「ADALM1000」で、SMUの基本を学ぶトピック10:ローパス・フィルタとハイパス・フィルタ

アナログ・ダイアログの2017 年12月号から、アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM1000」について紹介しています。今回も、引き続きこのSMU(ソース・メジャー・ユニット)モジュールを使用し、小規模かつ基本的な測定を行う方法を説明します。ADALM1000に関する以前の記事は、こちらからご覧になれます。

図1 . ADALM1000 のブロック図
図1 . ADALM1000 のブロック図

目的

この実験では、RCローパス・フィルタとRLハイパス・フィルタの周波数応答を測定します。それを通し、パッシブ・フィルタ(受動フィルタ)の特性について学びます。

背景

パッシブ・フィルタは、抵抗、コンデンサ、インダクタといった受動部品だけを使って構成されます。オペアンプやトランジスタといった増幅用の素子は使用しません。つまり、パッシブ・フィルタでは増幅処理は行われないため、出力レベルは常に入力レベルよりも低くなります。

コンデンサとインダクタのインピーダンスは、周波数に依存します。具体的には、インダクタのインピーダンスは周波数に比例し、コンデンサのインピーダンスは周波数に反比例します。これらの特性を利用すれば、入力信号に含まれる特定の周波数成分を選択的に通過させたり、除去したりすることができます。このような処理をフィルタリングと呼びます。そして、このような目的で構成された回路がフィルタです。

フィルタはいくつかの種類に分けることができます。1つはハイパス・フィルタです。これは、高い周波数成分を通過させ、低い周波数成分を除去するというものです。逆に、低い周波数成分を通過させ、高い周波数成分を除去するものは、ローパス・フィルタと呼ばれます。ただ、多くのアナログ回路と同様に、フィルタについても完全に理想どおりの特性を実現できるわけではありません。ローパス・フィルタを例にとると、ある周波数成分までは完全に通過させ、それよりわずかでも周波数が高い成分は完全に除去する回路というのは実現不可能です。そのため、一般的には、フィルタを通過後の信号の振幅(電圧の振幅)が最大振幅の70%または1/√2の範囲内にあれば通過したと見なし、そうでなければ除去された(十分に減衰した)と考えます。フィルタ通過後の信号振幅が最大振幅の70%になる周波数のことを、カットオフ周波数、ロールオフ周波数、あるいは半値電力周波数と呼びます。

図2 . RCローパス・フィルタの概念図
図2 . RCローパス・フィルタの概念図

図2に、RCローパス・フィルタの概念図を示しました。低い周波数では、コンデンサC1のインピーダンスは抵抗R1の値と比べて非常に大きくなります。これは、コンデンサの両端の電位差VOが、抵抗での電圧降下よりもかなり大きくなるということを意味します。逆に、高い周波数では、コンデンサのインピーダンスが低下することで、抵抗での電圧降下が大きくなり、VOの値は小さくなります。

RCフィルタのカットオフ周波数は、以下の式で表されます。

数式1
図3 . RL ハイパス・フィルタの概念図
図3 . RL ハイパス・フィルタの概念図

次に、図3に示したハイパス・フィルタについて考えます。低い周波数では、インダクタL1のインピーダンスは抵抗R1の値に比べて非常に小さくなります。これは、インダクタの両端の電位差VOが、抵抗での電圧降下よりかなり小さくなるということを意味します。高い周波数ではその逆になります。すなわち、インダクタのインピーダンスが増大することによって、抵抗での電圧降下が小さくなり、VOの値が大きくなります。

RLフィルタのカットオフ周波数は、以下の式で表されます。

数式2

では、両フィルタの周波数応答はどのようになるのでしょうか。それを把握するには、フィルタの出力電圧の振幅を周波数の関数としてグラフ化するとよいでしょう。このようにして得た周波数応答は、フィルタを設計する際、対象とする周波数範囲における特性を確認するために使用されます。

図4 . 標準的なローパス・フィルタの周波数応答。図中のfcがカットオフ周波数です。
図4 . 標準的なローパス・フィルタの周波数応答。図中のfcがカットオフ周波数です。

準備するもの

  • ADALM1000
  • 抵抗:1kΩ
  • コンデンサ:1μF
  • インダクタ:20mH

手順

  1. RCローパス・フィルタ
    図5 . ブレッドボード上に構成したRC 回路
    図5 . ブレッドボード上に構成したRC 回路
    1. 1kΩの抵抗R1、1μFのコンデンサC1を使用し、ソルダーレス・ブレッドボード上に、図2に相当するRC回路を構成します。
    2. Channel A AWG」の最小値を0.5V、最大値を4.5Vに設定し、回路への入力電圧として、2.5Vを中心とする4Vp-pのサイン波を与えます。続いて、「AWG A Mode」ドロップダウン・メニューで「SVMI」モードを選択します。次に、「AWG A Shape」ドロップダウン・メニューにおいて「Sine」を選択します。さらに、「AWG B Mode」ドロップダウン・メニューで「Hi-Z」モードを選択します。
    3. ソフトウェア・モジュール「ALICE」の「Curves」ドロップダウン・メニューで、各信号を表示するために「CA-V」と「CB-V」を選択します。「Trigger」ドロップダウン・メニューでは、「CA-V」と「Auto Level」を選びます。その上で、「Hold Off」を2(ミリ秒)に設定します。画面上に約2サイクル分のサイン波が表示されるまで、時間軸を調整します。「Meas CA」ドロップダウン・メニューにおいて、「CA-V」の下の「P-P」を選択し、CBについても同じ設定を行います。続いて、「Meas CA」メニューで「A-B Phase」を選択します。
    4. 周波数を50Hzという低い値に設定し、オシロスコープ画面を使って、出力電圧(CB-V)のピークtoピーク値を測定します。結果はチャンネルAの出力と同じになるはずです。続いて、チャンネルBのピークtoピーク電圧がチャンネルAのピークtoピーク電圧の約0.7倍になるまで、チャンネルAの周波数を少しずつ上げていきます。最大振幅(Vp-p)の70%の値を計算しておき、オシロスコープ上でチャンネルBの信号振幅がその値になる周波数を確認します。その値が、このRCローパス・フィルタのカットオフ周波数です。
  2. RLハイパス・フィルタ
    図6 . ブレッドボード上に構成したRL 回路
    図6 . ブレッドボード上に構成したRL 回路
    1. 1kΩの抵抗R1、20mHのインダクタL1を使用し、ソルダーレス・ブレッドボード上に、図3に相当するRL回路を構成します。
    2. 手順Aのステップ2、3と同じように、オシロスコープの設定を行います。
    3. 周波数を20kHzという高い値に設定し、オシロスコープ画面を使って、出力電圧(CB-V)のピークtoピーク値を測定します。結果はチャンネルAの出力と同じになるはずです。次に、チャンネルBのピークtoピーク電圧がチャンネルAのピークtoピーク電圧の約0.7倍になるまで、チャンネルAの周波数を少しずつ下げていきます。最大振幅(Vp-p)の70%の値を計算しておき、オシロスコープ上でチャンネルBの信号振幅がその値になる周波数を確認します。その値が、このRLハイパス・フィルタのカットオフ周波数です。

問題

式(1) と式(2) を使って、RCローパス・フィルタとRLハイパス・フィルタのカットオフ周波数を求めてください。算出した理論値と実験によって得た測定値を比較し、なぜ違いが生まれるのか理由を説明してください。

図7. オシロスコープ画面の例。Time/Divを0.5ミリ秒に設定しています。
図7. オシロスコープ画面の例。Time/Divを0.5ミリ秒に設定しています。
答えはStudentZoneブログで確認できます。

注記

アクティブ・ラーニング・モジュールを使用する記事では、本稿と同様に、ADALM1000に対するコネクタの接続やハードウェアの設定を行う際、以下のような用語を使用することにします。まず、緑色の影が付いた長方形は、ADALM1000が備えるアナログI/Oのコネクタに対する接続を表します。アナログI/Oチャンネルのピンは、「CA」または「CB」と呼びます。電圧を印加して電流の測定を行うための設定を行う場合には、「CA-V」のように「-V」を付加します。また、電流を印加して電圧を測定するための設定を行う場合には、「CA-I」のように「-I」を付加します。1つのチャンネルをハイ・インピーダンス・モードに設定して電圧の測定のみを行う場合、「CA-H」のように「-H」を付加して表します。

同様に、表示する波形についても、電圧の波形は「CA-V」と「CB-V」、電流の波形は「CA-I」と「CB-I」のように、チャンネル名とV( 電圧) 、I( 電流)を組み合わせて表します。

本稿の例では、ALICE( Active Learning Interface for Circuits and Electronics)の Rev 1.1 を使用しています。

同ツールのファイル(alice-desktop-1.1-setup.zip)は、こちらからダウンロードすることができます。

ALICEは、次のような機能を提供します。

  • 電圧/電流波形の時間領域での表示、解析を行うための2チャンネルのオシロスコープ
  • 2チャンネルのAWG(任意信号発生器)の制御
  • 電圧と電流のデータのX/Y軸プロットや電圧波形のヒストグラムの表示
  • 2チャンネルのスペクトル・アナライザによる電圧信号の周波数領域での表示、解析
  • スイープ・ジェネレータを内蔵したボーデ・プロッタとネットワーク・アナライザ
  • インピーダンス・アナライザによる複雑なRLC回路網の解析、RLCメーター機能、ベクトル電圧計機能
  • 既知の外付け抵抗、または50Ωの内部抵抗に関連する未知の抵抗の値を測定するためのDC抵抗計
  • 2.5Vの高精度リファレンス「AD584」を利用して行うボードの自己キャリブレーション。同リファレンスはアナログ・パーツ・キット「ADALP2000」に含まれている
  • ALICE M1Kの電圧計
  • ALICE M1Kのメーター・ソース
  • ALICE M1Kのデスクトップ・ツール

詳細についてはこちらをご覧ください。

注) このソフトウェアを使用するには、PC にADALM1000を接続する必要があります。

図8 . ALICE Rev 1.1のデスクトップ・メニュー
図8 . ALICE Rev 1.1のデスクトップ・メニュー

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。