ホットスワップの理解:ホットスワップ回路の設計プロセス例

はじめに

サーバ、ネットワーク・スイッチ、Redundant Array of Independent Disk(RAID)ストレージ、およびその他の通信インフラといった高可用性システムは、その耐用年数を通じてゼロに近いダウンタイムを実現するように設計することが必要です。このようなシステムのコンポーネントが故障したり更新の必要が生じた場合には、残りのシステムを中断することなく置き換える必要があります。その際、システムを稼働させたままでボードやモジュールを取り除き、その代替品を接続しなければなりません。このプロセスはホットスワッピングと呼ばれたり、場合によってはホットプラギング(この場合、モジュールとシステム・ソフトの対話があります)と呼ばれることもあります。安全にホットスワップするため、他の接続が行われる前にグラウンドとローカル電源が確立するように、スタガー・ピン付きのコネクタがよく使われます。さらに、各プリント回路基板(PCB)やプラグイン・モジュールには、通電中のバックプレーンに対してモジュールを安全に着脱できるようにホットスワップ・コントローラが内蔵されています。コントローラは、システム稼動中では、短絡や過電流障害に対する保護機能も提供します。

遮断および起動する必要のある電流は大きい場合もありますが、大電流設計の機微については、ほとんど考慮されないこともあります。「悪魔は細部に宿る」と言われるため、本稿はホットスワップ制御回路の部品の機能と意義に焦点を合わせ、アナログ・デバイセズのADM1177 ホットスワップ・コントローラを用いた設計プロセスでの、設計上の留意事項と最適な部品選択基準を詳しく説明します。

ホットスワップのトポロジ

高可用性システムで一般的な2つのシステム電力レベル(−48Vと+12V)では、ホットスワップ保護用に異なる構成を使用します。−48Vシステムではローサイド・ホットスワップ制御とパスMOSFETを採用し、+12Vシステムではハイサイド・コントローラとパスMOSFETを使用します。

−48V方式は、従来の電気通信交換システム技術で生み出されました。例えば、Advanced Telecommunications Computing Architecture(ATCA)システム、光ネットワーク、基地局、ブレード・サーバがその例です。バッテリ・スタックから一般に得られる電圧として48Vが選択された理由は、電力と信号を大きな損失無しに長距離伝送することができ、しかも通常の条件下では激しい電気ショックの危険を招くほどの高いレベルではないからです。負極性が選択された理由は、風雨による避けられない湿気がある環境下では、正端子を接地することで、アノードからカソードへの金属イオンの移動による腐食性がきわめて小さくなるからです。

一方、データ通信システムでは、距離は重要な要素でないため、+12V電源がより合理的であり、ブレード・サーバやネットワーク・システムの設計でよく使われています。本稿は+12Vシステムに焦点を合わせます。

ホットスワップ・イベント

12Vのバックプレーンと取り外し可能なモジュールのラックを備えたシステムを考えてみます。各モジュールには、ラック内で隣接したモジュールの通常動作に影響を及ぼすことなく着脱できる能力が要求されます。コントローラが無い場合、各モジュールは電源ラインに相当な量の負荷容量(通常はミリファラドのレベル)を生じさせることがあります。モジュールが初めて挿入されると、その充電されていないコンデンサは充電に必要な電流を要求します。この突入電流が制限されない場合は、端子電圧が減少してメイン・バックプレーンにかなりの電圧低下が生じ、システム上の隣接モジュールの多くがリセットされ、大きな初期電流によってモジュールのコネクタに損害を与えることがあります。

この現象は、ホットスワップ・コントローラ(図1)で解決できます。ホットスワップ・コントローラは、突入電流をうまく制御して安全なパワーアップ・インターバルを保証します。また、パワーアップ後は電源電流を絶えず監視して、通常動作時の短絡と過電流状態に対する保護を行います。

Figure 1
図1. ホットスワップ・アプリケーションの図

ホットスワップ・コントローラ

ADM1177ホットスワップ・コントローラは、3つの主要部品から構成されます(図2)。主電源制御スイッチとして用いられるNチャンネルMOSFET、電流を測定する検出抵抗、電流検出アンプを内蔵してMOSFETのパス電流を制御するループを完成させるホットスワップ・コントローラです。

Figure 2
図2. ADM1177の機能ブロック図

ホットスワップ・コントローラの内部では、電流検出アンプが外付け検出抵抗の両端での電圧降下を監視します。この小さな電圧(一般に0 ~ 100mVの範囲)は、実用的なレベルに増幅する必要があります。ADM1177のアンプ・ゲインは10であるため、例えば、所定量の電流によって生成された100mVの電圧降下は1Vまで増幅されます。この電圧は、固定または可変のリファレンス電圧と比較されます。1Vのリファレンスでは、検出抵抗の両端に100mV(±3%)を超える電圧を生成する電流によって、コンパレータは過電流を示します。したがって、最大電流トリップ・ポイントは、主に検出抵抗、アンプ・ゲイン、リファレンス電圧によって決定されます。検出抵抗値は最大電流を設定します。TIMER回路は、所定の過電流状態が存続できる時間を制限します。

ADM1177のソフト・スタート機能では、過電流リファレンスは急にターンオンするのではなく、直線的にランプアップします。したがって、負荷電流も同様に変化します。それには、内部電流源から外付けコンデンサ(SSピン)に電流を注入することで、コンパレータのリファレンス入力を0Vから1Vまで直線的にランプアップします。この上昇率は外付けのSSコンデンサ(CSS)によって設定されます。必要な場合、電圧によってSSピンを直接駆動して最大電流制限を設定することもできます。

コンパレータとリファレンス回路から構成されるON回路は、デバイスをイネーブルにします。この回路は、コントローラをイネーブルにするために電源が到達しなければならない電圧を正確にプログラムします。デバイスがイネーブルにされると、ゲートが充電を開始します。この種の回路で使用されるNチャンネルMOSFETのゲート電位は、ソース電位を上回る必要があります。電源電圧(VCC)の全域でこれを達成するため、ホットスワップ・コントローラにはGATEピンをVCCよりも10V高く維持できるチャージ・ポンプが内蔵されています。GATEピンは、MOSFETをイネーブルにするにはチャージ・ポンプされたプルアップ電流を必要とし、必要に応じてMOSFETをディスエーブルにするにはプルダウン電流を必要とします。弱いプルダウン電流は調整用に使用されます。強いプルダウン電流は、短絡が生じた場合にMOSFETを短時間でディスエーブルにするために用いられます。

ホットスワップ・コントローラの最後の重要なブロックはTIMERです。これは、過電流イベント時に電流のレギュレーション時間を制限します。MOSFETは、所定の最大時間にわたって所定の電力に耐えるように設計されています。MOSFETメーカーは、図3に示すようなグラフを用いてこの範囲、つまり安全動作領域(SOA)を示します。

Figure 3
図3. MOSFETのSOAグラフ

SOAグラフは、ドレイン−ソース間結合電圧、ドレイン電流、およびMOSFETがこの消費電力に耐えられる時間の関係を示しています。例えば図3のMOSFETは、1ms の間10Vと85A(850W)に耐えられます。この条件が長く持続した場合、MOSFETは破壊されます。TIMER回路を用いることで、MOSFETがこのような最悪条件下に置かれる時間を外付けTIMERコンデンサで制限できます。例えばTIMERが1msに設定され、電流が1msを超えて制限値を上回った場合は、回路がタイムアウトしてMOSFETをシャットダウンします。

ADM1177で安全域を設定するには、TIMERの電流検出電圧の起動閾値を92mVに設定します。検出電圧が100mVの調整値に接近すると、ホットスワップ・コントローラは電流の流れた時間の計測を少し早めに開始します。

設計例

ADM1177のようなコントローラを用いた設計では柔軟性が与えられるため、12Vのホットスワップ設計例が役立つことがあります。この例では、以下の条件を想定します。

コントローラ:ADM1177

  • VIN = 12 V (±10%)
  • VMAX = 13.2 V
  • ITRIP = 30 A
  • CLOAD = 2000 μF
  • VON = 10 V (コントローラのスイッチオンに適した電源電圧レベル)
  • IPOWERUP = 1 A (パワーアップ時に負荷が必要とするDCバイアス電流)

この議論を単純化するため、計算では部品の公称誤差の影響を除外します。最悪条件に対して設計する時は、これらの許容誤差を考慮する必要があります。

ONピン

まず、電源電圧が10Vを上回った時にコントローラをイネーブルにする条件を考えます。ONピンのスレッショールドが1.3Vの場合は、VINからONピンまでの分圧器比は0.13:1であることが必要です。精度を確保するには、ストリングの抵抗を選択する時にピンのリーク電流を考慮してください。

10kΩと1.5kΩの抵抗から構成される抵抗分圧器は、0.130という適切な比率を持ちます。

検出抵抗の選択

検出抵抗は、TIMERの起動に必要な負荷電流に基づいて選択されます。

Equation 1

ここで、 VSENSETIMER = 92 mVです。

検出抵抗が30Aで消費する最大電力は、以下の通りです。

Equation 2

したがって、検出抵抗は3Wを消費できなければなりません。正しい電力定格値または必要な抵抗値を持つ単一の抵抗を使用できない場合は、複数の抵抗で検出抵抗を作成してもかまいません。

負荷容量の充電時間

負荷容量の充電に必要な時間は、MOSFETを選択する前に決定する必要があります。パワーアップ段階では、負荷容量が要求する突入電流は一般に電流制限に達します。TIMERピンで設定した時間が短くて負荷コンデンサを充電できない場合は、MOSFETはディスエーブルにされ、システムはパワーアップしません。理想値を決定するには次式を使用します。

Equation 3

ここで、 VREGMIN = 97 mVです。これはホットスワップ・コントローラの最小レギュレーション電圧です。

この式では、負荷電流が0Aから30Aまで即座にランプアップするという理想的な条件を想定しています。実際には、大きなMOSFETのゲート電荷(QGS)がゲート電圧のスルーレートを(したがって、パワーアップ電流プロファイルも)制限する機能を果たすため、TIMER機能をトリガすることなく、多量の電荷が負荷コンデンサに供給されます。図4では、MOSFETに高いQGSを持たせるとTIMERは短期間(T1 ~ T3)だけアクティブであり、MOSFETに低いQGSを持たせるとTIMERはT0 ~ T2の間アクティブになります。

Figure 4
図4. QGSが起動プロファイルに与える影響

この理由は、T0 ~ T1間で供給される電荷は、電流制限を下回る範囲で蓄積するからです。したがって、必要な計算時間値も減らすことができます。この量は定量化するのが難しく、コントローラのゲート電流と、MOSFET仕様のゲート電荷と容量に依存します。場合によっては、これが合計充電電流の30%を占めることもあるため、特に大きなMOSFETと大電流を使用する設計では、それらを考慮する必要があります。

低いゲート電荷を持つMOSFETを使用する設計では、ゲート・ランプが高速になることが予想されます。このため、0AからITRIPまでの上昇が高速になるため、望ましくないトランジェントが発生することがあります。この場合はソフト・スタートが必要となります。

ソフト・スタート

ソフト・スタートを使用することで、突入電流は、SSコンデンサによって設定された期間にわたって、ゼロからフルスケールまで直線的に上昇します。この動作はリファレンス電流のランプアップで与えられ、リミットのかかる30Aが突然に流れることを防ぎます。なお、ソフト・スタート時には、電流はレギュレーション中であるため、図5から分かるように、TIMERはソフト・スタートが始まる瞬間から有効となります。

Figure 5
図5. ソフト・スタートがTIMERに与える影響

したがって、合計TIMERの10 ~ 20%を超えないソフト・スタート時間を推奨します。この例では、100μsの時間を選択できます。SSコンデンサ値は次のように決定できます。

Equation 4

ここで、 ISS = 10 μA 、 VSS = 1 Vです。

MOSFETとTIMERの選択

適切なMOSFETを選択する第一歩は、VDSとIDの基準を選択することです。12Vシステムでは、MOSFETを破壊することのあるトランジェントを想定して、VDS を30Vまたは40Vとします。MOSFETのIDは、必要な最大値(図3のSOAのグラフを参照)より十分大きくします。大電流アプリケーションでの最も重要な仕様の1つは、MOSFETのRDSONです。このパラメータを小さく設定することで、通常動作で完全にONした状態のMOSFETで失われる電力が最小となり、定格負荷で生じる発熱が最小となります。

熱と電源の考慮事項

SOAの詳細とTIMERの選択を検討する前に、過熱状態を避ける必要があるため、定格DC負荷におけるMOSFETの消費電力を考慮する必要があります。MOSFETの温度が上昇するにつれて、その定格電力は下がります。さらに、MOSFETを高温で動作させると寿命が減少します。

ホットスワップ・コントローラは、92mVという最小の検出電圧でTIMERを開始することを思い出してください。この計算には、TIMERを作動させることなく流れることができる最大のDC電流を知る必要があります。97mVという最悪時のVREGMINを想定すると、次式が得られます。

Equation 5

MOSFETの最大RDSONは2mΩであると想定すると、電力損失は次式で表されます。

Equation 6

周囲温度におけるMOSFETの熱抵抗はデータシートで規定されます。フットプリント・サイズや銅線部分の増大がこの値に影響を及ぼします。次のように想定します。

Equation 7

MOSFETは2.1Wを消費することが必要なため、周囲温度を126℃上回る最悪時の温度上昇を予想できます。

Equation 8

この数値を減らす方法の1 つは、複数のMOSFETを並列に使用することです。これによってRDSON が効果的に減少するため、MOSFETでの消費電力も減少します。2つのMOSFETを用いて、電流はデバイス間で均等に分割される(いくらかの許容誤差を考慮)と想定すれば、MOSFET当たり32℃の最大温度上昇が生じます。次式は各MOSFETでの電力損失を示します。

Equation 9

この温度上昇とTA = 30 ℃ という周囲温度の想定によって、MOSFETごとに62℃の最大ケース温度を想定できます。

Equation 10

MOSFETのSOAの考慮事項

次のステップでは、SOAグラフを確認して、最悪条件に対処するための適切なMOSFETを見つけ出します。最悪時の短絡接地条件では、VDSは13.2VのVMAXであると想定できます。なぜなら、ソース端子をGNDに接地した状態において、MOSFETの両端に存在する最大電圧となるからです。レギュレーション中の最悪時は、ホットスワップ・コントローラのレギュレーション・ポイント設定に関するデータシート仕様の最大値に基づきます。これは103mVに等しく、電流は次のように計算できます。

Equation 11

これをMOSFETのSOAグラフと比較する前に、MOSFETの温度ディレーティングを考慮する必要があります。なぜなら、SOAグラフはケースの周囲温度(TC=25℃)におけるデータに基づくからです。まず、TC=25℃での消費電力を計算します。

Equation 12

ここで、RthJCはMOSFETのデータシートで規定されます。

次に、TC=62℃に対して同じ計算を実行します。

Equation 13

したがって、1.42というディレーティング係数は次のように計算されます。

Equation 14

これを、図3のMOSFETのSOAグラフに適用する必要があります。調整された定格電力値を反映するために、最大電力が印加される時間を示す対角線を下に移動する必要があります。

本稿の前半で、1ms のラインを使用してグラフの仕組みを説明しました。ここでは例として、そのライン上のポイント(例えば20A、40V)を選びます。そのポイントでの電力は800Wです。ディレーティング式を適用します。

Equation 15

40Vでは、ディレートされた電力に対応する電流は14Aです。この点をSOAグラフにプロットすると、62℃でディレートされた新しい1msライン上の点が設定されます。新しい10msと100μsのラインも同様に設定できます。図6には、新しいラインを赤色で示します。

Figure 6
図6. SOAプロット(62℃でディレートされた極限電力を含む)

TIMERコンデンサの選択

SOAの新しいディレーティング・ラインを用いて、TIMER値を再計算することができます。IMAX ≈35Aから水平線を引き、VMAX=13.2Vから垂直線を引きます(細い青線)。次に、赤い線を基準にしてそれらの交点を求めます。これらの線は1 ~ 10ms(おそらく~ 2ms)時間を示します。ログ目盛りによる小さなグラフ領域では正確な数値を得ることが難しいため、十分な許容誤差が適用されるように無難な選択を行ってください。その一方で、これらの選択が他の基準(性能や価格など)に及ぼす影響も考慮します。

負荷の充電に予想された時間が約850μsであったことを思い出して下さい。ソフト・スタート時間は直線ランプによって設定されるため、ステップ変化の場合に比べて負荷コンデンサの充電に長時間を要します。合計充電量を予測するため、ソフト・スタートを使用する場合は、ソフト・スタート時間の半分を計算された時間に加算します。したがって、850μsにソフト・スタート時間の半分(50μs)を加算して、合計時間は約900μsとなります。選択したMOSFETのゲート電荷が大きい(例えば≧80nC)場合は、前述のようにTIMER値をさらに減らすことができます。負荷を充電する時間が最大SOA時間より短い場合は、そのMOSFETは適切です。本設計例では基準が満たされています(0.9ms<2ms)。

TIMER値としては、MOSFETを保護するには2ms未満で十分であり、負荷を充電するには0.9msを超える必要があります。1msという無難な値が選択された場合は、容量を次のように計算できます。

Equation 15

ここで、 ITIMER = 60μA、VTIMER=1.3Vであるため、

Equation 16

並列MOSFETを使用する場合も、TIMER選択用の計算は変化しません。TIMERと短絡回路保護の設計を行うには、単一のMOSFETを念頭に置くことが重要です。なぜなら、VGSTHがMOSFETによって大きく異なることがあるため、レギュレーション時に単一のMOSFETが電流の大部分を処理することがあるからです。

ホットスワップ設計の完成

並列MOSFETによるホットスワップ設計を、正しい部品値とともに図7に示します。ADM1177ホットスワップ・コントローラには、これ以外の機能もあります。内蔵されているADCを使用して電源電圧と負荷電流をデジタル・データに変換し、I2C®バスを通じて読み出すことができるため、完全集積型の電流/電圧監視機能を提供します。

Figure 7
図7. 完成したリファレンス設計

著者

Marcus OSullivan

Marcus O'Sullivan

Marcus O’Sullivanは、1999年にアナログ・デバイセズに入社し、アプリケーション・エンジニアとしてパワーマネジメント・グループに勤務しています。リメリック大学で電子工学の工学士号を取得しました。