高精度アナログICの長期安定性、あるいは優雅に年をとって突然死を避ける方法

質問:

私の製品の平均寿命は20年です。製品のキャリブレーションは どれぐらい長持ちするのでしょうか?

RAQ:  Issue 15

回答:

かなり長持ちしますよ。ただし、虐待から保護する必要はありますが。

まったく、私はちょっとジョークを言い過ぎますね。高精度アナログICがどんなふうに経年変化するかについて聞かれると、「優雅に縮退して」とか「1年に365日」などと答えています。こういう答えは正しいのですが、あまり役に立ちません。

高精度アナログICは非常に安定したデバイスです。年とともに良くなっていくワインとは異なりますが、一般に経年に関連する長期的な変化は1千時間当たり約1ppm程度です(この値はデータシートに記載されていることがあります)。ただ、この変化は累積的ではなく、「酔払いの千鳥足」の法則に従うことに注意してください。酔払いの千鳥足を数学的に知りたければ資料[1]をご覧になるとよいと思いますが、基本的には連続する各ステップの方向がランダムになります。一次元の酔払いの千鳥足では、原点からの距離がステップ数の平方根にほぼ比例します。

そこで、デバイスが1ppm/1000時間で経年変化するなら、2ppm/2000時間の変化になります。1年は8766時間(平年は8760時間、閏年は8784時間)なので、1ppm/1000時間=2.96ppm/年=9.36ppm/10年、そして13.24ppm/20年となります。

持続的に起動しているデバイスでも、保管しているデバイスでも、周囲温度が適切な範囲にあるデバイスでも、この値はデバイス間で大きく変動しません。統計的なプロセスであるため、デバイス間の違いはさほど変わりません。高温によってプロセスは加速化しますが、あまり大きな変化ではなく、その特性はプロセスによって異なります。回路をほとんどいつも100℃以上の環境で使う場合を除けば、データシートに記載された速度で経年変化すると考えても間違いではありません。

しかし、優雅ではない突然の変化が精度に生じ、その後の経年変化の速度も高める別のメカニズムがあります。それは静電気損傷(ESD)です。一般にESDはICの突然死であると考えられていますが、それももっともです。放電によってデバイスは破壊にまでは至らないわずかな損傷をこうむりますが、そのために性能が被害を受けます(そして、その後に突然死に至ることがあります)。このような損傷は通常は単発的なものですが、累積的に生じることもあります。かつて、フィンランドのユーザから当社のオペアンプが以前よりもノイズが大きくなったという苦情がきました。よく調べてみると、これまで毎年夏の間には大したことは起きなかったのですが、年末になるとノイズが増えていました。これは、フィンランドの冬の乾燥した冷たい空気が静電気を助長していたのです。

ICが優雅に縮退するには、十分なESD保護が不可欠というわけです。

[1] http://en.wikipedia.org/wiki/Random_walk



著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。