目的
今回は、バイポーラ・トランジスタ(BJT)で構成した電流源やカレント・ミラーについて学びます。電流源では、出力抵抗が高いこと、許容電圧範囲が広いこと、電源電圧や温度といった外部要因の変動を排除できることなどが重要になります。
背景
カレント・ミラーとは、入力端子に流入/流出する電流を複製(コピー)する回路のことです。複製された電流は出力端子に現れます。2個のトランジスタを使ってシンプルに実装されたカレント・ミラーは、次のような基本的な関係に基づいて動作します。すなわち、サイズが等しい2つのトランジスタでは、温度とVBEが等しい場合、ドレイン電流またはコレクタ電流が等しくなるというものです。カレント・ミラーの重要な特徴は、値が比較的大きい出力抵抗により、負荷の条件にかかわらず出力電流を一定に保てるということです。また、入力抵抗の値が比較的小さいので、駆動条件にかかわらず入力電流を一定に保つことができます。これもカレント・ミラーの特徴の1つです。多くの場合、複製される電流は可変の信号として扱われます。カレント・ミラーは、増幅段においてバイアス電流とアクティブな負荷を提供するという目的でよく使用されます。
準備するもの
- アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000」
- ソルダーレス・ブレッドボード
- ジャンパ線
- 抵抗:1kΩ(2 個。抵抗値ができるだけ近いもの。あるいは、値が 3 桁以上のもの)
- 小信号 NPN トランジスタ:「2N3904」(2 個 )または「SSM2212」(2 個)
- デュアル・オペアンプ:「ADTL082」など(1 個
- デカップリング・コンデンサ:4.7μF(2 個)
説明
前回は、バイポーラ・トランジスタを使用したエミッタ接地回路(共通エミッタ・アンプ)を取り上げました。カレント・ミラーの動作を観測するには、その回路を再利用するとよいでしょう(図1)。今回は、入力抵抗R1と出力抵抗R2の値を1kΩとします。なお、R1とR2については必ず実際の値を正確に(最大限の有効桁数で)測定してください。これは、カレント・ミラーの入出力電流を正確に測定する上で重要になります。IINの値は、ADALM2000の任意波形ジェネレータ(AWG)のW2から出力される電圧をR1の値で割ることによって得られます。IOUTの値は、オシロスコープのチャンネル2で測定した電圧をR2の値で割ることで求められます。ダイオード接続したトランジスタQ1は、図に示したように、トランジスタQ2のベース端子とエミッタ端子に接続します。
このカレント・ミラー回路において、オペアンプはミラー入力のノード(ベース)における実質的なグラウンドとして機能します。AWGのW2の電圧ステップを、1kΩの抵抗を流れる電流ステップに変換するために使用します。


なお、オペアンプを使うことなく、図2に示すようなシンプルな回路でもカレント・ミラーを実現することができます。


ハードウェアの設定
AWGのW2を制御するために、stairstep.csvというファイルを読み込みます。振幅は3Vp-p、オフセットは1.5Vに設定します。出力デバイスとなるQ2のVCEを、オシロスコープの入力1+と1-によって差動で測定します。カレント・ミラーの出力電流は、オシロスコープの入力2+と2-をR2の両端に接続することで測定します。AWGのW1からは、周波数が40Hzの三角波が出力されます。それを使用してコレクタ電圧を掃引します。なお、オペアンプを使用した図1の回路を選択した場合には、電源Vp(5V)とVn(-5V)が正しく接続されていることを確認してください。




手順
入力信号と出力信号の複数の周期が表示されるようにオシロスコープを設定します。図1の回路を使用する場合には、電源が投入されていることを確認してください。
ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使って、オシロスコープ上に2つの波形をプロットしてください(図5)。また、LTspice®によって図1の回路のシミュレーションを実行し、プロットを取得してみてください。


次に、W1の周波数を200Hzに変更し、2つの波形をプロットします。この条件下におけるLTspiceのシミュレーション結果を図6に示しました。


ベース電流を補償したカレント・ミラー
図2に示したシンプルなカレント・ミラー回路に変更を施し、ベース電流を補償するためのトランジスタQ3を追加します(図7)。図2の回路では、Q1のコレクタをベースに接続していましたが、図7の回路では、その配線をエミッタ・フォロワ・バッファで置き換えています。この同バッファにより、カレント・ミラー回路の改善が図れます。エミッタ・フォロワ・バッファ段(Q2)の電流ゲインにより、Q1とQ2の有限のベース電流に起因するゲイン誤差を大幅に低減することができるのです。


ハードウェアの設定
AWGのW2用にstairstep.csvを読み込みます。振幅は3Vpp、オフセットは1.5Vに設定します。オシロスコープの入力1+と1-により、Q2のVCEを差動で測定します。カレント・ミラーの出力電流は、オシロスコープの入力2+と2-をR2の両端に接続することで測定します。AWGのW1から周波数が40Hzの三角波を出力し、それによってコレクタ電圧を掃引します。Q3のコレクタには、正電源Vp(+5V)を接続してください。


手順
入力信号と出力信号の複数の周期が表示されるようにオシロスコープを設定します。また、正電源を投入してください。
Scopyを使って、オシロスコープ上に2つの波形をプロットしてください(図9)。また、LTspiceによって、この回路のシミュレーションを実行してみてください。


ウィルソン・カレント・ミラー
ウィルソン・カレント・ミラーは、George Wilson氏にちなんで名付けられた回路です。ウィルソン電流源とも呼ばれます。基本的なカレント・ミラー回路を改良し、より安定した定電流ソース/点電流シンクとして機能するように設計されています。具体的には、入出力間の電流ゲインがはるかに正確になります。ウィルソン・カレント・ミラーは、図2のカレント・ミラー回路を図10のように変更することで実現します。


ハードウェアの設定
AWGのW2用にstairstep.csvを読み込みます。振幅は3Vpp、オフセットは1.5Vに設定してください。オシロスコープの入力1+と1-を使って、Q2のVCEを差動で測定します。カレント・ミラーの出力電流は、オシロスコープの入力2+と2-をR2の両端に接続することによって測定します。AWGのW1から周波数が40Hzの三角波を出力し、コレクタ電圧を掃引します。


手順
入力信号と出力信号の複数の周期が表示されるようにオシロスコープを設定します。
Scopyを使って、オシロスコープ上に2つの波形をプロットしてください(図12)。また、LTspiceを使って、この回路のシミュレーションを実行してみてください。


ウィドラー・カレント・ミラー
続いて、図2のカレント・ミラー回路に変更を施し、図13に示すウィドラー・カレント・ミラーを構成します。ウィドラー電流源は、2つのトランジスタで構成される基本的なカレント・ミラーを変更することで実現します。具体的には、出力トランジスタにエミッタ・ディジェネレーション抵抗を追加することにより、値がやや小さい抵抗を使って少ない電流を生成できるようにします。ウィドラー・カレント・ミラーは、MOSトランジスタを使って構成されることもあります。


ハードウェアの設定
AWGのW2用にstairstep.csvを読み込みます。振幅は3Vpp、オフセットは1.5Vに設定します。オシロスコープの入力1+と1-を使って、Q2のVCEを差動で測定します。カレント・ミラーの出力電流は、オシロスコープの入力2+と2-をR2の両端に接続することで測定します。W1から出力される周波数が40Hzの三角波を使用して、コレクタ電圧を掃引します。


手順
入力信号と出力信号の複数の周期が表示されるようにオシロスコープを設定します。
Scopyを使って、オシロスコープ上に2つの波形をプロットしてください(図15)。また、LTspiceでこの回路のシミュレーションを実行してみてください。


問題:
- ベース電流を補償したカレント・ミラー回路の長所と短所を 1つずつ挙げなさい。
- ウィルソン・カレント・ミラーの長所と短所を 1 つずつ挙げなさい。
答えはStudentZoneで確認できます。