時には信号もレールに乗せなければならないことがある・・・

質問:

高精度センサーのアナログ・フロント・エンド用にシグナル・コンディショニング・ブロックを設計していますが、レールtoレール入力のオペアンプを使用すべきでしょうか?

RAQ: Issue 141

回答:

これは、センサーの出力信号によって、オペアンプが電源レール近くの電圧まで達してしまうかどうかによります。例えば、高精度の10Ωシャント抵抗を通じて0mA ~500mAの負荷電流をモニタする場合、最大出力は5Vになります。アンプの電源電圧が5Vの場合は、入力電圧範囲がレールtoレールのアンプを選ぶ必要があります。

多くのオペアンプでは入力段に、トランジスタ差動ペアがよく使われます。入力のコモンモード電圧(VCM)信号をオペアンプで増幅するには、VCMと電源電圧の間に十分な電圧ヘッドルームが必要です。図1に示すように、VCMがどちらかの電源レールに近付いて入力ペアのヘッドルームが足りなくなった場合は、入力オフセット電圧やその他の重要なパラメータの値が悪化して、精度が失われる結果となります。オペアンプの仕様入力電圧範囲(IVR)を決定するのは、これらのヘッドルーム要件です。ADA4610のように、業界最高精度のアンプの中には、この典型的な入力構造を備えているものがあります。入力電圧がレールから離れている限り、これらのアンプは優れた性能を発揮します。

Figure 1
図1. ADA4610 の代表的な入力オフセット電圧とコモンモード電圧の関係

 

センサーの出力信号にV+レールが含まれていなくても、負側ではレールまで低下する場合は、やはりV-まで達するVCMを許容できるアンプが必要です。このタイプのオペアンプは単電源と呼ばれます。これは、V-をグラウンドに接続することによって、必要な電源が1つだけになるためです。単電源オペアンプでは、V-レールに近い電圧でも信号を増幅できる特別な回路トポロジが用いられます。

同様に、一部のアプリケーションでは、V-からV+までの範囲すべてで精度を維持できるオペアンプが必要です。これは、レールtoレール入力(RRI)オペアンプと呼ばれます。通常、これらのオペアンプでは、各レールに1つずつ2つの差動ペアが組み合わされています。ADA4661はRRIオペアンプの代表的な例です。図2に示すように、このデバイスは全電源電圧範囲にわたり優れた精度を示します。

Figure 2
図2 . ADA4661レールtoレール・オペアンプの
代表的入力オフセット電圧とコモンモード電圧の関係

 

入力が2つの差動ペアで構成されて、レールtoレール入力を生成する場合は、トレードオフが存在します。VCMが1 つのペアから他方のペアへ移行するにつれて、オフセット電圧には小さいクロスオーバー歪みが現れます。ADA4661に見られる歪み振幅は約50μVで、これはV+レールより約2V低いところで発生します。システムによってはこれが大きく影響することはありませんが、この歪みを避けなければならないシステムもあります。1つのソリューションは、入力電圧がクロスオーバー電圧よりも低い値に止まるようにシステムを設計することです。図2によれば、それでもまだ16Vを超えるIVRが得られます。低電源電圧(例えば5V)のアプリケーションでは、入力信号の電圧範囲を大幅に狭めずに十分なIVR(例えば2V)を維持する余裕がなくなるので、問題が生じます。そのようなアプリケーションでは、異なるタイプの入力段が必要になります。

ADA4500 では、シングル入力ペアを使用することによってクロスオーバーを除去し、結果としてクロスオーバー歪みも除去しています。この入力ペアは、オペアンプ・フィルタがレール付近にあっても十分な電源電圧が得られるように、より高い内部電圧を提供するチャージ・ポンプと組み合わせて使われます。この構造により、センサーは、図3に示すように全電源電圧範囲にわたって、クロスオーバー歪みなしでオペアンプの入力電圧をドライブすることができます。その一方で、入力信号がレール値に達するような場合でも、25°Cで95dBの同相ノイズ除去比と120μVの入力オフセット電圧を、優れた精度で実現することが保証されています。

オペアンプの入力構造とトレードオフの詳細については、ミニ・チュートリアルMT-035 Op Amp Inputs, Outputs,Single-Supply, and Rail-to-Rail Issues、および以下に示す参考資料を参照してください。 

Figure 3
図3 . ADA4500レールtoレール・オペアンプは全電源電圧範囲にわたって歪みを除去
表1. 典型的なレールtoレールの高精度オペアンプ(すべての値はV単位)
高精度
オペアンプ
V+からのヘッドルーム V-からのヘッドルーム 電源電圧 入力構造
ADA4610 2.5 2.5 10 ~ 36 典型的
差動ペア
ADA4522
1.5 0 4.5 ~ 55 単電源
ADA4622
1 –0.2 10 ~ 30 単電源
ADA4084
0 0 3 ~ 30 レールtoレール
ADA4661
0 0 3 ~ 18 レールtoレール
ADA4505
0 0 1.8 ~ 5 ゼロ・クロスオーバー歪み
ADA4500
0 0 2.7 ~ 5.5 ゼロ・クロスオーバー歪み

参考資料

 

アナログ・デバイセズ、ミニ・チュートリアル MT-035 「Op Amp Inputs, Outputs, Single-Supply, and Rail-to-Rail Issues

John Ardizzoni「単電源アンプ:単純そうに聞こえるけれど、本当にそうなのでしょうか?Analog Dialogue

John Ardizzoni「アンプのヘッドルームで本領を発揮できない?Analog Dialogue

著者

Daniel Burton

Daniel Burton

Daniel Burtonは、ADIのアプリケーション・エンジニアです。サンノゼ州立大学で学士号を取得した後、センサーや高精度リニア信号パスの分野の業務に携わってきました。2010年にADIに入社してからは、高精度アンプやリファレンス電源に注力しています。