ADALM2000による実習:アクティブ・フィルタ【Part 2】

2次のアクティブ・フィルタ

前回の記事「ADALM2000による実習:アクティブ・フィルタ【Part 1】」では、各種のフィルタ回路について検討しました。取り上げたのは、ローパス・フィルタ、ハイパス・フィルタ、バンドパス・フィルタ、バンドストップ・フィルタの4種です。それらのうち、バンドパス・フィルタとバンドストップ・フィルタは、2次のフィルタ・システムとして構成されていました。では、なぜそのような構成が必要だったのでしょうか。2次のフィルタ回路では、その周波数応答に影響を与えるリアクティブな部品を2つ使用します。例えば、1次のフィルタを2つカスケード接続する形でリアクティブな部品を2つ使用したとします。そうすると、ゲインのロールオフ率は-40dB/decになります。つまり、ロールオフ率はリアクティブな部品が1つの場合の2倍になるということです。

高次のアクティブ・フィルタを設計する際には、1次のアクティブ・フィルタ(RCフィルタ)が重要な構成要素として使われます。2次のフィルタもそれと並ぶ重要な構成要素です。2次のフィルタでは、オペアンプが電圧制御電圧源(VCVS:Voltage Controlled Voltage Source)アンプとして使用されます。そのため、2次のフィルタはVCVSフィルタとも呼ばれます。

2次のフィルタは、様々な構成で実現されます。代表的なものとしては、バターワース、チェビシェフ、ベッセル、サレンキーなどがあります。

サレンキー型の2次ローパス・フィルタ

サレンキー型のフィルタは非常にシンプルに構成できます。2次のフィルタを実現したい場合、最低限必要なのは周波数のチューニングに用いる計4つのパッシブ部品(抵抗とコンデンサ)とゲインの制御に用いる1つのオペアンプだけです。そのため、2次のフィルタの中でも非常に一般的なものだと言えます。

図1. サレンキー型の2次ローパス・フィルタ

図1. サレンキー型の2次ローパス・フィルタ

図1に示したのが、サレンキー型の2次ローパス・フィルタを構成した例です。この基本的な構成のフィルタ回路は、周波数応答を決める2つのRC回路を備えています。1つは、抵抗R1とコンデンサC1から成るRC回路です。もう1つは、抵抗R2とコンデンサC2から成るRC回路です。これらによって、フィルタのカットオフ周波数が決まります。その値は、以下の式で算出できます。

数式 1.

また、オペアンプU2で構成した非反転アンプ回路のゲインAは、前回の記事(Part 1)でも使用した次の式で決まります。

数式 2.

次に、前回の記事で説明したQ値について考えてみましょう。サレンキー型フィルタのQ値は、2次のシステムであるバンドパス・フィルタやバンドストップ・フィルタと同様に計算できます。これについては、以下の式をご覧ください。

数式 3.

Q値は、フィルタ・システムの減衰特性に関連づけられます。Q値と減衰特性の関係は、条件に応じて以下のようにまとめることができます。

  • Q > 1/2の場合:フィルタの減衰量が不足した状態になります。Q値が1/2よりも少しだけ大きいフィルタは、Q値が1のアクティブ・ローパス・フィルタ(図1)と同様に、周波数応答に1回か2回、振動のような形状(オーバーシュート)が現れる可能性があります。

  • Q < 1/2の場合:フィルタは減衰量が過剰な状態になります。フィルタの周波数応答は、オーバーシュートがなく、広い領域にわたって平坦になります。

  • Q = 1/2の場合:フィルタは臨界減衰の状態になります。その周波数応答は、オーバーシュートすることなく定常的な状態に近づきます。

Q値とゲインAの関係は、サレンキー型のフィルタにおける重要な要素であり、この構成における制約でもあります。Aは1よりも大きくなければならないので、Q値は1/2よりも大きくなります。


ハードウェアの設定

図1の回路を、ソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図2)。アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」を使用して、正の電源電圧と負の電源電圧を供給します。

図2. 図1の回路を実装したブレッドボード

図2. 図1の回路を実装したブレッドボード

手順

ソフトウェア・ツール「Scopy」を使用し、チャンネル1を基準として設定します。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定してください。表示については、振幅を-20dB~15dB、位相を-270°~90°に設定することにしましょう。サンプル数は100とします。電源を投入し、100Hz~500kHzの周波数掃引を実行してください。すると、図3のような結果が得られるはずです。

図3. 図1の回路の周波数応答

図3. 図1の回路の周波数応答

サレンキー型の2次ハイパス・フィルタ

次に、サレンキー型のハイパス・フィルタについて検討します(図4)。

図4. サレンキー型の2次ハイパス・フィルタ

図4. サレンキー型の2次ハイパス・フィルタ

回路の形は図1のローパス・フィルタと似ていますが、抵抗とコンデンサの位置が入れ替わっていることがわかります。サレンキー型の2次フィルタでは、オペアンプの非反転入力端子に出力をフィードバックします。そのため、ポジティブ・フィードバック・フィルタとも呼ばれます。

ハードウェアの設定

図4の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図5)。ADALM2000によって正の電源電圧と負の電源電圧を供給します。

図5. 図4の回路を実装したブレッドボード

図5. 図4の回路を実装したブレッドボード

手順

Scopyを使用し、チャンネル1を基準として設定します。振幅は200mV、オフセットは0Vとしましょう。表示については、振幅を-35dB~15dB、位相を-90°~180°に設定します。サンプル数は100に設定してください。電源を投入し、7.5kHz~1MHzの周波数掃引を実行します。すると、図6のような結果が得られるはずです。

図6. 図4の回路の周波数応答

図6. 図4の回路の周波数応答

サレンキー型のバンドパス・フィルタ

続いて、サレンキー型のバンドパス・フィルタを取り上げます。この構成には大きな制約があります。それは、Q値によってフィルタのゲインが決まるというものです。つまり、ローパス・フィルタやハイパス・フィルタの場合とは異なり、フィルタのゲインを独立して設定することはできません。フィルタのゲインは、以下の式によって計算できます。

数式 4.

図7に、サレンキー型の2次バンドパス・フィルタの構成例を示しました。

図7. サレンキー型の2次バンドパス・フィルタ

図7. サレンキー型の2次バンドパス・フィルタ

ハードウェアの設定

図7の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図8)。ADALM2000によって正の電源電圧と負の電源電圧を供給します。

図8. 図7の回路を実装したブレッドボード

図8. 図7の回路を実装したブレッドボード

手順

Scopyを使用し、チャンネル1を基準として設定します。振幅は200mV、オフセットは0Vに設定してください。表示については、振幅を-35dB~5dB、位相を-180°~180°に設定します。サンプル数は100とします。電源を投入し、7.5kHz~1MHzの周波数掃引を実行してください。図9のような結果が得られるはずです。

図9. 図7の回路の周波数応答

図9. 図7の回路の周波数応答

なお、サレンキー型のノッチ・フィルタ(バンドストップ・フィルタ)を設計することも可能ですが、望ましい特性は得られません。というのは、部品の相互作用が原因となり、共振周波数(ノッチ周波数)を簡単に調整できないからです。そのため、サレンキー型のノッチ・フィルタはこの実習では取り上げないことにします。同フィルタについては、LTspice®を使ってシミュレーションを実施してみてください。

状態変数フィルタ

ここからは、サレンキー型以外のフィルタ構成について検討することにします。最初に取り上げるのは状態変数フィルタ(State Variable Filter)です。このフィルタは、考案者3名の名前にちなみ、KHN(Kerwin-Huelsman-Newcomb)状態変数フィルタとも呼ばれています。状態変数フィルタは、多くの回路素子を使用して構成します。その分、非常に高い精度でフィルタの性能を制御できます。特に、状態変数フィルタでは、ゲイン、Q値、周波数という3つの主要なパラメータの値を個別に調整することが可能です。また、1つの回路によって、ローパス出力、ハイパス出力、バンドパス出力を得ることができます。ノッチ・フィルタやオールパス・フィルタを構成することも可能です。ここで、オールパス・フィルタとは、すべての周波数に対してユニティ・ゲインを提供するフィルタのことです。つまり、入力された信号の振幅は変化させることなく、位相をずらして出力します。ノッチ・フィルタを構成するには、ローパス・セクションとハイパス・セクションの出力を加算するためのアンプ・セクションを追加します。また、オールパス・フィルタを実現したい場合にも4つ目のアンプを追加します。そのアンプ・セクションにより、入力からバンドパス出力を差し引きます。図10に示したのが状態変数フィルタの構成例です。この回路では、ローパス出力、ハイパス出力、バンドパス出力を得ることができます。

図10. 状態変数フィルタ

図10. 状態変数フィルタ

状態変数フィルタの共振周波数は、抵抗R4、R5の値を変更することによってチューニングできます。両方の値を調整できるようにする必要はありませんが、広い範囲で可変であることが望ましいと言えます。また、抵抗R1の値を固定した状態で抵抗R7の値を調整すると、ローパス・フィルタのゲインを設定できます。同様に、抵抗R2の値を調整することにより、ハイパス・フィルタのゲインを設定することが可能になります。バンドパス・フィルタのゲインとQ値は、抵抗R3とR7の比によって設定します。なお、ローパス出力とハイパス出力では入力に対して位相が反転しますが、バンドパス出力では位相が維持されることに注意してください。

ハードウェアの設定

図10の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図11)。

図11. 図10の回路を実装したブレッドボード

図11. 図10の回路を実装したブレッドボード

手順

ここでは、チャンネル2をローパス出力に接続します。Scopyを使用し、チャンネル1を基準として設定してください。振幅は200mV、オフセットは0Vとします。表示については、振幅を-40dB~30dB、位相を-45°~180°に設定しましょう。サンプル数は100に設定します。電源を投入し、100Hz~250kHzの周波数掃引を実行してください。すると、図12のような結果が得られるはずです。

図12. 図10の回路の周波数応答(ローパス出力)

図12. 図10の回路の周波数応答(ローパス出力)

ローパス出力の特性を確認できたら、バンドパス出力、ハイパス出力にチャンネル2を順次接続し、周波数掃引を実行してみてください。

Tow-Thomasフィルタ

次に取り上げるのはTow-Thomasフィルタです(図13)。これも2次のアクティブ・フィルタの一種であり、双2次(Biquad)フィルタと呼ばれることもあります。

図13. Tow-Thomasフィルタ

図13. Tow-Thomasフィルタ

状態変数フィルタと同様に、Tow-Thomasフィルタでは特性をチューニングすることが可能です。まず、抵抗R3の値を調整することによりQ値を設定できます。また、抵抗R4の値を調整すれば共振周波数を設定することが可能です。更に、抵抗R1の値を調整することでゲインを設定できます。なお、各部品の値の相互作用の影響を最小限に抑えるために、各パラメータの設定は次の手順で行ってください。最初に調整するのは共振周波数です。続いてQ値を設定してください。最後に設定するのがゲインです。Tow-Thomasフィルタの帯域幅は、以下の式で定義されます。

数式 5.

図13をよく見ると、Tow-Thomasフィルタは状態変数フィルタをわずかにアレンジしたものであることがわかります。独立したハイパス出力は存在しませんが、同位相のローパス出力、逆位相のローパス出力、逆位相のバンドパス出力が得られます。図13の回路に4つ目のアンプを追加すれば、もう1つのフィルタを構成できます。具体的には、ハイパス・フィルタ、ノッチ・フィルタ、オールパス・フィルタのうちいずれかを実現することが可能です。

ハードウェアの設定

図13の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図14)。ADALM2000によって正の電源電圧(5V)と負の電源電圧(-5V)を供給します。

図14. 図13の回路を実装したブレッドボード

図14. 図13の回路を実装したブレッドボード

手順

Scopyを使用し、チャンネル1を基準として対数掃引の設定を行います。振幅を200mV、オフセットを0V、サンプル数を75に設定してください。表示については、振幅を-60dB~30dB、位相を-30°~210°に設定しましょう。電源を投入し、100Hz~500kHzの周波数掃引を1回実行してください。図15のような結果が得られるはずです。

図15. 図13の回路の周波数応答

図15. 図13の回路の周波数応答

Twin-Tノッチ・フィルタ

最後に取り上げるのはTwin-Tノッチ・フィルタです(図16)。この回路は汎用のノッチ・フィルタとして使用されます。ノッチ・フィルタは、下限のカットオフ周波数と上限のカットオフ周波数の間の周波数成分を減衰/遮断します。

図16. Twin-Tノッチ・フィルタ

図16. Twin-Tノッチ・フィルタ

Twin-Tノッチ・フィルタは、RCR回路とCRC回路を使用した2つのT型回路で構成されます。図16の回路では、抵抗R1、同R2、コンデンサC3によりRCR構成のT型回路が実現されています。また、コンデンサC1、同C2、抵抗R3によってCRC構成のT型回路を実現しています。抵抗とコンデンサの値は、それぞれ式(6)と式(7)のように設定します。

数式 6.

数式 7.

RとCの値には注意してください。それらの値によって、フィルタの中心ノッチ周波数foが決まります。具体的には以下の式が成り立ちます。

数式 8.

パッシブ部品を使って実装したTwin-Tノッチ・フィルタでは、Q値は0.25に固定されます。一方、図16の回路では、リファレンス・ノードに対する正のフィードバック系を実装することにより、Q値を調整できるようにしています。具体的には、抵抗R4、同R5で構成される分圧器をフィルタの出力に配置し、オペアンプU2の非反転入力に接続しています。それにより、U2の電圧フォロワ出力を抵抗R3とコンデンサC3の接続部にフィードバックします。

R4、R5で信号をフィードバックすることにより、フィルタのQ値とノッチの深さ(減衰量)が決まります。Q値は以下の式で表されます。

数式 9.

なお、ノッチの深さを最大にするには、R4、R5、U2を取り除き、R3とC3の間の接続部をフィルタの出力に直接接続します。

ハードウェアの設定

図16の回路をソルダーレス・ブレッドボード上に実装してください(図17)。ADALM2000によって正の電源電圧と負の電源電圧を供給します。なお、図18は、R4とR5をポテンショメータで置き換えた実装例です。このようにすれば、Q値をより精密に制御できます。

Figure 17. Twin-T notch filter circuit breadboard connection.

図17. 図16の回路を実装したブレッドボード

図18. ポテンショメータを使用する回路を実装したブレッドボード

図18. ポテンショメータを使用する回路を実装したブレッドボード

手順

Scopyを使用し、チャンネル1を基準として対数掃引を実施するように設定します。振幅は200mV、オフセットは0V、サンプル数は100に設定してください。表示については、振幅を-25dB~5dB、位相を-140°~80°に設定しましょう。5V/-5Vの電源を投入し、30kHz~300kHzの周波数掃引を実行してください。すると、図19のような結果が得られるはずです。

図19. 図16の回路の周波数応答

図19. 図16の回路の周波数応答

この回路のシミュレーションを実施し、図19と同様の結果が得られることを確認してみてください。

問題

図1の回路において、抵抗R3、R4の値を調整することでアンプ回路のゲインを変更したとします。その場合、フィルタ回路全体の周波数応答にはどのような変化が現れますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。