大いなる遺産は基本的な理解から

質問:

実際の回路の性能が 設計よりも劣るときは、 どうしたらいいですか?

raq-issue-85

回答:

最近大学を出たばかりの若者が、自分の選んだアンプが回路の条件を満たさなかったのでびっくりしました。彼はデータシートのグラフと仕様表を再確認しました。ぴったりの回路性能曲線はありませんでしたが、示されたデータは「十分に近い」と思われたので、その回路は機能するはずでした。しかし残念ながら、彼はゲイン帯域幅積(GBWP)を理解していなかったのです。

大信号帯域幅のグラフを調べていたとき、ゲインの曲線が上がっても10までしか行かないことに気がつきました。しかし、データシートの最初のページには必要な値をはるかに上回る帯域幅が指定されていたため、このアンプはゲイン20でも大丈夫と考えたのです。彼が気づかなかったのは、データシートの最初のページにあった小信号帯域幅(きわめて小さいサイン波に対する応答)という記載でした。彼のアプリケーションは2 V p-pを上回る信号を使用するため、本当は大信号帯域幅を探していたのです。大信号帯域幅は、一般的に2 V p-pサイン波に対するの応答の測定値です。小信号と大信号の帯域幅は電源電圧とテスト条件によっては2倍以上も異なる場合があり、注意が必要です。

GBWPは、どの電圧帰還型アンプでも、一定量である(電流帰還型アンプには関連するGBWPがないため、該当しません)ことを知っていたら、彼は今回のミスを避けられたはずです。GBWPは、データシートに記載されたオープン・ループ・ゲインのグラフから求めることができます。–3 dBポイントより後のオープン・ループ・ゲイン応答の直線部分から1つのポイントを選び、そのゲイン(dB単位ではなく、V/V単位)に対応する周波数を掛けると、GBWPが得られます。寄生極がない場合、ユニティ・ゲインのクロスオーバーをGBWPとして使用することもできます。しかし、高速アンプはユニティ・ゲインのクロスオーバーの近くに寄生極を持つ傾向があるため、GBWPを計算するときは、高速アンプはあまり使いません。GBWPを計算したら、所定のゲインに対する帯域幅や、所定の周波数に対するゲインを求めることができます。

この場合の解決策は、もっと高い帯域幅(つまり、回路の条件を満たすのに十分なGBWP)を持つアンプを選択することでした。このような基本中の基本のポイントは、場合によっては見落とされ、いろいろ悩むはめになります。このような問題の良いところは、この種の設計ミスを1回か2回経験するだけで、解決策が脳に永久に刻み込まれ、二度と過ちを繰り返さなくなることです。


 

著者

John Ardizzoni

John Ardizzoni

John Ardizzoniは、アナログ・デバイセズの高速リニア・グループの上級アプリケーション・エンジニアです。 マサチューセッツ州ノースアンドーバーのメリマック・カレッジでBSEE(電子工学士)を取得し、2002年にアナログ・デバイセズに入社しました。エレクトロニクス業界で30年以上のキャリアがあります。