質問:
出力に対する同相信号の影響は、 なぜ CMRR の仕様値より大きいのでしょうか?

回答:
同相ノイズ除去比(CMRR)の概念は差動入力回路を扱う際の基礎となるものですが、しばしば誤解を招くことがあります。計装アンプを使用する場合に、回路内での同相信号の影響に関する予想が誤っていることは珍しくありません。
例えば、広く行われている計装アンプの CMRR テストは、両方の入力に同じ信号を加え、出力を測定します。AD8422B のテスト回路の例(ゲインを 10 V/V に設定)を図 1 に示します。2番目のアンプ AD8428 はゲイン 2000 で動作し、テスト対象デバイスで生じる小さい誤差を増幅し、スコープのような標準的なテスト機器を使った測定を容易にします。1

このセットアップでは、入力の 2 V の同相変化に対して 40m V の出力変化を検知することができます。この変化はAD8422Bの出力における 20 μV に相当します。これは決して悪い値ではありませんが、「10 μV/V は 100 dB の除去比に相当するけれども、データシートでは少なくとも 114dB のCMRR を保証しているではないか」と異論を唱える人もいると思います。部品に問題があるのでしょうか? CMRR はどこに行ってしまったのでしょう?
「ダイヤモンド・プロット」という RAQ を読んでいただければ、まずアンプの同相範囲内でテストが実施されたかどうかを確認する必要があることがわかるでしょう。新しいダイヤモンド・プロット・ツールを使用すれば、この確認に1分もかかりません。これで何も問題がないようでしたら、次のステップとしてCMRR の定義を再度確認します。
CMRR は、単に差動ゲインを同相ゲインで除して得られる商です。この値は、次式に従って V/V または dB で表わすことができます。
CMRRV/V = ADIFF/ACM
CMRRdB = 20log(ADIFF/ACM) = 20log(ADIFF) – 20log(ACM)
前述の 10 μV/V という測定値は ‒100 dB の同相ゲインに相当しますが、これは CMRR ではありません。アンプは10 V/V(つまり 20 dB)のゲインに設定されているので、合計 CMRRは 20 dB ‒ (‒100 dB) = 120 dB となり、部品の仕様に定める114 dB より大きい値です。ゲインを 100 V/V に増やすとCMRR はさらに 20 dB 増加して 140 dB となります。それでも、この新しいゲインで同じ 2 V の信号を入力に加えると、AD8422 の出力は同様に 10 μV 変化します。これはどれだけ値が向上したことになるのでしょうか?それともごまかされているのでしょうか?
いえ、そうではありません。CMRR の定義は誰にとっても同じです。この定義のままにしておくことが重要で、それを変更するつもりはありません。望ましくない同相信号は出力を「汚染」しますが、ゲインとは関係なく一定に保たれます。しかし、差動ゲインが大きい場合はこの「汚染」も小さくなります。つまり、同相誤差をゲインで割って入力信号と比べた場合、その値は非常に小さくなります。つまり、出力における 10 μV/Vの誤差は、ゲイン 10 では 1 μV/V、ゲイン 100 では 100nV/V の誤差に相当します。小さい信号を測定してみれば、なぜこれが良いことなのか明らかになるはずです。
すべての計装アンプの CMRR はゲインとともに増加するわけではなく、ゲインの増大とともに次第に減少し始めるものすらあります。つまり、CMRR が 120 dB の計装アンプで、ゲインが20 dB 増加しても CMRR は 130 dB までしか増加しないことがあります。この現象を CMRR 圧縮 と呼びます。それでも、AD8422 では圧縮なしで CMRR が 160 dB まで増加しています。これが、見極めるのが実に難しい CMRR 性能です。

1 ノイズと高ゲイン(20,000)が、この測定を難しくしていることに注意してください。このため、ソースにフィルタをかけて、そのノイズの影響を最小限に抑える必要があります。AD8428 は、そのフィルタ端子間にコンデンサを使用して、測定帯域幅を狭めています。さらに、外部ノイズを拾わないように、適切なシールディングと配線が必要です。