TNJ-033「ejωt」を考えるなかで出会うイメージ除去ミキサや超高速ADC(中編:イメージ除去ミキサなるものを考える)
はじめに
この技術ノートは、「ejωt」に関する話題の中編としてお届け するものです。前編TNJ-032 では、複素信号がナニモノかを考 え、オイラーの公式をあらためて考えていきながら、回路理論 での計算において、現実世界の正弦波と、複素信号とを、どの ようなかたちで考えていくことができるか示していきました。
そのなかで複数回の「なぜなぜ」を繰り返していく過程の結果 として、「すいません降参です」なんというお話をさせていた だきました…。またその話しから、「それでは本質論として (現実世界の観測ではなく)、正弦波信号cos(𝜔0𝑡) か、複素信号 exp(𝑗𝜔0𝑡)、どちらが存在しているか?」についても考えていき ました。
今回と次回の技術ノート、TNJ-033「中編」とTNJ-034「後編」 では、前編での考察をもとに、上記で「すいません降参です」 とした複素信号について、現実の回路で複素信号がどのように 用いられ、表されているかを考えてみたいと思います。まずこ の中編では、イメージ除去ミキシングという方法について、そ して次の後編では、高速ADC のデータシートの中で見つけたス ペクトル表現とその考え方をそれぞれご紹介していきたいと思 います。
あらためて数学を学びたい
APA ホテルに宿泊すると、APAホテル女性社長とAPAグループ 創業者(旦那さん)のこれまでの企業経営奮闘記のコミック本 (図1。参考文献 [1])を部屋で見ることができます。かの有名な APA ホテルの女性社長さんは、社会人となったあとに大学・大 学院に再入学して勉強したそうです。その授業中の描写ページ には「学生の頃につまらないと思っていた勉強って、こんなに 面白かったんだ」という趣旨のことばがありました。
これはまさしく同感だと思ったしだいです。実社会に出ると解 決しなくてはならない、いろいろな問題(技術/業務/手続き /人事/組織/経営/人間関係/経済/家庭などなど)に多数 ぶち当たります。一般的にはこれらを、過去の経験と自分の知 恵、そして生兵法や試行錯誤、はたまた体当たりで解決してい くといったところでしょうか。
実社会に出てこそ気がつく理論体系の重要性
しかしそのうちの多くは(全てとはいえませんが)、先人が経 験し、そして体系づけられてきた理論で解決できる/応用でき る/ヒントとして関連づけられるものです。実社会に出て、一 旦体当たりで解決した経験をもって、あらためてその理論体系 を学習すると、それこそ「現実と学問の間が、楽しさと興味と で繋がっていく」という、「勉強って、こんなに面白かったん だ」というように感じるようになります。そしてそれは「定着 する知識/知恵」になるのではないかと思います。
この技術ノート三部作を書くなかで、以前購入して本棚に積ん であった、図2 の本(参考文献[2])をあらためて読み返してみ ました。「ああ、履きなれない青い草鞋を履いていたころに知 った定理(たとえばエルゴード定理、シュワルツの不等式、中 心極限定理など)がいっぱいあるな」と思いました。
技術者駆け出しのころから、何度も回路設計で問題にぶちあた って、それこそ「生兵法」で解決してきて、「なぜこうなるの だろうか?」と(業務多忙ななかで)ぼんやり思っていた疑問 が、慣れない青い草鞋を履いていたころ、これらの数学の理論 体系のなかに収斂(しゅうれん)していったわけです。APA ホ テルの社長の社会人入学のくだりは、自らの琴線に触れるスト ーリーだったのです。
18 歳からの大学のころは授業をサボったり、寝過ごしたり、授 業中に雑談したり違うことを考えていたものが、青い草鞋のこ ろは、それこそ「勉強って、こんなに面白かったんだ」と、実 社会(実回路設計)を経験した後だからこそ思ったものなので した(それはそれで相当な苦しみだったわけですが…)。
図1. APA ホテルの客室内に置かれている企業経営奮闘記
「アパホテル―利益を生み出す逆張りの成功哲学」
(APA ホテル宿泊時に撮影)
図2. 数学100の定理, 日本評論社 周波数ミキサによる
周波数変換は希望波だけを捉えられない
前編の「周波数ミキサによる周波数変換では」という節で、ふたつの周波数を乗算すると「𝑓1,𝑓2の引き算の周波数と足し算の周波数に、大きさ1/2、つまり元々の信号から-6dBとなったスペクトルが現れる」とお話しました。
無線通信の世界では、受信したい高い周波数の無線通信信号(これを「希望波」とかRadio Frequency = RF信号と呼びます)を「取り扱い易い」低い周波数に周波数変換して、復調などの情報信号処理をすることが一般的です。まあ、といっても、最近のアナログ・デバイセズの製品などではRF信号を直接、情報信号に変換する方式がさかんに用いられていますが…。
さて、希望波を低い周波数に変換する際に、前編で取り上げたような周波数ミキサが用いられます。周波数ミキサにより、
として周波数変換をすることができます。ここで𝑓𝑅𝐹は希望波/高周波の無線通信信号、𝑓𝐼𝐹は変換された「取り扱い易い」低い周波数の信号(中間周波数、Intermediate Frequency = IFと呼ばれます)、𝑓𝐿𝑂は周波数変換に利用するための内部信号(局部/ローカル発振器、Local Oscillator = LOと呼ばれます)です。
希望波以外のイメージ周波数の信号も変換してしまう
しかし周波数ミキサを用いると、図3のように本来の希望波である𝑓𝑅𝐹以外に、「イメージ(影像)周波数の信号𝑓𝐼𝑀」も𝑓𝐼𝐹として得られてしまいます。簡単な式ですが、
前編、また上記に「𝑓1,𝑓2の引き算の周波数と足し算の周波数に、大きさ1/2、つまり元々の信号から-6dBとなったスペクトルが現れる」とご説明したように、この式(2)は「曇りなく/曖昧さなく」正しいのですが、「捉えたい希望波」以外の周波数も情報信号処理をする低い周波数に周波数変換されてしまっては、復調などの情報信号処理で適切な性能が期待できません。
![TNJ033_3](/jp/_/media/analog/jp/education/web-lab/tnj033/tnj033_3.jpg?rev=07c627e3a8da4755a565da8187312c08)
図3. 希望波以外にもイメージ(影像)周波数の 信号も周波数変換される
イメージ除去ミキサとは
この問題は複素ミキシングという方法を用いることにより解決できます。複素ミキシングというより「イメージ除去ミキサ(Image Rejection Mixer)」というほうが一般的です。後編で高速ADCの複素ミキシングについて示しますので、一応ここでもその用語を使用してみました。
アナログ・デバイセズでもImage Rejection Mixerは各種製品があり、ひとつにHMC520Aがあります。
HMC520A: 6 GHz to 10 GHz, GaAs, MMIC, I/Q Mixer
【概要】
The HMC520A is a compact gallium arsenide (GaAs), monolithic microwave integrated circuit (MMIC), in-phase quadrature (I/Q) mixer in a 24-terminal, RoHS compliant, ceramic leadless chip carrier (LCC) package. The device can be used as either an image reject mixer or a single sideband upconverter. The mixer uses two standard double balanced mixer cells and a 90° hybrid fabricated in a GaAs, metal semiconductor field effect transistor (MESFET) process. The HMC520A is a much smaller alternative to a hybrid style image reject mixer and a single sideband upconverter assembly. The HMC520A eliminates the need for wire bonding, allowing the use of surface-mount manufacturing techniques.
【抄訳】
HMC520Aは小型なIQミキサGaAs MMICです。24端子、RoHS準拠のLCCパッケージ品です。このICはイメージ除去ミキサにもシングル・サイドバンドのアップ・コンバータのどちらにも活用できます。このミキサではGaAsプロセスでのMESFET半導体の上にダブルバランスド・ミキサと90°ハイブリッド回路が形成されています。HMC520Aは一般的なハイブリッド型イメージ除去ミキサやシングル・サイドバンドのアップ・コンバータと比較して小型化を実現できます。また表面実装技術によりワイヤボンディングの加工が不要となっています。
イメージ除去ミキサは、それこそ前編の式(11)の応用として
と、得られる周波数が片一方(𝑓𝑅𝐹−𝑓𝐿𝑂のみ)、つまり希望波のみを周波数変換できるものです。これを実回路でどのように実現するのでしょうか。
図4. ハートレー(Hartley)構造
図5. ウエーバー(Weaver)構造
これには基本的にふたつの方法、図4のハートレー(Hartley)構造と、図5のウエーバー(Weaver)構造というものがあります。それぞれ発明者の名前が冠されています。
ハートレー(Hartley)構造を式で追ってみる
それではハートレー(Hartley)構造について、ごちゃごちゃと式で追ってみたいと思います。前編からご説明しているように、現実世界で信号は、sin𝜃とcos𝜃で表されるわけですが、ここでは折角なので「ごちゃごちゃ」と極座標表現でやってみます。
まずハートレー回路に加わる希望波ですが
とします。この式では𝑓𝑅𝐹ではなく、𝜔𝑅𝐹=2𝜋𝑓𝑅𝐹で表記しています。以降も角周波数𝜔を用いていきます。
ハートレー構造を式で追ってみる(① 下側の経路)
図4の下側のミキサ経路に加わる局部(ローカル)発振信号は、式(4)と同じように(𝜔𝑅𝐹を𝜔𝐿𝑂に変えただけ)
です。希望波の式(4)と式(5)が乗算されると
となりますが、式だけだと「わけわかんないよ」となりかねませんので、周波数軸上で図示してみると図6のようになります。なお𝜔𝑅𝐹>𝜔𝐿𝑂と仮定して表記してあります。
次段のローパス・フィルタ(LPF)で高い周波数成分(式の斜線の部分)が除去されると(第3項がプラスの周波数成分なので第2項と第3項を入れ替えて)、
が得られます(図6にも示してあります)。式(7)の第2項のべき指数部をマイナスでくくれば
図6. ハートレー構造の下側の経路、
式(6)の周波数関係(𝜔𝑅𝐹>𝜔𝐿𝑂と仮定している)
図7. ハートレー構造の上側の経路、
式(10)の周波数関係(𝜔𝑅𝐹>𝜔𝐿𝑂と仮定している)
ハートレー構造を式で追ってみる(② 上側の経路)
つづいて図4の上側のミキサ経路に加わる局部(ローカル)発振信号は、式(5)と同じように
です。希望波の式(4)と式(9)が乗算されると
ここでも次段のローパス・フィルタ(LPF)で高い周波数成分(斜線の部分)が除去されると(第3項がプラスの周波数成分なので第2項と第3項を入れ替えて)、
が得られます。ここでも式だけだと「わけわかんないよ」となりかねませんので、周波数軸上で図示してみると図7のようになります。ここで特に注意していただきたいことが「極性」と「位相」です(結局、「極性」も「位相」なのですが)。そのため図7では3次元的に表記してあります。上方向が実数軸で、右に(後ろに)回転すると位相がプラスになるとしています。式(10)の第1項は1/𝑗なので「マイナス90°の位相」となります。 つづいて式(11) 全体をマイナスでくくり、第2項のべき指数部もマイナスでくくると
ハートレー構造を式で追ってみる(③ 足し算合成の部分)
さらに図4の右側のように、この2信号、つまり式(8)と式(12)とが合成されます。
図4では、上側の系統の位相を45°遅らせ、下側の系統の位相を45°進ませ、都合、相互の関係を90°ずらして合成させています。
ちなみにこの「45°遅らせ/45°進ませ」というのは、図4において抵抗とコンデンサで出来るローパス・フィルタやハイパス・フィルタで伝達特性が-3dB変化する周波数、つまり抵抗値とコンデンサのリアクタンスの絶対値が等しくなる周波数において、位相が45°変化することを用いています。つまりこの回路では、「ある特定の周波数」でしか「45°遅らせ/45°進ませ」というのを実現できないことになります。
この90°の位相シフトを広帯域で実現しようとするなら、アナログ回路であれば「RCポリフェーズ・フィルタ」、デジタル回路であれば「ヒルベルト変換(ヒルベルト・フィルタ)」というもので構成することが一般的です。
さて、図4の下側の信号を基準位相として考えれば、上側の信号の位相が90°遅れたかたちで足し算されます。
図4の上側の信号、つまり式(12)の位相をマイナス90°シフトしたものは
となりますが、これは式(11)においては、
![](/jp/_/media/analog/jp/education/web-lab/tnj033/tnj033_e_14.jpg?la=ja&rev=f3c2066f9b2147059725dea6b6554576)
ちなみに
を使ってもいいのですが、少しこだわって複素数をもちいて計算してみました(笑)。
90°遅らせるのは複素表現に−𝒋すればいい??
90°遅らせるというのは「式(14)の2段目、3段目の各項を『−𝑗 』倍すればいいだろう」と思うかもしれません。しかしプラスの周波数の位相とマイナスの周波数の位相は「奇関数(ゼロを中心として極性が逆で対称)」の関係ですので、式(14)のそれぞれの第2項、つまりマイナスの周波数のぶんは『+𝒋 』倍す ることになります。
めでたく𝝎𝑹𝑭−𝝎𝑳𝑶の信号が得られる
こうなると式(14)は式(8)と全く同じだということが分かります。これら式(8)と式(14)は、図4の右のように足し算されるわけですが、これが中間周波数信号、つまり IF信号
として得られることになります。
ハートレー(Hartley)構造をSPICEシミュレーションで追ってみる
ここまで式で数学的にハートレー構造での周波数変換動作を考えてきましたが、SPICEシミュレーションを用いてグラフィカルにこの周波数変換動作を見てみましょう。使用したSPICEツールはアナログ・デバイセズのADIsimPEです。
図8は図4のハートレー構造をシミュレーション回路で置き換えてみたものです。入力には希望波信号として6kHzを加えています。また局部(ローカル)発振は5kHzで、サインとコサインが上下の経路それぞれの乗算器に加わっています。
乗算器出力は、ADIsimPEの内蔵モデル「ラプラス伝達関数; Laplace Transfer Function」という数学モデルに接続されています。このモデルを使ってローパス・フィルタを構成しています。最初はこのモデルでラプラス演算子を用いてフィルタ係数を作ってみようと思いましたが、ヘルプを見るとなんとベッセル、バタワース、チェビシェフの各フィルタ形状を関数として入れれば、簡単に目的のフィルタが実現できる機能があることに気がつき、さっそくそれ(位相変化・群遅延の少ないベッセル・フィルタ)を利用してみました!
上記のラプラス伝達関数モデルの出力は45°位相を遅らせる/進ませるCR位相シフト回路に接続され、その位相シフト回路の出力が加算されるという構成になっています。
確かに𝝎𝑹𝑭−𝝎𝑳𝑶の信号が得られている
シミュレーション結果を図9に示します。一番下の「中間周波数1kHz出力」のように、入力された希望波6kHzが周波数変換され、1kHzとして出力に現れていることが分かります。
図8. ハートレー構造をSPICE上で実現してみた(𝑓𝑅𝐹=6kHz, 𝑓𝐿𝑂=5kHz)
図9. ハートレー構造で希望周波数の変換結果が出力で得られるようす(𝑓𝑅𝐹=6kHz, 𝑓𝐿𝑂=5kHz)
イメージ周波数が除去されるようすを式で追ってみる
つづいてハートレー回路に加わるイメージ周波数𝜔𝐼𝑀の信号を
とします。
イメージ除去を式で追ってみる(① 下側の経路)
式(17)のイメージ周波数の信号が、図4の下側のミキサ経路に加わる局部(ローカル)発振信号の式(5)と乗算されると
となります。ここで𝜔𝐼𝑀<𝜔𝐿𝑂と仮定しています。この式(18)の周波数関係は周波数軸上で図6と(𝜔𝐼𝑀、𝜔𝐿𝑂の位置が逆な以外は)同じなります。
次段のローパス・フィルタ(LPF)で高い周波数成分(式の斜線の部分)が除去されます。つづいて「プラスの周波数成分(式(18)の第2項)」、「マイナスの周波数成分(同じく第3項)」を式(18)そのままの順序で並べてみると(𝜔𝐼𝑀<𝜔𝐿𝑂なので、べき級数部のカッコの中は入れ替えて)
この式は、𝜔𝑅𝐹が周波数変換される場合の式(8)と(𝜔𝐿𝑂,𝜔𝐼𝑀の順序は逆ですが)同じになります。理由はコサインなので
であってもコサインの符号は同じ(変わらない)だからです。
イメージ除去を式で追ってみる(② 上側の経路)
つづいて、式(17)のイメージ周波数𝜔𝐼𝑀の信号が、図4の上側のミキサ経路に加わる局部(ローカル)発振信号の式(9)と乗算されると
この式(20)の周波数関係を周波数軸上で図示してみると、図10のようになります。式(10)、式(11)では「第2項はマイナスの周波数成分で第3項がプラスの周波数成分」でした(そのため第2項と第3項を入れ替えしていた)。しかし式(20)では「第2項はプラスの周波数成分で第3項がマイナスの周波数成分」となります。これがイメージ除去のポイントです。
次段のローパス・フィルタ(LPF)で高い周波数成分(式の斜線の部分)が除去されると
𝜔𝐼𝑀<𝜔𝐿𝑂なので、項の順序はこのままで、べき級数部のカッコ内の𝜔𝐼𝑀と𝜔𝐿𝑂の順序「だけ」を入れ替えると
式(12)ではマイナス符号が付いていましたが、ここではそれがありません…。また式(10)、式(11)では第2項と第3項が入れ替えられ、その結果、式(12)がマイナスになっていたのですが、この式(22)では式全体がプラスになっているわけですね…。
イメージ除去を式で追ってみる(③ 足し算合成の部分)
希望波と同じように、図4の下側を基準位相として考えれば、上側の位相が90°遅れたかたちで足し算されます。
図4の上側の経路、つまり式(22)の位相をマイナス90°シフトしたものは、式(15)を使ってショートカットしてしまえば
ななんと!下側の経路の式(19)と、上側の経路の式(23)は「符号が反対なだけで全く同じ」だということが分かります。つまり相互にキャンセルされて、このイメージ周波数の信号は出力に現れないわけですね!
図10. イメージ除去時のハートレー構造の上側の経路、
式(20)の周波数関係(𝜔𝐿𝑂>𝜔𝐼𝑀と仮定している)
イメージ周波数は数学的に現れないだけで現実は回路のアンバランスで漏れ出してしまう
このように目出度(めでた)く、イメージ周波数の信号はキャンセルされ、出力には現れないことが分かりました。しかしこれは数学的な話しであり、回路に「誤差」があることによるアンバランスで、実際の回路の場合には、出力にこのイメージ周波数が漏れ出してしまいます。
たとえは1%精度の抵抗なんて「高精度」というイメージがあります。しかし20 log(0.01) = -40dBであり、単純計算でも「1%誤差」の抵抗であっても-40dB程度の抑圧しかできないことになります。
ハートレー回路では上下それぞれの経路に、RCで45°位相をずらす回路が用いられています。上記のような1%精度の抵抗であっても、上下それぞれ目的の周波数で「ぴったり」と45°の位相シフトが出来ないことになりますから、「限界がありそうだな」と直感的にも気がつくと思います。
また希望波が帯域幅を持っていれば、中心周波数から外れていく(これを「離調」といいます)にしたがって、上下それぞれの経路で45°の位相シフトから位相がずれていくことも気がつくと思います。
結局これらが誤差となり、抑圧度の限界が出てきます。
イメージ周波数が除去されるようすをSPICEシミュレーションで追ってみる
図8のシミュレーション回路に、入力に希望波𝑓𝑅𝐹を加えていたものを、イメージ周波数の信号𝑓𝐼𝑀(4kHz)を加えたものとして修正してシミュレーションをおこなってみました。
シミュレーション結果を図11に示します。一番下の「中間周波数出力なし」のように、イメージ周波数の信号はキャンセルされて出力に現れてこないことが分かります。
それにしても面白い回路です…。よくできていますね。
図11. ハートレー構造でイメージ周波数の変換結果が
出力で除去されるようす(𝑓𝐼𝑀=4kHz, 𝑓𝐿𝑂=5kHz)
三部作の最後の後編では
今回はアナログ信号における複素ミキシングとして、イメージ除去ミキサの動作について説明しました。
次の三部作の最後となる後編TNJ-034では、ここまで説明した複素ミキシングについて、AD変換された離散信号でのデジタル信号処理でどのようになるかを説明します。AD9680という1.25GspsのADコンバータに内蔵されたDDC(Digital Down Converter)というものに関する質問に答えるかたちで話しを進めていきます。ご期待ください!
参考文献
[1] バラエティ・アートワークス; アパホテル―利益を生み出す逆張りの成功哲学 (まんがで学ぶ成功企業の仕事術), 朝日新聞出版
[2] 数学セミナー編集部編; 数学100の定理 ピタゴラスの定理から現代数学まで, 日本評論社
著者について
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多...
{{modalTitle}}
{{modalDescription}}
{{dropdownTitle}}
- {{defaultSelectedText}} {{#each projectNames}}
- {{name}} {{/each}} {{#if newProjectText}}
-
{{newProjectText}}
{{/if}}
{{newProjectTitle}}
{{projectNameErrorText}}