本稿では、一般に+9より高いゲインで安定動作するアンプ、たとえばADA4895-2などを+2の低ゲインで動作させるときに、どのように補償すれば同等の内部補償付きアンプより高いスルーレートや短いセトリング時間を実現できるかを説明します。2つの方法をご紹介し、それぞれの回路の長所と短所について解説します。
ADA4895-2は、ADA4896-2、ADA4897-1、ADA4897-2と同じファミリーのデバイスであり、低ノイズ、レールtoレール出力の高速電圧帰還型アンプ(デュアル)です。10以上のゲインで安定動作し、ゲイン帯域幅積は1.5GHz、スルーレートは940V/μs、セトリング時間(0.1%)は26ns、1/f ノイズは10Hzで2nV/√Hz、広帯域ノイズは1nV/√Hz、スプリアスフリー・ダイナミックレンジは2MHzで-72dBcです。3 ~ 10V電源で動作し、アンプ当たりの静止電流は3mAです。

図1に示す方法1では、単純なRC回路(RC=28Ω、CC=56pF)を反転入力に追加し、帰還コンデンサ(CF=5pF)を帰還抵抗と並列に接続します。この回路は、高周波でのノイズ・ゲインが+9、共振周波数1/2πRCCC=100MHzを下回る周波数でのゲインが+2です。高周波でのノイズ・ゲインがほぼ+9であっても、ROとCLで構成されるローパス・フィルタで高周波成分を遮断するため、全出力ノイズを低く抑えられます。こうすれば、アンプは全出力ノイズを非常に低い値(3.9nV/√Hz)に抑えたままゲイン+2で動作することができます。
この構成は、+2から+9までの任意のゲインに対応できるように調整できます。表1は、ゲイン設定ごとの部品の値と全広帯域出力ノイズを示しています。
表1. +10未満のゲインで使用する部品の値(RT=RO=49.9Ω)
ゲイン | RC (Ω) | CC (pF) | RG (Ω) | RF (Ω) | CL (pF) | 全出力ノイズ1 (nV/√Hz) |
+2 | 28.6 | 56 | 200 | 200 | 330 | 3.88 |
+3 |
33.3 | 56 |
100 | 200 |
270 | 5.24 |
+4 |
40 | 56 |
66.7 | 200 |
200 | 6.60 |
+5 |
50 | 56 |
50 | 200 |
150 | 7.96 |
+6 |
66.7 | 40 | 40 | 200 |
150 |
9.32 |
+7 |
113 | 30 | 37.5 | 226 | 120 | 10.82 |
+8 |
225 | 20 | 32.1 | 226 | 120 |
12.18 |
+9 |
N/A | N/A | 31.1 | 249 | 100 | 13.67 |
1下記の全ノイズを求める式を参照してください。 |

図2に示す方法2では、反転入力と非反転入力の間に抵抗(R1=28Ω)を追加して、アンプのノイズ・ゲインを+9に増大します。R1の両端に電圧がないため、電流は存在しません。したがって、反転入力に並列なR1に対する入力インピーダンスは高い状態を維持します。入出力間の信号ゲインは1+RF/RGであり、この場合は+2です。補償回路にコンデンサを使用しないため、周波数依存性はありません。つまり、広帯域出力ノイズは低い周波数で常に最初の方法よりも高くなります。
この構成も、+2から+9までの任意のゲインに対応できるように調整できます。表2は、ゲイン設定ごとの部品の値と全広帯域出力ノイズを示しています。
表2. +10未満のゲインで使用する部品の値(RT=RO=49.9Ω、CL=120pF)
ゲイン | R1 (Ω) | RG (Ω) | RF (Ω) | 全出力ノイズ1 (nV/√Hz) | ||
+2 | 28.6 | 200 | 200 | 13.39 | ||
+3 | 33.3 | 100 | 200 | 13.39 | ||
+4 | 40 | 66.5 | 200 | 13.39 | ||
+5 | 49.9 | 49.9 | 200 | 13.39 | ||
+6 | 66.5 | 40 | 200 | 13.39 | ||
+7 | 113 | 37.4 | 226 | 13.53 | ||
+8 | 225 | 32.4 | 226 | 13.53 | ||
+9 | N/A | 30.9 | 249 | 13.67 | ||
1下記の全ノイズを求める式を参照してください。 |
図3は、図1と図2で示した回路の小信号および大信号の周波数応答を示しています(50Ωのアナライザを使用、G=+5V/Vまたは14dB)。図に示すように、回路は両方とも非常に安定しており、ピーキングは1dBを少し上回る程度です。表1と表2の値を使用する限り、+2 ~+9のゲイン範囲全体でこの安定性を実現することができます。
全出力ノイズを改善するために、アプリケーションに応じて出力のローパスRCフィルタを調整して、この回路の50MHz 以下の帯域をカットできます。

方法2より方法1での出力ノイズが良くなる理由
+7より小さいゲインの場合は特にそうですが、方法1の出力ノイズは方法2に比べてかなり低下します。これは、方法1のノイズ・ゲインが高周波でのみ高いからです。このポイントでローパス・フィルタを使うことによって高周波のノイズ成分を除去できます。方法2では、低周波数のときでも、アンプは常に+9のノイズ・ゲインで動作します。したがって、表2に示すように、全出力ノイズがゲインに応じて変動することはありません。上の式はそれぞれ2つの方法に対応しています(注:RE = RG//R1)。
方法1の式:全出力ノイズ=

方法2の式:全出力ノイズ=

それぞれの方法の長所と短所
ここでは、外付け部品をいくつか使って、高ゲインで安定するように設計されたアンプを低ゲインで安定動作できるようにする2つの方法を示しました。方法1は方法2に比べると受動部品を多く使用しているため、基板面積が増え、コスト高になる可能性があります。これに対し、最初の回路の全出力ノイズは第二の方法の回路より小さくなります。したがって、どの回路を選択するかはアプリケーションとその仕様によって決まります。
図4に示すように、補償なしのADA4895-2は、+1以上のゲインで安定する内部補償付きのADA4897-2に比べると、スルーレートが高く(100V/μsに対して300V/μs)、セトリング時間が短くなります。これらの利点は回路ゲインの増大に伴って大きくなります。

結論
G≧+10で安定するADA4895-2などの補償なしのアンプは、低ゲインでの(安定)動作が可能になるよう補償できます。上述した2つの方法では、複雑さと全帯域幅ノイズのどちらを取るかという関係になります。両方とも、G≧+1で安定する等価な内部補償付きADA4897-2よりスルーレートが高く、セトリング時間が短くなります。
EngineerZoneのAnalog Dialogue Communityに掲載している”amplifier compensation”についてのブログ(英語)についてのコメントもお待ちしております。