EMI/EMC対応のSerDes - 基本的なテスト方法とガイドライン

要約

電磁干渉(EMI)および電磁環境適合性(EMC)のテストは、自動車アプリケーションでのシリアライザ/デシリアライザ(SerDes)デバイスの設計を検証するための重要な部分です。EMIおよびEMCは、不要な設計変更を避けるために設計段階の初期に考慮する必要があります。以下のアプリケーションノートでは、EMI/EMCテストのためにSerDesシステムを準備する方法について役立つ基本的な考え方とガイドラインを詳しく説明します。

同様の記事が「Electronic Design」の「AutoElectronics-online」の2009年8月3日号に掲載されています。

はじめに

LCDビデオディスプレイは、自動車アプリケーションでますます広く使用されるようになりつつあります。堅牢な設計、小型、および低コストによって、LCDビデオディスプレイは安全、ナビゲーション、およびインフォテイメントの各システムに理想的であるとされています。LCDディスプレイはディジタルであり、ピクセルごとにディジタル離散値で動作します。このディスプレイを駆動するメディア/グラフィックソースも通常はディジタルであるため、ビデオソースをディスプレイにインタフェース接続するためには、ディジタルリンクが最も簡単かつ高性能な方法です。このビデオリンク用のディジタルチャネルは、高帯域幅を供給する必要があります。たとえば、640 x 480ピクセルのカラーディスプレイは30fps (1秒当りのフレーム数)で動作します。赤色、緑色、および青色のピクセルごとに6ビットの解像度の場合、対応するデータ転送速度は640 x 480 x 30 x 18 = 166Mbpsです。正しく動作するためにはブランキング時間が必要となるため、実際の伝送速度は1ビット早くなければなりません。多くのディスプレイは、より多くのピクセルやより多数のピクセル/ビットを備えており、このビットレートが急速に上昇しています。このため、シリアライザ/デシリアライザ(SerDes)チップセットによってパラレルのディジタルデータを処理してシリアライズし、伝送することができるようにしています。MAX9209シリアライザなどの一部のデバイスでは、赤色、緑色、および青色のデータを分離して、3原色のそれぞれについて1つのシリアルチャネルと、さらにクロック用として4番目のチャネルを得ています。MAX9247シリアライザなどのその他のデバイスでは、埋込みクロック信号を用いてこのデータを単一のシリアルチャネルに結合しています。これらの手法ではどちらも、伝送の基本周波数が大幅に増大します。周波数の増大が問題を引き起こす場合があるものの、シリアライズした信号用として、適正にシールドされてインピーダンス整合された伝送媒体を簡単に提供することができます。

EMIテスト

EMIテストは、選択システムがまわりの他のシステムを破損しないことを保証するために自動車アプリケーションで必要となります。テストは放射妨害波と伝導性放射に対して実施されます。放射妨害波テストは主にアンテナを利用し、自由空間を通して他のシステムに放射するシステムの能力を検査します。不適切に設計されたSerDesシステムは、EMI仕様を満たさない場合があります。一方、伝導性放射テストは主にシステムの電源ラインに対して電圧と電流のプローブを用いて実施されます。SerDesシステムが電源ラインに直結されることはほとんどないため、伝導性放射が問題になることはめったにありません。

EMCテスト

EMIテストと同様、自動車アプリケーションにおけるEMCテストは、システムがまわりの他のシステムによって破損されないということを保証するために実施します。今日の自動車には多数の電子システムが存在するためEMCテストは極めて重要です。その電子システムのすべてに、広域スペクトルにわたって電流、インピーダンス、および動作周波数が存在します。EMCテストに使用されるバルク電流注入(BCI)は、テストされるシステムにとって特に過酷なテストです。BCIテストの仕様と方法は自動車の製造業者によって異なりますが、一般に数MHzから最大1GHzの周波数にわたる強力な外部磁場を必要とします。

ピクセルクロック周波数の選択

ピクセルクロックを適正に選択することができるかどうかがEMIに大きく影響します。SerDesビデオリンクは、高速ディジタルデバイスと同様、クロック周波数の整数高調波において、検出可能なレベルのEMIを放射します。自動車アプリケーションでは、EMI放射の限度は周波数によって異なります。自動車の製造業者の多くは特定の周波数帯域にわたってかなり厳しい限度を規定しています。たとえば、433MHzはリモートキーレスエントリ(RKE)に使用される周波数ですが、通常はEMI仕様の最も厳しい区域の1つです。ピクセルクロック周波数が33MHzのシステムを考えると、13番目の高調波は429MHzにあるため、これによって433MHzのRKE帯域内に干渉を発生する可能性があります。これよりわずかに低い周波数32.7MHzを選択すれば、13番目の高調波が425MHzに移動し、より十分な周波数マージンが得られます。

SerDes PCB EMI/EMCテストの共通要素

  • あらゆるICを接地することは、設計で実践すべき重要な要素ですが、SerDesシステムでは、さらにこれが最重要となります。すべてのグランドピンをローインピーダンスにする必要があり、またベタのグランドプレーンに接続する必要があります。複数のプレーンにPCBを分割することは推奨されません。PCB部品側の銅プレーン、さらに真下の連続銅プレーンは標準で実践すべき要素です。上面の銅プレーンはインピーダンス整合したトレースから離してください。差動ペアのトレース間の間隔を少なくとも3倍に保つことが良い手法です。
  • 1つのグランド接続について複数のビアを使用することを検討してください。ビアの寄生インダクタンスは、理想から外れた挙動の大きな要因となります。複数のグランドビアで分け合うことによってインダクタンスが減少し、結果として性能が向上します。
  • あらゆるICにバイパスを設けることは通常、重要な要素ですが、SerDesシステムではさらに重要となります。接地の推奨と同様、電源ピンも電源に対して低ACインピーダンスであることが必要です。これは特に、低電圧差動信号(LVDS)ライン、I/O電源ピン、および位相ロックループ(PLL)回路に使用される電源ピンに当てはまります。1つのピンについて2つのバイパスコンデンサを使用することをお勧めします。これら2つのコンデンサは通常、値が10倍~100倍異なります(たとえば、0.1µFと1nF)。値の小さい方のコンデンサをデカップリング/バイパスすべき電源ピンの最も近くに設ける必要があります。
  • SerDesシステムの電源ピンにフェライトビーズを使用することを検討してください。この場合も、LVDSライン、I/O電源ピン、およびPLL電源ピンに特に有用ですが、あらゆる電源ピンに適用することができます。フェライトビーズは高周波エネルギーの侵入と放出を低減します。ピークインピーダンスが100Ω~600Ωで、少なくとも100mA定格のフェライトビーズを選択してください。
図1は、MAX9247シリアライザを使用するPCBレイアウトの拡大図を表しています。重要な部品は、FB4、C6、およびC5であり、各部品の外形のすぐ右側にあるシルクスクリーンの参照識別子によって1列に配置されます。図1の底部に沿ってMAX9247の1つのコーナーが配置されています。FB4の右側の端子がビアを通って埋込みグランドプレーンに接続されます。FB4の左側の端子は、C6とC5の下側を通って、MAX9247の27ピン(シリアライザのVCCPLL電源ノード)に配線されます。FB4、C5、およびC6を接続するトレースは幅を広くして低インダクタンスが得られるようにしてください。このトレースは、MAX9247のピンピッチに合わせて狭くなるため、小さな多角形の銅をC5とMAX9247の間に使用して、トレースをできるだけ広くし、またできるだけシリアライザの近くに配置してください。さらに、C5およびC6を接地することで、各コンデンサに(各部品の右側に)グランドプレーンへの専用のビアが備わることになります。上部の銅プレーンは全面的にグランドであるため、C6とC5からMAX9247の26ピン(シリアライザのPLLGND)への低インダクタンスの直接パスが形成されます。

シリアライザに固有の推奨事項

シリアライザがEMIを放射しないようにするには、いくつかの基本的な考え方が必要となります。一般にシリアライザは、EMCテストに特に弱いわけではありませんが、シリアライザの出力には、定インピーダンスの平衡伝送ペアが必要です。ほとんどのシリアライザICは100Ωのインピーダンスに合わせて最適化されています。設計で不変の素子によって値が決定される場合は、これに近い値範囲を受け入れることが可能です。シリアライザの出力がボックスから出ていき自動車のワイヤハーネスに入る場合、これらの出力はバッテリへの短絡に対する耐性が必要となります。最も簡単な解決法は、0.1µFのコンデンサで各出力をAC結合することです。ただし、これを実行するためには、MAX9209MAX9217、またはMAX9247などのDCバランスシリアライザが必要となります。非DCバランスデバイスも使用することができますが、システム設計によって、必要なバイアス電圧が外部から供給されることを保証する必要があります。これは通常、実践的な手法ではありません。最後に、多くの場合、PCBから出ていく前のシリアライザの出力端にはコモンモードチョークが含まれます。これによって、シリアライザアセンブリから放射されるコモンモードノイズからの若干の保護が得られます。ただし、コモンモードチョークは通常、非常にわずかな改善しかもたらさないため、この挿入損失(公称1dB)がリンクの信頼性を損なうおそれがある場合は、使用すべきではありません。

図1. MAX9247シリアライザについて推奨されるバイパスと接地の詳細
図1. MAX9247シリアライザについて推奨されるバイパスと接地の詳細

デシリアライザに固有の推奨事項

シリアライザと同様、デシリアライザがEMIを放射しないようにするには、テスト/設計エンジニアがいくつかの基本的な考え方とガイドラインに従う必要があります。デシリアライザはEMCに対して脆弱な場合があり、またEMIを放射する場合もあるため、EMC事象からデシリアライザのアセンブリを保護するためには、基本的な考え方をいくつか見直す必要があります。

コモンモードチョークは、多くの場合、差動信号がPCBに入る場所に近いデシリアライザの入力端に含まれます。コモンモードチョークはコモンモードノイズの取り込みを最小限に抑えるのに役立ちます。コモンモードチョークは、システムが選択した動作周波数において低差動挿入損失であることが必要です。デシリアライザの入力には、定インピーダンスの平衡伝送ペアが必要です。ほとんどのデシリアライザデバイスは100Ωのインピーダンスに合わせて最適化されていますが、設計で不変の素子によって値が決定される場合は、これに近い値範囲を受け入れることが可能です。

デシリアライザの入力にAC結合が必要な場合、コモンモードチョークの後方でこれを行うことができます。この場合も、これらのコンデンサは、MAX9236やMAX9248などのDCバランスデシリアライザでのみ使用されます。差動ペアはレシーバ側ICのできるだけ近くで、100Ωの差動インピーダンスへの終端が必要となります。差動インピーダンスは100Ωにて維持されますが、コモンモードインピーダンスも低く維持する必要があります。テブナン終端システム、または中間ノードでグランドにバイパスした直列の50Ω抵抗のペアのいずれかを使用することができます。これらの手法の両方を図2に示します。EMI/EMCテストには、50Ω抵抗ペアを使用する手法が好ましい方法です。その理由は、以下のとおりです。

  • ICが独自のDCバイアスを設定することが可能となる
  • VCCノイズが終端に挿入されないv
  • 電力を消費しない
図2. 正しいLVDS終端の方法(左:テブナンの構成、右:50Ωの直列抵抗の構成)
図2. 正しいLVDS終端の方法(左:テブナンの構成、右:50Ωの直列抵抗の構成)

コネクタおよびケーブルハーネス

SerDesシステムで使用されるコネクタおよびケーブルは、システムの中枢部分と考えられ、これらのEMIおよびEMCテストへの影響は重大です。自動車アプリケーションでは一般的に、PCBのレセプタクルとケーブルのコネクタが通常、リンクの両側について単一の製造業者から供給されるようにしています。性能を最適化するため、コネクタは、定インピーダンスを維持して、シールドされたインタフェースを提供する必要があります。また、製造性や信頼性を保証するため、コネクタは単一の挿入極性とポジティブロックのみを許可する必要があります。

ケーブルも定インピーダンスを提供しなければならず、ケーブルのハーネスは放射を防ぐために厳重なシールドが必要となります。マルチペアケーブルを使用する場合、各ケーブルペアに個別のシールドが必要です。ユビキタスCAT5ケーブルは通常、自動車用のSerDes用としては不十分です。

コネクタおよびケーブルシステムは多くの製造業者から入手することができます。RosenbergerJAE、またはHiroseの製品をお勧めします。

一部のシステムでは、コネクタのシールドはリンクの片側のみが接地され、もう一方はコンデンサ(通常0.1µF)でグランドに接続されます。この結合が、グランド電位の違いによってケーブルシールド内にDC電流が流れるのを防ぎます。

他のEMI源

SerDesビデオリンクのもう1つのEMI源は、デシリアライザの出力です。この出力は、比較的高速のエッジによるCMOSロジックレベルです。CMOSロジック出力が正しくシールドされていない場合、これらもEMI放射を生ずる可能性があります。LCDパネルのロジック信号からEMIを低減する優れた方法は、MAX9242MAX9244MAX9246MAX9248、またはMAX9250などのスペクトラム拡散技術を用いてデシリアライザを使用することです。これらのデシリアライザは、ほとんどのシステム要件を満たすさまざまな動作モード、データ幅、および動作周波数を備えています。