目的
今回のテーマはアクティブ・フィルタです。様々な回路構成のフィルタによって、どのような応答が得られるのかを確認します。フィルタは、回路に関する理論において最も多く登場する概念の1つです。これを使用する目的は、信号の振幅や位相を変化させることにあります。
アクティブ・フィルタは、パッシブ部品(抵抗、コンデンサ、インダクタ)に加えて、1つ以上のアクティブ部品を使用することで実現されます。通常、アクティブ部品としてはオペアンプが使用されます。それにより、フィルタの性能の向上、コストの低減、予測可能性の増大を図れます。また、アクティブ・フィルタを使用する場合、後続の回路段の負荷インピーダンスがフィルタの特性に及ぼす影響を軽減できます。更に、オペアンプの入力インピーダンスが高いことから、アクティブ・フィルタの出力には過剰な負荷がかかりません。
フィルタは、様々なアプリケーションで、以下のようなことを目的として使用されます。
- ゲインの高いアンプのDCオフセットを除去する
- 信号を分離し、所望の信号成分だけを通過させる(例えば無線レシーバーでは、フィルタによって必要な信号だけを通過させ、残りの信号は減衰させるということが行われる)
- A/D変換システムにおいてエイリアスを除去する
- D/A変換システムの出力部で周波数の高い成分(高調波の成分、サンプリング周波数の成分など)を除去し、信号を再構成する
理想的なフィルタの振幅応答は次のようなものになります。まず、対象とする周波数帯に含まれる信号成分はそのまま通過させます。フィルタにゲインがある場合には、信号成分を増幅/減衰した上で通過させることになります。一方、対象とする周波数帯に含まれない信号成分については振幅をゼロまで減衰させます。つまり、帯域外の信号成分は遮断するということです。なお、振幅応答がフィルタの固定ゲインからゼロに変化する周波数を、カットオフ周波数と呼びます。
図1に示したのは理想的なフィルタの応答の例です。4種の代表的なフィルタの特性を示してあります。
図1. 理想的なフィルタの応答
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- 抵抗:1kΩ(4個)、10kΩ(3個)、470Ω(1個)、9kΩ(1個。6.8kΩ と2.2kΩ の抵抗を直列で使用)、2kΩ(1 個。1kΩ の抵抗を2 個直列で使用)
- コンデンサ:1nF(2個)、10nF(2個)、1μF(1個)
- 高精度のオペアンプ:「OP37」または「OP27」(5個)
ゲインの制御が可能なアクティブ・ローパス・フィルタ
最初に取り上げるのは、図2に示すフィルタ回路です。
図2. ゲインの制御が可能なアクティブ・ローパス・フィルタの回路
このアクティブ・ローパス・フィルタを使用すれば、シンプルなパッシブ・ローパス・フィルタと同じ周波数応答が得られます。オペアンプは、信号を増幅すること、またそのゲインを制御することを目的として追加されています。この回路は、オペアンプの非反転入力に、基本的なRCローパス・フィルタ(パッシブ・ローパス・フィルタ)が接続されたものだと見なすことができます。それにより、周波数の低い信号だけを通過させるフィルタ処理を実現しています。信号が通過する周波数範囲を通過帯域(パスバンド)と呼びます。
通過帯域の信号については、オペアンプ回路のゲインAで振幅が増幅された状態で出力されます。ゲインAは、以下のように、入力抵抗R1とフィードバック抵抗R2に依存する関数として表されます。
そして、このアクティブ・ローパス・フィルタ(1次のローパス・フィルタ)全体のゲインは、以下に示す周波数の関数となります。
各変数の意味は以下のとおりです。
A:電圧ゲイン
f:入力信号の周波数
fc:カットオフ周波数
カットオフ周波数は、以下に示す式で一般化されます。
式(2)に示したとおり、このフィルタ回路全体のゲインは入力信号の周波数に依存します。入力信号の周波数がカットオフ周波数よりも低い場合、ゲインはAに近い値になります。また、入力信号の周波数がカットオフ周波数と等しい場合、ゲインはA/√2になります。カットオフ周波数よりも周波数が高い入力信号については、その周波数に依存して出力電圧が低下する(振幅が減少する)ことがわかります。
ハードウェアの設定
図2の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図3)。ADALM2000を使用して、正の電源には5V、負の電源には-5Vを供給します。
図3. 図2の回路を実装したブレッドボード
手順
ソフトウェア・ツール「Scopy」を使用して、ADALM2000のネットワーク・アナライザ機能を起動します。その際、チャンネル1を基準として設定してください。続いて、掃引の開始周波数を10Hz、終了周波数を1MHzに設定しましょう。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定することにします。表示については、振幅の上限値を30dB、下限値を-30dB、位相の上限値を90°、下限値を-270°に設定します。サンプル数は100に設定しましょう。電源を投入し、周波数掃引を1回実行してください。すると、周波数を横軸とする振幅と位相のグラフが得られます(図4)。図2の回路のシミュレーションを行った場合、その結果と図4のグラフは非常に似たものになるはずです。
図4. 図2の回路の周波数応答
反転アンプをベースとするアクティブ・ローパス・フィルタ
図5に示したのは、反転アンプ回路を使用して構成したアクティブ・ローパス・フィルタです。図2の回路とは異なり、入力信号はオペアンプの反転入力に印加されます。
図5. 反転アンプをベースとするアクティブ・ローパス・フィルタの回路
このフィルタは、通過帯域の信号に対してはゲインがAの反転アンプとして機能します。ゲインAは、以下の式のとおり、入力抵抗R1に対するフィードバック抵抗R2の比に負の符号を付けた値になります。
この回路のカットオフ周波数は、図2の回路(非反転型のアクティブ・ローパス・フィルタ)の場合と同様の方法で求められます。
ハードウェアの設定
図5の回路を、ソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図6)。正の電源には5V、負の電源には-5Vを供給します。
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード
手順
ネットワーク・アナライザ機能を起動し、チャンネル1を基準として設定します。また、掃引の開始周波数を1kHz、終了周波数を500kHz、サンプル数を100に設定してください。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定することにしましょう。表示については、振幅の上限値を30dB、下限値を-30dB、位相の上限値を180°、下限値を0°に設定します。電源を投入し、周波数掃引を1回実行してください。その結果として、周波数を横軸とする振幅と位相のグラフが得られます(図7)。そのグラフは、図5の回路のシミュレーション結果に非常に近い形になるはずです。
図7. 図5の回路の周波数応答
ゲインの制御が可能なアクティブ・ハイパス・フィルタ
次に、図8の回路について検討します。
図8. ゲインの制御が可能なアクティブ・ハイパス・フィルタの回路
この回路は、アクティブ・ハイパス・フィルタとして機能します。つまり、高い周波数成分だけを通過させます(必要に応じて増幅することも可能です)。その回路構成は、高い周波数成分を通過させるRCハイパス・フィルタ(パッシブ・ハイパス・フィルタ)に、増幅とゲインの制御を行うためのオペアンプ回路を追加したものだと見なすことができます。このフィルタにより、パッシブ・ハイパス・フィルタと同じ周波数応答が得られます。オペアンプ回路のゲインAは、非反転型のアクティブ・ローパス・フィルタと同様に、入力抵抗R3とフィードバック抵抗R2の値に依存します。
以下に示すように、このアクティブ・ハイパス・フィルタ(1次のハイパス・フィルタ)全体のゲインは周波数の関数となります。
各変数の意味は以下のとおりです。
A:電圧ゲイン
f:入力信号の周波数
fc:カットオフ周波数
ハードウェアの設定
図8の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図9)。正負の電源はADALM2000から供給してください。
図9. 図8の回路を実装したブレッドボード
手順
Scopyによってネットワーク・アナライザ機能を起動し、チャンネル1を基準として設定してください。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定しましょう。表示については、振幅の上限値を30dB、下限値を-25dB、位相を-180°~180°に設定することにします。サンプル数は100に設定してください。
電源を投入し、500Hz~1MHzの周波数掃引を1回実行しましょう。
すると、図10のような結果が得られるはずです。この周波数応答を、理想的なハイパス・フィルタの周波数応答と比較してみてください。すると、現実のアクティブ・ハイパス・フィルタの周波数応答は、オペアンプの帯域幅またはオープン・ループの特性によって制限されることがわかります。具体的には、一定の周波数を超えると、周波数が高くなるにつれてゲインが減少していきます。このような周波数領域が存在することから、バンドパス・フィルタの周波数応答と似ているように見えます。
図10. 図8の回路の周波数応答
アクティブ・バンドパス・フィルタ
ここまで、ローパス・フィルタとハイパス・フィルタについて検討してきました。これらのフィルタでは、1つのカットオフ周波数によって通過帯域が決まります。すなわち、ローパス・フィルタではDCからカットオフ周波数までが通過帯域になります。一方、ハイパス・フィルタの通過帯域はカットオフ周波数よりも周波数が高い領域に相当します。両フィルタとは異なり、バンドパス・フィルタには2つのカットオフ周波数が存在します。それら2つの間の周波数範囲が通過帯域になります。
図11. アクティブ・バンドパス・フィルタの回路
図11に示したのは、アクティブ・バンドパス・フィルタのシンプルな構成例です。この回路は、3つの段から成ります。1段目はRCハイパス・フィルタです。これにより、下限(低い側)のカットオフ周波数fLが決まります。つまり、fLよりも周波数が低い成分は減衰します。2段目は増幅段です。この部分には、ハイパス・フィルタを通過した信号を増幅するオペアンプ回路が配置されています。3段目はRCローパス・フィルタです。これにより、上限(高い側)のカットオフ周波数fHが決まります。つまり、fHよりも周波数が高い成分は減衰されます。このバンドパス・フィルタの帯域幅は、fLとfHの差によって決まります(以下参照)。
そして、このフィルタ全体の電圧ゲインは、次の式で表されます。
各変数の意味は以下のとおりです。
Amax:トータルの電圧ゲイン。ハイパス段のゲインとローパス段のゲインを乗算することによって決まる
f:入力信号の周波数
fL:下限のカットオフ周波数
fH:上限のカットオフ周波数
回路をよく見ると、このアクティブ・バンドパス・フィルタは基本的に2次のシステムであることがわかります。つまり、1つのローパス・フィルタと1つのハイパス・フィルタをカスケード接続することにより、2次のバンドパス・フィルタが実現されているということです。このフィルタでは、リアクティブ部品であるコンデンサを2個使用しています。そのため、ピーク応答が生じます。共振周波数frは、以下に示すように、2つのカットオフ周波数の幾何平均となります。
なお、共振周波数は中心周波数とも呼ばれますが、以下では共振周波数という用語を使用することにします。式(8)に示したように、共振周波数はカットオフ周波数によって決まります。そして共振周波数が決まれば、フィルタのQ値(品質係数)も決まります。Q値はフィルタの選択度の指標であり、以下のように、帯域幅に対する共振周波数の比として定義されます。
2次のフィルタの周波数応答は、ゲイン、共振周波数、Q値によって決まります。Q値が1よりも大きい場合、バンドパス・フィルタの通過帯域はかなり狭くなります。Q値が1よりも小さければ、通過帯域は広くなります。
ハードウェアの設定
図11の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図12)。正負の電源はADALM2000から供給します。
図12. 図11の回路を実装したブレッドボード
手順
Scopyを使用してネットワーク・アナライザ機能を起動し、チャンネル1を基準として設定します。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定しましょう。表示については、振幅が-10dB~25dB、位相が-150°~100°と設定することにします。サンプル数は100に設定してください。
電源を投入し、100Hz~500kHzの周波数掃引を1回実行してください。すると、図13のような結果が得られるはずです。
図13. 図11の回路の周波数応答
アクティブ・バンドストップ・フィルタ
ローパス・フィルタとハイパス・フィルタを組み合わせて実現できるのは、バンドパス・フィルタだけではありません。
図14のように組み合わせれば、アクティブ・バンドストップ・フィルタを構成できます。バンドストップ・フィルタはバンドリジェクト・フィルタとも呼ばれます。その機能は、アクティブ・バンドパス・フィルタとは逆になると考えることができます。つまり、下限のカットオフ周波数と上限のカットオフ周波数の間の周波数成分が減衰(遮断)されます。通過するのは、DCから下限のカットオフ周波数までの信号成分と、上限周波数よりも周波数が高いすべての信号成分です。
図14. アクティブ・バンドストップ・フィルタの回路
上述したように、図14の回路はハイパス・フィルタとローパス・フィルタを組み合わせることで実現されています。入力信号は、ハイパス・フィルタとローパス・フィルタの両方に同時に供給されます。そして、各フィルタの出力は加算アンプ回路に入力されて増幅されます。ローパス・フィルタとハイパス・フィルタを加算によって組み合わせるわけですが、両者の周波数応答はオーバーラップしません。バンドストップ・フィルタは、バンドパス・フィルタと同じように2次のシステムです。
バンドストップ・フィルタの帯域幅、Q値、共振周波数は、バンドパス・フィルタと同様に決まります。
また、バンドパス・フィルタと同様に、バンドストップ・フィルタもQ値が1より小さければ遮断される帯域が広くなります。Q値が1より大きければ遮断される帯域はかなり狭くなります。狭帯域のバンドストップ・フィルタは、ノッチ・フィルタとも呼ばれます。図14の回路はノッチ・フィルタの一例です。
ハードウェアの設定
図14の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装します(図15)。正の電源を5V、負の電源を-5Vに設定します。
図15. 図14の回路を実装したブレッドボード
手順
ネットワーク・アナライザ機能を起動し、チャンネル1を基準として設定します。また、サンプル数は250に設定すると共に、10Hz~500kHzの対数掃引を実施するための設定を行います。波形については、振幅を200mV、オフセットを0Vに設定します。表示については、振幅を-30dB~30dB、位相を-180°~180°に設定することにしましょう。電源を投入して測定を行うと、図16のような結果が得られるはずです。
図16. 図14の回路の周波数応答
問題
パッシブ・フィルタではなくアクティブ・フィルタを使用すると、どのようなメリットが得られますか。
答えはStudentZoneで確認できます。