シンプルなオペアンプ回路

目的

今回は、オペアンプを取り上げます。オペアンプは、入力抵抗が大きく、出力抵抗が小さく、大きな差動ゲインが得られるように設計された能動回路です。ほぼ理想的な増幅器であり、多くの回路で使用されています。今回は、まず、能動回路のDCバイアスについて学んだうえで、オペアンプの基本的な応用回路の動作を確認します。それを通して、実験用ハードウェアを活用するためのスキルを引き続き習得していきます

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線キット
  • 抵抗:1kΩ(1個)、4.7kΩ(2個)、10kΩ(2個)
  • オペアンプ:「OP97」(2個)
  • コンデンサ:0.1μF(2個、ラジアル・リード付き)

上記のOP97は、アナログ・パーツ・キット「ADALP2000」の最近のバージョンに付属しています。後ほど触れますが、OP97はスルー・レートの高い製品ではありません。

1.1 オペアンプの基礎

最初のステップ:DC電源の接続

オペアンプには、必ずDC電圧を供給する必要があります。したがって、他の部品を回路に追加する前に、まずは電源への接続を確立することをお勧めします。図1に示したのは、ソルダーレス・ブレッドボードにおける電源の接続例です。正と負の電源電圧用に2本の長いレールを使用しています。それに加え、必要に応じてグラウンドに接続できるように、2本のグラウンド・レールも用意しておきます。電源レールとグラウンド・レールの間には、いわゆるデカップリング・コンデンサ(バイパス・コンデンサ)を接続しています。このコンデンサについての詳しい説明は別の機会に譲りますが、簡単に言えば、電源ラインのノイズを低減して発振を防ぐことを目的としたものです。回路において、各オペアンプの電源ピンの近くに小さなデカップリング・コンデンサを付加するのは、アナログ回路の設計において必須の処置だと言えるでしょう。

オペアンプをブレッドボードに差し込み、図1に示すようにワイヤとデカップリング・コンデンサを追加します。後で問題が生じないように、どのレールが正の電源Vp、負の電源Vn、グラウンドに対応しているのかを示す小さなラベルを付加しておくとよいでしょう。Vpは赤色、Vnは黒色、グラウンドは緑色といった具合にワイヤを色分けするのも、接続について整理する上で役に立ちます。

図1. 電源の接続
図1. 電源の接続

次に、ADALM2000とブレッドボードの電源端子、GND端子を接続します。ジャンパ線を使用し、図のようにレールをつなぎます。電源のGND端子が、この回路のグラウンド基準になることに注意してください。電源を接続したら、DMM(デジタル・マルチメータ)機能を使用してICのピンを直接プローブし、7番ピンが5V、4番ピンが-5Vになっていることを確認するとよいでしょう。なお、DMM機能で電圧を測定する前に、ソフトウェア・パッケージ「Scopy」によって電源を投入しておく必要があります。

ユニティ・ゲイン・バッファ

背景

最初に取り上げるのは、図2に示したシンプルなオペアンプ回路です。この回路は、ユニティ・ゲイン・バッファ、またはボルテージ・フォロワなどと呼ばれます。その伝達関数は、VOUT = VINと定義されます。一見、使い道のない回路のように思えるかもしれません。具体的な用途については後述しますが、入力抵抗が大きく、出力抵抗が小さいという特性が役に立ちます。なお、図2では、電源の接続を明示していないことに注意してください。以降の回路図でも電源の表記を省略しますが、実際の回路では電源を確実に接続してください。

図2. ユニティ・ゲイン・バッファ
図2. ユニティ・ゲイン・バッファ

ハードウェアの設定

ブレッドボードとADALM2000の電源を使用して、図3のように回路を構成します。ジャンパ線を使用し、任意波形ジェネレータ(AWG)とオシロスコープのリードに入出力を接続します。オシロスコープの負の入力リードであるC1-とC2-をグラウンドに接続するのを忘れないでください(グラウンドへの接続は回路図では省略しています)。

図3. ブレッドボード上に構成したユニティ・ゲイン・バッファ
図3. ブレッドボード上に構成したユニティ・ゲイン・バッファ

手順

1つ目のAWGを入力VINとして使用し、振幅が2Vで周波数が1kHzの正弦波を回路に印加します。オシロスコープは、入力信号がチャンネル2に、出力信号がチャンネル1に表示されるように設定します。得られた2つの波形のグラフをエクスポートし、実習レポートに添付してください(図4)。その際には、波形に関するパラメータの値(ピーク値、基本周期/周波数)を忘れずに記入してください。2つの波形を見れば、この回路がユニティ・ゲイン・バッファとして機能していることを確認できるはずです。

図4. ユニティ・ゲイン・バッファの入出力波形
図4. ユニティ・ゲイン・バッファの入出力波形

スルー・レートの制約

理想的なオペアンプによってユニティ・ゲイン・バッファを構成すれば、どのような入力信号に対しても、出力はそれに正確に従います。しかし、現実のオペアンプでは、出力信号が入力信号と全く同時に変化することは絶対にありません。実際、入力信号を時間軸に対して急激に変化させると、理想との隔たりを観測することができます。振幅が大きい信号の場合、スルー・レートの制約によってその現象が発生します。スルー・レートとは、オペアンプが供給できる出力電圧の最大変化率(傾斜)のことです。通常、スルー・レートはV/マイクロ秒を単位とする値で表されます(図5)。

振幅が2Vの方形波を生成するようAWGを設定し、理想的な動作から大きく逸脱するまで(出力が方形波というよりも台形に近くなり始めるまで)周波数を上げていきます(図6)。うまく表示するには、おそらくオシロスコープの表示において、時間のスケール(秒/div)を調整する必要があるでしょう。結果が得られたら出力波形のグラフをエクスポートし、図5に示した定義に従って、10%から90%までの立上がり時間と90%から10%までの立下がり時間を測定します。出力信号のピークtoピーク電圧も忘れずに記入してください。測定値を基に、出力の立上がりと立下がりのスルー・レートを計算して記録しておきます。また、立上がりエッジと立下がりエッジで応答が異なるのはなぜなのか、その理由を考察してください。

図5. スルー・レートの定義
図5. スルー・レートの定義
図6. ユニティ・ゲイン・バッファの出力波形。この波形を基にスルー・レートを計算します。
図6. ユニティ・ゲイン・バッファの出力波形。この波形を基にスルー・レートを計算します。

ユニティ・ゲイン・バッファの使用例

オペアンプは入力抵抗が大きい(入力電流がほぼゼロ)ので、AWGにとって負荷はほとんど存在しないことになります。つまり、ソース回路から電流は流れないため、内部のテブナン抵抗で電圧降下は生じません。すなわち、ユニティ・ゲイン・バッファは、システム内の他の部品が負荷として影響を及ぼさないようソースを保護するバッファとして機能します。負荷側の回路から見ると、このバッファは、非理想的な電圧源をほぼ理想的な電圧源に変換するものだと表現することができます。図7に、ユニティ・ゲイン・バッファの使い方を表すシンプルな回路例を示しました。この回路では、分圧回路と負荷抵抗の間にバッファが挿入されていることになります。

図7. ユニティ・ゲイン・バッファの使用例
図7. ユニティ・ゲイン・バッファの使用例

回路の電源をオフにし、図7に示すように抵抗を追加します。ここで、オペアンプの接続には変更を加えていないことに注意してください。図2と比較すると、オペアンプのシンボルの上下が反転しているだけです。

電源を投入し、振幅が4Vで周波数が1kHzの正弦波を生成するようにAWGを設定します。オシロスコープを使用してVINとVOUTを観測し、実習レポートに振幅を記録します。

続いて、10kΩの抵抗を1kΩの抵抗に置き換えた場合の振幅を記録してください。

更に、1kΩの抵抗を3番ピンとグラウンドの間に移し、4.7kΩの抵抗と並列になるようにします。この状態で、出力振幅がどのようになるか予測してみてください。その後、実際の出力振幅はどのように変化するか確認し、値を記録してください。

1.2 シンプルなオペアンプ回路

反転アンプ

背景

図8に、一般的な反転アンプ(反転増幅回路)の回路例を示しました。出力に接続している10kΩの抵抗は負荷として用意しています。

図8. 反転アンプ
図8. 反転アンプ

ハードウェアの設定

ブレッドボード上で、図9のように反転アンプを構成します。ここでは、R2の値を4.7kΩとします。なお、回路を構成する前に、必ず電源をオフにしておいてください。必要に応じて抵抗のリード線を切ったり曲げたりし、リード線がボード面に対して水平になるようにします。また、各接続には、最短のジャンパ線を使用します(図1を参照)。ブレッドボードは高い自由度を備えています。例えば、抵抗R2のリード線は、必ずしもオペアンプをまたいで2番ピンから6番ピンまでブリッジさせる必要はありません。中間ノードとジャンパ線を使用して、オペアンプの周りを迂回させても構いません。

図9. ブレッドボード上に構成した反転アンプ
図9. ブレッドボード上に構成した反転アンプ

電源を投入して電流の流れを観測し、誤って短絡が生じていないかどうかを確認します。入力VINとして振幅が2V、周波数が1kHzの正弦波を生成するようにAWGを設定し、先ほどと同様に入力と出力をオシロスコープに表示します。回路の電圧ゲインを測定/記録し、理論値と比較してください。また、入出力波形のグラフをエクスポートし、実習レポートに添付してください。

ここで、回路のデバッグについてコメントしておきます。実習を進める中で、回路がうまく動作しないという状況に遭遇するかもしれません。完璧な人などいませんから、それは予想外のことではありません。重要なのは、回路が動作しないのは、部品や実験装置が故障しているからだと決めつけないことです。そのようなことは滅多にありません。回路が動作しない場合、その原因はまず間違いなく単純な配線ミスか電源に問題があるからです。経験豊富な技術者であっても、時にはミスを犯します。したがって、回路のデバッグ方法を習得するのは、非常に重要なことです。誤りの原因を突き止めるのは、指導者の責任ではありません。他人を頼るということは、実習の重要な部分を避けて通るということであり、その後の実習もうまくいかなくなる可能性があります。オペアンプから煙が出たり、抵抗に茶色の焼け跡があったり、コンデンサが破裂していたりといったことがなければ、おそらく部品には問題はありません。実際、ほとんどの部品は、多少乱暴に扱っても深刻な損傷を受けることはなく、ある程度は耐えられるようになっています。回路がうまく動作しないときは、部品や装置のせいにする前に、電源を切って単純な原因を探すのが最善の策です。その際には、DMMが有用なデバッグ・ツールとして機能するでしょう。

手順

1つ目のAWGを入力VINとして使用し、振幅が2Vで周波数が1kHzの正弦波を回路に印加します。オシロスコープは、入力信号がチャンネル2に、出力信号がチャンネル1に表示されるように設定します。図10に示すような入出力波形が得られるはずです。.

図10. 反転アンプの入出力波形
図10. 反転アンプの入出力波形

出力の飽和

ここで、帰還抵抗R2の値を4.7kΩから10kΩに変更します。そうすると、ゲインはどのように変化するでしょうか。入力信号の振幅をゆっくりと2Vまで増加し、得られた波形を実習ノート用にエクスポートします。どのようなオペアンプでも、出力電圧は最終的には電源電圧までに制限されます。しかし、回路内部で生じる電圧降下により、多くの場合、実際の上限値は電源電圧よりもかなり低い値になります。測定値を基に、OP97の内部ではどれだけの電圧降下が生じているか求めてください。

加算アンプ

背景

図11に示したのは、加算アンプと呼ばれる回路です。基本的には反転アンプと同じ構成ですが、入力が1つ追加されています。重ね合わせの理に基づき、VOUTはVIN1とVIN2の線形和になります。VIN1とVIN2には、それぞれ固有のゲインまたはスケーリング係数が適用されるということになります。

図11. 加算アンプ
図11. 加算アンプ

ハードウェアの設定

電源をオフにし、先ほどの反転アンプを図12に示すように変更します。そして、2つ目のAWGをVIN2として使用します。振幅については、実験を行う際に増加させて調整できるようにするために、当初はゼロにしておきます。

図12. ブレッドボード上に構成した加算アンプ
図12. ブレッドボード上に構成した加算アンプ

VIN1に振幅が2Vの正弦波、VIN2に1VのDC電圧を印加します。入出力波形をオシロスコープで観測/記録してください。その際、オシロスコープの画面上で出力チャンネルのグラウンド信号のレベルに注目してください。このようにして使用する場合、図11の回路はレベル・シフタだと表現することができます。

VIN1用のAWG(W1)においてDCオフセットを調整し、VOUTのDC成分がゼロになるようにします。入力波形をオシロスコープで観測することにより、必要なDCオフセットを見積もってください(注意:-VIN2ではありません)。

続いて、AWG(W1)のオフセットをゼロにリセットします。オシロスコープのチャンネル2(オペアンプの出力に接続されています)を2V/divに設定し、VIN2用のAWG(W2)において、オフセット電圧をゆっくりと増加させます。VOUTはどのようになりますか。

出力のDC電圧を記録します。続いて、AWG(W2)のオフセット電圧を約1Vに戻します。オシロスコープを1V/divに設定し、VOUTの波形全体を観測できるように、オシロスコープのオフセットを調整します。VIN2の値を先ほど増加させた値に再び設定します。オシロスコープにおいて、VOUTの曲線はどのようになりますか。アンプによって増幅されているでしょうか。

手順

1つ目のAWGをソースとして使用し、振幅が2Vで周波数が1kHzの正弦波を回路に印加します。2つ目のAWGは、1Vの固定電圧を生成するために使用します。オシロスコープは、入力信号がチャンネル2に、出力信号がチャンネル1に表示されるように設定します。図13に、入出力波形の例を示しました。

図13. 加算アンプの入出力波形
図13. 加算アンプの入出力波形

非反転アンプ

背景

図14に、非反転アンプの構成例を示しました。ユニティ・ゲイン・バッファと同様に、この回路は入力抵抗が大きいという望ましい性質を備えているので、非理想的なソース用のバッファとして使用できます。

図14. ゲインを備える非反転アンプ
図14. ゲインを備える非反転アンプ

ハードウェアの設定

図15に示すように、ブレッドボード上に非反転アンプを構成します。新しい回路を構成する際には、必ず電源をオフにしてください。まずは、R2の値を1kΩとします。

図15. ブレッドボード上に構成した非反転アンプ
図15. ブレッドボード上に構成した非反転アンプ

振幅が2V、周波数が1kHzの正弦波を入力に印加し、オシロスコープに入力と出力を表示します。回路の電圧ゲインを測定して理論値と比較してください。入出力波形のグラフをエクスポートし、実習レポートに添付してください。

続いて、帰還抵抗R2の値を1kΩから約5kΩに変更します。そうすると、ゲインはどのようになりますか。

出力信号のピークが飽和して平坦になり始める(クリッピング)まで、帰還抵抗の値を大きくしていきます。クリッピングが発生する抵抗の値を記録してください。次に、帰還抵抗の値を100kΩに変更します。その際の波形をノートに記述し、説明を加えてください。この時点でゲインの理論値はどうなっていますか。そのゲインで出力レベルを5V未満に抑えるには、入力信号の振幅をどれだけ小さくする必要がありますか。実際にAWGの振幅をその値に調整し、得られた出力について説明してください。

最後のステップは、ゲインの高いオペアンプについて考察すべき重要な事柄を示しています。ゲインが高いということは、小さな入力を基に大きな出力が生成されるということです。それにより、例えば電源ラインから回り込んだ60Hzの信号が増幅されるなど、低レベルのノイズや干渉が増幅されて、意図せぬ飽和が発生する可能性があります。アンプ回路は、望むと望まざるとにかかわらず、入力端子に印加されるすべての信号を増幅するということに注意してください。

手順

1つ目のAWGを入力VINとして使用し、振幅が2V、周波数が1kHzの正弦波を回路に印加します。オシロスコープは、入力信号がチャンネル2に、出力信号がチャンネル1に表示されるように設定します。得られる入出力波形の例を図16に示しました。

図16. 非反転アンプの入出力波形
図16. 非反転アンプの入出力波形

問題

  • 図8の反転アンプについて、R1(1kΩ)、R2(4.7kΩ)に依存する関数としてゲインを計算しなさい。
  • 図14の非反転アンプについて、R1(1kΩ)、R2(1kΩ)に依存する関数としてゲインを計算しなさい。

答えは StudentZoneで確認できます。

著者

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。