目的
今回は、代表的な能動回路であるオペアンプを取り上げます。オペアンプは、高い差動ゲイン、高い入力抵抗、低い出力抵抗が得られるように設計された理想的なアンプ部品だと言えます。実際、様々な回路アプリケーションの構成要素として広く利用されています。今回は、まず、能動回路のDCバイアスについて説明した上で、オペアンプの基本的な応用回路の動作を実験によって確認していきます。それを通して、実験用のハードウェアに関するスキルの向上も図ります。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM1000」
- ソルダーレス・ブレッドボードとジャンパ線のキット
- 抵抗:1kΩ(1個)
- 4.7kΩ(3個)
- 10kΩ(2個)
- 20kΩ(1個)
- CMOSレールtoレール・アンプ「AD8541」(2個)
- コンデンサ:0.1µF(2個、ラジアル・リード)
1.1 オペアンプの基礎
最初のステップ:DC電源に接続する
オペアンプには常に電源としてDC電圧を供給しなければなりません。他の部品を追加する前に、電源の接続を確立することが望ましいと言えます。図1は、ソルダーレス・ブレッドボード上でオペアンプに電源を接続する例を示したものです。ブレッドボード上では、正の電源とグラウンド用に2本の長いレールを使用します。また、オペアンプの仕様によっては、2.5Vの中間電圧を接続するためにもう1本のレールが必要になることもあります。電源レールとグラウンド・レールの間には、いわゆる電源デカップリング用のコンデンサを接続しています。このコンデンサの目的は、簡単に言えば、電源ラインのノイズを削減し、寄生成分によって発振が生じるのを回避することです(詳細な説明は別の機会に譲ります)。アナログ回路の設計において、各オペアンプの電源ピンの近くには、小さいバイパス・コンデンサが付加されることがほとんどです。常にこのようにすることが、良い設計だと考えられています。

ブレッドボードにオペアンプを差し込み、図1に示すようにワイヤと電源用のコンデンサを接続します。後で問題が生じるのを避けるために、ブレッドボードには、どのレールが5V、2.5V、グラウンドなのかを示す小さなラベルを張り付けておくとよいでしょう。ワイヤについても、5Vは赤、2.5Vは黒、グラウンドは緑といった具合に色で区別します。このような工夫により、配線に関する混乱を回避することができます。
次に、ADALM1000とブレッドボードの電源/グラウンドを接続します。つまり、ジャンパ線を使って、ADALM1000からブレッドボードのレールに対して5Vの電源電圧を供給すると共に、両者のグラウンドも接続します。電源のグラウンド端子がオペアンプ回路のグラウンド基準になることに注意してください。電源を接続したら、DMM(デジタル・マルチメータ)を使ってICのピンを直接プローブし、ピン7が5V、ピン4が0V(グラウンド)になっていることを確認するとよいでしょう。
なお、DMMで電圧を測定する前に、ADALM1000を必ずPCのUSBポートに接続してください。
ユニティ・ゲイン・バッファ(ボルテージ・フォロワ):
1つ目のオペアンプ回路は、図2に示すような簡単なものです。この回路は、ユニティ・ゲイン・バッファ、ボルテージ・フォロワなどと呼ばれます。あるいは、単にバッファと呼ばれることもあります。この回路の伝達関数はVOUT = VINです。一見、使い道がないように感じられるかもしれませんが、後述するように、実際の回路では、オペアンプの高い入力抵抗と低い出力抵抗が役に立つ場面があります。

それでは、実際にブレッドボードとADALM1000の電源を使って、図2に示す回路を構成してください。なお、図2の回路では、電源の接続を省略していることに注意が必要です。実際の回路では、図1に示したように(前のステップで行ったように)電源の接続を行います。同様に、以降で示す回路図では、電源の接続を省略します。電源を接続したら、ジャンパ線を使って、オペアンプの入力と出力を、それぞれ波形発生器の出力である「CA-V」とオシロスコープの入力である「CB-H」に接続してください。
続いて、チャンネルAの電圧源から、周波数が500Hzのサイン波を出力するように設定します。その振幅は、最大値が4.0V、最小値が1.0V(2.5Vを中心とする3Vp-p)とします。入力信号のトレースが「CA-V」として表示され、出力信号のトレースが「CB-V」として表示されるように、オシロスコープを設定します。得られた2つの波形のプロットをエクスポートし、実験レポート内にまとめてください。また、それらの波形のパラメータ(ピーク値と基本周期または基本周波数)も記録します。それらの波形によって、この回路はユニティ・ゲイン・バッファ(すなわちボルテージ・フォロア)として機能することが確認できるはずです。
バッファの活用例
オペアンプの入力抵抗が大きい(入力電流がゼロ)ということは、波形発生器にとって負荷はほとんど存在しないということを意味します。すなわち、ソース回路から電流が流れないので、内部抵抗における電圧降下は生じません(テブナンの定理)。このように、図2のオペアンプ回路は、システム内の他の部品が信号源の負荷として影響を及ぼさないよう保護するバッファとして機能させることができます。負荷回路の観点から言えば、このバッファは、非理想的な電圧源をほぼ理想的な電圧源に変換するものだと説明することもできるでしょう。図3に、このユニティ・ゲイン・バッファの機能を示すための簡単な回路を示しました。この例では、分圧回路と負荷である10kΩの抵抗の間にバッファが挿入されていることになります。

ブレッドボードから電源を切り離し、図3に示したとおりに抵抗を追加します。なお、図3では、図2のオペアンプのシンボルを上下にひっくり返しただけで、その接続には変更を加えていないことに注意してください。ワイヤの接続関係を見やすくするために、そのようにしただけです。
電源を再び接続し、周波数が500Hzで、最大値が4.5V、最小値が0.5V( 2.5Vを中心とする4Vp-p) のサイン波が出力されるように、波形発生器を設定します。そして「CA-V」(VIN) と「CB-H」(VOUT) を観察し、実験レポートに振幅を記録します。オシロスコープの入力である「CB-H」を使って、オペアンプの3番ピンに現れる信号の振幅も測定してください。
取得したプロットの例を図4に示しました。

10kΩの負荷抵抗の代わりに1kΩの抵抗を接続し、そのときの振幅を記録します。次に、1kΩの抵抗を3番ピンと2.5Vの間に移動し、4.7kΩの抵抗と並列になるようにします。そのときの出力振幅はどうなるでしょうか。予想を行った上で、実際の出力振幅の変化を記録してください。
シンプルなアンプ回路の構成
反転増幅回路
図5は、標準的な反転増幅回路を示したものです。同回路の出力には、10kΩの負荷が接続されています。

ブレッドボード上に、図5に示した反転増幅回路を構成してください。R2としては4.7 kΩの抵抗を使用してください。なお、新たに回路を構成する前には、必ず電源を切り離してください。必要に応じて抵抗のリード線を切ったり曲げたりして、ボード面に対して水平に保たれるようにしてください。また、それぞれの接続には、最短のジャンパ線を使用します( 図1のようなイメージです)。ブレッドボードの柔軟性の高さも活用してください。例えば、抵抗R2のリード線は、必ずしもオペアンプをまたいで2番ピンから6番ピンまでブリッジさせる必要はありません。中間ノードとジャンパ線を使って、オペアンプの周りを迂回させて構いません。
電源を再び接続し、電流を観察して想定外の短絡が存在しないことを確認します。次に、周波数が500Hzで、最大値が2.9V、最小値が2.1V(2.5Vを中心とする0.8Vp-p)のサイン波を出力するよう波形発生器を設定します。そして、再びオシロスコープ上に入力と出力を表示します。この回路の電圧ゲインを測定/記録し、理論値と比較します。入力/出力波形のプロットをエクスポートし、実験レポートにまとめてきます。
入出力のプロットの例を図6に示しました。

ここで、回路のデバッグについてコメントしておきます。回路を構築している際、正しく動作させるまでに大きな苦労が伴うこともあるでしょう。完璧な人など存在しないので、それは予想外のことではありません。大事なのは、回路が機能しない原因が、部品や実験装置の故障だろうと決めつけないようにすることです。実際、その考えが正しいことはほとんどありません。回路の問題の99%は、単純な接続ミスか電源に関する問題です。経験豊富な技術者でもたまにはミスを犯し、それを機に回路のデバッグ方法は非常に重要な学習項目であるということを再認識します。指導者の役割は、ミスの原因を突き止めることではありません。他人に頼るのは、実験の重要なポイントを見逃しているということを意味します。したがって、今後の実習もうまくいかないでしょう。オペアンプから煙が出たり、抵抗に茶色の焼け跡があったり、コンデンサが爆発したりといったことがなければ、おそらく各部品は引き続き使用できます。実際、ほとんどの部品は、多少の不適切な使用方法によって深刻な損傷を受けることはなく、ある程度は耐えられるようになっています。回路がうまく動作しないときには、部品や機器のせいにするのではなく、電源を切り離して単純な原因を探し出そうとするのが最善の策だと言えます。その際には、DMMが有効なデバッグ・ツールとなります。
出力の飽和
次に、図5 の帰還抵抗R2を4.7kΩから10kΩに変更します。そうすると、ゲインはどのように変化するでしょうか。2.5V中心のまま、入力信号の振幅をゆっくりと2Vまで増加させ、得られた波形を実験ノート用にエクスポートします。あらゆるオペアンプの出力電圧は、最終的には、電源電圧によって制限されます。ただ、通常は、オペアンプ内部の電圧降下によって、出力電圧は電源電圧よりかなり低い値に制限されます。上記の測定によって得られる結果に基づいて、AD8541内部で生じる電圧降下を数値で示してください。もし時間があれば、AD8541を「OP97」か「OP27」に変更し、出力電圧の最小値/最大値を比較してください。
加算回路
図7に示した回路は、4入力の基本的な反転増幅回路ですが、この種のものは特に加算回路(サミング・アンプ)と呼ばれています。ADALM1000で供給できるのは正の単電源なので、図7の回路は、教科書などで目にする加算回路とはやや異なる構成になっています。オペアンプの非反転入力は、グラウンドではなく、電源電圧の1/2である2.5Vに接続されています。そのため、加算回路としての入出力の式は、一般的なものとは多少異なるものとなります。入力抵抗の両端に現れる入力電圧については、いわゆるコモンモード・レベルである2.5Vが基準になります。つまり、2.5Vの減算が行われ、入力電圧が0Vであれば-2.5V、入力電圧が3.3Vであれば0.8Vになります。また、出力電圧についても、2.5Vのレベルが基準になります。つまり、一般的な式と比較すると、出力電圧についても、2.5Vのコモンモード・レベルが差し引かれる形になるということです。これについては、すべての入力電圧が2.5Vである(またはフロート状態にしている)ケースを考えてみるとよいでしょう。どの入力抵抗にも電流は流れず(その両端の電圧は0Vになります)、帰還抵抗にも電流は流れません(その両端の電圧も0Vになります)。その場合の出力は2.5Vになります。
この回路では、入力電圧源として4つのデジタル出力PIO 0、PIO 1、PIO 2、PIO 3を使用しています。それぞれ、0Vに近いロー出力または3.3Vに近いハイ出力のうちいずれかを出力します。重ね合わせの理を使うことで(2.5Vのコモンモード・レベルに対する修正も行って)、VOUTは、それぞれが固有のゲイン(1kΩの帰還抵抗をそれぞれの抵抗値で割った比)によって設定されるVPIO0、VPIO1、VPIO2、VPIO3の線形和になることがわかります。
PIO 0は最も値が大きく、出力の変化は最小になります(LSB)。一方、PIO 3は最も値が小さく、出力の変化は最大になります(MSB)。PIO 3の抵抗は、4.7kΩの抵抗を2本、並列に接続して作られている点に注意してください。

ブレッドボードから電源を切り離し、図7に示すとおりに反転増幅回路(加算回路)を構成します。電源を再び接続し、デジタル出力を制御して表1、表2を埋めていきます。表1には、各デジタル出力に対するローとハイの電圧を記入します。測定を行う際には、「CB-H」の入力をハイ・インピーダンス・モードに設定します。表2には、PIO 0、PIO 1、PIO 2、PIO 3のすべての組み合わせ(それぞれが1または0になる16通りの組み合わせ)に対する出力電圧を記入します。4つのビットすべてがフローティングまたはハイ・インピーダンス(X)のとき、出力電圧が2.5Vになることも確認してください。
デジタル・ピン | ローの電圧〔V〕 | ハイの電圧〔V〕 |
PIO 0 | ||
PIO 1 | ||
PIO 2 | ||
PIO 3 |
デジタル・ビット | 出力電圧〔V〕 |
P3, P2, P1, P0 | |
0000 | |
0001 | |
0010 | |
0011 | |
0100 |
図7に示した抵抗値の条件で、各入力の組み合わせに対する出力電圧の値を算出してください。その結果と測定値を比較してください。
非反転増幅回路
図8 に、非反転増幅回路の構成例を示しました。ユニティ・ゲイン・バッファと同様に、この回路は(通常は)入力抵抗が高いという望ましい性質を備えています。そのため、理想的ではない信号源をバッファリングし、なおかつ1より大きいゲインを得たい場合に役立ちます。

ブレッドボードを使用し、図8に示した非反転増幅回路を構成してください。作業を行う前に必ず電源を切り離してください。R2の値は1kΩとします。
周波数が500Hzで、最大値が3.0V、最小値が2.0V(2.5Vを中心とする1Vp-p)のサイン波を「CA-V」から印加します。そして、オシロスコープ上に入力と出力の両方を表示します。この回路の電圧ゲインを測定し、理論値と比較してください。また、波形のプロットをエクスポートし、実験レポートにまとめておきます。
入出力のプロットの例を図9に示しました。

続いて、帰還抵抗R2の値を1kΩから4.7kΩに変更します。増幅回路を扱う際には、出力が飽和(クリッピング)するのを防ぐために、入力の振幅を小さく抑える必要があるかもしれません。この点には注意が必要です。R2の値を変更すると、ゲインはどのように変化するか考察してください。
クリッピングが発生するまで、つまりは出力信号のピークが出力の飽和によって平坦になり始めるまで、帰還抵抗をより値の大きいものに順次変更してください。そして、クリッピングが発生する抵抗の値を記録しておきます。次に、帰還抵抗の値を100kΩに変更してください。その際の波形をノートに記述し、説明を加えておきます。この時点でゲインの理論値はどうなるでしょうか。また、そのゲインの条件下で出力レベルを5Vより低く抑えるためには、入力信号の振幅をどのような値にする必要があるでしょうか。実際に波形発生器の振幅をその値に設定すると共に、得られた出力について説明してください。
もう1つ、ゲインの高いアンプ回路において考慮すべき重要な点について触れておきます。ゲインの高い回路では、小さな入力信号が増幅されて大きな信号が出力されます。そのため、振幅の小さいノイズや妨害波も増幅される可能性があります。例えば、電源ラインから回り込んだ60Hzの信号が増幅されるといった具合です。その結果、意図せぬ出力の飽和が発生してしまうことがあります。アンプ回路は、入力端子に印加されるすべての信号を増幅するということに注意してください。
オペアンプをコンパレータとして使う
オペアンプは、高いゲインを備える回路です。また、出力を飽和させる効果も備えています。これらの特徴を活かせば、オペアンプをコンパレータとして使用することができます(図10)。これは、2つの状態を持つ意思決定回路だと表現することができます。非反転入力端子の電圧が反転入力端子の電圧より高ければ(VIN > VREF)、出力はハイになります(オペアンプの出力の最大値で飽和します)。逆に、VIN < VREFであれば、出力はローになります。つまり、この回路は2つの入力電圧を比較し、相対値に基づいて出力を生成します。ここまでに紹介したすべての回路とは異なり、図10の回路では、入力と出力の間にフィードバックの経路がありません。このような使い方をする場合、「オペアンプをオープンループで動作させる」と表現します。

コンパレータは、様々な用途で用いられます。今後、コンパレータの動作についても詳しく取り上げる予定です。ここでは、オペアンプをコンパレータとして使用し、パルス幅が可変の矩形波を生成する一般的な回路を構成します。
まずは電源を切り離し、図10の回路を構成します。反転入力端子に入力するDC電源VREFとして、ADALM1000から2.5Vを供給します。
ここでは、非反転入力端子への入力として、周波数が500Hzで、最大値が3V、最小値が2V(2.5Vが中心)の三角波を出力するよう波形発生器を設定します。この状態で電源を再接続し、入力波形と出力波形を取得/エクスポートします。
取得したプロットの例を図11に示しました。

次に、最小値と最大値を正の方向にシフトしたり、負の方向にシフトしたりすることで、三角波の中心をゆっくりと移動させます。そのとき、出力に何が起きるのかを観察すると共に、その動作について説明してください。
入力波形をサイン波とのこぎり波に変更して上記の内容を繰り返し、観察結果を実験レポートに記録してください。
問題
- スルー・レートについて:AD8541を使ってユニティ・ゲイン・バッファを構成した場合、スルー・レートはどのようにして測定したり計算したりすればよいでしょうか。それぞれの結果と、OP97のデータシートに記載されているスルー・レートの値を比較してみてください。
- 加算回路について:重ね合わせの理を使用し、図7の回路の伝達特性を導き出してください。またVIN0、VIN1、VIN2、VIN3から出力電圧を求めます。理想的な関係において想定される値と測定値を比較してみてください。
- コンパレータについて:VREFの極性を逆にすると、何が起きますか。
答えはStudentZoneで確認できます。