステムのほとんどはエラーに対する耐性がありますが、現在のデザインをSMBusのバージョン1.1プロトコルにアップグレードすると、通信用ソフトウェアとハードウェアがはるかに複雑になります。これらの問題に取り組み、それでもSMBusの利点を利用するために、リニアテクノロジーは、バージョン1.1のエラー・チェックを使わなくてもエラーを除去するためのいくつかの特別プロトコル手順と推奨事項を開発しました。
まずホストが予めプログラムされている電圧値を必要な頻度で書き込んだり読み出したりしてその値を検証できるようにします。次に、ホストがSMBusの2つの“ON”コマンドまたは“OFF”コマンドを続けて送るまで、プログラムされた値が有効にならないことです。“ON”の値または“OFF”の値のどのビットが間違っても、先行する電圧プログラミング・コマンドは拒絶されます。
LTC1699は特殊なロックアウト機能も備えています。最初のものは、電圧レジスタが設定されるまでは“ON”コマンドを無視します。さらに、2つの有効な“ON”コマンドのシーケンスが受け取られると、VIDレジスタがロックアウトされて電源が動作しているあいだ変化するのを防ぎます。最後に、LTC1699は、信号の完全性を高めるため、新しいSMBusバージョン1.1のロジック・レベルを実装しています。これらのテクニックは、両方一緒になって、普及しているSMBusを使ったCPU電圧の制御を堅牢で安全なものにします。
デスクトップ/携帯用VID DC/DCコンバータ
LTC1778コントローラとLTC1699を使ったコア電圧レギュレータの標準的実装を図1に示します。これに相当する回路として、モノリシックICのLTC1909を利用することができます。