AN-934: VGA を1 個使用した60 dB の広いダイナミックレンジを持つ低周波AGC 回路

はじめに

低周波の自動ゲイン制御 (AGC) 回路は、感度の高いマイクロフォン・プリアンプやレギュレータのようなアプリケーション向けのオーディオ装置と電源装置で使われています。図 1 に、クローズド・ループ帰還システムを構成するAGC 回路を示します。ループは、制御可能なゲイン・エレメント、検出器、安定なリファレンス電圧、比較回路から構成されます。

図 1.可変 ゲイン・アンプを使用したAGC 回路
図 1.可変 ゲイン・アンプを使用したAGC 回路

このアプリケーション・ノートでは、低周波 AGC 回路について説明します。この回路では、ゲイン制御エレメントとして広いダイナミック・レンジを持つ可変ゲイン・アンプ (VGA)AD8336、検出器としてrms をDC へ変換するAD736 、低価格のレールto レール・オペアンプAD8551、リファレンス電圧としてLDO のADP3339 を使っています。 このアプリケーション・ノートでは、AD8336 が制御可能な広いゲイン・レンジと回路の柔軟性を持つためこれを採用しました。

制御可能な ゲイン ・エレメント

 
VGA は、従来型オペアンプ回路の場合のように、固定抵抗の設定によるのではなく、電子的にゲインを制御する特別なタイプの アンプです。VGA は、さまざまな通信アプリケーションで、自動ゲイン制御回路の一般的なソリューションとして広く使われています。

VGA は、数百KHz~数百MHz の周波数で動作します。理想的なVGA は、信号に歪みを与えることなく、リニアなアンプ動作をします。

VGA を使用する際には、ゲイン・エレメントはアンプと電子ボリューム制御との組み合わせになります。この例では、制御可能なゲイン・エレメントをさらに小型化して電子ポテンショメータと固定ゲイン・アンプにし、大きな歪みを導入することなく、入力信号を減衰させることにより、ループ・ゲインを調節します。ループのその他の基本エレメントは、検出器、安定なリファレンス電圧、加算回路です。この加算回路は、ループの状態を検出し、安定なリファレンスと比較し、それに従って出力を調節します。

図 2 にAD8336 の機能ブロック図を示します。

図 2. AD8336 の機能ブロック図
図 2. AD8336 の機能ブロック図

回路デザイン

オーディオ AGC では次の機能が必要とされます。

  • 広いダイナミック・レンジ。非常に低いレベルの信号と非常に大きい信号を増幅できる能力。
  • 全動作範囲で歪みの少ない増幅。
  • 最小ゲインおよび最大ゲインの上限と下限の調節方法

このアプリケーション・ノートで説明するAD8336 では、アナログ・デバイセズ独自のX-AMP® アーキテクチャを採用しています。このアーキテクチャは、等抵抗間隔で複数のタップが付いたラダー回路から構成されており、さまざまな差動アンプからアクセスすることができます。図 3 を参照してください。

図 3. AD8336 ラダー 回路
図 3. AD8336 ラダー 回路

この回路アーキテクチャ は、次の利点を持っています。

  • 受動抵抗ラダー回路は、歪みを発生することなくゲイン制御機能を実行します。
  • ゲイン・エレメントは、固定ゲインのオペアンプです。オペアンプのゲインは不変であるため、アプリケーションは、広い範囲の動作条件で最適化された一定の帯域幅、歪み、過負荷性能を活用することができます。

AD8336 は 広いゲイン・レンジ (60 dB) と広い電源電圧範囲を持つため、最大±15 V の電源で動作することができます。また、多目的のプリアンプを内蔵しているため、 反転、非反転、差動の入力構成が可能です。

プリアンプ・セクションとVGA セクションは完全に独立しているため、プリアンプ が不要な場合には、VGA 単体のエレメントとして使うことができます。ゲイン制御入力はフル差動です。 図 4 に、プリアンプ・ゲインの2 つの値に対して、VGA のゲイン特性を示します。

図 4. 種々の動作条件に対するAD8336 のゲイン特性
図 4. 種々の動作条件に対するAD8336 のゲイン特性

AGC 回路のデザイン例

信号電圧レベル

 
制御対象の信号電圧範囲、電源電圧、入力と出力の電圧レベルはすべて、AGC 回路に影響を与える要因です。この例では、AD8336 の60 dB ゲイン制御範囲を実現することを目標とします。まず、電源電圧は ±5 V とします。

電源電圧を指定すると、安定化出力電圧を設定することができます。プリアンプすなわち34 dB 固定ゲイン・ステージが飽和すると、有効出力振幅が約7 V p-p に制限されるため、最大公称振幅 5 V p-p は容易に実現できます。プリアンプ出力の電圧振幅を5 V p-p にして、 X-AMP 減衰器 を−26 dB (0.05×)に設定すると、出力電圧は250 mV p-p になります。プリアンプ・ゲインを−1× (ユニティ反転ゲイン (ノイズ・ゲイン2×と等価)に設定すると、最大入力電圧は5 V p-p になります。最後に、ゲイン 範囲を60 dB とすると、最小入力電圧は5 mV p-p になります。AGC回路は、入力電圧範囲60 dB (5 mV p-p~5 V p-p)、固定出力電圧250 mV p-p で動作します。

制御電圧レベル

 
AD8336 の差動ゲイン制御入力は、使用可能な制御電圧に合わせてレベル・シフトできるため、ゲイン制御駆動回路を大幅に簡素化することができます。この例では、GNEG 入力 (ピン 12)は0.75 V にバイアスされるため、 GPOS でのゲイン・レンジ電圧は1.5 V になります。

検出器

 
検出器としては、 rms からDC へ変換するAD736 を使用し、出力信号のrms 値に比例する正確な DC 制御電圧を出力します。AD736 の出力は、オペアンプの反転入力を駆動します。この オペアンプは、正確なループ制御を構成するために必要な非常に高いDC ゲインを得るために使用しています。

比較回路

 
AD8551 は単電源動作のレールto レール・オペアンプであり、非常に小さいオフセット電圧を持っています。非反転入力に加えられる電圧は、リファレンス電圧であり、出力のrms 値を設定します。比較対象の電圧は、rms からDC へ変換する変換器からの検出器電圧です。比較入力がリファレンス電圧を下回ると、比較出力電圧が増加して出力を公称レベルに戻します。

AGC 回路の動作

表 1 に、1 mV~2 V rms の入力について6 個の周波数に対してAGC 制御のデータを示します。一般的なオーディオ周波数範囲(20 Hz~20 kHz)の入力に対して平坦な出力レベルを示すプロットについては、図 6 を参照してください。出力レベルは、2 mVrms~2 V rms の範囲で平坦です。

表 1.
EIN
(V rms)
EOUT (mV p-p)
20 Hz 100 Hz 1 kHz 5 kHz 10 kHz 20 kHz
0.001 125 130 136 135 140 140
0.002 245 255 253 253 260 265
0.003 251 250 251 253 257 258
0.005 250 250 250 251 256 258
0.01 250 250 250 251 255 255
0.1 250 250 250 251 254 254
1 250 250 250 251 254 254
1.5 250 250 250 251 254 254
1.8 250 249 250 250 254 254
2 250 256 261 266 266 266
図 5. AD8336 を使用したAGC 回路
図 5. AD8336 を使用したAGC 回路
図 6. さまざまな周波数でのAGC 性能
図 6. さまざまな周波数でのAGC 性能

著者

James R Staley

James R. Staley

James R. Staleyは、アナログ・デバイセズの産業用電力システムのエンジニアリング・マネージャです。ノースカロライナ州立大学の電子工学科の卒業です。同学ではナノテクノロジーを専攻し、電子工学の学士号を取得しました。半導体業界で20年以上の経験を有しています。リニアテクノロジーとアナログ・デバイセズでは、アプリケーション・エンジニアリング、セールス・アプリケーション・エンジニアリング、システム・エンジニアリングなどの業務を担当してきました。現在は産業用および高精度計測器用の電力システムを担当しています。家族と共にノースカロライナ州ローリーに在住。