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閉じるTempoの家庭用パーソナル・フィットネス・トレーニング・システム、3D Time of Flight(ToF)技術で実現
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、人々は様々な形の社会的な接触を避けるようになりました。安全と健康を維持するために、あらゆる交流から距離を置くようになったのです。その中には、ジムで行うトレーニング(ワークアウト)も含まれています。このことは、多くの人にとってはトレーニングを完全にやめてしまうということを意味します。その結果、体重の増加をはじめとする健康面での悪影響に見舞われる人が増えてしまいました。
技術、イノベーション、消費者のニーズ、市場の空白が1つに重なった結果、新たな需要とビジネス・チャンスが生まれました。体重の低減といった形で健康の維持を支援することを目的とし、家庭用のジムに大きな注目が集まったのです。しかしながら、人間というのは社会的な生き物です。そのため、1対1の交流により、パーソナライズされた指導や動機づけを切望している人は少なくありませんでした。
フィットネス用の機器を手がけるTempoは、パーソナライズされたトレーニングや指導に対するニーズを認識していました。それを受けて、同社は「Tempo Studio」の開発に着手しました。これは家庭用のジムを実現するものであり、パーソナル・トレーナーに相当する機能も提供します。この完全なトレーニング・システムを実現するためには、3D Time of Flight(ToF)技術が必要でした。つまり、被験者(トレーニングに励む人)の位置を計測し、その素早い動きを追跡することが可能な深度認識技術が不可欠であったということです。この課題に対応するために、Tempoはフィットネスの研究者、生理学の博士、認定パーソナル・トレーナーから成るチームを編成しました。それにより、AIを活用した個人指導、リアルタイムのフィードバック、カスタムのトレーニング・プラン/プログラムを提供することに成功しました。
また、Tempo Studioの開発においては、アナログ・デバイセズ(当社)との連携が重要な鍵になりました。当社は、1Mピクセルという高い解像度で深度を検出することが可能なToF技術を提供しました。それを活用することで、被験者の位置をより的確に追跡することが可能になったのです。Tempoの高精度、低遅延のソリューションを利用すれば、世界中のフィットネス愛好者がより効果的にトレーニングを行えるよう必要な情報をフィードバックすることもできます。
Tempoの概要
事業内容
Tempoは「パーソナル・トレーニングは人生を変える」という哲学に基づいて設立された。進化を続けるAIを搭載した一連の先端技術製品により、家庭用フィットネスの業界の再定義を試みている。また、自宅でトレーニングするより多くの人々に対し、結果を重視した効果的なモデルを提供している。
アプリケーション
アナログ・デバイセズの最先端のToF技術をベースとしたシステム/センサーを活用し、3D Tempo Vision™を開発する。それにより、AIを活用したパーソナル・トレーニングのガイダンス、フォームに関する情報のリアルタイムのフィードバック、カスタムのトレーニング・プランをインターネットを介して配信する。
課題
3D、高分解能、高フレーム・レートの家庭用パーソナル・ヘルス/フィットネス・システムを業界初の製品として市場に投入する。コストを抑えつつ、高性能の深度計測を利用して、エクササイズする人の位置や素早い動きを高い精度で測定/追跡できるようにする。
目標
明確なガイドラインと改善策を提供する安全で便利なパーソナル・トレーナー・システムにより、家庭内のボクサー、瞑想の実践者、筋力のトレーナー、ヨガの愛好家の健康とフィットネスを維持/改善する。
Tempoが捉えたビジネス・チャンス

Tempoは、ジム用のパーソナル・トレーニング・システムを足がかりとしてフィットネス業界に参入しました。その後、同社は家庭用の製品も手がけるようになりました。同社は、ヘルスケアの専門家や、アルペンスキーのレジェンドであるLyndsey Vonn氏をはじめとするアスリートから高い評価を得ることに成功しました。その後、TempoはMicrosoftのカメラ・ベースのプラットフォーム「Kinect」を活用するために、同社との間で提携を結びました。
MicrosoftのKinectはRGBカメラをベースとする完成品です。ToFに対応する赤外線プロジェクタとディテクタを使用することにより、動きの検出や深度計測を行えるようになっています。しかし、Kinectは必ずしも大量生産を前提として設計されたものではありません。また、他のシステムに深度カメラを組み込めるようにすることを目的として設計されているわけでもありません。そのため、Tempoとしては自社のシステムに対して最適化したToFカメラを新たに設計する必要がありました。つまり、効率的なシステム・インテグレーションが可能な新たなToFカメラが必要だったということです。
*出典:The Business Research Company’s Online/Virtual Fitness Global Market Report 2022(オンライン/バーチャル・フィットネスの世界市場に関するレポート 2022年版)
アナログ・デバイセズで拡張イメージング/解釈を担当するシニア・ディレクタ、Tony Zarolaは「Microsoftは、Kinectを大幅に超えるレベルで3Dのイメージ検出を行えるようにするために、当社の中核的なToF技術を利用することを承諾しました」と述べています。Microsoftは、同社のクラウド・サービス「Azure」を活用できる3Dカメラの数を増やすことで、ビジネスを更に拡大させていきたいと考えていたのです。
Tempoは、次世代のフィットネス・ソリューションを開発するために、Kinectからの移行を果たしました。つまり、アナログ・デバイセズが提供するToF技術をベースとして独自の3Dカメラを開発したということです。そのカメラは、1Mピクセルの高い解像度で深度検出を実現するという優れた特徴を備えるものでした。
アナログ・デバイセズとTempoの連携
アナログ・デバイセズは、この分野の知識や技術知識を活用し、2019年からTempoの工場でサポートを行ってきました。当初、Tempoは独自のToFモジュールを開発することを計画していました。しかし、アナログ・デバイセズのToFチームと連携するようになってから方針を変更することにしました。「CES2023」でイノベーション・アワードを受賞したアナログ・デバイセズのToFモジュール「ADTF3175」の採用を決定したのです。同モジュールを活用すれば、システム全体を小型化すると共に、Kinectの性能を維持したまま、複雑さ、消費電力、サイズを削減できるからです。

Tempoでハードウェア担当ヴァイス・プレジデントを務めるKailash Hiremath氏は「アナログ・デバイセズは、技術的な専門知識を提供するだけでなく、製品開発のプロセスにおいてもサポートを行ってくれました。そのことに感謝しています」と語ります。その上で同氏は「アナログ・デバイセズの技術を活用することにより、当社は次世代のTempo 3D Visionを市場に投入することができます。それにより、市場をリードするフィットネス体験をお客様にお届けすることが可能になります」と述べています。
課題
Tempoのパーソナル・フィットネス・トレーニング・ソリューションには、以下に挙げる重要な要素を追跡/識別する機能が必要でした。
- ToFカメラから機器までの距離、ToFカメラから人までの距離
- エクササイズしている人の正確な位置と素早い動き(腕、脚、胴体、頭などが対象)
- フィットネス機器の正確な位置と素早い動き
最優先の課題は、距離を正確に測定できるようにすることでした。
ToFの基礎――距離を計測する
ToFカメラは物体に光を照射することによって距離を測定します。すなわち、光を照射し、物体で反射した光をセンサーが受け取るまでの時間を測定することによって距離を算出するということです。この手法は、音や電波を使って距離を測定するレーダーの原理と似ています。ToFカメラを使用すれば、深度に関する高い精度とRGBカメラと同様の空間分解能によって解像度の高い深度マップを生成することができます。レーダーは長い検出距離に対応できることを特徴とします。それに対し、ToFカメラでは高い精度と高い解像度が得られます。

ToFによる高速/高精度の検出、詳細情報の取得が可能に
Tempoは次のようないくつかの機能を必要としていました。まずは高い精度で距離を測定する機能です。また、ほとんどの時間動いている数cm幅のバーをキャプチャする機能も必要でした。更に、そのバーの位置をリアルタイムに把握するための詳細情報を迅速に生成する機能も求めていました。アナログ・デバイセズは、これらの要件を満たすことが可能な3D ToF技術を提供しました。同技術を利用すれば、高い解像度、小さな遅延、高いフレーム・レート、広い視野を実現し、詳細な深度情報を得ることができるからです。

高い解像度
アナログ・デバイセズのCMOSイメージ・センサーを使用すれば、比類のない100万画素の解像度でトレーニング・シーンを生成することができます。その結果として、シャープなエッジが生成され、様々な要素間が明瞭に切り分けられて、深度に関する多くの情報を得ることができます。例えば、バーベルの位置や、被験者の手と身体の他の部分との相対的な位置関係などを把握することが可能になります。このような細かいレベルで詳細を把握することにより、AIベースのトレーナーは、被験者がエクササイズを適切に行っているかどうかを判断できるようになります。

深度に関する処理
トレーニング・シーンの深度を生成する方法は2つあります。1つはソフトウェアを使用する方法、もう1つはサンプリングによる方法です。当初、Tempoは前者の方法によって課題を解決しようとしていました。しかし、深度の計算をソフトウェアで実行すると、消費電力と遅延が増大し、フレーム・レートを高められないことがわかりました。その結果を踏まえ、Tempoはアナログ・デバイセズの新たな技術を活用することにしました。つまり、IC上でサンプリングを行うことによって深度を計算する方法を採用したのです。実際、ToF向けの深度演算プロセッサである「ADSD3500」を使用すれば、システムの消費電力を大幅に削減し、遅延を小さく抑えて、高いフレーム・レートを実現することができます。

3Dカメラ
アナログ・デバイセズの3D ToFカメラは、CMOSベースのデバイスであり、連続波(CW:Continuous Wave)を利用します。反射率の高い面や、動きのある物体が存在する広い空間においても、非常に信頼性の高い状態で正確な深度情報を得ることができます。これを採用すれば、市場において最高レベルの性能を提供するソリューションが得られることになります。

高いフレーム・レート
アナログ・デバイセズのToF技術では、40フレーム/秒のレートを達成することができます。Tempoの技術とこのような高いフレーム・レートを組み合わせることにより、トレーニング・シーンにおいてユーザが動いている場合でも、ブレをなくし、様々な要素の位置を正確に特定することが可能になります。
高性能の3D ToFが不可欠な理由
性能の低いToFシステムでは、高い解像度や高いフレーム・レートを実現できません。その場合、動きの速さが原因で、エクササイズのバーやその位置を確認できない可能性があります。また、検知可能な距離が限られているシステムでは、カメラからの距離が問題の一因になる可能性もあります。

よりスマートな家庭用ジム
Tempoのシステムは、ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ・ストリーミング・デバイスなどで構成されます。没入感が得られる42インチのHDタッチスクリーン・ディスプレイや高級なウェイト器具、装置など、受賞歴のある自立型デザインですべての要素をパッケージ化しています。
「当社はもう1つの感覚も追加しました。それは視覚です!」Tempo |
Tempoのシステムを使用すると、バーチャル・トレーナーによってフォームの追跡/分析が行われます。実際の動きを把握して、リアルタイムにフォームを調整することが可能になります。Tempoのシステムが備えるAIは、各人の身体に関する情報と目標を学習します。それによって、パーソナライズされたウェイト・トレーニングのメニューが提示され、より早く成果を得るためのガイダンスや助言が提供されます。すべてのクラスにAIを活用したトレーニングが組み込まれている唯一無二のスマート・ジムだと表現できるでしょう。

TempoのHiremath氏は「当社が開発したのは、業界初で唯一の家庭用フィットネス・システムです。人の動きを追跡し、反復した回数を数え、フォームを改善するための助言を行ってくれます。3DセンサーとAIを活用することによって、ガイダンスやパーソナライズされたフィードバックが提供されるようになっています。その結果、より豊かで、より効果的で、より安全なトレーニングを実施できるようになります」と語ります。同氏は「健康への道は人それぞれです」と指摘した上で、「当社の製品は、それぞれの人に応じたフィードバックを中核に据えています」とその優位性を強調します。
産業の発展
産業革命のきっかけとなったのは、19世紀に蒸気機関が広く普及したことでした。それと同様に、ToFとAIによって世界の多くの産業は発展を遂げつつ再定義されようとしています。
実際、製造業においてはToFによる検出技術が広く採用されつつあります。その適用分野は、自律型の製造を実現するためのナビゲーション・システムから品質検査に利用する産業用マシン・ビジョンまで多岐にわたります。また、ToF技術は民生向けのエレクトロニクスにおいても不可欠な要素になりつつあります。例えば、AR(Augmented Reality:拡張現実)/VR(Virtual Reality:仮想現実)に対応するヘッドセットや、高度な撮影機能、セキュリティ機能を搭載したスマートフォンなどが代表的な用途です。また、ToFを利用した車載システムも既に構想段階にあります。そうしたシステムを利用することにより、車内のすべての人の位置や状態を監視することが可能になります。また、ドライバーは簡単なジェスチャによってエアコンを調整できるようになるでしょう。ヘルスケアの分野では、既に救命用のToFアプリケーションが浸透しています。例えば、病院や診療所において、幼児の呼吸が適切に維持されているか、ソーシャル・ディスタンスが確保されているかといったことを遠隔で監視する機能が実現されています。つまり、ToF技術は、命を守り、健康を維持することにも貢献しているのです。
アナログ・デバイセズは、ToFとAIのイノベーションへの道を切り拓いています。例えば、Tempoのような先見性のある企業に対し、最高の性能を実現する3D ToFカメラを提供しています。そのカメラは、解像度が1MピクセルのCMOSイメージ・センサー、深度の算出/処理を担うソフトウェアとハードウェア、レーザー・ドライバ、パワー・マネージメント・システムを備えています。また、アナログ・デバイセズは、ソフトウェア/アルゴリズムの開発やプロトタイピングに利用できる3D ToF対応のプラットフォームやツール・キットも提供しています。「EVAL-ADTF3175D-NXZ」を活用すれば、評価や実装をより迅速に行うことが可能になります。