2016年11月と12月のStudentZoneでは、ブレッドボードやプロトタイプによる試作の話題を取り上げました。その記事を読み、プロジェクトやホビーのレベルで実際に回路を設計してみた人もいるでしょう。その際には、おそらくソルダーレス・ブレッドボードを使用し、図1に示すような回路を作製したのではないでしょうか。

この回路では、基板の上部と下部にあるバスをうまく利用し、電圧とグラウンドへの接続を行っています。基板の上部と下部には、5Vのバスとグラウンドのバスがそれぞれ1本ずつ配置されています(各バスは外部のワイヤで接続されています)。このようなデュアルバスの構成をとることにより、電源とグラウンドに対し、基板上のどこからでも柔軟に接続を行うことができます。その面で、この回路はよくできていると言えます。
大学の電気/ 電子工学部に在学中、おそらく皆さんはこの種の回路を複数作製することになるでしょう。最終学年に迎える採用面接では、それらの回路のうち1つを持参し、将来の雇用主となる企業に対して自身の能力を示そうとするはずです。「企業は、経験に基づく能力を示すものを実際に見てみたいと考える」という話を聞いていたからです。そこで、皆さんは、回路図や回路に関する記述、テスト結果のデータなどを面接に持参することになるわけです。面接は順調に進み、皆さんがブレッドボードを提示すると、面接官はその回路に関する制約事項について説明を求めるでしょう。それに対し、皆さんはその回路のベースにある理論や機能の説明を始めるはずです。しかし、面接官はそれを遮り、レイアウト上の重要な問題であるグラウンディングとデカップリングにどのように対処したかという説明を求めてきます。おそらく、皆さんは電源バスとグラウンド・バスをどのように使ったか説明しようとします。ところが、面接官は、寄生インピーダンスとグラウンド電流への対処方法について尋ねてくるのです。さらには、グラウンド・プレーンと電源プレーン、多層プリント回路基板、高/低周波領域のデカップリングについても、面接官は質問を繰り出してきます。その結果、皆さんは防戦一方という状態に陥ることになるでしょう。
残念ながら、プリント回路基板におけるグラウンディングとデカップリングに特化して教える大学のクラスは存在しません(もしご存じでしたら、お知らせください!)。この分野に関するすべての知識は、おそらく実験室における経験のほか、ハードウェア開発に従事した経験を持つ指導者とともに行う作業から得られることになります。大学のカリキュラムには、時間の面で制約があるため、このような実用上の重大な問題がカバーされていないのです。結果として、電気/ 電子工学部の卒業生は、業務を通してそうしたスキルを身につけることになります。もし皆さんが、回路図、レイアウト、最終的なプリント基板の各設計段階で生じる重要な問題についての知識を持っていれば、面接などにおいて有利な立場になることは間違いありません。
本稿では、皆さんが有利なスタートを切れるように、グラウンディングとデカップリングの基礎について解説します。そのPart 1となる今回はグラウンディングを取り上げます。ただし、本稿で取り上げるのは基本的な事柄だけであることに注意してください。稿末に掲載した参考資料のほか、数多くの資料や文献も参照してください。
完全なグラウンド、不完全なグラウンド
図2をご覧ください。この回路は、信号源と少し離れたところにある負荷で構成されています。グラウンドG1とG2はリターン・パスによってつながっています。理想的には、G1とG2の間のグラウンド・インピーダンスはゼロです。したがって、グラウンドを流れるリターン電流によってG1とG2の間に電位差が生じることはありません。

残念ながら、電流のリターン・パスのインピーダンスをゼロにするのは不可能です。インピーダンスが存在することから、グラウンドを流れる電流によってG1とG2の間に誤差電圧ΔVが発生します。G1とG2の間には、抵抗だけでなくインダクタンスも存在します。Part 1ではグラウンディングに注目するので浮遊容量の影響は無視することにします。なお、Part 2では、電源プレーンとグラウンド・プレーンの間の容量が、高周波領域におけるデカップリングにどのような影響を及ぼすのか確認します。

G1とG2の間には、信号に対応して流れる電流だけでなく、外部回路からの電流も流れる可能性があります。
図1に示したブレッドボードのバスにもインピーダンスがあります。つまり、抵抗性の成分と誘導性の成分が存在します。グラウンド・バスのインピーダンスが回路の動作に影響を及ぼすかどうかは、回路のDC精度の要件に依存します。それだけでなく、アナログ信号の周波数やデジタル信号用のスイッチ素子が生成する周波数成分にも依存します。
信号の最大周波数が1MHzで、回路に流れる電流が数mA程度であるとします。その場合、グラウンド・バスのインピーダンスは問題にはならないでしょう。しかし、信号の周波数が 100MHz で、負荷の駆動に100mAの電流が必要な場合には、おそらくインピーダンスが問題になるはずです。
多くの場合、デジタル回路用のグラウンド・リターンとしてバスのワイヤを使用してはなりません。論理の変化に依存する周波数でインピーダンスによる問題が発生するからです。例えば、#22ゲージのワイヤは、1インチ(2.54cm)当たりのインダクタンスが約20nH、抵抗が1 mΩです。ここで、論理信号の変化に伴い、スルー・レートが10mA/ナノ秒の過渡電流が生じるとしましょう。それが1インチのワイヤに流れると、その周波数で200mVの望ましくない電圧降下が発生てしまいます(以下参照)。

信号のピークtoピーク電圧が2Vである場合、200mVの電圧降下は約10%の誤差(約3.5ビットの精度)に相当します。デジタル回路の場合でも、この誤差によって論理のノイズ・マージンはかなり低下します。
周波数の低い信号でも、1インチ当たり1mΩの抵抗によって相応の誤差が生じます。例えば、そのワイヤに100mAの電流が流れると、次式のような電圧降下が発生します。

ピークtoピークが2Vの信号を16ビットの分解能でデジタル化するとします。その場合、1LSBは2V/216 = 30.5µVになります。したがって、ワイヤの抵抗によって生じる100µVの誤差は、16ビットにおける約3.3LSBの誤差に相当します。
図4は、アナログ回路の電圧VINに誤差が生じる様子を表したものです。この誤差は、アナログ・グラウンドのリターン・パスにノイズの多いデジタル電流が流れることによって生じています。下側の図に示すように、アナログ回路のグラウンドとデジタル回路のグラウンドを1点で接続することにより、問題を多少軽減することができます。

グラウンド・プレーンは必須
ソルダーレス・ブレッドボードを使用する場合、グラウンドのインピーダンスを低減するためにできることは限られています。それは、図1のようなバス構成のものを使う場合でも同じことです。商用レベルのシステム設計においてソルダーレス・ブレッドボードを使用することはほとんどありません。電流のリターン・パスにおいてインピーダンスを低減するための標準的な方法は、グラウンド・プレーンを使用することです。商用レベルのプリント回路基板の場合、通常は1層以上がグラウンド専用に使われます。この方法は、最終的な製品の設計においては有効です。しかし、プロトタイプのシステムでこれを実現するのは容易ではありません。プロトタイプにグラウンド・プレーンを導入する方法についてはTutorialMT-100をご覧ください。
図5に示したのは、プリント回路基板の一般的な構成例です。アナログ回路、デジタル回路のほか、A/DコンバータやD/Aコンバータといったミックスド・シグナル・デバイスを実装するケースに対応しています。

アナログ回路とデジタル回路は物理的に分離され、それぞれのグラウンド・プレーン上に配置されています。一方、ミックスド・シグナル・デバイスは、2つのグラウンド・プレーンをまたぐように配置しています。2つのグラウンド・プレーンを結ぶのが、システムのスター・グラウンドです。
アナログ・グラウンドとデジタル・グラウンドについては、他にも実績のある考え方が存在します。その一部については、Tutorial MT-031で説明されています。詳細については、そちらをご覧ください。それらの考え方は、いずれもアナログ電流とデジタル電流のパスについて解析し、それらの相互作用を最小限に抑えるために対策を講じるというコンセプトに基づいています。
現在の設計、将来の設計において、グラウンドがどれほど重要であるか理解していただけたでしょうか。次回は、それと同様に重要なトピックとしてデカップリングを取り上げます。
今月の問題
いつもと同じく、最後に回路に関するクイズを紹介します。正解はEngineerZone®のStudentZoneでご確認ください。

参考資料
アプリケーション・ノートAN - 1142 「高速ADC用プリント基板のレイアウト・テクニック」AnalogDevices、2012年1月
チュートリアル MT-031「データ・コンバータのグラウンディングと、「AGND」および「DGND」に関する疑問の解消」Analog Devices、2009年
チュートリアル MT-100「Breadboarding and PrototypingTechniques(ブレッドボーディング/プロトタイピングのテクニック)」Analog Devices、2009年
チュートリアル MT-101「Decoupling Techniques(デカップリングのテクニック)」Analog Devices、2009年