最小負荷電流での動作、無負荷での動作

アプリケーション・エンジニアである私は、レギュレータの無負荷時の動作について質問を受けることがよくあります。最近のLDOレギュレータやスイッチング・レギュレータのほとんどは、無負荷でも安定して動作します。それなのに、たびたび質問を受けるのはなぜでしょうか。旧式のレギュレータの中には、安定した動作を得るために最小負荷が規定されているものがありました。必ず補償しなければならない1つのポールが、負荷抵抗の影響を受けるからです。これについては、「アプリケーション・エンジニアに尋ねる-3 7、低ドロップアウト・レギュレータ」で説明されています。例えば、図Aは「LM1117」のデータシートから一部を抜粋したものです。これを見ると、最小負荷電流として1.7mA(最大値は5mA)が必要であることがわかります。

 図A. LM1117 における最小負荷電流の規格
図 A. LM1117 における最小負荷電流の規格

最近のレギュレータのほとんどは無負荷でも安定して動作します。通常、LDOは、出力コンデンサ、特にESR(等価直列抵抗)の小さいコンデンサを使用しても安定するように設計されています。それと同じ技術が、無負荷時の安定性を保証するためにも使われているのです。最近のレギュレータの中にも、負荷を必要とするものがいくつか存在します。通常、その制限はパス・エレメントを流れるリーク電流に起因するものであり、安定性とは無関係です。まずはデータシートを確認することをお勧めします。最小負荷を必要とする製品であれば、データシートにはそれに関する説明が明確に記載されているはずです。

最小負荷を必要とする製品としては、「ADP1740」など、低電圧/大電流に対応するLDOがあります。集積されたパワー・スイッチにおいて、ワーストケースではリーク電流が85°Cで約100μA、125°Cで500μA程度が流れます。無負荷である場合、リーク電流が無視できるレベルになるまでスイッチのVDSが低下し、リーク電流により出力コンデンサが充電されることによって出力電圧が上昇することになります。そのため、データシートには最小負荷電流として500μAが規定されており、高温環境で使用する場合には、ダミーの負荷を使用することが推奨されています。この負荷電流は2 Aの定格電流に比べれば小さい値です。図Bに、ADP1740のデータシートから最小負荷電流について規定した部分を抜粋して示しました。

図 B. ADP1740 における最小負荷電流の規格
図 B. ADP1740 における最小負荷電流の規格

データシートに最小負荷が明確に規定されていない場合には、どうすればよいのでしょうか。というよりも、実際には最小負荷が規定されていることはほとんどありません。もし、最小負荷の規定が本当に必要なのであれば、データシートにその旨が明記されているはずです。データシートに、広い動作範囲にわたる仕様がグラフによって表示されている場合には混乱が生じる恐れがあります。そうしたグラフのほとんどは対数表示であり、数ケタに及ぶ負荷の範囲が示されます。ただ、対数目盛には0は存在しません。図Cをご覧ください。これらは、負荷電流が10μA~200μAの範囲にある場合のADM7160の特性を示したものです。上は負荷電流に対する出力電圧、下は負荷電流に対するグラウンド電流の関係を表しています。グラウンド電流と入力電圧の関係といったグラフでも、複数種の負荷電流に対する計測値が示されますが、電流が0の場合の値は示されません。また、PSRR、ライン・レギュレーション、負荷レギュレーション、ノイズといったパラメータは、図Dに示すように、0を含まない一定の負荷電流を条件としています。ただ、いずれの例も、最小負荷条件が存在することを意味しているわけではありません。

 図 Ca. ADM7160 の負荷電流と出力電圧、グラウンド電流の関係
 図 Cb. ADM7160 の負荷電流と出力電圧、グラウンド電流の関係
図 C. ADM7160 の負荷電流と出力電圧、グラウンド電流の関係
図 D. ADM7160 の負荷レギュレーションの規格
図 D. ADM7160 の負荷レギュレーションの規格

省電力モード( PSM: Power-Saving Mode)を備えるスイッチング・レギュレータのユーザーからは、軽負荷での動作を心配する声が頻繁に寄せられます。PSMにおいて動作周波数が低下し、パルスのスキップが生じてバースト状のパルスやほかの現象が組み合わさって発生するのではないかという懸念があるようです。PSMを利用すれば、消費電力を削減し、軽負荷時の効率を改善することができます。欠点としては、出力電圧のリップルが目に見えて増大することが挙げられます。しかし、レギュレータは安定性を維持し、無負荷であっても問題なく動作します。

ADP2370」は、高電圧に対応し、静止電流が少ないことを特徴とする降圧型スイッチング・レギュレータです。図Eに示すように、同製品の負荷電流を800mAから1mAに切り替えると、PSM動作によってリップルが増大します。なお、この評価結果では1mAを例にとっていますが、1mAが最小負荷だということではありません。

図 E. 負荷を切り替えて PSM 動作に移行した際のADP2370 の過渡応答
図 E. 負荷を切り替えて PSM 動作に移行した際のADP2370 の過渡応答

図Fには、負荷電流に応じてリップル電圧が変化する様子を示しています。ご覧のように、このグラフでは 0が描かれています。このことから負荷を 0にできることと、無負荷時のノイズは負荷電流が1mA、10mAの場合と比べて特に大きいわけではないことがわかります。

図 F. ADP2370 における負荷電流と出力リップルの関係
図 F. ADP2370 における負荷電流と出力リップルの関係

まとめ

最近のレギュレータのほとんどは、負荷電流が0であっても安定して動作します。もし、この点について疑問があれば、データシートを注意深く確認してください。ただ、対数目盛には0が存在しないことに加え、必ずしも負荷電流が0の状態で評価が行われるとは限りません。無負荷時のデータがないとしても、そのレギュレータが無負荷では正しく機能しないと決めつけるのは早計です。また、スイッチング・レギュレータの場合、PSMでリップルが発生するのは正常な状態であり、動作が不安定だということではありません。

参考資料

買主の危険負担に気をつけて!

リニア・レギュレータ

スイッチング・レギュレータ

Patoux, Jerome「アプリケーション・エンジニアに尋ねる-3 7、低ドロップアウト・レギュレータ」Analog Dialogue, Volume 41, Number 2, 2007年

著者

Luca-Vassalli

Luca Vassalli

Luca Vassalliは、ADIで12年以上にわたってさまざまな業務に携わってきました。光通信、無線システム、医療用診断装置、試験装置などに関する設計やサポートなどの業務です。現在は「ADIsimPower」の開発チームの一員として、高性能システム向けの電源の設計、シミュレーション、プロトタイピング、テストの業務をお客様と共に行っています。ノースカロライナ州立大学でパワー・エレクトロニクスに関する修士号を、西スイス応用科学大学で学士号を取得しています。