可動部をもつチップもあります!

質問:

電気デバイスは長年にわたる 進化の末、ついに可動部を全く もたなくなったというのは 本当でしょうか?

RAQ:  Issue 48

回答:

摩耗することがある可動部の数が少ないほど機械の信頼性が高くなるというのは本当ですが、実はチップ表面部に可動部があるからこそ機能するというような集積回路(IC)もあります。

それはマイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)と呼ばれてよく知られています。MEMSでは、標準のICプロセス技術を用いてチップ表面部に金属、シリコン、シリカの構造体を作成します。このような構造体は、動くことで数多くの有益な機能を達成するように設計できます。

こうしたチップの可動部は曲がりますが、一般にほかの表面に影響することはなく、摩擦が問題になることはほとんどありません。また、変形による機械的ヒステリシスがきわめて小さく、耐疲労性があるシリコンで作られるのがふつうです。たとえ何兆回曲げても、シリコンは特性が変化したり損傷したりすることはありません。

はっきりとした可動部をもった世界最初の商用目的のMEMSデバイスは、加速度センサーでした。電子加速度センサーは、かつては数百~数千ドルもするものでしたが、現在では最も安価な製品はわずか1 ~ 2ドルになり、低価格の器具、エアバッグの展開装置(これが最初の主要な用途でした)、コンピュータゲーム用のジョイスティック、ディスク・ドライブや運動選手の足首ための衝撃保護、ビデオ・プロジェクタのキーストーン補正、携帯モニタの向き方向検出等々、その他数多くのアプリケーションで利用されています。

従来のジャイロスコープは回転方式でしたが、回転せずに振動するジャイロスコープを作ることもできるようになりました。MEMS構造体を使えば、簡単に実現できます。回転を測定する必要のある所では、どこでもMEMSジャイロスコープが使用できます。低価格であるために、光学的な手ぶれ補正、自動車の安全制御、衛星が見えないときのGPSレシーバ用短距離慣性航法など、これまでは手が出せなかったアプリケーションが可能になっています。

MEMS構造体によって、ICチップで高品質なマイクロフォンを作成することもできます。ほかのマイクロフォン技術に比べて小型で、低価格で、かつ信頼性が高いため、多くのアプリケーションでエレクトレット・マイクロフォンの代わりとして利用されるようになっています。

可動部をもったこれらのチップとそのさまざまな利用法の詳細については、リンク先の記事を参照してください。


著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。