DN-317: 昇圧レギュレータを使った低プロフィールの昇降圧SEPIC

はじめに

自動車用の分配型電源のアプリケーションとバッテリ駆動のアプリケーションは、多くの場合、大きく変化するバス電圧から得られる電圧で動作します。動作電圧はバス電圧範囲(たとえば、12V自動車用動作電圧の4V~18Vバス)の真中あたりに低下することが度々あります。これらのアプリケーションには、バス上に存在する電圧に依存して、昇圧または降圧が可能なDC/DCコンバータが必要です。フライバックとSEPICのデザインは、この問題を解決するために一般に使われるシングル・スイッチの解決法ですが、これらの解決法の両方とも一般にトランスを使用するので、スペースが貴重なアプリケーションではレイアウトと高さの問題が生じます。

トランスをベースにしたトポロジーに対する代替法の1つは、低プロフィールのインダクタ2個とSEPIC結合コンデンサを使う方法です。このコンデンサはトランスのコアと同様に2個のインダクタ間でエネルギーを伝達します。このカップリング・コンデンサによって低インピーダンスの経路が与えられ、インダクタ電流が入力(1次)インダクタからキャッチ・ダイオードを通って出力へ、または出力(2次)インダクタから逆にスイッチを通ってグランドに流れます。両方のインダクタは連続的に独立して動作するので、フライバック回路や標準的SEPIC回路のトランスに比べて簡単に選択できます。これらのインダクタの値は同じである必要はなく、ピーク電流と許容リップルに合わせて別個に選択することができます。

3V~20V入力、5V出力、高さ最大3mmのSEPIC

LT®1961(1.25MHz、電流モード、モノリシック、1.5Aピーク・スイッチ電流の昇圧コンバータ)を使った、3V~20V入力、5V出力、高さ最大3mmのSEPICを図1に示します。この回路の出力電流能力は入力電圧によって変化します(図3参照)。コンバータは3Vの入力では最大410mAの負荷電流を供給することができ、20Vの入力では最大830mAの負荷電流を供給することができます。十分な安定化状態を保ち、最大出力電力を供給するために、回路の1次側と2次側の間でRMSリップル電流を伝達して入力電圧に等しい電荷を維持するには、ここで使用されている小さなカップリング・コンデンサで十分です。LT1961の電流モードの制御トポロジーと10μFの小型セラミック出力コンデンサにより、広い入力電圧範囲にわたってすぐれた過渡応答が得られます。

図1.LT1961による3V~20V入力、5V出力のSEPIC(高さ最大3mm)

図1.LT1961による3V~20V入力、5V出力のSEPIC(高さ最大3mm)

 

 

図2.図1の回路の効率

図2.図1の回路の効率

図3.L1とL2のピーク・インダクタ電流の和は1.5A(ピーク・スイッチ電流)になる。最大出力電流はピーク・スイッチ電流でのL2の平均電流である。

図3.L1とL2のピーク・インダクタ電流の和は1.5A(ピーク・スイッチ電流)になる。最大出力電流はピーク・スイッチ電流でのL2の平均電流である。

4V~18V入力、12V出力、高さ最大3mmのSEPIC

12Vのバスは多くの場合広い入力電圧範囲の電源から得られます。たとえば、自動車用ソリューションでは、最高18Vから寒冷クランキング時の最低4Vの定常状態の動作電圧になることがあります。図4に示されているのは簡単な低コストで低プロフィール(3mm以下)のソリューションで、昇圧と降圧の両方のコンバータの使用による高コストを避けて、寒冷時のクランキング時に12Vのシステム電源を維持します。

図4.LT1961によるすべてセラミック・コンデンサを使った、4V~18V入力、12V出力のSEPIC (高さ最大3mm)

図4.LT1961によるすべてセラミック・コンデンサを使った、4V~18V入力、12V出力のSEPIC (高さ最大3mm)

スイッチのオフ時にキャッチ・ダイオード両端に生じる電圧(これは出力電圧に入力電圧を加えたものに等しい)を扱えるように、キャッチ・ダイオードの逆方向降伏電圧定格は40Vです。LT1961の最大スイッチ電圧定格は35Vなので、最大18Vまでの入力電圧の上昇を許容できます。DC電荷が入力電圧に等しいと、カップリング・コンデンサにより、スイッチ・ノードの電圧は入力電圧と出力電圧の和に等しいレベルに上昇します。どのスイッチング・コンバータのスイッチ・ノードにも小さな電圧スパイクが存在するので、最大スイッチ電圧定格と、入力電圧と出力電圧の和の間には数ボルトのゆとりが必要です。スイッチングのスパイクを最小に抑えるには、∆I/∆tが大きな不連続電流の流れる経路(図1と図4では太線で示されています)をできるだけ短くします。2つのパワー・インダクタの配置はそれほど影響しませんので、限られたスペースに収まるように電源のレイアウトをするのは簡単です。

図5に示されているように、効率は一般に75%を超え、80%ほどになります。これは12VのSEPICとしては平均よりも高く、価格とサイズが同程度の(入力が14V以上に制限されている)降圧コンバータに比べてそれほど低くはありません。最大負荷電流は、図6に示されているように、入力電圧とともに増加します。12Vの入力では500mAの負荷電流が可能で、18Vの入力では最大600mAが可能です。LT1961の最大スイッチ電流は1.5Aで、L1とL2のピーク電流の和です。出力電圧が高いと、入力インダクタの電流が増加します。

図5.図4の回路の効率

図5.図4の回路の効率

図6.図4の回路のピーク・インダクタ電流と最大負荷電流

図6.図4の回路のピーク・インダクタ電流と最大負荷電流

まとめ

LT1961は入力電圧範囲が広いアプリケーションのためのSEPICソリューションに最適です。このソリューションは小型で、簡単で、高さを低くできます。すべてセラミック・コンデンサと小型部品を使用できるので、電源のコストを最小に抑えることができます。ここに示されているインダクタを2個使ったSEPICでは、高さの高いトランスを使う必要がないので、柔軟にレイアウトして、デザイン上の厳しい制約に適合させることができます。

著者

Keith Szolusha

Keith Szolusha

Keith Szolushaは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ)のアプリケーション・ディレクタです。2000年からIPSパワー製品グループに所属しています。主に降圧/昇圧/昇降圧コンバータ、LEDやGaNに対応するコントローラ/ドライバなどの製品を担当。また、電源製品向けのEMIチャンバの管理も担っています。マサチューセッツ工科大学で1997年に電気工学の学士号、1998年に同修士号を取得。テクニカル・ライティングの集中コースも修了しています。