電圧リファレンスに 噛みつかれることもありますよ

質問:

私の使用した電圧リファレンスがデータシートで保証された精度にほど遠いのはなぜですか?

RAQ:  Issue 120

回答:

それはあなたが電圧リファレンスを粗雑に扱うからです。電圧リファレンスを丁寧に扱わないと、噛みつかれますよ。

一般的に、問題の原因となる“粗雑な扱い”には、不十分なヘッドルーム、不適切な負荷、逆出力電流の 3 つが考えられます。通常、最初の 2 つはデータシートに記載されており、簡単に防止できますが、3 番目についてはめったに記載されていないため、問題が起きてもなかなか診断がつきません。

一般的に電圧リファレンスには入力端子、出力端子、グラウンド端子があります。出力端子は、幅広い入力電圧および負荷電流にわたり、グラウンドより上の一定の電圧に正確に維持されます。しかし、入力と出力の電圧の差が小さすぎると、出力電圧の精度が下がります。一部のデバイスは、出力電圧が入力電圧よりわずかに低い電圧でもかろうじて動作しますが、これに頼るのは危険です。仕様規定されている精度を得るには、すべて正しい領域で動作させる必要があります。 

短絡による破損を防ぐため、ほとんどの電圧リファレンスの出力には電流制限があります。要求される出力電流が大きすぎる場合、出力電圧が下がります。デバイスが完全に電流制限の範囲に陥る前からその影響は出てきます。最大負荷電流と、精度が下がり始める出力電流の値(この値はしばしばグラフに記載されています)の両方について、データシートを確認してください。

電圧リファレンスの負荷が正しく施されていないもう 1 つの例は、正しい容量性負荷を使用していない場合です。ほとんどの電圧リファレンスは、容量性負荷の大きさに関わらず安定していますが、特に一部の低ドロップアウト(LDO1)タイプでは、負荷容量が大きすぎても小さすぎても(あるいはいずれかで)発振することがあります。発信すると、出力電圧は正しく安定化されなくなります。RTFDS2 または実験によって電圧リファレンスにそのような発振が起こらない容量の範囲をご自分のアプリケーションで確認してください。ちなみに、複雑なシステムでは複数のサブシステムがリファレンスを共有することがあり、そのすべてを設計の対象にできない場合もあることも忘れないでください。

私自身、数週間前に 3 番目の問題に噛みつかれました。非常に単純な低電力バッテリ管理システムを 2 種類設計していました。システムの電圧検出部の抵抗を定義する数式は単純でしたが、組み立てた結果、いずれも正しい電圧にはほど遠い電圧で動作していました。

数日後になってやっと、これら2 つのデバイスの中の電圧リファレンスが、定義されたヒステリシスのあるコンパレータ3として構成された正帰還回路のオペ・アンプの非反転入力を駆動していたことに気が付きました。オペ・アンプの出力が高いとき、帰還抵抗を通して約 6μA を電圧リファレンスの出力に送り込んでいたわけです。

ADR291ADR292をリファレンスに使用していたので、データシートの「簡略図」を確認すると、オペ・アンプのような構造によって出力を駆動していることが判明しました。オペ・アンプは出力で電流の吐き出しまたは吸い込みを行いますから、私はこれらのリファレンスもそうだと思っていました。ところがそうではありませんでした! 約 5μA の逆電流だけで出力電圧が上昇してしまうのです。

データシートには、この問題について明確な注意は記述されていません。負荷レギュレーションは出力電流 0 mA ~ 5 mA の範囲で定義されていて、大きな逆電流(数十または数百 μA!)が問題を起こす可能性があることは説明されていますが、ごく微小の逆電流でも簡略図に記載されている抵抗チェーンR1、R2、R3 を流れると問題を起こす可能性があることについては何も説明はありません。

しかし、このような問題があるということがわかっていれば、簡単に防ぐことができます。多くの電圧リファレンスは電流の吸い込みと吐き出しを行います。データシートで出力電圧が出力電流 ±X mA で定義されていれば、その通りでしょう。あるいは、電流がリファレンス出力端子に流れることがわかっているのであれば、その端子に想定される逆電流を流すのに十分低い値の抵抗を配置し、電流をグラウンドに吐き出してください。これにより、リファレンス出力の電流が常にデバイスから外に出ていることになるので問題が解決します。


1 低ドロップアウト・リファレンス(またはリニア・レギュレータ)は、出力電圧の精度を損なうことなく、入力電圧を安定化された出力電圧にかなり近付ける(誤差数百 mV あるいはそれ以下)ことができる出力段を使用します。

2 RTFDS = Read The Friendly Data Sheet(フレンドリーに書かれたデータシートをお読みください)

3 オペ・アンプをコンパレータとして使用するときはご注意ください。RAQ 11 およびその補足資料に記載されている問題が発生する可能性があります。私がこれら 2 つの設計で使用したオペ・アンプは、これらの問題を回避するために特に選んだものです。

著者

james-m-bryant

James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。