自作のASIC

質問:

必要な機能を実行できるアナログICが見つからないときは、どうすればいいでしょうか?

RAQ:  Issue 95

回答:

皆さんからのご意見をいただいて何年かに一度は 必ず思うことがあります。アナログ技術者なのだから、出来合いのブロックを使ってシステムを組み立てるだけでなく、そろそろ技術者らしく回路を設計すべきだと申し上げる潮時かもしれないと。

さて、ではどうするべきかですが、「自分でASIC(特定用途向け集積回路)を作りなさい」とお答えしましょう。誰もが集積回路(ASICなどのIC)は1個のシリコン・チップであると考えがちですが、これはモノリシックICの登場より数十年前の古い考えです。「オペアンプ・アプリケー ション・ハンドブック」(日本語版「OPアンプ大全」)には、 初期の集積回路のPhilbrick社製 K2-Wオペアンプが紹 介されています。2個の真空管があるプラグイン・モジュールのアンプで、1952年に一般市場向けに発売されたものです。トランジスタの発明で、モジュラー回路の機能は極めて一般的なものになりました。一般には、「集積回路」と呼ばれていませんでしたが、実はこれこそ集 積回路そのものでした。このような「集積回路」は必ずし も既製モジュールとして購入されていたわけではなく、 むしろよく知られた回路機能と考えられており、多くの場合、設計者の名前を付けられて、設計に採り入れられ ていました。たとえば、Colpitts発振器、Eccles-Jordanフリップフロップ、Dohertyアンプなどです。

ですから、「自分でASICを作りなさい」と言っても、自分でモノリシック・チップを設計しなさいと言っているわけではありません。大量に必要としている場合なら、それもいいかもしれませんが、せいぜい1万個以下のシス テムであれば、そのようなことする意味はあまりありま せん。フィールド・プログラマブル・アナログ・アレイ( FPAA)は多数のオペアンプを使用するサブシステムに はよい場合もありますが、ほかの機能を搭載する小さ いシステムでは費用効果はほとんどありません。

きれいにまとまったモジュールを作りたい場合は別で すが、私は別にそういうサブシステムを作りなさいと言っているわけではありません。最近、私は3Dプリンタを 手に入れました。 自分でブリキ板、回路基板の余り、木材、プラスチックシートなどから手作業で箱を作っていた時代とは違い、今では自分が作った装置を実にきれいに収めることができることがわかりました。

明確にこのようなサブシステムが欲しいとわかっている とき、既製のASICが見つからなくても絶望する必要はな いし、システム全体の不可欠の要素として設計しようと する必要もありません。そのサブシステムを別途定義し て設計してはいかがでしょう。そのほうが設計を簡素化 でき、テストや評価が確実に簡単になり、これこそ「 Maker Philosophy」(メーカー哲学)、「Maker’s Bill of Rights」(メーカーの権利章典)、「Crafter’s Manifesto」( 職人のマニフェスト)という言葉を体現する方法です。

最近のアナログICは以前のものより使いやすく、オペア ンプ電圧リファレンス乗算器、コンバータ、アナログ・ スイッチなどのビルディング・ブロックを組み合わせて複雑な機能を実現することができます。私はこの間SSB( 単側波帯)無線受信機を作りました。受信機の自動ゲイ ン制御(AGC)システムは、最大20dB/secまで変化する 信号に追従する必要があります。音声休止中には信号 が存在しないため、AGCはこのときに変化してはいけません。1秒間休止したら、 システムは素早くフル・ゲインに復帰する必要があります。このAGCシステムは1967年 ~1993年までモノリシックASICとして販売されていまし たが、その後はもう作られていません。私の代替システ ムは、RMS/DCコンバータ1個といくつかのオペアンプを使用しました。

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。