質問:
節電のため、私の A/D コンバータ(ADC)は測定のときだ け起動するようにしています。連続動作ではシステムは非常に 正確なのに、電源を入れたり、切ったりすると全く予測不可能 になってしまいます。

回答:
安全保障に執着していたソビエト体制の副産物で、ロシア人はアプリケーションの問題があっても、詳しい内容を人に教えるのをどうしても嫌がることがあります。シベリアのノボシビルスクで開催されたセミナーで出会ったアレクセイも例外ではありませんでした。彼のADコンバータが仕様をひどく逸脱し、場合によっては全く動作しなくなることもあると言うのです。けれども、システムの詳細を話そうとしてくれません。そこで、私はいくらかのウォッカとキャビアとブリニをごちそうし、母なるロシア、女帝エカテリーナ、シベリア横断鉄道、世界中のアナログ・エンジニアのために乾杯しました。そこでやっと彼は打ち解けて、実はADCを起動するのは変換する間だけで、その後は電源をシャットダウンしていると教えてくれました。
マイクロプロセッサは起動のたびにリセットされますが、一般にADCは違います。したがって、パワーアップ後にロジックがランダム化します。最初の変換(あるいは、一部のパイプライン型コンバータでは最初のデータがパイプラインを出たときの変換)でロジックがリセットされますが、最初の結果は完全に誤りになることがあります。
さらに、影響を受けるのはデータ出力だけではありません。EOC(変換終了)や「ビジー」出力も混乱することがあります。このような出力によって次の変換を開始すれば、システムはパワーアップ時に自動起動しないことがあります。このようなラッチアップがいつも発生するのであれば、システムの設計中に問題を把握できます。しかし、それがたまにしか発生しない場合(1970年代の最初のADC84のように)には、問題が気づかれないまま、惨憺たる結果を招くことがあります。
データ・コンバータは、パワーアップしてから変換結果を実際に使用するまでの間に1つないし複数のダミー変換を行う必要があります。このようなダミー変換中の出力データや、EOCあるいはその他のロジック出力の異常な動作をシステムは無視しなければなりません。スリープ回路を備えているコンバータの場合は、節電のために低消費電力のスタンバイ・モードに切り替わってもまだ電源が供給されており、このような問題はほとんど発生しません。
コンバータの起動エラーの原因はロジックだけではありません。熱安定性、容量充電、再生電流ミラーのスロースタートによって、パワーアップ後の数ミリ秒はリファレンス精度が低下することがあります。アレクセイはダミー変換をいくつかプログラムし、私の方はウラジオストク行きのシベリア横断鉄道に乗って旅立ちました。背後には順調に動作するシステムと、ちょっと食べ過ぎの満足したエンジニアを残して。