ADALM2000による実習:温度センサーICの使い方

目的

温度センサーICは、絶対温度に比例した電圧出力または電流出力を生成します。つまりは一種のトランスデューサです。今回は、温度センサーICを実際に使用して周囲温度を測定してみます。

AD22100による温度測定

まず、温度センサーICである「AD22100」を使用して温度を測定してみましょう。

背景

AD22100は、モノリシック型の温度センサーICです。-50°C~150°Cの温度範囲に対応するので、多くのアプリケーションで使用できます。シグナル・コンディショニング回路を内蔵しているので、トリミングやバッファリング、リニアライザーションといった処理を行うための回路は必要ありません。そのため、システム設計を大幅に簡素化することができます。また、システム全体のコストを削減することも可能です。同ICの出力電圧は、温度と電源電圧に比例します。5.0Vの単一電源を使用した場合、-50°Cでは0.25V、150°Cでは4.75Vを出力します。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 温度センサー IC:AD22100(1 個)

ハードウェアの設定

図1はAD22100のピン配置図です。同ICには、適切に電源電圧を供給する必要があります。この実習では、同ICの出力をオシロスコープで観察することで温度の測定を行います。図2に示したように、ソルダーレス・ブレッドボードに同ICを実装してください。

図1. AD22100のピン配置
図1. AD22100のピン配置
図2. AD22100を実装したブレッドボード
図2. AD22100を実装したブレッドボード

手順

ソフトウェア・ツール「Scopy」を開き、5Vの正の電源を有効にしてください。AD22100の出力電圧は、オシロスコープのチャンネル1(1+)を使って観察することにします。温度の値を得るためには、温度センサーのデータシートを確認する必要があります。AD22100のデータシートには、出力電圧を表す関数として以下の式が記載されています。

数式 1

この式を以下のように変形することで、周囲温度TAの値を得ることができます。

数式 2

温度の値を取得するために、オシロスコープに新たな数値チャンネルを設定します。f(t)フィールドに式(2)を記述し、M1チャンネルの分解能を10V/divに設定してください。その上で、オシロスコープの測定機能を有効にします。M1の平均測定値は、実際の周囲温度を表します。

図3. 出力電圧と温度の測定値
図3. 出力電圧と温度の測定値

AD592による温度測定

続いては、温度センサーICとして「AD592」を取り上げることにします。同ICをブレッドボードに実装して温度を測定してみましょう。

背景

AD592は2端子の温度トランスデューサであり、モノリシック型のICとして実現されています。このICは、絶対温度に比例した出力電流を生成します。広い電源電圧範囲と高いインピーダンスを特徴とし、1µA/Kという温度依存性を備えた電流源として機能します。単一電源(4V~30V)で動作し、-25°C~105°Cという温度範囲にわたって0.5°Cの測定精度を提供します。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 温度センサー IC:AD592(1 個)
  • 抵抗:1kΩ(1 個)

ハードウェアの設定

図4にAD592のピン配置を示しました。ADALM2000で測定できるのは電圧だけです。そのため、ここではAD592の出力に抵抗を接続して電圧を測定することにします。電流値は、オームの法則を用いて算出します。図5に示すようにブレッドボードを実装してください。

図4. AD592のピン配置
図4. AD592のピン配置
図5. AD592を実装したブレッドボード
図5. AD592を実装したブレッドボード

手順

Scopyを開き、5Vの正の電源を有効にしてください。ここでは、オシロスコープのチャンネル1によって、抵抗にかかる電圧を測定します。電流値を得るためには、オームの法則を適用します(以下参照)。

数式 3

上の式のとおり、抵抗に流れる電流は、チャンネル1で取得した電圧の値を抵抗の値で割ることによって求められます。抵抗の値は1kΩなので、電流の値は電圧の値にµAという単位を付加すればよいということになります。データシートにも記載されていますが、AD592の出力電圧は1µA/Kで増加します(図6)。また、0°Cにおける出力電流は273µAです。

図6. AD592の出力電流と温度の関係
図6. AD592の出力電流と温度の関係 

温度の単位をKから°Cに変換するには以下の式を使用します。

数式 4

Scopy上に温度を表示するために、上の式を関数として備える新たな数値チャンネルを設定します。チャンネル1の電圧の単位はmV、センサーの出力電流の単位はµAであることに注意してください。チャンネルM1の温度の値を得るには、チャンネル1で取得した値から0.273を引く必要があります。

図7. 抵抗にかかる電圧と温度の測定値
図7. 抵抗にかかる電圧と温度の測定値

問題

AD22100は電圧出力型の温度センサーです。一方、AD592は電流出力型の温度センサーです。それぞれの動作にはどのような違いがあるのでしょうか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Andreea Pop

Andreea Pop

Andreea Popは、アナログ・デバイセズのシステム設計/アーキテクチャ・エンジニアです。2019年より現職。クルジュナポカ工科大学で電子工学と通信工学の学士号を取得しています。また、同校でIC/システムに関する修士課程を修了しました。