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C2Bにより、 高いコスト効率で車載カメラを接続する
概要
自動車の業界は、より安全でより快適なドライビング・エクスペリエンスを創出するために新たな技術を続々と導入しています。一例を挙げると、2024年までには1台の自動車に平均4台のカメラが配備されると予想されています1。自動車業界にとっては、車両のコストを上げることなく、いかにカメラの台数を増やすのかということが大きな課題になっています。その鍵を握っているのが、車載カメラの接続技術(コネクティビティ)です。本稿では、まず、車載カメラ用の様々なインターフェースについて、コストと性能の観点から検討します。その上で、低コストのケーブル・ハーネスを使用しつつ優れた映像品質の実現を可能にするソリューションを紹介します。
はじめに
車載カメラは、安全性と快適性の向上を図る上で鍵になるデバイスです。車載カメラを活用すれば、そうした改善を行うための新たな機能を実現することが可能になります。しかし、自動車に搭載するカメラの台数を増やすと、コストが大幅に増加します。最新の市場調査によれば、消費者の要望や規制の要件に応えることを目的とし、1台の自動車には2024年までに平均4台のカメラが配備されるようになると言います1。このように、自動車に搭載されるカメラの台数は大幅に増加しつつあります。実際、最近の自動車では、サラウンド・ビュー・モニタ(SVM:Surround View Monitor)やドライバー・ステータス・モニタ(DSM:Driver Status Monitor)、ドライブ・レコーダなど、カメラをベースとする新たなアプリケーションが利用されるようになっています。SVMやリアビュー・カメラを利用すれば、駐車時の安全性をより高めることができます。また、DSMでは、カメラを使ってドライバーの位置や目の動きを監視することにより、ドライバーの注意力が低下していることを検出します。それにより、事故の防止を図ることが可能になります。ドライブ・レコーダを搭載した自動車では、カメラを使うことで、事故や事件が起きた際の状況を映像として記録することができます。2021年1月には、自動車線維持システム(ALKS:Automated Lane Keeping System)2に関するUN(国連)規格が施行されました。この規格では、自動車にDSMとドライブ・レコーダを導入することが義務づけられています。ALKSについて言えば、レベル3の自動運転機能(システムからの要求があったときに、ドライバーが運転操作を再開できることを求める自動化機能)を利用して車線内に車両を維持するシステムを60ヵ国以上が採用しています。また、DSMは、Euro NCAP 2020のアシスト・ドライビング・レーティング・システムにおいて基本的な要件になっています3。世界的に見て、自動車製造業は、非常に重い債務を抱えつつ、最低の利益率しか得られない事業になっています4。同業界にとっての課題は、コストの大幅な増加を抑えつつ、必要な台数のカメラを配備できるようにすることです。
SVMのカメラ・システムは、駐車する際、自動車の周囲360°の映像を提供します。このシステムは、特に歩行者(目の不自由な歩行者を含む)に関連して発生する低速時の事故のリスクを低減する効果をもたらします。アジアには、道路の渋滞が多く、狭小地への駐車が求められる国がいくつもあります。そうした駐車が特に困難な国では、最大70%の自動車にSVMが導入されると予想されています。SVMは、人命を守りつつ、最高のドライビング・エクスペリエンスを提供するカメラ・アプリケーションの好例だと言えます。また、SVMは車載カメラ・システムの性能対コストの分析対象として興味深い事例でもあります。SVMでは、360°の映像を生成するために4台のカメラを使用します。通常、HD(高精細)カメラでは、高価で、重く、狭い空間に配線するのが困難な同軸ケーブルが使用されます。加えて、高価な同軸コネクタも必要です。そうすると、自動車メーカーは数百万米ドルの追加コストを覚悟しなければならなくなります。自動車業界は、どのようなカメラ用インターフェースを採用すれば、最適なコストで必要な映像を提供できるのかという重大な問題に直面しています。
選択肢から外れたSDカメラ
何年にもわたり、多くの車載カメラ・システムではSD(標準画質)カメラが使用されてきました。SDカメラでは、低コストのケーブルとコネクタを使うことができます。そのため、SVMでもSDカメラを使用することが可能であれば、システム・コストを最小限に抑えられます。しかし、多くのSDカメラ・システムは、100mAのBCI(Bulk Current Injection:バルク電流注入)テストにしか対応していません。それに対し、現在、ほとんどの自動車メーカーは200mAのBCIテストへの対応を求めています。また、車載ディスプレイのサイズが大きくなると、SDカメラの視覚的性能に対しては不快感を覚えるようになります。SDの映像(720×480)は解像度が非常に低く、最近の車載ディスプレイ(例えば、1920×720)に適合するようにするためには、スケーリングを施す必要があります。その際には、空間を埋めるために、新たに画素を挿入したり生成したりしなければなりません。ただ、そうした補間処理を行うと、斜線にジャギーが現れるといった形で視覚的なノイズが発生します。消費者は既にスマートフォンのHD映像に慣れているので、もはやSD映像は受け入れられません。SDカメラを使用すれば非常に低コストのソリューションが得られますが、多くの自動車メーカーは、BCIテスト(EMC/EMI:電磁両立性/電磁干渉)と映像品質に関する制約を踏まえ、2025年までにすべての車種からSDカメラを排除しようとしています。
LVDSは高コストの選択肢
カメラ・リンクにLVDS(Low Voltage Differential Signaling)を採用すれば高い性能が得られます。しかし、LVDSは車載HDカメラに対しては高価なソリューションです。デジタル・シリアル伝送方式の一種であるLVDSを使えば、カメラからの映像をECU(Electronic Control Unit)に対して正確に受け渡すことができます。4~8メガピクセルに対応するハイエンドの前面カメラに対してであれば、LVDSは最適な選択肢だと言えるでしょう。前面カメラは、ACC(Adaptive Cruise Control:車間距離制御装置)、物体の検出、標識の認識、衝突の回避に対応するために、車載カメラの中で最も高い解像度が求められます。LVDSは広い帯域幅に対応していますが、車載向けのEMC/EMIの試験に合格するためには、シールド付きのケーブルを使用する必要があります。通常、LVDSのリンクでは、同軸ケーブルやミニ同軸ケーブル(mini-coax cable)が使われます。自動車を製造するにあたっては、それらのケーブルの曲がり率(bend ratio)と繰り返しの曲げに対する堅牢性が問題になります。例えば、ミラーにカメラを設置するにはドア・ヒンジにケーブルを通して配線を実施する必要があります。また、乗員検知用のカメラを設置するには車の天井にケーブルを通さなければなりません。ビデオ会議用のカメラを設置するには、フロント・シートの後ろにケーブルを通して配線を行う必要があります。そうしたケースで問題が発生するということです。いずれにせよ、同軸コネクタのコストにより、HDカメラは低~中価格帯の自動車にとって極めて高価な選択肢になります。
C2Bによる最新のソリューション
もう1つの選択肢は、上述した課題に対応するために、車載向けに特別に設計されたC2B™(Car Camera Bus™)を採用することです(図1)。この車載カメラ用のリンク技術は、LVDSとほぼ同等の性能を達成します。しかも、低コストのUTPケーブル(シールドのないツイスト・ペア・ケーブル)ハーネスを使うのにも関わらず、HD性能を実現することができます。また、ハーネスのコストを低く抑えるためにブロック・コネクタを採用しており、高価な同軸コネクタを必要としません。現在、自動車メーカーは、SDカメラからHDカメラに移行するにあたって、コストを抑えるために既存のUTPケーブル・ハーネスを使用可能なC2Bインターフェースを採用しています。C2Bでは、最適化されたビデオ・エンコーディング、差動信号、内蔵フィルタを使用します。そのため、UTPケーブル/コネクタを使用するのにも関わらず、非常に高いEMC性能が得られます。また、自動車業界で求められている200mAのBCIテストにも適合します。同じくUTPケーブルを介した高速バックチャンネル通信により、ECUからC2B対応カメラを遠隔制御することも可能です。加えて、バックチャンネル通信を利用すれば、照明の状況に基づいてカメラの性能を最適化することができます。その結果、NTSC(National Television System Committee)カメラを使う場合よりも明らかに高い性能が得られます。C2Bを採用すればシステム・コストを低減できるので、自動車メーカーは、低~中価格帯の車種にもHDカメラを適用することが可能になります(表1)。
特徴/技術 | NTSC | C2B | LVDS |
高速バックチャンネル通信 | X | ✔ | ✔ |
HD映像 | X | ✔ | ✔ |
低コストのハーネス | ✔ | ✔ | X |
まとめ
C2Bは、車載用途向けに最適化されたソリューションです。これを採用すれば、低~中価格帯の車種でも対応可能なコストでHDカメラを利用できるようになります。C2Bは、あらゆる車両に対し、カメラを利用するシステムを導入する機会を提供します。また、交通に関わるすべての人のために、安全性を最重視したシステムを実装することを可能にします。C2Bについて詳しく知りたい方は、analog.com/jp/C2B、analog.com/jp/ADV7992、analog.com/jp/ADV7382、analog.com/jp/ADV7383にアクセスしてください。
参考資料
1 「Sensing and Computing for ADAS Vehicle 2020(ADAS搭載車両向けのセンシング/コンピューティング技術 2020年版)」 Yole Développement、2020年
2「UN Regulation on Automated Lane Keeping Systems Is Milestone for Safe Introduction of Automated Vehicles in Traffic(自動車線維持システムに関するUNの規制は、自動運転車の安全な導入に向けたマイルストーンに)」UNECE、2020年6月
3「2020 Assisted Driving Tests: What’ s New for 2020?(運転支援テスト 2020年版:2020年版に向けた変更点)」Euro NCAP、2020年
4 Andrew Edgecliffe-Johnson、Peggy Hollinger、Joe Rennison、Robert Smith「Will the Coronavirus Trigger a Corporate Debt Crisis?(コロナ・ウイルスは企業の債務危機を引き起こすのか?)」 Financial Times、2020年3月
Anchal Pandey「US NTSB Recommends Driver Monitoring(US NTSBが運転者のモニタリングを推奨)」PathPartner、2020 年7 月