入力信号が広範囲に変動するデータ・アクイジション、センサーのシグナル・コンディショニングなどのアプリケーションでは、ゲインを選択できるアンプが必要です。ゲインの選択が可能な従来のアンプの場合、帰還ループにスイッチを使用して抵抗を反転入力に接続します。しかし、スイッチ抵抗によってアンプのノイズ性能が低下し、反転入力で容量が大幅に増加し、非直線性のゲイン誤差が生じます。このようなノイズと容量の増加は低ノイズ・アンプの場合には特に厄介であり、また非直線性のゲイン誤差は高精度なアプリケーションにおいて問題となります。
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図1に示すゲイン選択可能なアンプは、ADA4896-2の1nV/√Hz というノイズ性能を維持するとともに非直線性のゲイン誤差を低減する、革新的なスイッチング技術を使用しています。この技術によって、最小の容量を持つスイッチを選択して回路の帯域幅を最大限に高めることができます。
これらのスイッチにはトリプルSPDT CMOSスイッチのADG633を使用し、S1AとS2Aがオン、またはS1BとS2Bがオンになるように設定します。スイッチS1は帰還抵抗の出口端部に接続します。スイッチS2は、非直線性のスイッチ抵抗がゲインに影響を与えないポイント(V1またはV2)でサンプリングします。これによって、ノイズ性能を保ちながらゲイン誤差を低減します。図に示す値を使用した場合、第1段のアンプ・ゲインは、「A」スイッチがオンのときに4V/V、「B」スイッチがオンのときに2V/Vです。切り替えるゲインの数を拡大するには、スイッチ・デバイスを追加するか、4:1のADG659または8:1のADG658などのマルチプレクサを使用します。
なお、出力バッファの入力バイアス電流がS2サンプリング・スイッチの非直線性のオン抵抗を流れるときにオフセットが発生します。このオフセットを補償するには、出力バッファの帰還パスに未使用のスイッチ(S3B)を配置します。
さらに、入力アンプのバイアス電流によって、ゲインに依存するオフセットが発生します。入力アンプと出力バッファを同じチップ上に作成するため、これらのバイアス電流の相対的なマッチングを使用して、変化するオフセットを相殺できます。RF2とRF1との差に等しい抵抗をスイッチS2Aと直列に配置すると、オフセット電圧の変動が小さくなります。
次の式から、V1でのサンプリングによってゲイン誤差なしに所望の信号ゲインが得られることがわかります。RSは、スイッチ抵抗を示します。V2も同じ方法で計算することができます。
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(1) |
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(2) |
式1を式2に代入すると、
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(3) |
なお、VO1によってゲイン誤差なしに所望の信号ゲインが得られれば、バッファ出力(VO2)にもゲイン誤差は発生しません。図2は、VO2でのこの回路の正規化された周波数応答です。
