質問:
高精度アナログ回路を 再キャリブレーションすれば、 精度が高くなるでしょうか?

回答:
アナログ回路の精度をアップグレードするための魔法1はありません。ヒステリシスと呼ばれる現象によって、回路の再現性は制限されます。
時間に次いで、一番よく行われている電子計測は温度の測定です。温度センサーにはいくつもの技術が使用されていますが、最も単純で安価なものは半導体温度センサーで、異なる電流密度で動作する2つのPN接合間の電圧差を測るものか、もしくは電流密度が変化したときに1つの接合部で生じる電圧の変化を測定します。この電圧は、接合部の絶対(ケルビン)温度に比例します。
低価格の温度センサーは2~3℃の精度ですが、最高精度の温度センサーになると精度は約0.5℃になります。このようなセンサーの精度をもっと高くしようとキャリブレーションをしたくなるのも珍しいことではありません。
ある程度まで、このようなキャリブレーションは可能です(ただし、きわめてコストが高くなるため、そのようなデバイスはふつう製造されていません)。しかし、キャリブレーションはどの精度でもできるというわけではありません。
魔法の温度計と電圧計を使って、半導体センサーの温度と出力を無限の精度で測定できるとしましょう。その後、センサーを加熱/冷却し、もう一度まったく同じ温度で出力を測定すると、その値が若干異なっていることがわかります。反復計測の結果は、平均値を中心とするガウス分布になります。
この変動を引き起こすメカニズムは、温度ヒステリシスと呼ばれるもので、集積回路の熱的/機械的なストレスから生じます。シリコン・チップは、シリコン、シリカ(二酸化ケイ素、SiO2)、アルミニウム、銅、その他さまざまな材料のきわめて複雑なパターンによって形成されており、それぞれの材料が異なる熱膨張係数を持っています。チップの温度が変化するたびに、伸縮の差に起因するストレス・パターンも変化します。構造が複雑であるため、さまざまなストレス・パターンのどれが生じるかわかりません。導体内のストレスによって導体抵抗も変化し、回路のキャリブレーションに微妙な変化をもたらします。
したがって、温度センサーの反応を非常に正確に計測するだけでは、温度センサーの再キャリブレーションで精度を大幅に上げることはできません。既存のセンサーでは、せいぜい0.1℃のオーダーが限度です。もっと大きなチップを作ったら、ストレスの効果は広い面積に平均化されて薄くなります。しかし、実用的な効果をあげるには、非常に大きく高価なチップが必要になるでしょう。同じような効果はほかの高精度アナログIC、特に電圧リファレンスICにも見られますが、温度センサーと同様、公表されている仕様が変わるほど大きくなることはまずありません。しかし、十分に精密な試験装置で選別すれば、希望の温度ヒステリシスを持った製品をきっと見つけることができるでしょう。
1 (アーサー・C・)クラークの第3法則は、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」といいます。