「ねぇ、ぼくの電源コードはどこ?」

はじめに

かつて、電源コードは、どこにいったのかわからなくなるものの代名詞のような存在でした。しかし、現在では「ぼくの電源コードはどこ?」というフレーズは、「ぼくの充電器はどこ?」というフレーズに置き換わっているのではないでしょうか。20世紀が終わるころから、携帯電話をはじめとするバッテリ駆動の可搬型機器や蓄電機器の数は継続的に増加しています。その背景には、バッテリのコストの低下と性能の向上があります。特に、リチウムイオン系バッテリの進化は顕著でした。また、スーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ、ウルトラキャパシタ)は、その固有な特性が理由となって様々なアプリケーションで利用されるようになっています。150年の歴史を持つ鉛蓄電池は、現在でも自動車、車椅子、スクータ、ゴルフのカート、無停電電源(UPS)などの用途で広く使用されています。これらの蓄電デバイスは、エネルギーを使いきったら再充電することで引き続き使用できます。稿末に示した参考資料1Power IC Market Tracker - 2019(パワーICのマーケット・トラッカ 2019)」によれば、充電用ICの出荷数量は、2019年に世界中で約11億6千万個に達しました(図1)。その後も8.6%のCAGR(年平均成長率)で堅調に成長し、2024年には約17億2千万個の製品が出荷される見込みです。売上高に換算すると、2019年が5億1810万米ドル(約597億円)、2024年が7億3540万米ドル(約848億円)、CAGRは7.3%です。

図1. 充電用ICの世界市場
図1. 充電用ICの世界市場

例えば、電気自動車(EV)では、1回の充電によって、より長い航続距離を実現することが求められます。一方、携帯電話は、1回の充電によって、より長い時間使用できるようになっていなければなりません。つまり、蓄電デバイスとしてはより多くの電力を供給できるものが求められます。それに伴い、蓄電デバイスはより高い電圧に対応するようになってきています。例えば、リチウムイオン・バッテリの場合、以前は1個または2個のセルが使われていました。その後、ロボット、ドローン、電動工具、その他多くの機器に対応するために、より多くのセル(最大12個)から成るバッテリ・スタックが使われるようになりました。12個のセルを使用したバッテリ・スタックであれば、最大50.4Vの電圧を供給できます。12セルのバッテリは、定格電流が同じ値であるならば、1セルのバッテリよりも12倍長持ちします。なお、12個のバッテリを並列に接続することによって電力量を増やすことも可能です。但し、その方法では電流を12倍に増やさなければなりません。電流が多くなると伝導損失が増えるので、バッテリの並列接続は好ましくありません。

バックアップ用のバッテリを備えた機器も増えています。具体的な例としては、産業分野で使われる非常用の照明やUPS、HVAC(暖房、換気、および空調)などが挙げられます。これらの機器では24VDCの電源が使用されます。つまり、バックアップ用の電源としても24Vのバッテリが必要です。但し、IEC 61131-2やIEC 60664-1といった規格によれば、24VDCの電源では、トランジェントの状態において60Vのピーク電圧が生じる可能性があります。

そうした機器におけるバッテリの充電に向けては、次のような要件を満たすチャージャが必要になります。すなわち、より高いバッテリ電圧に対応可能で、トランジェントの発生時に、より高い入力電圧に耐えられる充電用のソリューションです。

チャージャの基礎

チャージャには、いくつかのトポロジがあります。1つはリニア・チャージャです。このトポロジでは、パワー・スイッチによって電源とバッテリの間の電圧の差を低減させます。その差が大きい場合、パワー・スイッチで多くの電力が消費されるので、非常に効率が悪くなります。2つ目のトポロジとしては、昇圧型のチャージャが挙げられます。これは、電源の電圧をバッテリの電圧まで昇圧させるというものです。このトポロジは、電源の電圧がバッテリの電圧よりも低い場合に使用します。3つ目のトポロジは降圧型のチャージャです。電源からの電圧を降圧して使用するというものであり、電源の電圧がバッテリの電圧よりも高い場合に使用できます。4つ目のトポロジは昇降圧型のチャージャです。このトポロジであれば、電源の電圧がバッテリの電圧より高くても低くてもバッテリを充電することができます。但し、4個のパワー・スイッチが必要であり(降圧型では2個)、一般的にそれほど効率は高くありません。

本稿では、同期整流方式の降圧チャージャを取り上げることにします。このトポロジでは、最も高い効率が得られます。図2に、同期整流方式の一般的な降圧チャージャの回路を示しました。昨今の降圧チャージャの大半は、比較的低い入力電圧に対応します。なかには、入力定格電圧が40V程度のものもありますが、ほとんどは高くても28V程度です。例として、リチウムイオン・バッテリ用のチャージャについて考えてみます。そのアプリケーションでは、±10%の入力電圧に対応して電圧をレギュレートするとします。また、降圧チャージャにおいて2Vの降下を許容できるとしましょう。その場合、定格入力電圧が28Vのチャージャは、実際には最大で5Sのバッテリ・スタックにしか対応できません。本稿では、60Vの入力電圧に対応可能なチャージャIC(コントローラIC)の製品ファミリを紹介します。これであれば、最大52Vのバッテリ電圧(または、12セルのリチウムイオン・バッテリのスタック)に対応して充電を行うことができます。また、65Vの入力電圧トランジェントに耐えることが可能です。

図2. 同期整流方式の一般的な降圧チャージャ
図2. 同期整流方式の一般的な降圧チャージャ

チャージャにおいては、電力を節約するためにスタンバイ電流を少なく抑えなければなりません。例えば、Energy Star®(省エネ型の電気製品の認証制度)では、携帯電話向けなどの小型充電器についてはスタンバイ時の消費電力が30mW以下の場合に5つ星が付与されます。スタンバイ時の消費電力が多いほど星の数は減り、300mW以上の充電器は1つ星となります。一般消費者向けの充電器の多くは、使用していないときも、ほとんどコンセントに差したままになっています。そのような形で電力網に接続されている充電器の数は、世界中で常に10億台以上に達しています。Energy Starでは、そうした充電器によって消費される電力の削減を目指しています。

鉛蓄電池、リチウムイオン・バッテリ、スーパーキャパシタは、いずれも蓄電デバイスとして使用されます。しかし、それぞれの充放電特性は大きく異なります。以下では、それぞれの特性について説明します。また、それぞれに適した充電用のソリューションを紹介します。優れたバッテリ・チャージャであれば、悪条件の下で充電を行う場合でも、バッテリの性能と耐久性を維持することができます。

鉛蓄電池用のチャージャ

鉛蓄電池は、最も古くから存在し、現在も使われている2次電池です。フランスの物理学者、Gaston Planté氏によって1859年に発明されました2。それから150年以上が経った今でも、自動車、車椅子、スクータ、電動自転車、ゴルフのカート、UPSなどに広く使用されています。

鉛蓄電池はゆっくりと充電する必要があります。標準的な充電時間は8~16時間です。硫酸鉛の結晶化(サルフェーション)を防ぐために、常に充電された状態で保存する必要があり、定期的に満充電にすることが不可欠です。一般的には、約8時間で70%まで充電し、更に8時間かけて非常に重要な吸収充電を行います。サルフェーションを防止するためにときどき満充電にするという条件を守れば、通常は部分充電で使用しても構いません。また、長時間フロート充電したままにしても、損傷は発生しません。

鉛蓄電池を使用する場合には、充電電圧の理想的な上限値を見いだすことが非常に重要です。高い電圧(1セルあたり約2.45V以上)を使用すれば、優れた性能を実現できます。但し、正極板での格子腐食によって耐用年数が短くなります。また、電圧の下限値において、負極板にサルフェーションが発生することがあります。更に、通常は温度により、セル電圧に-5mV/°C(華氏10度ごとに1セルあたり0.028V)の影響が及びます3。優れたチャージャであれば、この温度係数を補正する機能を提供してくれます。それにより、高温におけるバッテリの過充電や低温における過小充電を防止することができます。

ここでは、鉛蓄電池の充電に使用するコントローラIC「MAX17702」を紹介します( 図3)。 このICは、4.5V~60Vの入力電圧範囲に対応するように設計されています。12V/24V/48Vに対応する鉛蓄電池のスタックを(97%以上の)高い効率で充電可能な同期整流方式の降圧機能を提供します。図4(a)、(b)は、それぞれ同ICを使用した場合の充電サイクルと充電効率を表しています。図中のCCは定電流(Constant Current)モード、CVは定電圧(Constant Voltage)モードを表します。

図3. 高電圧に対応する鉛蓄電池用のチャージャ回路
図3. 高電圧に対応する鉛蓄電池用のチャージャ回路
図4. MAX17702の動作/特性。(a)は鉛蓄電池の充電サイクル。
図4. MAX17702の動作/特性。(a)は鉛蓄電池の充電サイクル。
図4. MAX17702の動作/特性。(b)は充電時の効率を表しています。
図4. MAX17702の動作/特性。(b)は充電時の効率を表しています。

鉛蓄電池はエネルギー密度が低いので、携帯型の機器には適していません。そのため、携帯型の機器ではリチウム系のバッテリが有力な選択肢になります。

リチウムイオン・バッテリ用のチャージャ

リチウムイオン・バッテリには、軽量でエネルギー密度が高いという特徴があります。そのため、携帯型機器、重工業分野のアプリケーション、電動パワートレイン、人工衛星など、広範な用途で使われています。

リチウムイオン・バッテリは、比較的扱いやすいものだと言えます。メモリ効果がなく、良好な状態を維持するためのエクササイズ(意図的な完全放電)は必要ありません。とはいえ、短絡、過充電、熱暴走、過放電を防ぐために、バッテリ・パック内と充電器内の両方に保護回路を設ける必要があります。リチウムイオン・バッテリの電圧が1週間以上、1セルあたり1.5Vにとどまっていた場合、デンドライト(樹枝状の結晶)が成長し、安全性が損なわれる可能性があります。

過放電を防止するためには、コントローラが内蔵する保護回路を使用してバッテリをスリープの状態で維持します。バッテリの過放電は、自己放電によって電圧がカットオフ・ポイントに達する放電状態で保存した場合に発生します。通常のチャージャを使用した場合、そのようなバッテリは使用不能な状態だと判断されます。結果として、そのバッテリ・パックは廃棄されることになります。リチウムイオン・バッテリ用の高度なチャージャは、ウェイクアップ機能またはプリチャージ機能を搭載しています。そのため、リチウムイオン・バッテリが過放電によってスリープ状態になった場合でも再充電することが可能です。プリチャージ機能が有効になると、チャージャは少ない充電電流を供給するようになります。それにより、バッテリ・パックの電圧が1セルあたり2.2V~2.9Vになるまで安全に上昇させます。その結果、保護回路が起動し、その時点から通常の充電が開始されます。

リチウムイオン・バッテリ用のチャージャは、通常の充電中は定電流/定電圧(CCCV:Constant Current Constant Voltage)モードで動作します。充電電流は一定で、設定した上限値に達すると電圧が制限されます。バッテリは、電圧の上限値に達すると飽和状態になります。バッテリが充電を受け入れなくなるまで電流が減少し、充電が終了します。各バッテリには、低電流に関する固有の閾値があります。

リチウムイオン・バッテリを充電する際には、温度が上がらないようにする必要があります。また、リチウムイオン・バッテリは過充電に対応(吸収)することはできません。そのため、温度と充電電圧を監視し、バッテリの健全性と安全性を確保することが非常に重要です。優れたチャージャであれば、それらに対応する機能を備えています。

図5に示したのは、リチウムイオン・バッテリ用の高度なチャージャ回路の例です。図中の「MAX17703」は、高い効率を実現する同期整流方式の降圧コントローラです。4.5V~60Vという広い入力電圧範囲に対応しています。このICは、最大12セルのバッテリ・スタックに対応可能な完全な充電ソリューションです。

図5. 高電圧に対応する高度なリチウムイオン・バッテリ用チャージャ回路
図5. 高電圧に対応する高度なリチウムイオン・バッテリ用チャージャ回路

MAX17703のCCCVモードにおける充電電流と充電電圧の精度は、それぞれ±4%と±1%です。チャージャは、充電電流がテーパー電流の閾値まで減少すると、トップアップ充電の状態に入ります。そして、テーパー・タイマーの期間が経過すると充電が終了します。また、出力電圧が再充電の閾値電圧を下回ると、再充電のサイクルが開始されます。これは、Energy Starの要件に準拠するための優れた機能です。充電クレードルに長期間放置した場合でも、それほど多くの電力を消費することなく、バッテリを満充電の状態に維持します。加えて、MAX17703は、過放電したバッテリを検出した場合、プリチャージ機能によってそのバッテリをウェイクアップさせます。更に、バッテリの温度を監視し、適切な温度範囲内にある場合だけ充電を可能にするという保護機能も備えています。入力の短絡保護機能も内蔵しており、短絡を検出した場合にはバッテリの放電を防止します。図6に、MAX17703の充電サイクルを示しました。

図6. MAX17703によるリチウムイオン・バッテリの充電サイクル
図6. MAX17703によるリチウムイオン・バッテリの充電サイクル

スーパーキャパシタ用のチャージャ

スーパーキャパシタは、バッテリよりも優れた固有の長所を備えています。そのため、より多様なアプリケーションで使われるようになっています。バッテリは、化学的な蓄電に関連する寿命の問題を抱えています。それに対し、スーパーキャパシタは、化学反応を伴わない静電気の原理に基づいて機能します。そのため、バッテリと同様の寿命の問題は発生しません。また、耐久性の高さもスーパーキャパシタの長所の1つです。バッテリを1桁上回る最大20年の寿命を備えており、数百万回の充放電サイクルに対応できます。しかもインピーダンスが低く、わずか数秒で急速充放電することが可能です。長期間にわたり電荷を保持する適度な能力も備えているので、短い充放電サイクルを必要とするアプリケーションに最適なものだと言えます。スーパーキャパシタは、バッテリと並列で使用されることもあります。例えば、負荷トランジェントが生じている最中に瞬間的なピーク電力を供給する必要がある場合、そのような使い方が選択されます。

スーパーキャパシタ用のチャージャは、短時間の充放電サイクルに対応できるものでなければなりません。つまり、大電流を処理できるだけでなく、0Vから充電を開始する場合にはCCモード、最終出力値に到達したらCVモードでスムーズに動作する必要があります。高電圧のアプリケーションでは、多くのスーパーキャパシタを直列に接続して使用します。したがって、高い入出力電圧に対応できるチャージャが必要になります。

MAX17701」は、スーパーキャパシタ用の降圧コントローラICです(図7)。同期整流方式を採用しており、効率が高く高電圧に対応できます。大電流による充電に適した設計を採用しており、入力電圧範囲(VDCIN)は4.5V~60Vです。出力電圧は、1.25VからVDCIN - 4Vの範囲でプログラムすることが可能です。図7の回路では、Nチャンネルの外付けMOSFETを使用して入力側のORing機能を実現しています。これにより、スーパーキャパシタが入力に対して放電するのを防ぐことができます。大電流による充電プロファイルは、図8のようなシンプルなものになります。

図7. 高電圧/大電流に対応するスーパーキャパシタ用のチャージャ回路
図7. 高電圧/大電流に対応するスーパーキャパシタ用のチャージャ回路
図8. MAX17701によるスーパーキャパシタの充電プロファイル
図8. MAX17701によるスーパーキャパシタの充電プロファイル

まとめ

バッテリ駆動の携帯型機器や蓄電機器は、より広い領域で利用されるようになっています。そうした機器においてより長い利用時間を実現するためには、より多くの電力を供給できるようにしなければなりません。そのため、より電圧の高いバッテリ・スタックが使用されるようになっています。但し、例えば24VDCの電源を使用する産業用のシステムの場合、トランジェントが発生している状態では60Vのピーク電圧が発生する可能性があります。ところが、従来のチャージャのほとんどは、入力電圧が28Vに制限されていました。それに対し、アナログ・デバイセズが提供する新たなチャージャ・ソリューションであれば、より電圧の高いバッテリ・スタックに対応できます。同期整流方式の降圧トポロジにより、高電圧に対応しつつ充電効率を高めることが可能です。

鉛蓄電池、リチウム系バッテリ、スーパーキャパシタは、いずれも蓄電デバイスとして使用されます。しかし、それぞれの充放電特性は大きく異なります。したがって、それぞれに最適な専用のチャージャが必要になります。また、適切な保護機能を提供し、悪条件の下で充電を行う場合でもバッテリの性能と耐久性を維持できる高度なバッテリ・チャージャが求められます。アナログ・デバイセズは、そうしたチャージャ・ソリューションを提供しています。

参考資料

1Kevin Anderson「Power IC Market Tracker - 2019(パワーICのマーケット・トラッカ 2019)」OMDIA、2020年9月

2Advancements in Lead Acid(鉛蓄電池の進化)」Battery University、2016年7月

3 US 31DC XC2 - Data Sheet、U.S. Battery、2019年

著者

Thong Huynh

Thong Huynh

Anthony T. Huynh(Thong Anthony Huynh)は、Maxim Integrated(現在はアナログ・デバイセズの一部門)でアプリケーション・エンジニアリングを担当するプリンシパルMTS(Member of the Technical Staff)を務めていました。20年以上にわたり、絶縁型/非絶縁型のスイッチング電源とパワー・マネージメント製品の定義/設計に従事した経験を持ちます。アナログ・デバイセズでは、DC/DCコンバータ、ホットスワップ・コントローラ、PoE(Power over Ethernet)、システム保護などの用途に向けた100種以上のパワー・マネージメント製品を定義。それらの製品は、世界中の主要な機器メーカーに採用されています。

パワー・エレクトロニクスに関する4件の米国特許を保有。広報用の記事やアプリケーション・ノートも多数執筆しています。オレゴン州立大学で電気工学の学士号を取得。ポートランド州立大学で電気工学の修士号の取得に必要なすべての課程を修了しています。同校では、非常勤講師としてパワー・エレクトロニクスの講義も担当していました。