概要
電気化学式のガス・センサーは、エタノールや一酸化炭素(CO)などを検知するために使用されます。本稿では、そうしたセンサー・システム(ガス検知器)を構築する場合に最適なオペアンプを紹介します。また、ポータブルなガス検知器の場合、最小限の消費電力でエタノールやCOを正確に測定できるようにしなければなりません。それも踏まえると、最適な結果を得るためには、どのようなオペアンプを選択すればよいのでしょうか。本稿では、その点についても解説を加えます。
はじめに
電気化学式のガス検知器を適切かつ高精度に機能させるためには、一定のバイアスが必要になります。それに伴い、かなり多くの電力が消費されてしまう可能性があります。通常の電力管理の手法では、アイドル・モードやスリープ・モードではあらゆる機能を停止させることで消費電力の削減を図ろうとすることが多いでしょう。しかし、電気化学式のセンサーが安定するまでには数十分から数時間を要します。したがって、ガス検知器とそのバイアス回路は常時オンの状態に維持しなければなりません。なお、バイアス電圧としては、通常の民生用アプリケーションで使われる1個の単3電池によって得られる電圧よりもかなり低い値になります。
「MAX40108」は、低消費電力、高精度のオペアンプです。計測関連のアプリケーションを対象として設計されており、最小0.9Vの電源電圧で動作します。また、その入出力はレールtoレールに対応しています。電源電流はわずか25.5µA(代表値)、入力オフセット電圧は1µV(標準値)であり、時間と温度に対してゼロドリフトを実現します。そのため、エタノールやCOを対象とするガス検知器だけでなく、低消費電力であることが求められる民生用アプリケーションにとって理想的なものだと言えます。
概要
図1は、エタノールやCOなどを対象とするガス検知器のブロック図です。図中のES(Electrochemical Sensor:電気化学式センサー)が電気化学式のセンサーを表しています。このシステムでは、1.5Vの単3/単4電池から直接給電される低電圧動作のオペアンプ(MAX40108)を使用しています。このオペアンプは、消費電力を抑えるためにシステムの他の部分がスリープ・モードである場合にも、電気化学式のセンサーに対してバイアス電流を供給します。オペアンプU1は、電気化学セルの参照電極(基準電極)に対する給電を担います。一方、オペアンプU2はトランスコンダクタンス・アンプとして機能します。これにより、センサーの電流出力を電圧出力に変換します。得られた電圧出力は、U3のオペアンプ「MAX44260」によって増幅されます。
同オペアンプの最小動作電圧は1.8V、ユニティゲイン帯域幅は15MHzです。オフセットが小さく消費電力が少ない製品であり、入出力はレールtoレールに対応しています。増幅された信号は、マイクロコントローラの内部でデジタル・データに変換されます。なお、この回路に関する詳細な情報については、こちらのページをご覧ください。
エタノール検知器の評価
ここでは、エタノール用のガス検知器を構成して評価を実施しました。図1の構成し、電気化学式のセンサーとしてはSPEC Sensors製の「3SP_Ethanol_1000 Package 110-202」を使用しています(図2)。

この電気化学式センサーは、検知したガスの量に比例する電流を生成します。電極としては、以下に示す3つを備えています。
WE: 作用電極(Working Electrode)。WE は 0.7V にバイアスされ、ガスの蒸気を検知します。
RE: 参照電極(Reference Electrode)。RE は、ガスの蒸気にさらされない電解液の中で、0.6V のバイアス電圧という安定した電気化学電位を提供します。
CE: 対向電極(Counter Electrode)。
CEは、ガスが存在する場合に導通します。導通のレベルはガスの濃度に比例し、システムによって電気的に測定することができます。
この評価では、ガスの粒子を電気化学式センサーに物理的に接触させる必要があります。つまり、同センサーは基本的に自身と同じ場所に存在するガスだけを測定の対象とします。したがって、エタノールやCOなどのガスを正確かつ効果的に検出するためには、ガスが拡散すると予想される場所にセンサーを配置しなければなりません。この評価では、エタノール溶液に綿棒を浸し、同センサーのすぐ前に配置しました。
図3に示したのは、このガス検知器による測定結果です。青色の曲線は、検知されたエタノールの蒸気の濃度を表しています。一方、緑色の曲線は、マイクロコントローラを含むシステム全体の消費電流の値をプロットしたものです。その代表値は90mAとなっています。ただ、MAX40108の消費電流は、VDDが0.9V、TAが25°Cの場合、わずか25.5µAに抑えられます(図4)。

アイドル・モードにおいて、マイクロコントローラは10秒ごとにウェイクし、エタノールの蒸気のモニタリング処理を行います。蒸気が存在する場合、その濃度の測定が開始され、青色の曲線のような結果が得られます。なお、赤色の線は単3電池の電圧(約1.5V)、黄色の線はCEの電圧を表しています。
続いて、電気化学式センサーの反応が蒸気の濃度に応じてどのように変化するのかを確認してみましょう。そのために、綿棒を同センサーから遠ざけてみます。図5に示したのがその結果です。予想どおり、蒸気の濃度が低下したことによって、青色の曲線は低い位置を推移しています。

CO検知器の評価
続いて、ガス検知器によってCOの濃度を測定した結果を示します。エタノールとは異なり、COは有害なガスです。例えば、ガソリンが不完全燃焼するとCOが発生します。有害物質を含まないロウソクであっても、不完全燃焼すれば有害なCOが発生するので注意が必要です。COに関する評価を行う場合には、健康と安全を確保するために換気を適切に実施することが重要です。本稿では、密閉された容器の中でロウソクを燃やすことによってCOガスを発生させます。センサーとしては、先ほどと同じく3SP_ Ethanol_1000 Package 110-202を使用します。同センサーを使えば、COガスの濃度も測定できます。
図6に示したのが測定結果の例です。青色の曲線は、検知されたCOガスの濃度を表しています。緑色の曲線は、マイクロコントローラを含むシステム全体の消費電流の値をプロットしたものです。その代表値は、やはり90mAとなっています。

エタノールに関する評価と同様に、マイクロコントローラは10秒ごとにウェイクして、COガスのモニタリング処理を行います。COガスが検知されたら濃度の測定が開始され、青色の曲線のような結果が得られます。赤色の線は単3電池の電圧(約1.5V)、黄色の線はCEの電圧を表しています。
まとめ
民生分野や産業分野でエタノールやCOを正確に測定するには、低消費電力、高精度のオペアンプが必要になります。本稿で紹介したMAX40108は、エタノールやCOといった一般的なガスの検知/測定を対象として設計されています。その最小動作電圧は0.9Vです。また、消費電流がわずか25.5µAに抑えられているだけでなく、1.22mm×0.92mmの8ピンWLPという小型パッケージで提供されています。更に、消費電力を更に抑えるためのシャットダウン・モードを備えています。多くのアプリケーション分野では、機器の消費電力を低減することが不可欠です。そうした機器の例としては、ウェアラブル・デバイスやポータブルな医療用システム、圧力/流量/レベル/温度/近接度のなどの測定を担うIIoT(Industrial Internet of Things)機器などが挙げられます。