チンプンカンプンと思われるかもしれませんが、 ΣΔコンバータはそれほど難しいものではありません

質問:

Σ∆コンバータの仕組みを、クマのプーさん(頭の足りない クマさん)[1] でもわかるように簡単に説明していただけますか?

RAQ:  Issue 13

回答:

オーバーサンプリング、ノイズ・シェーピング、デジタル・フィルタリングによる動作になります。アテネは美しい都市で、数千年の歴史を感じさせます。ギリシャで当社の販売代理店をしているスピノスと一緒に、私はアクロポリスを散歩していました。そのとき、スピノスがΣΔコンバータの仕組みを尋ねました。「ΣとΔはギリシャ語のアルファベットですが、このコンバータの動作について書かれたどの記事を読んでも私にはオランダ語みたいにチンプンカンプン[2]なのです。どの記事も最初の数ページは偏微分方程式で始まり、そこから一気に訳がわからなくなってしまうのです」と彼は言いました。

電圧を何回も測定して、それらの測定の平均値をとると、その結果のほうが1つ1つの測定よりも正確になります。これが「オーバーサンプリング」です。(個々の測定に含まれる誤差をランダム化するためにディザ[3]が必要になることもあります。)

A/Dコンバータ(ADC)の動作に起因するノイズには、明確な理論上の最小限度があります。ADCが周波数fsで信号をサンプリングした場合、その結果のデジタル出力にはそのノイズ信号が含まれ、この「量子化ノイズ」は一般にDCからfs/2まで均一に分布します。Kfsという高いレートでサンプリングすると、そのノイズ信号はDCからKfs/2までの広い帯域に広がって分布します。デジタル・フィルタによってfs/2を超えるすべてのノイズを除去すれば、デジタル出力のS/N比(SNR)が改善し、その結果ADCの分解能が向上します。

通常、S/N比はKの平方根で増加するため、S/N比を効果的に高めるにはかなり高いサンプリング・レートが必要になります。しかし、ΣΔモジュレータでは量子化ノイズが一様に分布しているわけではありません。ΣΔシステムの全ノイズの量は一定でも、その大部分は高周波(HF)領域に分布します。これは「ノイズ・シェーピング」と呼ばれ、これによってKをはるかに低い値にすることができます。

HFを取り除くためにΣΔモジュレータからのデジタル出力をフィルタ処理し、DCからfs/2までの周波数(ここに求める信号があります)を残せば、デジタル出力のS/N比と分解能が向上します。ΣΔ ADCはΣΔモジュレータとデジタル・ローパス・フィルタのみで構成されていますが、モジュレータもフィルタも最新の高密度デジタル技術によって簡単に製造できるものです。ΣΔ ADCの原理は40年以上も前から知られていましたが、チップに組み込めるようになったのは比較的最近のことです。

 

[1] 「あなたがとても小さな脳をもったクマで、何かを考えているとしましょう。その考えている何かは自分の中ではものすごいものみたいに思えるのに、それを外に出して他の人に見てもらうと、これが全然違ったものになってしまうことがあるのです。」 ― A.A. ミルン、『プー横丁にたった家』
[2] 原文double dutchは、チンプンカンプンという意味。
[3] ディザ ― 誤差をランダム化するためにノイズや他のAC信号を付加すること。




著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。